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異世界からのスカウト ~光と闇の狭間に立つ英雄~  作者: 城下雪美
1章 魔法使いになります! (1~17話)
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決意と旅立ち

新年あけましておめでとうございます。

なんとか元旦中に投稿完了できました。

ペースを維持するのって思った以上に大変。


翌朝起きて学校に行くためバス停に向かう。

親父は相変わらず寝ているようだ。


いつもはイライラの原因でしかないが、今日に限っては会話もできず寂しさを感じる。

思ったよりも嬉しさは感じない。が、それでいいのかもしれない。

まだ半信半疑ではあるが、多分今生の別れになるだろう。


飲んだくれではあるが、それでも父親だ。

こうなるとちょっとだけ寂しさと申し訳なさがこみあげてくる。

昨日まではあんなに憎くてうざい相手だったのに。


「いってくるよ……父さん」


俺は外に出てから玄関を向くと聞こえもしない相手に向かって、そうつぶやいた。



バスに乗ってあの女性に自分の才能の詳細を聞くことなど

これからの行動すべきことを確かめていると、とんでもないことに気づいてしまった。


「げっ、今日のいつ会うとか決めてないじゃん!というかあの女性の名前も知らんし!」


考えてみたらこれはやばい。放課後しか会えないのなら今日の授業は受けないといけないのに

宿題どころか教科によっては教科書すら持ってきていない。


「あー、俺は馬鹿なんじゃないだろうか、いや馬鹿すぎる」

学校へ行くバスのなかでどうしようもない現状に頭を抱えるが、無慈悲にもバスは俺を学校まで運んでいく。



学校についてすぐ、普通は朝から用事のない図書館の連絡通路に向かった。

朝一の授業まではまだ30分は時間がある。せめて今日の予定とか聞いておきたい。


宿題はごめんなさいで逃げるしかない。教科書は借りる。

多分だが、もう数日もここにいない予定なんだ。いまさら評価とか気にする必要もないだろう。


そう思いながら荷物を持ったまま直接図書館へ向かい1階の連絡通路に着いた。

昨日夕方、彼女に出会った場所だ。また会えるならここしかないと思ったからだ。


朝から春の心地いい優しい風がそっと側を通り過ぎていく。

その風を受けながら少し心を落ち着かせ、俺は周囲をきょろきょろと見回す、が人一人いない。


「やっぱいないかー。だよなぁ。あの女性の名前さえ知らないし呼びようがないな」


一人連絡通路の中央でたたずみ、間抜けな自分を力なく笑う。

「放課後まで待たなきゃいけないとは、浮かれすぎてて想像力が足りてなかったな、俺も」


ここにいても意味がないとうなだれて、仕方なく教室へ戻ろうとしたときどこからか声が聞こえた。

「鋼、ちょっと待ちなさいって」


突然後ろからあの女性の声が聞こえた。慌てて振り返ると

「周囲に人が近づかない魔法を使うのにちょっと時間かかったの、ごめんごめん」

急に現れた驚きと安心感で思わずへたり込んでしまう。


そんな俺の行動を見て少し疑問を持った表情をしたが、その女性はすぐ笑顔を向ける。

「で、どうするかは決めてきたみたいね」

「はい。この世界を捨てて新しい人生を選ぶ覚悟ができました。俺を魔法使いにしてください。で、その、まずあなた…様の名前を聞きたいんですが」


申し訳なさそうに俺が尋ねた。

魔法使いにしてください、なんて言っておきながら名前すら知らないとか順番を色々と間違っている。


「あー、自己紹介まだだったわね、ごめんごめん。私はクエス・アイリーシア、超一流の魔法使いでこれからはあなたの師匠よ。よろしくね」

自信満々の表情で腰に手を当ててクエスは答えた。


超一流……

超一流なんて自分でいう人はあまり信用ができないのが一般的だが

少なくとも魔法が使えるのは間違いないので師匠として教えを乞うのは問題ないと思う。

思うというか、もう思うしかないというのが正しいんだけど。


「そうねぇ、まずは才能の詳細よね、昨日言った通りいいアイテムがあるのよ」

そう言ってクエスは1枚の紙を虚空から取り出した。


「これはどの属性がどれだけあなたに向いているかわかるものよ。紙の四隅に魔法陣があるでしょ、手前の二つの魔方陣を親指で抑えて目を閉じればいいわ」

「えっと、持ったまま親指で抑えて、ですよね」

「そうそう、途中たぶん気分が悪くなるけど親指離しちゃだめよ」


手渡された紙を見る。左寄りの真ん中辺りに大きな円があって四隅に五芒星の魔方陣。

紙の外周は文字か何かわからないものが二本の線に挟まれて書かれている。

右側には何やら四角に囲まれた空白スペースがある。


なんかコインと紙を使って霊を呼び出す小道具にも見えるが考えるだけ無駄だろう。


言われた通りに紙を持ったが何も反応がない。

「目を閉じてねー」


クエスが陽気な声で早くしろとせかす。

よし、チート来い!と思いつつ目を閉じると

体から急に力が抜けていく


「え、あ、ぁ」


思わず紙を手放そうとするも手放せない。目も開けられない。

やばい、やばい、そう思っているうちにまた俺は気絶した。



◆◇◆◇◆◇



さーて、エリスが推す才能とやらを見せてもらおうかね。

クエスにとっては半信半疑だったが、エリスが強く推薦するのでとりあえず信じることにしていた。


そしてやっとその才能を見ることが出来る。そう思いながら鋼に才能検出紙を渡す。これは特別製の検査紙だ。

一般名称は「精霊の啓示」とか仰々しい名前だが、そんな名称ほとんど使われていない。

彼女は今まで弟子を取る気が無かったので、こういった物には縁がなく名前さえ忘れてしまっている。


今回は特別な才能と聞いているのでとても貴重な検査紙を使うことにしたのだった。

通常の価値の10倍から20倍はする代物。

普通はトップクラスの貴族か、特殊な属性を受け継ぐ一族じゃないと使う意味すらない。


鋼がその紙を持ったまま、まじまじと紙を凝視している。

変な代物にでも見えているのだろうか。こっちではよくあるものの特別版ってだけなのに。


世界が違うと色々と物や常識が違って苦労する。まぁ、この子はもうこっち側の存在になるから大して気を使わなくていいけど。

とはいえ今心を読むのはさすがに良くない。才能を検査するのに余計な影響を与えてしまいかねないからだ。



ひょっとして目を閉じることを忘れているのだろうか?鋼がじっと紙を見つめ続けているので仕方なく声をかける。

「目を閉じてねー」


閉じたのを確認してクエスが検査を始めるための魔力を流す。

精霊の啓示が光だし、鋼の足元にうっすらと五芒星とそれを囲む二重の円が現れる。


検査開始を確認するとクエスは少し視線を逸らす。

一般的に結果が出るまでに30秒から1分くらいはかかるので、それまでは暇になる。


使用した本人はそのまま動けなくなるはずだからじっくり見る必要もない。

が、状況は想定していたものとは異なっていた。



1分ほど経った頃だった、変な声を鋼が発した。


「え、あ、ぁ」


やっと終わった?と思っていると鋼の体から力が抜けていき、ふらつきながら倒れ込もうとしている。

「え?これって倒れるものなんだっけ?」

そう言いながら慌てて彼の体を抱きよせ、ひとまず壁に寄り掛からせる。


「いきなり世話の焼ける子ね。これでまともな才能なかったらエリスには文句言ってやらなきゃ」

そういいつつ検査紙を見ると思わず一瞬固まった。



「えっ、これ嘘でしょ?」紙には円の中心から7本の線が外周に向かって伸びていた。

薄緑と水色が円の中心から外周まで広がりながら伸びていて

黄色はほぼ直線に外周までは届かない程度、濃い青はそれより短いが幅広く

桃色はやや広がり外周の半分まで、黒と白は半分に届かない程度で直線。


「うわっ、なにこれ、こんなの初めて見た。7色才能持ちとかありえないでしょ。エリスの影響もあるのかもしれないけど…これは思わぬ拾いものね」

最初は驚いたが鋼の才能に嬉しくなって、にやけ顔で結果を見つめる。


右の資格の部分にも目を通し

「これならスキル2個以上も納得」


ここはあまり見る意味はないかという態度ですぐに円の部分に視線を戻す。

「この結果、うーん、この紙自体がうちの家宝にしてもいいんじゃないかな~」


だんだんクエスは笑みを抑えられなくなっていた。

「起きたら説明しないと…でも、才能に溺れないようあらかじめ釘は刺しておかなければならないわね」

そういいながら初めての愛弟子となる鋼を見て気を引き締めた。



◆◇◆◇◆◇



「う、うー」

気を失っていた鋼が目を覚ます。


「おはよ、お目覚めかな?」

クエスの声を聴きまた気絶したのかと少し落ち込みながら起き上がろうとする。

が、体全体になぜかうまく力が入らずなかなか立ち上がれない。


「もう少しそのままでいいわよ、想定以上の才能があったみたいで生命力がちょっと消費されすぎたみたいだし」

想定以上の才能!キタコレ!!と思いガッツポーズでもしたくなったが、一瞬聞こえた生命力という言葉に嫌な予感がする。

何故かはわからないけど体全体のだるさがすごいのでガッツポーズなんてする余力もないのだが。


「えーっと、その、生命力ってどういう…」

「生命力は生命力よ、まぁちょっと多めに消費したけどこれから魔法使いになるんだし大した影響はないわ」


全く問題ないと言わんばかりの軽い発言に俺は戸惑ったままだった。

本当に大丈夫なのだろうか。



「さて、先に一言言っておくわ」

クエスの表情が真剣なものに変わる。


「あなたの才能は確かにすごい、だけど才能に溺れて練習を怠けていてはかなり強いどまりにしかなれないわ」


えーと、怠けてかなり強いどまりですか。

ちょっとやばいんじゃない、俺。心の中で再びわくわく感が溢れだす。

チートだわ、ハーレムだわとよろしくない妄想が止まることなく湧いて出てくる。


「でも猛特訓すれば向こうで上位10位に入れるはずの才能よ、たぶん・・私を超えることも不可能じゃないわ」

クエスの言葉を聞いてさらに興奮する。全体が何人かわからないが上位10とかすごすぎ。


スポーツ選手で言えば超一流に属すんじゃないだろうか、ってこのクエス師匠も自称超一流だったか。

そうわかれば努力のし甲斐がある。やるしかない。

この道を選んで、今までの人生を捨てて正解だったようだ。心にやる気が満ち溢れてくる。


「はい。才能ある人が努力してこそ超一流になれると思っています。この世界のスポーツでもそうでした」

やる気に満ち溢れた声を師匠に向かって返す。


「スポーツねぇ?まぁ、大体わかっているならいいわ。きっちり鍛えてあげる」

クエスがにやりと笑う。俺は少し意地悪そうな獲物を狙うような表情を、見てしまった気がした。



壁にもたれかかっている俺に師匠が手を伸ばしてくる

「さて、手を握って。ゲートがあるところまで飛ぶから。この後はもう後戻りはできないわ、今更だけどいいのね?」

「はい、よろしくお願いします」


迷わず握り返し頭を下げる。

それと同時に少しうれしく思う。きれいな人と手を繋げて。


クエスは鋼のことを見てちょっと真面目過ぎるかな?と少し困惑したがそれ以上は気にしないことにした。

今は連れて帰ることが一番大事なこと、それを念頭に置く。

そして二人はこの場からテレポーテーションで飛んだ。



この日、日本で行方不明者が1人増えた。

学校に登校してきたことはバスの同乗者が見ていたことから校内で行方不明になった可能性があるということで

数日後、学校内を含めた学校近隣の大規模捜索が警察によって行われたが見つかることはなかった。


だが1ヶ月もすれば学校内の空気も自然に日常へと戻る。

父子家庭の子が1人行方不明になったところで、日常という歯車は全く歪むことなく動いていく。


1人でも読んでくれる人がいるなら今年も頑張ります。


修正履歴

19/01/28 改行追加

     クエス=アイリーシア → クエス・アイリーシア

19/01/30 内容微修正

19/06/30 誤字修正・表現を変更

20/07/18 一部修正

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