町への昇格を成すために2
ここまでのあらすじ
コウの出した村に脅威を与え村人たちを出来るだけ自分の村に集める作戦に
主要メンバーたちは賛同してくれた。
うちの傭兵団の主要メンバーから同意を貰ったことで、正式に俺の案を進めることになった。
まずは内部を固めるために流星の願い全メンバーに知らせる。
エンデリンをはじめとしたオクタスタウンにいるメンバーには、シーラが直接向かって説明することになった。
ここは案を出した俺が行くべきだろうと主張したが、それはメイネアスに即刻却下される。
既に大規模傭兵団をまとめる存在となった俺が直接動けば、それだけ他の傭兵団から注目を集めるらしい。
今回の作戦を完遂するまでは外部の傭兵団に感づかれたくないということで、今回俺は待機するのが上策だそうだ。
別に俺がただ町に向かうだけなのに大げさなと思ったが、世間はそうは思ってくれないらしい。
100名以上の傭兵集団をまとめるボスという自覚を持ってほしいとマナにまで釘を刺された。
そんな煩わしい立場になんてなりたくなかったんだけどなぁ。
そう言えば師匠たちは思った以上に自由に行動している気がする。
俺なんかよりもよっぽど注目される存在のはずなのに…なにかコツとかあるのだろうか?今度会った時に聞いてみよう。
そして翌日、流星の願い内で俺の案が周知され、固い結束ができたところで、今度は傘下の傭兵団を説得するための下準備に入ることになった。
俺も無策では厳しいだろうと思っていたが、根回しなしにいきなり公表するのはさすがにまずいらしい。
「この傭兵団たちにはマナ様が説得を、こちらの傭兵団たちにはシーラ様が説得を。この傭兵団はぶっつけ本番で構いませんので根回しは不要です。
やり方はそれぞれこちらに指示があります。多少のアレンジはあった方が自然な感じがしていいと思います」
メイネアスの指示にマナとシーラが真剣な表情でうなずく。
根回しが必要であれば俺も協力しなければ、と思ったがここでも俺は待機すべきらしい。
その代わり3日後に発表する演説の内容を作ってくれとのことだ。一応事前にチェックし修正することで確実性を高めるとのことだ。
ちなみに本番は原稿を見ずに多少感情を交えて話した方がいいと指示を貰っている。
なので俺もただのんびりしているわけではないのだが…自分が言い出した事なのに周りにおぜん立てをやってもらうのは何かもやもやする。
「想定される人数はこれくらいです。需要予測から言って畑は3倍にまで広げておきましょう。この辺りとここも今から開発を進めておくべきです。
最初は成長の早いこの手の作物から…」
もう一方ではさらに村人が増えることに対する対策を、メルボンドが従者たちと話し合っている。
そちらには盗賊から加入したモンネーネも参加しており、この村へと戻ってきてた従者たちも全員参加している。
つまり…オクタスタウンの拠点にはエンデリンが1人で留守番している。
戦闘では弱いし頭の回転もそれほどではない彼しか留守番役の適任はいないのだが、なんだか申し訳なくなってくるな。
朝食が終わってから1時間余り、シーラとマナの方は話し合いが終わったのか2人が立ち上がっていた。
「じゃ、早速行ってくるね」
「上手く話を進めてきます」
2人が任せてと言わんばかりに自信満々に告げる。
「やっぱ俺も、少しは手伝った方がいいんじゃないか?」
「いえ、最後にトップであるコウ様がしっかりと訴えかけることでまとまるのです。対等の相手ならまだしも今回は格下の傘下の傭兵団。
根回しにコウ様が出てきては、なだれ込むかのように賛成へと引き付ける力が弱くなります」
「大丈夫だよ、師匠。私たちに任せて」
「お任せください。私たちの役目はきちんとこなして見せますから」
メイネアスに続きマナとシーラも不要だとアピールする。
任せられるところは任せるべきだとわかってはいるんだが…どうしても俺が言い出したわがままという考えから俺がやるべきだと思ってしまう。
1年半後は俺だけがここを離れてルーデンリア光国にある魔法学校に行かなければならない。
つまりこの場にいる皆にこの村の発展を任せなければならないことになる。
そこらへんも意識すると、これはこれでよいのかもしれない。
皆が作った下地の上に、俺がきっちりと仕上げをする。
そう考えなおして俺は再び3日後に発表する演説の原稿を修正し始めた。
◆◇
下準備を終えた後、マナは昼前に目的の場所へと向かっていた。
この一帯は傘下の傭兵団の拠点が固まっている場所だ。
ここノナリストコークにおける拠点はすべて流星の願いが無償で提供している。
しかも傘下の傭兵団に合わせるように建物のサイズを変えており、村の数か所に固まって配置してある。
その方が連絡もしやすく、魔物や盗賊が襲ってきた場合迅速に対応できるからだ。
そしてその集団もある程度方向性毎に分けてある。
魔物や盗賊と戦う事を得意とする者たち・主に村の防衛をやっていた者たち・生産系を得意とする者たち、といった感じに分かれており
お互い拠点が隣同士であることからよく相談をしていた。
そうして出てきた案をメルボンドやメイネアスが吸い上げてコウに提案する場合もあるのだ。
「ふーん、ふふーん」
マナが鼻歌交じりにその辺りを歩いていると、拠点の近くでたむろしていた傭兵たちが声をかけてきた。
普段からマナはここいら一帯の傭兵団と戦闘訓練をしているので、傭兵たちから声をかけてくることは割と多い。
「あっ、マナさん」
「ん、やっほー。暇そうだね?」
「いやぁ、流星の願い様のおかげですよ。飯のためにせかせかと依頼をこなさなくてもよくなりましたから」
「でも、村の警備をさぼっちゃダメだよ?」
「もちろんです。今日はうちから3名ほど警戒業務やらせてますんで大丈夫です」
コウ率いる流星の願いの傘下に入るにはいくつか条件がある。
固定収入を得られる代わりにやらなきゃいけない一番の負担は、メンバー全員が1月の半分をこの村で過ごさなければいけないことだ。
といっても過ごさなければいけないだけで、団のメンバー全員が必ず警備警戒の仕事をしなければならないわけではない。
傘下の傭兵団は各傭兵団毎に村の警備の仕事が割り当てられるが、人数出しのノルマが決まっているだけでその質は問わないことになっている。
つまり魔物狩りなどで役に立たない稼ぎの悪いメンバーをそのノルマに当てられるのだ。
ただこれだと村に常駐する傭兵が雑魚ばかりになってしまうので、各自1月に半分くらいはこの村で過ごすというノルマもある。
まぁ、厳格に月の半分在中しているか確認しているわけではないので、その辺は少し緩いルールになっているが。
この条件と無料で与えられた拠点の質の良さから、傘下の傭兵団のメンバーらは結構ここでたむろしており
招集をかけると割と腕のいい傭兵たちが即座に揃うようになっていた。
「あっ、そう言えば、最近盗賊退治でお金に余裕があるからって、村の酒場に通い詰めになってるって聞いたよ~
腕がなまっていそうなら、訓練してあげようか?」
「あはははは。さすがに今は勘弁してください。たまには休まないと俺たちも持ちませんって」
「だよね~。はぁ、師匠もちょっとは休んでほしんだけどなぁ…」
マナが少しだけ表情を暗くする。
彼女がここに来る時は大方暇な実力者数名を集めて楽しそうに実戦訓練をするが、今日のマナはそこまで明るい雰囲気がなく話しかけた傭兵たちも少し心配になった。
「ん、どうかしたんですか?」
「んーー、ちょっと師匠が大変なことを言い出しちゃって…」
「な、何ですか?もしあれなら…少しは相談に乗れるかもしれませんけど」
本当に?という表情で見つめてくるマナに、彼も思わず任せろと真剣な表情になる。
それを受けマナがコウの出した案を要点をかいつまんで話し出した。
話を聞き終えた傭兵たちはかなり難しそうな顔をする。
「いやぁ、それは結構…やばいですよ。死者を出さないって言っても盗賊が守る保証もないし、そもそも盗賊団をコントロールできるとは思えません。
村人を守るって目的で集まった俺たちが盗賊を使って…だなんて、反発する奴らも出てきかねないし…」
「そうだよねぇ。うちには元盗賊がいるけど、あくまで個人の資質を見て入れたんだし…盗賊団丸ごとをコントロールするとなるとねぇ」
「というか、なんでそんな話が出てきたんですか?もちろん、流星の願いの皆様もコウ様も尊敬してますけど…なんてか、ちょっと無謀過ぎるていうか…」
その台詞を聞いて内心マナは『よしっ!』と思いつつも、暗い表情のまま話し続ける。
「それがさぁ、色々と聞いてみると皆のためらしくって」
「えっ、俺たち…の?」
かなり否定的だった傭兵の表情が驚きへと変わる。
その間にも周囲で暇していた傭兵たちが数名近づいて話を聞きに来ており、距離をとっていた者たちも興味のある話に聞き耳を立てていた。
「今、まだ10個くらいの村が合流を拒否してるんだって。主戦力が民への誓いの傘下からこっちに移ってきた以上、出来れば私たちがその村を守りたいんだけど
バラバラに戦力を配置したら盗賊たちとぶつかった時損害が出ちゃうでしょ?だからって放置も出来ないって話になって…」
「いや、だけど、それなら残り1個の盗賊団をつぶしちまえばいいんじゃねーか?」
「そー思って私も言ったんだけど、ここに盗賊団がいなくなっちゃったら他のエリアから盗賊たちが来やすくなっちゃうって言われたんだよねー」
「んー、確かにあり得るなぁ。盗賊同士での争いがないとなると、ここいら一帯が美味しいエリアに見えちまうか…」
「あー、それがあったか。俺たちの名前も他エリアまで届いてなさそうだし、あり得るかもなぁ」
「難しい問題ですね…」
マナの言葉にいつの間にか集まってきた傭兵たちが一様に渋い表情を見せる。
「私たちって無理をしてまでは村人を守らないってだけで、村人たちを守りたくないってわけじゃないでしょ?
師匠としては、傘下の仲間を出来るだけ死なせたくないし、村を守るために戦力を分散配置するには絶対に反対なんだよ。
だからみんなに負担をかけずに村人を守れるよう、多少強引な手を使ってでも村人たちを集めたがってて…非難は自分が被ればいいって言いだしちゃうし…
私たちがもう少し強かったら、師匠にそんな負担を押し付けなくても済むんだけどね…」
トップが非難を浴びることを承知で自分たちのことを心配しつつ村人を守るための作戦と聞くと、さすがの傭兵たちも反対しにくくなる。
だからと言って皆が迷う中賛成の声をあげると、周囲から何と思われるかわからず動きにくい。
そんな中、そんなどっちつかずの雰囲気を一掃するかのように、傘下の傭兵団の1つである義勇団のリーダーが大きな声を上げた。
「俺は全面的に賛成するぞ!そもそも俺たちを守るために打てる手が狭くなってんだろ?俺たちが無駄死にしないようリーダーが非難されてもやるって言ってるんだろ?
なのになんで俺たちが反対って空気になってんだよ。村人も守ってやりてぇ、でも死人は出したくねぇ、これを叶えてくれてるってのに賛成はしたくねぇって…んじゃ、どーしたいんだよ?
今まで俺たちが二の足を踏んでいた時も村人たちに犠牲は出ていたんだ。終わらせるために多少の被害が出るくらいでビビるのかよ。
本当は俺たちがリーダーへの批判をかばわなきゃいけないくらいじゃないのか?生活も支えてもらって、村人感謝される立場にまでしてもらって、なのに協力はしたくないとかいくらなんでもないだろ」
戸惑いながらも周囲の様子をうかがい、反対とも賛成とも言えない空気をその男がぶち壊した。
傘下の傭兵団というのは親となる傭兵団から援助を受けられる立場上、いざという時は多少の犠牲を払わなければならない立場に立たされることが多い。
特に流星の願いの傘下は他の傭兵団の傘下よりもその支援は手厚く、いまだに傘下入りを希望する傭兵団が絶えないほどだ。
そんな手堅い立場に居させてもらいながら、今まで自分たちがやってきたことに目を背けながら、この機会に一歩も踏み出さない気かと気を吐く彼の言葉に反論する者はいなかった。
そして流れが変わり始める。
「…私も団長としてコウ様の案に賛成するわ。うちは犠牲が2名ほど出たけど、それでもそれ以上のリターンは得られたし、理想だった村人からの感謝も受けられている。
でもそれって、うちの傭兵団には実力以上の評価だってみんなわかってる。ベイリンの言う通り、今こそ私たちが動き支えるべきでは?」
「ま、まぁな。確かにそうだ。これからも永遠に理想通り事が運べるなんてのは夢物語にすぎない。多少強引でもやれるべきことをやるべきかもしれん。
それに…コウ様にだけ負担を押し付けるのは…良くない…と思う。せめて俺たちが賛成を示せば…」
「確かにそうよね。都合の悪いことは反対しつつ美味しい思いを受け続けるってのは不公平かも」
「あぁ、俺たちもたまには恩を返さないとな」
賛成したところで恩返しどころかまだ世話になっている立場なのだが……とはいえ上手く流れを変えられたことにマナは心の中で喜んだ。
ちなみに賛成の口火を切った義勇団のリーダーであるベイリンはもちろん直前に説得済みである。
雰囲気はがらりと変わり、コウの案を皆が好意的に受け止め始める。
彼らだって村人たちを守りたいという気持ちは元々持っていた。
だがコウが来るまでは盗賊たちとの力の差にどうしようもないという一面が彼らの足を止めていた。
自分たちが足を止めていた間村人たちが苦しんでいたという現実から目を背けつつ今の賞賛を享受していたが故、今回のコウの案を受け入れることに躊躇していたが
今までの成功体験と背中を押されたことにより、一歩踏み出すことに躊躇しない雰囲気が広がる。
そんな積極的に賛成しようという流れからより力強い意見を出すものまで現れた。
「なぁ、皆でその案に積極的に賛成しないか?村人たちが被害にあってもより大きな被害を防ぐためと目を背けてきた私たちにこそ責任があるはず。
多少の憎まれ役はそんな私たちが引き受けるべきじゃないか?」
三刀一閃のリーダーであるセンラッカの一言にそうかもしれないといった雰囲気が広がる。
火をつけた側のはずのベイリンもこの空気に乗せられたのか、真剣な表情で頷いていた。
「だがよ、センラッカ。憎まれ役も何も、その件で俺たちがそこまで村人から憎まれるか?
結局村人たちが集まるきっかけを作るだけだろ?その場では多少恨まれるかもしれんが…時が経てば何とかなるんじゃないか?」
「違う。負の感情をぶつけてくるのは…もちろんこれから被害に遭う村人たちも含まれるが、一番厄介なのは民への誓いだ。
私たちの団もかつては村民団の一員としてやってきたが、民への誓い、特にリーダーのボルトネックは安定していたこの一帯を乱されて頭にきている。
かつては盗賊のやることを見て見ぬふりをする必要があったかもしれない。だが今は違うはずだ。それなのに奴らは以前の考えから抜け出せていない。
もし流星の願いを叩くチャンスがあれば猛然と非難してきかねないんだよ」
今まで盗賊との共栄の形を維持することにより村人たちへの被害を最小限にとどめていた役割を果たしていたのが村民団。
特にその団体をまとめている民への誓いは、流星の願いの台頭をかなり不快に感じている。
もちろん賞賛をかっさらっていったという点を一番嫌っているが、それだけでなく今後大変なことに繋がりかねないとか
流星の願いが傲慢になり暴走するかもしれないとボルトネックは仲間に訴えていた。
現状盗賊を退治し村人たちを盗賊の被害から解放しているのは疑いようのない事実なので、公然と非難してくるような真似はしなかったが
今回の事を聞きつければ間違いなく反発してくるはず。
それに対して自分たちが矢面に立とうじゃないかとセンラッカは提案してきたのだ。
「よし、たとえ民への誓いがケチをつけてきても、俺たちで追い返してやろうぜ!」
「おぉー!」
予定より行き過ぎた雰囲気になってきたが当初の目的は達成しており、多少警戒が必要だと思いつつもマナは役目を果たせたことに満足した。
今話も読んでいただきありがとうございます。
誤字脱字等ありましたらご指摘いただけると助かります。
ブクマや感想など頂けるとうれしいです。
次話は11/27(土)更新予定です。 では。




