コウが歩む道の始まり3
ここまでのあらすじ
クエスとボサツがコウを訪ねにオクタスタウンまでやってきた。
案内を任された傭兵は2人を先導しながら流星の願いの拠点に向かって歩く。
最初は驚きと信用度Bの傭兵とお近づきに慣れることで浮かれていたが、よくよく考えるとこの2人が流星の願いの味方とは限らない。
もし2人が襲撃者であれば…襲撃後町から簡単には脱出できないだろうが、案内した者は間違いなく責任を取らされる。
そう考えると体が震え始めた傭兵だが、いまさら断るわけにもいかない。
信用度Bランク、それだけを心の拠り所として傭兵は2人を案内した。
案内されて着いた建物は周囲が高い壁で覆われており、3階建てのコンクリート製のようなしっかりしたものだった。
壁と建物の数か所に監視用のカメラが付いており、中からいつでも状況をうかがえるようになっている。
「ずいぶんとまぁ、立派な建物じゃない」
「先ほど通り過ぎた傭兵ギルドよりこちらの方が守りは堅そうです。おそらくこの町一番の建物だと思われます」
実際このオクタスタウンにおいて、町長が住んでいる町の中央にあるお屋敷の次に立派な建物だ。
傭兵ギルドより立派という点では、この町中では浮いている建物と言っても過言じゃない。
都市規模になれば話は違うが、大量の魔物が襲ってきた場合は防衛が厳しい町クラスにおいて、豪華な建物を建てることはリスクが高い。
防御面がしっかりしていればいざという時の防衛拠点になりえるが、その場合は拠点に部外者を大量に入れることになる。
そもそもそれなりの防御力を誇ったとしても、町の施設が壊滅してしまえば、廃墟にぽつんと立つ立派な建物でしかなくなる。
以上の点から町にこれほどの拠点があること自体珍しいことなのだ。
「なかなかいい建物を選んだわね。町クラスでこうした拠点はそうそう見かけないわ。
金遣いに関しては変に慎重なコウが選んだとは思えないし…おそらくメイネアス辺りが決めたっぽいわね」
「コウがトラブルを起こしかねないという前提で考えれば、見事な対応だと言えます」
「そうね。傭兵団の拠点ってその規模で力を示すことが多いから、嫌がらせを受けないという点ではベストな選択よ」
クエストボサツが好意的に話しているのを見て、案内した傭兵は2人がコウとある程度親しい仲なのように見えた。
それならばこのまま抗争に巻き込まれるようなことはないと思いほっとする。
「さて、いきなり押し入るのはさすがにまずいだろうし…」
「そこの傭兵さん、あなたは流星の願いと親しい仲です?」
「い、いえ。私はあくまでこの場所を知っている程度で…」
「そうですか。ですが、私たちがいきなり尋ねて警戒されるよりはましでしょうか…」
親しい仲ではないとはいえ、自分たちのような部外者がいきなり尋ねるよりはましかと思い、ボサツは案内してくれた傭兵に中の人を呼んでもらうよう頼む。
その傭兵は揉め事に巻き込まれそうで渋い顔をしたが、クエスが銀貨10枚を渡すところっと態度を翻した。
すぐに外壁に設置してある呼び鈴のようなボタンを押し、その場でしばらく待つ。
すると中から金髪の青年が出てきた。
案内していた傭兵はちょっと驚いたようで、急にへりくだった態度でペコペコし始める。
どうやらそこそこ偉い人物のようだった。
「えっと、あちらの御二人が流星の願いに用があると言って、あっしが案内したまでで…」
その金髪の青年がクエスたちの方を見た。
クエスたちから見ればその男にそれほどの強さは感じない。
だが腰に下げている武器は、予想されるその男の実力から考えてずいぶんと質の良い一品だった。
「B-クラスの剣かな?おそらく特注品」
「コウの信任が厚い傭兵かもしれません」
2人がこそこそとその男を値踏みをしていると、彼が少し近づいて話しかけてきた。
「我ら流星の願いに用があると聞きました。今この拠点に幹部メンバーはいませんが、何か言伝があるのでしたら私エンデリンが承ります」
少しぎこちない感じだが、与えられた役目を頑張ろうと奮い立つエンデリン。
現在オクタスタウンにある拠点ではエンデリンが最高責任者になっている。
「私たちはコウに会いに来たのです。ここにはいないのです?」
「えっ、は、はい?」
流星の願いは今やオクタスタウンでもトップの傭兵団、そのリーダーに会いたいと直接尋ねてくる者などほとんどいない。
そんな環境で平然とコウのことを尋ねられれば、ちょっと気圧され気味になるのも無理はない。
だがクエスたちから見てエンデリンの態度は、一見さんには合わせられないといった感じにも見えた。
町で一番いい拠点に住んでいるリーダーともなれば、そう言った対応は当然考えられる。
もう少し正確な情報を得るべく、クエスが追加の情報を出す。
「私たち、以前からコウと知り合いなのよ。彼がここに居ると聞いて会いに来たんだけど…」
「えっ、そうでしたか。…少しお待ちください」
そう言ってエンデリンは建物の中へ戻っていった。
いないというのは断るための体のいい言葉だったかと思い待っていると、別の男が1人出てきた。
その男はクエスとボサツを見るなり突然頭を下げる。
「お初にお目にかかります。いちっ…クエス様、ボサツ様」
「ん?誰?」
「メルボンド様に指名され、従者としてコウ様の計画に協力しております」
「ってことはエクストリムにいた役人?」
「はい、その通りです。仕事は変わってしまいましたが、思ったより楽しい日々を送らせてもらっております」
役人と言えども所詮は貴族の小間使いのような存在なので、荒城都市であるエクストリムでの生活が豊かだったとは言えない。
とはいえこんな壁もない田舎の町で生活が楽しいというのはさすがに違和感がある。
「そんなに楽しいの?」
「えっ、えぇ、まぁ。予想だにしない行動で我々を振り回すので、大変ではありますが…」
「コウらしいです。で、ここに居ないということは例の村にいるのです?」
「そこまでご存知でしたか。はい、ここ2週間こちらにはずっと戻ってきておりません。ですが行動の予定は常に送られてきています。
今朝、盗賊の数を減らすために出発される予定でしたので、村に行ってもおそらくは…」
「どれくらいかかりそうなのです?」
「予定では早くて4日後に戻ると聞いております。なんせ盗賊の拠点まで片道1日ほどかかるらしく」
これでは村に向かってもしばらくはコウに会えないが、その分村でコウがやっていることの情報を集めることができる。
説得するにも状況を見守るにしても、まずコウが何の目的でこんなことをやろうとしているのか見極めなくてはいけない。
だが4日は…ちょっと時間がありすぎる。
ボサツの風の板を使えば、ここから村までは半日もかからない距離だ。
「そうね……今日1日ここに泊めてもらえないかしら?現状とか話を聞かせてもらえると助かるわ」
「は、はい。もちろん構いませんが、その…お客様用に良い部屋がなく…」
「別に一般傭兵用の部屋でいいわよ。こっちも野営用の簡易ベッド持ってるし、部屋さえあればねぇ」
「これでも一応戦場で寝泊まりしている身です。建物内というだけで、戦場よりは豪華に感じます」
「そ、それでしたらすぐに準備しますので、中へお入りください」
メルボンドの従者に案内され2人は中へ入っていった。
それを見ていた傭兵たちは彼らが友好的な関係であることを確信する。
この日オクタスタウンでは、流星の願いの裏に強力な支援者がいるという噂が駆け巡った。
今話も読んでいただきありがとうございます。
ちょっと仕事が忙しくて、内容が少なくなってしまい申し訳ありません。
誤字脱字等ありましたらご指摘いただけると助かります。
次話は10/9(土)更新とさせてください。
1日遅れとなりますが、何卒宜しくお願い致します。 では。




