表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
416/483

町への昇格を成すために11

ここまでのあらすじ


盗賊団を支配下に置くために、コウはその幹部と戦い圧勝した。

勝負あったということで、コウはゆっくりとフェニエッサーの方へ歩いて行く。

その時だった。コウたちが来た方向の反対側、逃がさないように囲むためマナ達を待機させていた方向から爆発音が3発聞こえた。


一旦コウは足を止めたが、相手の実力から想定してマナは無事だろうと考えると再びフェニエッサーの方へ向かう。

爆発音が気になる彼女はずっとその方向を見ていたが、コウが傍まで来たので頭を切り替えコウの方を見た。


「向こうにも幹部を1人送ったのか?」


図星を突かれ、彼女はコウから視線を逸らし不満そうにする。

どうしたものかとコウが思っていると、先ほど爆発音がした方向から信号弾で逃亡者を確保した時の合図が出された。


「どうやら向こう側も不発に終わったようだな」


「ちっ、くそっ」


悔しそうに顔をゆがめるフェニエッサー。

それを見てコウが降伏しろと圧をかけようと思った時、2人に向かって誰かが近づいてきた。


「あっ、ししょ~。変なやつ来たから片付けといたよー」


マナのお気楽な声に圧をかけようとして張っていた気が一気に緩んでしまい、コウは思わず笑みが漏れた。

ほぼほぼ勝ちを確信できる状況に、シーラともう1人の傭兵も少し気を緩める。


これは盗賊側にとってチャンスだったが、主力の2人をあっさりとやられたこの状況では更に反抗しようという気力など残っていなかった。


「一応殺さずにつれて来たよー」


そう言ってマナは左腕で襟をつかみ引きずってきた男を、思いっきりコウたちの方へと投げた。

コウはそれを冷静に<受け壁>を発動させて空気のクッションで受け止め、フェニエッサーの目の前に落とす。


よく見るとその男は両前腕を切断されており、切断面は高熱で焼け焦げていた。

体の数か所にはマナの魔力の塊のようなものがくっついており、いつでも殺せるぞと言わんばかりの状態にフェニエッサーも思わず固まってしまう。


「おい、マナ。これ爆発するやつじゃないか?今作動させると俺も巻き込まれるんだが…」


「あっ、ごめーん。すぐに解除するね」


そう言うとその男の体にくっついていた魔力の塊が霧散するように消えていく。

ご丁寧に閉じた唇にもついていたようで、それが消えたことでようやくその男も話せるようになった。


「ま、負けだ…俺の負けだ…頼む、許してくれ」


ずいぶんと怯えた様子で敗北を認める姿を見て、コウはやり過ぎじゃないのかと思いマナを見ると、彼女は笑顔で嬉しそうに成果をアピールしていた。


「はぁ、なんでもいい。だがこれで俺たちの勝ちだ。これ以上の抵抗を見せるのであれば、1人残らず殺す。だが素直に従うのであれば……」


「従う。あんたらには、勝てねぇ」


「ずいぶんとあっさり態度を変えるんだな」


「こいつはうちで一番つええポッサコスって奴だ。それがあんたの部下にも勝てなかった。あんたに…従うよ。あんたはあっちの化け物よりも強いんだろ」


フェニエッサーはどうにか有利な関係を築けないかと考え、コウを時間制限の罠に嵌めつつ、並行して一番の実力者をコウの部下と戦わせて勝利することで

自分たちにとって有利な妥協点を見出そうと考えていたのだ。


その姑息さを理解しコウは感心しつつも、ここできっちりと反抗の芽を折っておこうと考える。


「あぁ、彼女よりは俺の方が強い。なぁ、マナ」


「そりゃそうだよー。私の師匠だもん。10戦やっても1勝できるかくらいだよ」


マナの言葉にフェニエッサーとポッサコスは思わず息を飲む。


「まぁ、属性的に俺が有利だからな。その辺を除くと7:3ぐらいじゃないか?」


「そっかなぁ?」


一仕事終えてコウの役に立ったとアピールできたマナは、ご機嫌なままにやけながら答える。


「しかし、ずいぶんと姑息な真似をするな。実力差など最初からわかっていただろうに」


「しっ、仕方ねーだろ。うちらは噂でしかお前たちの実力を知らなかったんだ。噂を鵜呑みにして頭下げてたんじゃ、頭としてのメンツにかかわるんだよ」


それを聞いたコウが厳しい表情をすると同時に、即座に彼女に対して剣を振り下ろす。

ビビっているとはいえ腐っても同族団のトップ。その行動に彼女は即座に反応しショーテルで受け流す様に防御した。


だがコウの一撃は<風の板>で軌道をずらして斜めになり、最終的には水平方向へと振りぬかれる。

一瞬ただの脅しかと思い安心したフェニエッサーだったが、真横へと降り抜かれた一撃は<加圧弾>で即座に跳ね返ってきた。

そしてフェニエッサーの耳を横から切り裂き、頭部まで到達したところで止まった。


頭を真横に切り裂かれたかと思ったフェニエッサーは、恐怖で体が硬直して動けない。

いつでも殺せる、それを突き付けられたことで彼女はようやく立場を理解した。


耳を真横から切り裂き寸止めしたまま黙っているコウに対して、フェニエッサーはショーテルを強く握りしめながら恐る恐る答える。


「もう、こんな真似は…しない。誓う」


「これからはメンツを捨てろ。俺たち流星の願いの指示に従え。協力すれば、お前たちを名のある傭兵団にまで成長させる。

 逆に今後少しでも逆らえば…次は頭までバッサリといくぞ」


「わ、わかった…あんたに忠誠を、誓うよ…。馬鹿な真似は二度としねぇ」


「ならいい」


コウは服従の言葉を聞きゆっくりと剣を彼女の頭から遠ざけ、アイテムボックスへと収納する。

この脅しはさすがに効いたのか、コウが剣を収納した後もフェニエッサーは微動だにせず、切断された耳から血が流れたまま立っていた。


こうして駿馬は流星の願いの指示通りに動く集団となった。


その後しばらくはフェニエッサーを始め駿馬の面々がビビりっぱなしだったが、彼らの作った酒を購入し代金として金貨や銀貨を払う時になると

その辺はさすが盗賊といったところか、金を目の前にして緊張感が解けたのか、皆で硬貨を数え始める。


ずいぶんな態度の変わりようにコウたちからも軽く笑いが漏れた。


「しかしいいのか?在庫のほとんどを売っ払ったら、お前たちの飲む分がないだろ?」


「今回はうちらからの侘びと反省を兼ねてるかこれでいいんだよ。あんたを信じてやっていくんだし、期待してるぜ」


「わかった。その期待に応えよう。その分、そちらの仕事にも期待しているからな」


そう言うとコウはシーラを見て表情で合図する。

するとシーラはアイテムボックスから10種ほどの酒を取り出した。


「お近づきのしるしです。本当はもう少し穏便な話し合いをしてから出す予定だったのですが」


「おぉ、これ美味そうじゃー」


「おい、ゲルツァル。お前は傷を治してからでいいだろ」


「やめろ、ここで喧嘩してんじゃねー」


「うっせぇ、腕ナシのままいきっても迫力ねーぞ」


さすが酒好きの盗賊団といったところか、見たことない酒を早速飲もうと幹部たちがいがみ合いを始める。

呆れ顔を見せるフェニエッサーだったが、喧嘩が終わる様子もないので仕方なく幹部たちを一喝した。


「おい、お前ら。これは大事な研究材料だ。2人が傷を癒したら全員で飲む。それまではお預けだ。

 大体、さっき反省のためしばらく酒を断つと宣言したばかりだろ。コウ殿の前であほな態度をとるんじゃねーぞ」


さすがは酒好き荒くれをまとめる女頭といったところだろうか。

普段はこんな感じなんだなというのを見られコウは少し安心する。


必死になって逆らってきた時は手に負えない連中なのではと心配していたが、実態は思ったよりも普通に町にいる傭兵団に近かった。


「しかし、腕の治療は大丈夫なのか?」


「あー、さすがに大丈夫だとは言えねーが、治療カプセルのあてはある。うちらがやらかした不始末くらい、うちらで対処するさ」


盗賊たちにとって大きな問題の1つが、傷を負った場合に安易に治療カプセルが使えないことだ。


治療カプセルは非常に高価なものであり、そこかしこに置いてあるようなものではない。

もちろん傭兵ギルドにあるものを盗賊たちが使うことなど出来ず、多くの盗賊団にとって治療カプセルのあては重大な秘密の1つだったりする。


「悪いな、将来的には俺たちの村にも設置する予定だが、今はそちらで対処してくれ」


「構わねーよ。これはこっちの責任だ。さすがにコウ殿に頼るつもりははなからねぇさ」


忠誠を誓ってくれれば思ったよりも悪い盗賊団じゃないように見える。

これならばある程度ここを任せておけるかもしれないとコウは思った。


「じゃあ俺たちは戻るとしよう。さっき話した通り週1でそちらと人員を行き来させる。必要な物や欲しいものがあればその時に伝言してくれればいい。

 もちろん、金はとるぞ。それじゃ、これからの駿馬の働きを期待している」


「あぁ、失望はさせねーよ。その代わり、失望させないでくれよ」


「当然だ」


こうして流星の願いは盗賊団である駿馬を支配下に置き、村へと戻っていった。



誰1人の犠牲も出さずに目的を達した流星の願い一団は、行きと同様に風の板で村へと戻る。

多くの者が町への発展と立場の向上を夢見る中、マナが楽しそうにコウに話しかけた。


「上手くいったね、師匠」


「まぁ、どうにかね…正直めっちゃ緊張したよ」


「え、そうなの?師匠の圧倒的強者感、すごかったよー」


「私もそばにいてすごいなって思いました。やっぱりあの魔法のおかげですか?」


こうには何でも冷静に行える<氷の心>があるので、シーラはそのことを指摘した。

だがコウは首を横に振る。


「あれを使うと威圧に冷淡さが加わって印象が良くないとメルボンドとナイガイに指摘されてな。

 仲間に引き入れつつ彼らを利用するのだから、ある程度情を見せる必要があるし使っちゃ駄目だってことで、頑張って演技したんだよ」


「そうなんだぁ。だったら師匠は威圧感を振りまく才能あるよ!すごく良かったもん」


「いや、要らないよ。そんな才能…」


勘弁してくれと言わんばかりに、コウはため息をついた。

そんな会話の中、隣の風の板に乗っていた傭兵たちから声が聞こえる。


「いやぁ、正直俺は横にいてコウ様の圧にちびって腰抜かしそうだったぜ。あれをやればどんな傭兵団でも黙ってコウ様の指示に従うってもんよ」


「マジか…やっぱすげぇな」


「当然よ。脅されていないはずの俺ですら、背中にびっしりと汗をかいたくらいだからな。あはははは」


先ほどコウの横で酒の試飲に参加した傭兵は、何やら楽し気に仲間内の話でコウを持ち上げていた。

そこまで迫力があったのかと戸惑いつつも、それを聞いてにんまりするマナを見てコウはばつが悪そうに視線を逸らす。


「師匠、いいじゃないですか。そういうことも出来るってのは役に立ちますから。

 それよりもいよいよですね。これで多くの村を吸収出来れば町への昇格は確実です。更にあれが設置されれば、きっとあの村も一気に活気づきますよ」


「ああ、そうだな。色々と思う所もあるが、これで俺の元にきてくれた村人たちを幸せにできる。そう考えると、なんかほっとするよ」


「でも、最終目標まではまだまだ気が抜けません。頑張りましょう、師匠」


「もちろん。シーラも頼りにしてるからな」


コウがシーラの手を握りよろしく頼むと言葉にすると、マナが悔しそうにコウの近くまで来てもう片方の手を握る。

こうして全ての下準備を終えた流星の願いは、ノナリストコークを町へ昇格させるべく作戦を加速させていった。


今話も読んでいただきありがとうございます。


誤字脱字等ありましたらご指摘いただけると助かります。

評価や感想等あればうれしいです。


次話は1/1(土)更新予定です。クエスたちの視点となります。 では。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=977438531&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ