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町への昇格を成すために6

ここまでのあらすじ


オクタスタウンを飲み込むことを考慮し、その際どうするべきかなど様々な話し合いを流星の願いの中で話し合った。

◆◇◆◇



会議から数時間後、夕食も終わりコウが魔法の練習に打ち込み始めた合間を見ていつものメンバーが集まっていた。


メンバーは、マナとシーラ、エニメット、メルボンドとメイネアスの5名。

コウが参加する会議で大枠を決めた後、こうした追加の会議で今後の細かい点や気になった点を詰めていくのがいつもの流れとなっている。


明日以降、誰がどういった役割にまわるか、どういった点を押さえておいた方がいいかなど各人の視点で次々と意見をあげ、手早く話をまとめていく。

この追加会議はコウに負担を背負わせない事にも重点が置かれているため、気づかれないためにも長々と時間をかけられないのだ。


コウが魔法の練習に没頭すると2時間程はそれに集中していて、普段であれば十分な時間なのだが、直近はコウの突発的な案に対して円滑に物事を進めるための課題が山積みとなり

いつもより手早く方針がまとめられた。


「ふぅ、これで大方やるべきことはまとまりました。皆様、ご苦労様です」


なんとか最低限まとまったことでメルボンドがため息を吐く。


「明日は各傭兵団へ状況確認かぁ~。師匠と一緒に居たかったなぁ…」


「仕方がありませんよ。マナはみんなに人気なのですから」


「えー、シーラの方が人気あるって。傭兵たちはシーラの事を女神とか呼んじゃってるんだよ~。人気っているより、むしろ神格化かな?」


「ちょっ、ちょっと、マナ、止めてください。彼らは助けられたから一時的に大げさに感謝しているだけです。

 時がたてばすぐに盛り上がりは収まりますよ」


相変らず元気なマナとそれに振り回され気味なシーラを見て、他の3名も肩の力が抜ける。


「しかし、メルボンド。あなたはよくコウ様がオクタスタウンにまで手を伸ばすことを見抜いていましたね。

 あの方の性格から、そこには手を付けないのではと思ってたんですが」


「あくまで可能性として考慮していたまでです。今回は本気度がいつもより高いと感じていましたので。

 それに都市化を本気で狙うとすれば、人口の多い町を吸収するのが手っ取り早いですから」


「なるほど、本気度ね……。やはりきっかけはこの村の住人が半数ほど殺されたことでしょうか?」


メイネアスが神妙な面持ちで尋ねる。

するとマナとシーラがそれに答えた。


「多分違うと思う」


「違うと思います」


それを聞きメイネアスが顔をあげた。


「たぶん~、師匠はエクストリムの件を引きずってると思うよ」


「あの件で力のなさを実感しすぎてしまったのかもしれません。貴族であればこんなこともあるかと流すのが普通ですが、師匠には相当にショックだったのだと思います」


それを聞き再びメイネアスが考え込む。


「コウ様があまり前のめりになり過ぎなければよいのですが…」


「まぁ、そこを調整するのが私たちの役目ではありませんか」


メルボンドが笑顔でまとめようとするが、周囲の反応はあまり芳しくなかった。

実際彼はこの件が始まってからいつもよりも生き生きとしている。


調整という面では同意しているものの疑問があるといった周囲からの視線に、メルボンドは笑顔から少し真面目な表情に変え軽く咳払いをした。


「では、他に相談事などは…ありませんか?」


出てきたのはメルボンドが最近よく使う最終確認の言葉。

直近はコウがいろいろと突き進むことで各人悩み事が出てきており、それを鋭敏に感じられるコウに負担をかけないよう

こういった場で悩みなどを出し合って事前に解決するようにしている。


時々マナがどうでも良さそうな悩みを出したりして場を軽くするのだが、今日はエニメットが少し申し訳なさそうに手を挙げた。


「その、悩みと言いますか…最近、あまりコウ様のお役に立てていないのではと思っていて…」


「えっ、そんなことないと思うよ?」


「でも、コウ様は日々成長していて…私がシーラ様に指導してもらっても、コウ様にとってはただ脆い障壁を数枚張ることしかできなくて…」


いつも聞く側に回る状況とは違い、か細い声で悩みを訴えるエニメット。

日に日に成長するコウの魔法の実力に才能のない彼女が無力感を感じるのは無理もない。

だが、彼女には彼女なりに役に立っている部分がある。


「最初の8年は伸び盛りと言いますから、師匠はまだ4年半くらい。差をつけられていくのは私も常に感じています」


「それは私もだねー。もう8年過ぎた頃だけど、師匠に指導してもらった分伸びたと思ったら、師匠はそれ以上に成長してどんどん差が開くんだもん。正直やってられないよー。

 でもエニちゃんは師匠の精神サポート面で言えば最強だからね。多分この中で一番役に立ってると思うよ」


確かにその面で言えば他者に絶対負けないよう、コウの状態・好み・傾向から行動を予測して回り込み、即座に対応できるよう行動や観察を続けてきた。

出会ってからずっと、たとえマナやシーラが来ようとも絶対に譲るつもりのない立ち位置である。


そしてその点をコウがとても頼りにしていることもエニメットは実感していた。

そこをちゃんと指摘してもらったことでうれしくなり、沈んでいた彼女の気分がちょっと晴れる。


「そういうことでしたら、私だって師匠に置いて行かれるのを日々感じて悩んでいます。魔法使いになってもう十数年。成長期も終わり師匠とは離されて行く一方です。

 この先本当にお役に立てるのか不安に感じることがあります…」


「いやいや、シーラのサポートはガチで上手いよ。色々とターゲットにくっ付いていた補助士を見て来たけど、シーラは抜群にセンスがいいもん。

 師匠や私の欲しいところに完璧なタイミングで障壁を張れる。これって滅茶苦茶すごい事だって」


「そ、そうですか?でも、マナはまだ師匠の隣で活躍できる分、サポートしかできないとちょっと負い目は感じます」


「えー、私なんて戦闘面で師匠と実力が離れたら一番の役立たずになっちゃうし。それに比べてメルボンドやメイネアスはいいよね。

 知識面でいつも的確に師匠をサポートしているし、才能の差で置いていかれることなんてないもん」


才能の差が影響しない点が羨ましかったようで、マナは2人にも話を振る。

魔法の才能は個々人で決まっており、才能に差がある時点で実力が離れることは決まっているようなものだが、知識面であれば後れを取ることなどなく羨ましいとマナは考えていた。


だが、その立場に立たされているとまた違った悩みが出てくるものなのだ。


「そう言いますが、私だって大変なんですよ!マナ様の悩みもわかりますけど、コウ様がどんどん突き進む以上、私もその周囲の情報を先回りして収集しなくてはいけないんです!

 普通の貴族であれば一通りのことを押さえておけば問題ないんだけど、コウ様はどこに進むのかどこまで進むのか全く見当がつかないんですから!

 それに、マナ様やシーラ様の才能であれば代わりなど早々見つかりませんが、知識は誰でも詰め込める分、代わりは誰にでも務まります。かなりのプレッシャーなんですよ、ホントに」


普段はコウに対しても淡々と情報をあげるメイネアスだが、彼女は彼女なりに必死にやっていたのである。

立ち位置が違うと互いの苦労はわかりにくいとは言うが、彼女の言うように知識というのは魔法の才能に比べれば多少は代わりが効く分野。

その立ち位置を守るためにメイネアスは必死に努力していたのだ。


傭兵ギルドや傭兵たちの思考に対しても多少の知識を持つ彼女だが、ギルド間の抗争どころか将来的には町と町の抗争にまで想定しなくてはいけない始末。

そんな知識など連合の都市で生活していた者が持っているはずもなく、メイネアスは傭兵たちや傭兵ギルド、その伝手を使って日々情報を集めていたのだ。


スマートに答えているように見えて、裏では必死に情報をかき集めているのである。

それはメルボンドも同じのようで、日々見落としが無いようにと自らの足で確認することも多く、苦労話の蓋を開けてみれば、ここに居る全員がコウに振り回されていたことが分かっただけだった。


「メイネアスの苦労もわかります。私も同じようなものですから。ですが、全員が努力しているからこそ今の結果に繋がっていることをコウ様は十分理解しておられます。

 今はそれでよしとすればいいじゃないですか。あとは根を詰めすぎてコウ様に心配されないようにしましょう」


「言ってくれるよね~」


「それはわかっているんですけど…」


「…そうですよね」


「わかってるけど、余裕そうなメルボンドに言われるとね…」


各人の返答を聞いてメルボンドが笑うと、おかしな雰囲気になり皆からも笑いが漏れる。

お互い苦労していることが分かり、お互いそれをこの場で出したことでスッキリし、明日への活力につながった会議となった。




翌日、流星の願いは慌ただしく動き始めた。


マナは各傭兵団の拠点を訪れ、このエリア最後の盗賊団を包囲するために出発するメンバーを各傭兵団に選んでおくように伝える。

今回はいつもの上位2人ではなくメンバーの半数以上を参加させてくれとマナが伝えたので、各傭兵団も誰を向かわせるか選定作業を急ぐことになった。


ちなみにいつもある盗賊団から奪った金品の配分がない予定なので、今回は参加費が報酬として流星の願いから支払われる。

1人につき千ルピという微妙な額だが、町への昇格時、初期傭兵団として登録される報酬があることから、傘下に加わっている傭兵団から不満が漏れることはなかった。


シーラとナイガイは2人を中心に他のメンバーたちと盗賊団『駿馬』を包囲し圧をかけるための動きの確認作業に入っていた。

地図を開き、周囲の地形なども考慮して隠された逃走ルートなども想定していく。


また、どういったルートで反対側まで部隊を移動させるのか、各隊の人数割り振りや圧をかけるための全体の配置、失敗した時の殲滅対応など色々な状況を想定して地図とにらめっこを続けた。


全体をどう指揮するべきか多少学んだことのあるシーラと、盗賊がどんな行動をとりがちか、駿馬の特長を多少は知るナイガイが中心となり出来るだけ漏れの無いように作戦を組み立てる。


「そうなればやはり散り散りになって逃げるだろうな」


「であれば、その動きを想定して腕の立つ者を中間に配置します。前方の者たちが動きを判断し釣り覚悟で動く間に

 中間の強者が数名で自由に動けるようにしておけば、雑な逃走や多少のハプニングにも対応可能です」


「なるほど。ならばその案で行くとしよう。奴らが逃げるのに必死であれば、最前線が多少弱くても防御に徹すれば被害は軽微になる。

 だが地形上、こちら側にはほとんど人を配置しないようだが大丈夫なのか?」


「こうした崖の地形は逃げるのが大変なので大勢が向かうことはないでしょう。少数が向かったとしても、師匠であればすぐ追いつきます。

 決裂した場合は、誰1人逃がさないためにも師匠の反対側を多少厚くしておくべきです」


シーラとナイガイがやり取りする中、他のメンバーも意見を出し少しでも漏れの無い対応ができるよう協議を進めていた。


そしてコウとメルボンド・メイネアス・エニメットの4名は、護衛をつけずオクタスタウンへと向かっていた。

目的は傭兵ギルドの取り込みだ。最悪最後まで中立を保つように動いてもらえれば合格ラインと言える。


傭兵ギルドは中立地帯のほとんどと、闇の国や光の連合の一部の都市に支部を持つ巨大な組織。

オクタスタウンのような町にある支部はいわば末端でしかないが、その末端が下した評価が全体に共有される。


ここと敵対するということは論外、不利益を被らせるのですら良くないということで盗賊を対処する前に話をしに行くことにしたのだ。


メンバーは4名、戦力的な威圧を避ける形でマナとシーラは別の仕事に、印象を悪くする元盗賊のメンバーも除外。

結果、話し合いのサポートとして優秀な2人とこの町一番の傭兵団となった権威付けを兼ねて侍女のエニメットが同行することになった。



向かっている途中、風の板の上で何度か話の流れを確認する。

出たとこ勝負のところもあるが、ある程度は支部長であるフューレンスの頭の良さに期待する方向で決まった。


逆に言えば、彼女があまりに頭が回らない人物であれば切り捨てた方がましと判断したわけだ。

不要となれば別の人物を昇格した街のギルド支部に据えることで、ギルドの組織と対立せずにフューレンスだけを切り捨てることも出来る。

その場合、オクタスタウンを飲み込むことにそれなりの抵抗が起こるかもしれないが、足を引っ張る味方がいるよりはましだろうという結論になった。


「まぁ、基本は取り込む方向で。その方が今後の行動もやりやすくなるからな。それに彼女は十分頭の切れる人物だと思うぞ」


「私たちもそう思っております。ですが何度も話を交わした相手ではないですし、今回はあくまでその確認をも含めた交渉ですので…」


「うーん…まぁ、仕方ないか。馬鹿で周囲に振り回されるようなやつであれば、約束も反故にしかねないからな。さぁ、そろそろ町が見えてきた。交渉は良い形で終わらせるぞ」


「はいっ」


「はっ」


2人の返事に合わせるようにエニメットも頷く。

そんな彼女の肩にコウは優しく手を置いた。


「大丈夫だ。今回は攻め込みに行くんじゃない。俺の背中だけをしっかりと見ておいてくれ。それで十分俺の力になる」


「はい、コウ様」


エニメットが表情を和らげたのを確認し、コウは町の入り口まで風の板を向かわせた。


今話も読んでいただきありがとうございます。


定例の23時更新となってしまいました。すみません。


誤字脱字等ありましたらご指摘いただけると助かります。

自分では大丈夫なつもりでも見落としてしまいがちなので、協力していただける方がいると本当にありがたいです。

感想やブクマ、評価などなどいただけるとうれしいです。


次話は12/13(月)更新予定です。 では。

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