コウが歩む道の始まり12
ここまでのあらすじ
クエスとボサツはコウからの話で、いくつかの情報を得ることができた。
最後に念押しのように何か必要な物はないかと聞かれ、コウは農業支援のお願いを持ち出した。
メルティアールル家は連合でも指折りの農業大国であり、この先転移門が設置されることを考えると特産物があればと考えた上でのお願いだったが
ボサツは特に詳細を聞かず2つ返事で了承した。
実際こうやって各村から人員をかき集めて大きくしていく以上、食料の確保は最も重要な課題になる。
各村で作っていた作物の移転も進めてはいるが、専門家の指導や成長の早い作物、この地に適した新種の確保はこの村の成長に欠かせないものである。
長かったお互いの現状確認も終わりかと思われた時、コウが突然他のメンバーたちに退席をお願いする。
「すまないが…俺と師匠達だけにしてくれないか?ちょっと、内密の話があるんだ」
リーダーであるコウに言われれば、特に反対する理由もないのでメルボンドたちを始めマナも渋々と部屋を出て行く。
そして部屋に魔法が張られ、外に話が漏れないようにした。
「ん、やけに厳重ね。そんなに重要な話?」
クエスの問いかけにコウは真剣な表情になる。
弟子のコウがこれだけ真剣な表情を見せたからか、聞く側も真剣な表情になった。
「その、実は…個人的なことなんですが、俺から師匠たちにお願いがあるんです」
「内容次第ですが、先ほどわがままを1つ聞くと言った手前、よほどのことでない限り何とかします。それで、お願いとは何です?」
ボサツが尋ねるがコウからそのお願いというのがなかなか出てこない。
時折言おうとするものの言葉が出ない態度から判断するに、真剣は真剣でも今ある問題を解決するためではないことが容易に想像できる。
「そ、その…」
「さすがにはっきり言ってもらわないと、お願いってだけじゃわからないわよ」
「んっ、そのっ、お二人に認めてほしいんです…」
「一体何をよ」
クエスにせっつかれた思い切ってコウは顔を上げ、真っすぐに2人と向き合った。
「俺に、シーラとマナ2人とのお付き合いを認めてほしいんです!」
言い切った後、コウはいったん頭を下げる。
しばらくの沈黙にコウは恐る恐る顔をあげた。
2人はそれを聞き意地悪で何も言わなかったわけではない。
あ、そこから?と喉元まで出かかった言葉をクエスとボサツは強引に飲み込んだのだ。
てっきりどちらかとは体の関係になっているだろうと期待していたので、2人はどちらを先に手を付けたかで賭けていたくらいだ。
それが今からやっと1歩踏み出す宣言をされては、正直ズッコケたいくらいである。
だが目の前のコウが真剣な以上、さすがに茶化すわけにもいかない。
どう返そうか2人が迷っていると、その困惑した態度を交際すら容易に賛同できないと判断したコウは、最初の一歩でつまずいたと思い焦りつつも前に出る。
「いや、もちろん、わかってはいます。マナも貴族の出ですし、シーラに至っては継承順位を持つ王女様です。
俺はもともと貴族の出ではないし、こんな中立地帯に飛ばされる間抜けには釣り合わない存在だということも承知しています。
ですが、この中立地帯で生計はそれなりに立てられていますし、2人は俺にとってかけがえのない存在ですし、その、結構…好意は……持たれてる気も……。
と、とにかく、2人ともそれなりの立場なので、こういう事前の根回しというか…こうした各貴族家への事前連絡は必要なんじゃないかと思って…
えっと、その…師匠と弟子という関係を超えたい…というか、その………」
勢いをつけて話し始めたものの、何とか許可してもらえないかと必死まくし立てる言葉も長くは続かずしどろもどろになってしまう。
そんな仕方のないコウを見て、クエスもボサツも思わず笑いをこらえきれなくなった。
「ふっ、ふふ。まぁ、いいわ。いいわよ」
「そうですね。シーラの相手がコウであれば姉としては安心です」
「えっ……それじゃ」
「ええ。ついでにエニメットも好きにしなさい。あれはあなたにあげたんだし、少しは愛情を注いでほしいわ。もちろん、愛情以外のものも注いでいいのよ?」
「シーラの子、甥か姪か……どちらにしても楽しみです」
「いやいやいや、ちょっと色々と気が早すぎますよ」
付き合うことのさらに先の話までされてコウは顔を真っ赤にして慌てる。
2人は内心呆れていたが、遅い歩みとはいえ着実に目的通りの方向へと進んでいくことに関してはほっとしていた。
ワンチャン、コウがこの中立地帯で好みの女性を見つけそれにぞっこんになっている可能性だってあった。
それを考えれば、自然な流れでコウとマナやシーラの関係が進むのは悪い話ではない。
「付き合うのなら、やることやっちゃうでしょ?貴族間が認める付き合いともなれば、周囲もそれくらいのこと前提に話を進めるものよ」
「1年半後にはせめてシーラのおなかを大きくしてくれていると期待しています」
「ちょ、それは……って、なんで1年半後なんですか?」
この中立地帯にいる期間が限られているわけでもないのに、突然期間が指定されたことにコウが違和感を覚える。
ボサツは指摘されてしまったと言わんばかりの表情をしていた。
「まぁ、それは最後に伝えるわ。あ、そうそう。魔素体になると妊娠する確率は結構下がるから、コウも数をこなさなきゃダメよ」
「えっ、は、はい……」
「まぁ、それはそれとして、お願いってのはそれだけ?」
「いや、そのもう1つお願いがありまして……その、魔道具を作れる細工師みたいな方を師匠たちはご存じないですか?」
コウの言っている意味がいまいちつかめず、クエスとボサツは互いに見合って首をかしげる。
「えっと、こんな感じの物を作ってほしくて」
そう言ってコウは黒いモニターに別のチップを取り付けて画像を出した。
そこには金色のプレートに炎が広がる彫り込みと、その中心に赤い魔石、周囲に薄緑の風が舞うデザインが施された髪留め。
そして次のページには中心に大きな薄黄色の魔石とそれを囲むように水色の縁がデザインされたネックレス。
最後は盾の形の枠が薄緑色で、盾の表面が薄黄色のデザインになっているブローチ。
3点のそれぞれが誰に送るのかが丸わかりなデザインの宝飾品が描かれていた。
コウはデザイン画を書くのは苦手だが、頭で想像したものを映像化できる魔道具により今回のデザインをなんとか形にできたのだ。
ここに来て記憶を映像として残せるという技術を知った時、似たようなことができないのかと考え傭兵ギルドに尋ねて、その魔道具一式をこっそり買い揃えていたのである。
「んー、なかなか悪くないわね」
「シーラはよろこぶと思います」
「んっ、ん。まぁ、その、こんなデザインで魔力補助や魔法発動補助などの効果のある魔道具が作れないかと思ったんですよ…」
茶化されているのを理解しつつもコウはとにかく話を進める。
クエスもボサツもここで照れれば照れる程、より茶化してくると人だとわかっているからだ。
「んー、じゃこれをベースにもう少しいい感じに変えてもいい?」
「もちろんです。あくまでこれは素人のデザインですし」
「なかなかいいデザインだと思います。相手の事を思った良いデザインです」
コウの顔が再び赤くなり、思わず目線を逸らす。
コウ自身師匠達に相談すればこうやって茶化されることくらいはわかっていたが、やはり贈るならちゃんとしたものを贈りたいと考え
この中立地帯で職人を探すより師匠たちの知り合いの方が良いものが作れるだろうと考えて、恥ずかしさを押し通してお願いしているのである。
「しっかし、ちゃーんとエニメットの分まで用意しているじゃない。やる気があって安心したわ」
「いや、師匠。その、これは違う…わけじゃないんですけど、日ごろからお世話になってるし、たまには俺からこういうのもって思っただけで…」
「そうなの?まぁ、侍女ってのは手籠めにしておくと何かと便利よ。
大切な相手にはなかなか試せないプレイを試せたり、裏でしっかりと経験を積んで大切な相手をリードすることも出来るわ」
ニヤニヤしながら話すクエスになんとなくなるほどと思いつつも、それを表情に出すまいと必死にコウは顔をしかめた。
だがそこまで隙だらけだとクエスもコウの気持ちを読み取り放題であり、ますますニヤニヤが止まらない。
「くーちゃん、その辺にしておきましょう。さすがにコウが可哀想です」
「まぁ、そうね」
からかわれるのが止まったことで、少ししてコウもようやく落ち着く。
そして改めてコウは大切な贈り物を作って欲しいとお願いした。
「その、これらの製作を…どうか、お願いできないでしょうか」
「もちろん任せなさい」
「ところでこれは…何のために贈るのです?」
「いや、将来伴侶になってほしいという前提で…付き合って欲しいという時に、手ぶらってのはさすがにないかなと思って…」
そこまで言わせるかと思いながら、コウはだんだん小声になりながらも説明する。
それを聞いたクエスとボサツは想定外の事態に、茶化す態度をすぐに切り替えた。
「急ぎで作らせるわ。もちろん質は落とさせないから安心しなさい」
「私の方でも伝手を総動員して作らせます。3人の職人に別々に作らせれば期間は1/3になります」
「あ、はい。ありがとう…ございます。代金はちゃんと払いますので……」
何で急にやる気全開になったのかわからないコウは、とりあえず礼を言うことしかできなかった。
今話も読んでいただきありがとうございます。
んー、何とか投稿できたのですが、もう少し先まで書いたうえで投稿したかったなぁ。
この辺りまとめると1話くらい削減できそうなのに…。
誤字脱字等ありましたらご指摘いただけると助かります。
感想やブクマ、色々とありがとうございます。
とにかく早く帰宅して小説書く時間を確保したいです。
次話は11/15(月)更新とさせてください。
ちょっとトラブルが尾を引いて、時間的余裕が全くなくて…すみません。
では。




