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コウが歩む道の始まり8

ここまでのあらすじ


クエスと軽く会話をしているうちにボサツも村へと戻ってきた。


「おっ、ボサツが来たみたいね」


クエスが言うと同時にコウもボサツが来たことを探知した。

すぐにエニメットが案内し、ボサツは真っ直ぐコウたちのいる場所へとやってきた。


「コウ!…無事なようで何よりです。本当に心配しました」


「師匠達にご指導いただいたことが役に立ちましたので。それよりボサツ師匠もご無事で何よりです」


感動の再会って程ではないが、お互いに無事であることを確認でき安心したといった感じだ。

それを見てクエスが笑顔を見せるが、すぐに隣のシートを叩きボサツに座るよう促す。


「ボサツも来たし、ようやくちゃんとした話が出来そうね」


クエスの言葉で場の全員に緊張が走る。

そしてコウたちに考える暇を与える暇を与えることなくクエスが話を切り出した。


「まどろっこしい話の流れは苦手だから単刀直入に聞くわ。コウ、あなたはここで何をやりたいの?」


真剣な目つきでコウを見ながらクエスは尋ねた。だがそれはどうとでも答えられるような大枠の質問。

どうやら事前に相談していたのだろう。ボサツからその雑な聞き方にツッコミは入らなかった。


コウはあまりにざっくりとした聞き方に一瞬戸惑う。

アイリーシア家の保護を蹴って中立地帯に向かった時点では目的なんてなかった。

だが今はこの村を指導している理由が明確にある。


理解してもらえるかはわからないが、嘘偽りなく正直に今の気持ちを伝えようと考えクエスの目をしっかりと見つめて答えた。


「俺は…連合を追放となりました。はめられたと思いましたが、女王様に対し何の証拠もなく反論したのは事実です。

 追放となった以上、家や師匠たちの力だけで連合に戻るのは違うと思ったんです。この中立地帯で何らかの功績をあげ、認められる形で連合に戻りたいと思っています。

 ならばこの地で名を上げ、やはり連合に必要な人材と認められた上で戻れるよう行動しているつもりです」


想像よりしっかりした答えが返ってきたことで、クエスは軽く息を吐き考えこむ。


コウの主張するやり方で連合に戻るのはベストかもしれない。

女王や他の者達のやらかしに敢えて触れずに必要な人材だと判断させて吊り上げさせる。

どこともしこりを作らずに連合へと戻るのは、コウの今後を考える上で最良の方法だと言える。


だがこのやり方では年単位の時間が必要となる。

確かに傭兵団として短期間でC-まで上がったことは立派だし、盗賊に襲われた村をここまで再建しているのも素晴らしい。


とはいえ、この程度では連合が認め欲しがるような人材だとは言えない。

クエスが考え込んでいる間に、今度はボサツが質問を入れてくる。


「その考えはとても素晴らしいと思います。ですが、そこまで認められるには相当の時間が必要です。

 信用度C-や村の復旧、住民からの信頼が厚いことは確かに素晴らしいことですが、連合から見れば片田舎でボヤが起きている程度。

 その程度の功績では、連合からの視野に入ることすらありません」


厳しい言葉だがコウもそれくらいは理解していた。だが現状は準備段階、狙いはもっと先にあった。

今こそが好機、コウは満を持してやろうとしている計画を発表する。

メルボンドたちと相談して練り上げたこのプラン。コウは自分の思いを込めて口を開いた。


「俺は、この村を都市にまで成長させたいと思っています。ここは連合との境界線近く、中立地帯が戦場になれば確実に連合傘下に入る地域だと聞いています。

 そんな場所に防衛拠点となる都市を1つ作れば、連合にとっても守りの壁が厚くなったことになります。

 この功績ならば俺たちのことを認め、連合へと招へいするだけのきっかけになるはずです」


コウが想像以上に大きく出たことで、ボサツもかなり驚いていた。

追放されたけど功績を立てて戻りたいというのは、追放が取り消された今、ちょっと歪んだ考えのようにも見える。

だがボサツから見て実にコウらしい意見だと感じた。


とはいえ、都市をつくるというのは大きく出たというより夢物語に酔っていると言った方が表現としては近い。


連合内で都市が新たに誕生する時は、ある程度育った町をベースにその町を管轄する国が相応の資金と人材を突っ込んで都市へと昇格させる。

その過程でごたごたが起き失敗することもあるので、ハイリスクハイリターンな行為だと貴族たちの間では認識されているほどだ。


それを盗賊に襲われた村を起点にして都市にするというのだから、はっきり言ってしまえば笑い話にしかならない。


だが発言したコウの表情は真剣そのものだった。

真剣なのは理解できるが、目標としてはあまりに高過ぎるのでボサツが否定しようと思った時、クエスがコウの気持ちに応える。


「できるという算段はあるの?少し前までは200名ほどの村だと聞いていたけど、今や700人程の大規模な村になっている。

 でもコウの説得に応じない村多数あると聞いているし、そもそも都市は最低でも2万人規模でそれなりの経済力も必要なのよ?

 考えなしに気合だけで到達できる目標じゃないわ」


「厳しい道のりなのはわかっていますが、算段はあります。認めてもらえればこれからも全力を尽くすつもりです」


コウの答えを聞いてクエスはメルボンドの方を見た。


「これはコウの意思?あなたから見てどれくらいの可能性がある?」


「これは全てコウ様からの希望を元にした案です。可能性は10%ほどだと思いますが、条件次第では不可能ではないと考えています」


「ふぅん…」


一度微妙な返事をし、クエスは改めてコウを見た。


「ねぇ、もしかしてコウは…英雄になりたいの?」


「えっ!?いや、別に…」


「でも村人たちからはすっかり英雄様って呼ばれてるじゃない。さっきの歓声、すごかったわよ」


「いや…まぁ……」


当然のことだが、コウが村人たちに英雄と呼ばせているわけじゃない。

あくまで彼らが自発的に英雄と呼んでいるのだが、そう呼ばれて顔がほころぶ者は少なくないだろう。


実際、クエスが指摘したこの時もコウの表情は少し緩んでいた。


「英雄ね…。そう呼ばれて気分が悪いって人は少ないでしょうけど…だけどね、コウ。あなたの性格は英雄に最も向いてない。

 もしそうなりたいとしても、私からはやめた方がいいとアドバイスしておくわ」


真剣な、でもどこか困った表情で見つめ発言するクエスからは、コウをただ連れて帰りたいからとか、危険な真似をしてほしくないからとか、そういった意図は感じ取れなかった。


別にコウも英雄になりたいと思っているわけではない。だが英雄という言葉にはそれなりの憧れがある。

それなのに英雄になるのは止めておいた方がいいと言われば、当然困惑する。


「その、別になりたいわけじゃないですけど…英雄ってそんなに大変なんですか?」


コウの頭に浮かんだ純粋な疑問。今までいた世界とは違うので英雄の定義がずれているのかもしれない。

そうであれば、クエスの答えも妥当性がある。


「そりゃ大変よ。私たちは光の守護者と言われてるけど…自分でいうのもなんだけどちょっとした英雄でもあるわね」


「近年は別に英雄だと思ったことも扱われたこともないはずです」


「まぁ、最近は戦争もなかったし、そうだけど。でも今回の活躍を女王が流布しまくってそうだし、戻ったら似た扱いになるかもよ」


クエスの返答に横やりを入れたボサツもわかっているのか、露骨に不満そうな表情を見せる。


「話を戻すけど、英雄っていわば大勢の希望の光、大勢の人たちが頼りにする存在って感じでしょ。その人がいてくれたから多くの人が助かった、みたいな。

 私たちの場合は光の守護者という地位があるおかげで、素体の平民や一部の貴族からは遠い存在だし、普段から尊敬されるような素行をしてないからあんまり圧は強くないんだけど

 コウは現状、村人とすごく近い立場にいるから、その分彼らの要求が直接飛んできて圧も強くなるわ。コウはお人好しだから…気がつかないうちに泥沼へと引きずり込まれる気がするのよ」


「師匠の言ってることはなんとなく理解できます。ですが、俺たちはいざという時、味方を優先して村人を…」


「そのことも聞いてるわよ。でもね、コウこそが自分たちを助けてくれる、コウさえいれば何となかる、そんな神格化が起きやすい…いや、起きた結果英雄という存在になるの。

 それはコウが決めることじゃないわ。村人たちや周囲の者たちが決めることなのよ。

 特に距離が近ければ近いほど、彼らは熱狂的になりやすくなる。コウはまじめで責任感が強い方だと思っているわ。

 熱狂する彼らの要望に応えようとし過ぎれば、きっと破綻する。そして悲劇へとつながるのよ」


「そ、それは…」


なくはない話だとコウは思ってしまった。

実際村人たちが、流星の願いの旗をすべての厄災から守ってくれるアイテムかのように話しているのを聞いたことがあった。


自分たちが盗賊を排除して回っていることで、旗を見るだけで盗賊たちは近づかなくなり、旗が安全を確保していると思う者も現れるだろうとその場では流していたが、クエスの話が本当ならばすでに泥沼に1歩踏み出したことになる。


思い当たる節がありコウの表情が暗くなるのを見て、クエスはさらに言葉をつづけた。


「英雄ってのはそれに従う全体の感情をも左右するわ。大切な仲間死んで英雄が落ち込めば、それに守られてきた住民や部下たちも動揺しておかしくなる。

 それが長引けばすべてが瓦解する、英雄なんてそんな存在よ。特に貴族や国王などの支配下にない精神的支柱が他にない集団に祭り上げられるとね。

 でもコウはそれを無視できる性格じゃない。村人や部下のために無理をしてシーラやマナを失ったとしても、村人たちに笑顔を向けて前へ引っ張ることなんてできないでしょ?

 全て失くした後に後悔するようでは遅すぎるわ。英雄なんてね、周りが物にしか見えないような狂人でないと続かないものよ。

 支えてくれる大切な側近がいなくなれば…破綻へと向かう道を1人で歩く羽目になるわ。周りは英雄をただただ信じ、期待するだけなんだから」


その言葉に、今のコウは全く反論できなかった。

むしろその言葉に飲まれるように、どうすればいいのかと迷いが生じる。

それを見たクエスがわずかなアドバイスを加えた。


「…そうね、参考にするなら連合の仕組みとかいいと思うわ。一時的な英雄を部下に作り出すの。それを順繰りに巡らせるとさらに理想ね。もしくは団体としての成果を強調し続けるとか。

 連合の女王なんて私たちを英雄視させようとガンガン宣伝してるのよ。その裏で自分は気楽に部隊を動かしてる。あれなら迷走はしても暴走はしないわ」


「確かにそれは言えてます。と言いますか、その迷走でこんなところにコウを追いやったのですが…。

 人を御輿に乗せておきながら、裏でコウをこんなところに追放したことを思い出すと……無性に腹が立ってきました」


「まぁ、具体的に言うなら……そうね、コウが行かずとも済む状況では他の者たちに任せ功績を立てさせる。もしくはできるだけ団としての活躍を目立たせる、個に光を当てないって感じかしら。

 それができると言うのなら、私はしばらくここにいてもいいと思ってるわよ」


これはクエスからの圧力に聞こえなくもないが、コウにとっては優しいアドバイスだった。

将来破綻のきっかけとなりかねない問題を、わかりやすく教えてくれたのだから。


「ご指導、ありがとうございます」


「別に指導したつもりはないわ。私たちだって迷惑をかけたんだし、これくらいしてあげるのが、師としての役目みたいなものよ」


コウは改めて師であるクエスに感謝する。

そして少しだけ、自分がまだ独立できていない弟子なんだなと思った。


最近は傭兵団のリーダーとしてそこそこうまく立ち回っていると思っていたが、コウにはまだまだ足りない知識が多い。

今回、どうしようもなくなる前に気づかされたのはコウにとって幸運だったと言える。


今話も読んでいただきありがとうございます。


細かい書き直しをしつつ仕上げたのですが、上手く書けたかな・・


誤字脱字等ありましたらご指摘いただけると助かります。

今回は結構チェックしたけど、ゼロは無理かもなぁ。


次話は10/27(水)更新予定です。では。

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