断罪会議1
ここまでのあらすじ
コウのやっていること、やってほしいことを確認したクエスとボサツは
自分たちに託されたことをこなすべく光の連合へと戻った。
コウが各村の住民を集めようと動き回っている頃、クエスたちは光の連合へと戻り、すぐにルーデンリア光国へと飛んだ。
目的はもちろんすぐにでも光の守護者へと復帰しするための女王への面会だ。
王城内に入ったクエスたちは面会を希望すると謁見の前へと案内されそうになったので断り、お客さんと面会するための小さな部屋で待つことにした。
表向きは暇をもらっているだけなので、こうしたお客様対応を受けず直接会いに行ってもいいのだが、ここはスムーズに話を進めるため角の立たない方法を選ぶ。
2人にとってこの復帰願いはぶっちゃけ100%通る手続きをしに来ただけであり、さっさと用事を済ませて次のやるべきことに移りたかったのだ。
一方の女王はクエスたちのことが多少気になりつつも、いつも通り報告書に目を通しつつ他の者たちと議論していた。
そこへ文官の1人が報告へとやって来る。
「女王様、クエス様たちが戻られており面会を希望しています」
「あら、戻ってすぐ会いに来てくれるとは助かるわ。てっきり数月はぐずると思っていたのに…」
一応連合へと戻ってきたとの報告は都市の転移門対応者から即座に連絡が来ていたが、ここまですぐにやって来るとは思わず、頭痛の種が1つ消えてほっとした。
「大事にならぬよう、小部屋にて待つとのことです」
「では、彼女たちの機嫌が変わらぬうちにすぐ向かうとしましょう」
女王は小会議を中断し報告に来た文官に案内させ、クエスたちの待つ部屋へと向かった。
一般的には光の守護者たちに休暇を出したと公示しているが、実際は一光と三光がコウの件に腹を立てて役職を放棄したに近い。
これは嫌がらせにしばらく復帰しないなと考えていたのだが、中立地帯から戻ってきてすぐに会いに来てくれたとなれば、安心してもよさそうだと女王は考えた。
もしかしたら原因となるコウが上手く説得してくれたのかもしれない。
そう考えるとコウに世話になったことになる。2人の突撃姿勢からして、説得できるのは彼しかいないだろうから。
出来るだけ早くお詫びと謝礼をした方がいいだろうと考え、クエスたちと共に来ていないかと期待しつつ、女王は2人の待つ部屋の扉を開けた。
部屋にやってきた女王を見て、クエスとボサツはすぐに席を立ち片膝をついて挨拶する。
「いいのよ、そんな堅苦しい挨拶なんて。それで、もう休暇はいいの?」
女王の言葉を受け、2人は席に着く。
「休戦になったとはいえ何が起こるかわからない情勢です。復帰しておいた方が混乱せずに済むと思います」
「ちょっと嫌な話を耳にしたのよね。だからすぐに動けるように復帰しておいた方がいいと思ったのよ」
中立地帯で何の情報を得たのかはわからなかったが、何にしてもすぐに復帰してもらえるのはありがたいので、女王は笑顔で2人の復帰を受け入れた。
「それで、嫌な話ってのは何かしら?」
「んー、ちょっと急いでいるので後で報告させて。一応裏取もしておきたいし」
「クエスが言うのであれば少し待ちましょう。そう言えばコウの姿が見えないけど、今はアイリーシア家にいるのかしら」
「ん?なんで?」
「いえ、彼には直接謝っておきたくて。立場上、公の場ではできない事なので、ここでならと思っていたのだけど…いないのであれば仕方がないわね」
「あー、なるほど。でもコウはまだ向こうの村にいるから、しばらくは無理ね」
クエスがそう発言すると、隣にいたボサツも首を縦に振った。
「えっ、ちょっと待って。2人とも連れ戻しに行ったのよね?なんで置いてきたのよ?あんな優秀な才能を中立地帯に放置しておくなんて、リスクが高すぎるでしょ」
女王の発言にクエスの表情が厳しくなる。
それを見てしまったと思った女王は口をつぐみ、申し訳なさそうな表情をした。
「そもそも女王様がコウを向こうに飛ばしたんじゃない」
「それは…悪かったと思っているわ。実際、虚偽による誤った処罰だとわかってからすぐに、戻るよう使者も送ったんだけど…戻ってこなかったのよ。
だからあなたたちならと思っていたの。なのになぜ彼をそのままに?」
「それはコウが拒否したからです。コウはコウなりの考えがあって、それに私たちも納得したので、そのままあの村に置いてきたのです」
「いや…でも、彼の才能は他の当主たちも認めていて、連合に必要な存在だと…」
「だとしても、コウはうちの、アイリーシア家の魔法使い。しかも私とボサツの弟子。外野にとやかく言われる筋合いはないわ」
確かにクエスの主張はもっともだ。
だがあれだけの才能を見せられ、将来クエスやボサツと並ぶ実力者に成長することが期待される存在を
こちらの監視や対応が届きにくい中立地帯に置いておくこと自体リスクだからこそ、2人が光の守護者を一時的に離れて迎えに行くことを許可したのだ。
彼の希望だからって、ホイホイと了承できるような話ではない。
だが、ここで対立してしまいへそを曲げられては、コウだけでなく目の前の2人までも自分から遠ざかる結果になってしまう。
女王は我慢だと自分に聞かせて寂しそうな表情を作った。
「そうね、クエスの言う通り。こちらのミスで彼を追い込んでしまったのだし、彼が満足するまで待つ方が正しいわね。
だけど、闇の国からの接触だけは跳ね返すよう言っておいて欲しいわ」
「そりゃもちろんよ。あの子は私たちの弟子。ちゃんと言い聞かせておくし、取られるつもりもないわ」
「今回コウは手柄を立てて堂々と連合に戻りたいと言っているだけです。見ようによってはごねているようにも取れますが、コウなりの矜持があってのことです。
私たちまで女王様みたいにコウの育てたものを、無理やり取り上げるわけにはいかないですから」
「本当にその件は悪かったわ。いつか彼と会う機会があればちゃんと謝罪する。この約束だけは必ず守るから」
2人が厳しい表情を解いたことで、女王もほっと一息ついた。
コントロールしにくい優秀な部下だが、それを上手く扱ってこそ女王としての器量を周りに示せたと言える。
最近はそうした考えを持つことで2人と上手くやっていくべきだと、今回の戦争とトラブルを通じて女王も思い直したのだった。
「じゃ、復帰も了承してもらったし、手続きとかは任せてもいい?」
「ええ。と言っても私がやるわけではないけど。それよりなに?急ぎの用事でもあるの?」
「コウがらみで対応すべきことが出来ましたので、そちらも急いでおきたいのです」
「そう、あなたたちなら任せておいて大丈夫でしょう。では、仕事もあるし戻らせてもらうわ」
コウに関してはかなり敏感になっているので、女王は2人の行動をそのまま任せることにして退室する。
クエスは平気で一線を超えるタイプに見えるが、絶対に越えてはいけないラインだけは早々越えないのだというのを、先日の謁見の間のごたごたで女王は理解していた。
あの場で怒りに身を任せていたのなら、横にいた兵士ではなく近衛兵長であるギースに一撃を放っていたはず。
しかもあの兵士を殺さずに周囲の兵士全員の行動を止めたことを考えれば、クエスはあの場で一番冷静に行動していた可能性だってある。
だからこそ、ここは自由にやらせてもいいのだろうと判断したのだ。
目的も達し女王が去ったことで、クエスとボサツもさっそく次の動きへと移る。
「それじゃ、まずはコウに頼まれたアクセサリーの件ね。私の担当はマナとエニメットの分ってことでいい?」
「はい。私の方でシーラの分を担当します。妹のためにも圧倒的な代物を作らせようと思っています」
「こっちだって下手な物を作るつもりはないわよ?今回のはコウとの距離感を変える重要なアイテムになるんだから。
後は…私がボルティスのところに行って、コウが有利になるようなお願いをしてくるわ」
「様が抜けてます、クエス」
「いいのよ、いいの。本人の前ではちゃんとつけるから」
「でしたらこちらは緊急招集のために必要なグンを説得しておきます。賛同させるくらいのネタはありますので、任せて欲しいです」
「そういうのは強いわね。本当に助かるわ」
「いざという時に人を動かせる手段が有るか無いかは、自分の命にもかかわることです。今回は、コウのですけど」
ボサツが笑みを見せるとクエスも笑って見せる。
手のかかる弟子ではあるが、その分自分たちの期待以上に動いてくれる存在でもある。
そんな存在が自分たちの弟子であることに師として誇りを持ち、また将来自分たちに並び立つ存在になると思うと、自然と笑みがこぼれるのだった。
「じゃ、あとは転移門の件ね。今詰まってる予定を全部後ろに追いやって最優先で枠をとって来るわ」
「よいのです?あまり無茶をやっていると、アイリーシア家に頼む国がなくなる心配があります」
「いいの、いいの。今回は特例だから。ルーデンリアの女王様指示とか言っておけば、他の貴族たちからも文句は出ないでしょ。
どうしてもって奴はディアホーン家のところにでも転移門作ってもらえばいいんだから」
ディアホーン家は中級貴族にあたり、転移門に関してはアイリーシア家のライバル国家でもある。
だが向こう側はどちらかというと都市内に設置する小型の転移門が多く、アイリーシア家は大型の都市間移動が専門で客層はあまりかち合っていない。
「はぁ。クエスがそういうのであれば、それでいいのでしょうけど…。それでは、3日後には三光からの緊急招集という手はずでいきます。
詳細な時間は決まり次第連絡しますので、情報伝達の受け取りを忘れないようにお願いします」
「ええ、了解よ。じゃ、やるべきことから片付けていきましょうか。時間をかけすぎると、コウが何しでかすかわからないからね。
アクセサリーの完成も最長10日ってことにしておきましょ」
何しでかすか、と言いながらも再びうれしそうに語るクエス。
先ほどまでいた村の光景を思い出し、ボサツも笑顔で頷いた。
そのまま城内にある転移門から別々の場所へと飛ぶ。それぞれの目的のために。
今話も読んでいただきありがとうございます。
新年早々投稿が遅れてしまい申し訳ありません。
案外正月前後って忙しいものですね。。。
誤字脱字等ありましたらご指摘いただけると助かります。
次話は1/4(火)更新予定です。 たぶん、いけるはず・・。では。




