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断罪会議7

ここまでのあらすじ


ルルーが処刑されそうになるが、教育係のエリオスが身代わりとなり処刑されることになった。

緊急会議を発議し、有益な情報を提供しつつも場をギスギスさせた2人が去ったことで、会議室の空気が少しずつ緩む。

ただ話すタイミングを探っているのか、今後の事を精査しているのか、各当主の表情が緩むものの互いに視線は合わさず会話は始まらない。


ただ1人、ルルー・エレファシナだけはいまだに視線を伏しており、誰とも話すつもりのない態度を続けていた。


この緊急会議の場で突然、常に側にいた教育係のエリオスの処刑が決まったのだ。

その心中から察するに、のんびりと会話する気にはならないのだろう。


ただいつもと違うのは、そこにクエスたちに対する怒りはほとんど感じられない。

ただ後悔と反省の念だけがあることを周囲の者たちは感じ取っており、それが故、特に触れようとはしなかった。


しばらく時間が過ぎ、さすがにそろそろいいだろうとバカスが口を開く。


「ふぅーっ。あの一光が主催だと、やっぱりっつーか、とんでもねー話だったな」


「十分に役立つ話だったわよ」


女王はそう言いながらルルーの様子をうかがう。

いつものように言い返す雰囲気が全く見られず、彼女はうつむいたままだった。


そんな様子を見るに見かねてか、レディがいつもより優しめに声をかける。


「先に戻ってていいわよ。ここでは吐き出せないこともあるはずです」


「……っ。…私だって、当主だし…」


「いいから国に戻ってエリオスの労をねぎらってやれ。十分な猶予が与えられたからって、無限に時間があるわけじゃねーぞ」


バカスの言葉にルルーは歯を食いしばり、こぶしを強く握りしめる。

決してのけ者にしようとしているわけじゃないのは分かっていたが、エリオスが保ってくれた立場を活用したいという気持ちと、今すぐ帰ってエリオスに謝りたいという気持ちが混在し葛藤していた。


融和派の2人はさすがに声をかけられないのか、ルルーには視線を向けず黙っている。


「ルルー、ここは私たちに任せてあなたたちは一度戻りなさい」


このままでは話が進まないと思ったのか、女王も帰るよう催促する。

だがルルーにとっては教育係であるエリオスをも犠牲にしてまで保った立場。

ここで帰ることは彼にとって失礼だと思ったのだろう、動く様子は見られない。


見るに見かねたバカスが少々荒い言葉でルルーを動かそうとする。


「おい、ルルー。クエスたちは処刑を実行する時期は好きにしろと言ったが、無限に引き延ばせるわけじゃねぇ。エリオスにはもうあまり時間がねぇんだ。

 今から話し合うことはきちんと通達してやっから、今は帰ってやるべきことに集中しろ」


今のエレファシナ家にとって、やるべきことはエリオスの処刑の件だけではない。

一門内での発表の仕方やその後の一門内の動きに対する対応なども含めて、詰めなければいけないことはたくさんある。


特に発表で失う統率力をどう最小限に抑えるに関しては十分に考慮して行動する必要がある。

ここで下手を打ってしまえば、ルルーが一門内で引きずりおろされかねない。


そうなるとエリオスが払った犠牲が無駄になってしまう。

ルルーにとって本当の試練はこれからなのである。


言われたことは十分理解しているようで、ルルーは顔を伏せたまま黙って席を立つ。

そして入り口までエリオスと共に向かうと右手を左腕の肘辺りに持っていき、全体に対して顔を上げて謝罪した。


「軽率な行動で混乱を招き、反省しています。これからは役に立つ側に回れるよう、より精進していきます」


それだけを告げると再び顔を伏し気味にして会議室から出て行った。

ひとまず大きなもめごとに発展せずに済み全員が安堵する。そしてすぐに話が始まった。



中立派の一角が傷つけられたことで多少面白くなかったのだろう、シザーズから早速恨み節が飛んでくる。


「正直クエスがここまでやるとは思わなかったねぇ。むしろボサツの方が押しは強かったかな?どちらにしても多少はフォローしてくれないと困るんだよねぇ」


「今回の罰はきつすぎ」


同じく中立派のメルティアもここぞとばかりに非難してくる。

中立派は最高会議で3票を持っており、他の融和派や支配派よりも票数が多く主導権を握りやすい。


その力をある程度削ぎたいという他の派閥の思惑も多少は絡んだことで、今回は強引に押し込まれた形となった。

女王を味方につければいい勝負ができたはずなのだが、そこにまでクエスたちが釘を刺しにいった以上、甘い裁定で決着するのは不可能だったと言える。


あの状況から中立派が一転してルルー擁護に回るのは難しく、その隙をクエスとボサツに上手く突かれたことは、シザーズやメルティアにとって不満でしかなかった。


ただその不満をルルーがいる前で言わなかったのは、彼女が助け舟を出されて調子に乗り流れをより悪化したくなかったからである。

それだけ中立派の2当主もルルーの未熟さは問題だと思っていた。


「これ以上ごたごたを広げぬためだ。仕方あるまい」


ルールに厳しいボルティスは少し配慮したかのような発言で不満を言う2人をなだめようとするが、やられっぱなしの中立派も黙って引き下がるつもりはない。


「まぁ、決まったことはしょうがないけど…そのコウって子は本当に使えるんだよねぇ?使えない奴のためにこの仕打ちを受けるのは…さすがに納得いかないなぁ」


「先ほどの情報でも十分に有用性は示されたと思うがな」


「んー、ボルティスの言うこともわかるけど、今回のはあくまで不確定の情報だしね」


「実際才能もあるし将来は十分に期待できる」


「でもボルティスだけがそう言ってもなぁ…」


「女王様もその才能は認めており、今は良くも悪くも実戦経験まで積めているようだからな。期待外れに終わるとは思えん」


あまり納得していないかのような表情でシザーズが女王を見る。

女王はその見え見えの要求にやや呆れつつも軽くうなずいて見せた。


だがもう少し情報の欲しいシザーズはさらに突っついてみることにした。

もしコウが想像以上に優秀なのであれば、この件を利用しつつ距離を縮めておきたいという思惑がある。


もちろんそれはシザーズだけに限らない。

他の者たちもより精度の高い情報を求めており、ここぞとばかりに突き始める。


「可能性でも、具体的な情報が欲しい」


「実力のはっきりする場が欲しいですね。融和派は少しガードが高すぎます」


メルティアに続きレディまでもコウの情報を要求し始める。

だがクエスとボサツのいないこの場で彼らの要求を安請け合いをするわけにはいかない女王は、その申し出をきっぱりとはねのけた。


だが、他の当主たちもそうですかと簡単に下がるつもりはない。

困った女王は仕方なく今後の予定を話すことにする。


「すぐには無理だけど、あと1年ほどでクエスとボサツは弟子のコウをルーデンリア上級魔法学校に入学させるつもりよ。

 横のつながりも作っておきたいらしいし、その時であればある程度公的情報として彼のことを知れると思うわ。それまでは勘弁して頂戴。

 こっちもこれ以上問題を増やしたくないのよ」


「ほぉ、てっきり弟子の真の実力は見せないつもりだと思っていたが…こりゃ、楽しみだな」


バカスがすぐに食いついたかと思うと、他の当主たちもなるほどと思いつつ試案をめぐらせ始める。


ルーデンリア上級魔法学校は最高位の魔法学校であり、その保護は手厚く、外部の者たちはなかなか手を出しづらい環境になる。

だがそれはあくまで外部からであり、内部の入学した者たちを使えばそれなりの情報は得られるというわけだ。


(よこしま)な思惑が蔓延する中、さっさと話しを進めるべく女王は両手で叩き大きな音を鳴らした。


「さぁ、魔物の討伐計画を更新しましょう。まずは大まかな目標数を増やす方向で…」


1年ほど先とはいえ機会が得られたこともあり、当主たちもそれ以上は食い下がることはなく気持ちを切り替え、議題に集中し始める。

こうして会議は続けられた。




一方、ルルーとエリオスは会議室を離れ国へと戻るために転移門へと向かっていた。

護衛の兵士をエリオスが断ったため、2人だけで通路を歩いている。


その間もずっとルルーはうつむいたままであり、自分のやってしまったことの後悔とその結果を必死に背負おうとしているようだった。

そんな潰れそうになっているルルーにエリオスが声をかける。


「ルルー様。当主たる者、常に堂々としておかなければなりません」


「……わかってる」


「では、前を向いてもう少し堂々たる姿をお見せください」


「だって、だって…」


「ルルー様は私を犠牲にして難を逃れたと後悔されているのですか?そうであれば、その考え方は間違っております」


「全然間違ってないじゃない!その通りの結果よ、これは。なんで、なんで私を非難しないのよ…私があなたの命を奪ったも同然でしょ!」


「いえ、そうではありません。これはルルー様が成長する過程で、私がたまたま命を失うことになったにすぎません。何も失わずに済む失敗など、大きな成長のきっかけにはなりえませんので。

 大事なのは失った事ではなく、この失敗を糧にルルー様が大きく成長なされることです。ここで何も変わらないようであれば私も叱らなければなりません。

 ですが、先ほどはクエス様に対して反対せずに受け入れた。これは大きな一歩です。ならば私はたまたまルルー様の成長のきっかけになったまで。

 そう考えれば、教育係として実に冥利に尽きると言えますな」


「なんでよ……なんで…いつものように私を叱らないのよ……」


正面を見据えたままのルルーの両目から涙があふれ、ぽとぽとと地面に落ちていく。


今までずっと一緒にいて自分を支えて来てくれた存在。

むかつくことや煩わしいと思うことが何度もあったが、それでも自分について来てくれた存在。


そんな彼を自分の愚かな行為で失ってしまうにもかかわらず、昔のように温かく見守ってくれることがルルーの心に突き刺さる。

失う寸前の今になって、エリオスが自分にとってどんなに大切な存在なのかを気づいたのだ。


「ルルー様は今回のことでまた1歩成長なさいました。私も残された時間はあとわずか。ここは昔のように褒めて差し上げ、良い思い出にしたいという私のわがままであります」


「だって…私が悪いのよ…私が…」


「ですが、もう同じ失敗はなさらないでしょう。確かに大きな失敗でしたが、ルルー様のお立場に致命的な影響はなく成長されたのであれば、教育係としては誇らしい事です。

 8歳になったルルー様を見て、私はあなた様の教育係に志願しました。才能と自信があるルルー様は、きっとエレファシナ家を支える存在になると信じてまいりました。

 そして今、一皮むけたルルー様は私の思った以上の存在になられています。戦場で身を賭すことになるよりも、あなた様の糧になれることの方が、私としてはうれしいのです。

 ならば私からルルー様にお伝えすることは、諫めたり叱るような言葉ではなく、これからに期待する言葉だけです。

 エレファシナ家を立派に導きなさってくださいませ。ルルー・エレファシナ当主様」


それを聞いてルルーは立ち止まった。

大粒の涙がぼとぼととこぼれ落ちるのを必死になってぬぐうと、しばらくの間体を震わせる。

そして涙をこらえエリオスの方を見て堂々と話した。


「任せなさい、エリオス。あなたのことは死ぬ直前まで忘れない。エリオスがいたから、今の私があるんだから…誇りにしなさい」


再び目に涙があふれるが必死にこらえて言葉を言い切る。

そんな気丈なルルーの態度を見て、エリオスは安心しきった笑顔を見せた。


「さぁ、国に戻っていかにこの難局を乗り切るか臣下を集めて話し合いましょう」


「ええ。絶対に…乗り切って見せるわ!」


さすがに長時間エリオスの笑顔を見続けることはできなかったのか、ルルーは前を見て答える。

それを見て、エリオスは満足そうにしていた。

今話も読んでいただきありがとうございます。


着地点を予定より少し変えたけど、これの方が良かった気がする。

気がするだけかもしれないが。


誤字脱字等ありましたらご指摘いただけると助かります。

直しているのに、それでも露骨なミスが残っていて本当に申し訳ない。

感想や評価などもいただけるとうれしいです。


次話は1/30(日)更新予定です。 では。

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