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コウが歩む道の始まり1

これまでのあらすじ


戦場から戻ってきて数日後、クエスたちはようやくコウのいる中立地帯へ向けて出発した。

ルーデンリア光国でクエスたちが女王らと静かに睨み合っている頃、コウは自分が村長となった村に周囲の村から村人たちを集めていた。

説得の一番の材料は、流星の願いが常駐している村というステータスだ。


この時点で既に3つの盗賊団を潰したことで盗賊キラーとして一帯に名が広がっており、流星の旗を見るだけで盗賊たちは近づかないと村人たちの間でも噂になっていた。

そんな傭兵団が常駐している村となれば盗賊たちはほぼほぼやってこない……とまでは言及しなかったが、自分たちがいる村に来ないかとコウが誘えば、村人たちも思わず迷ってしまう。


そんな悩んでいる村人たちに対して効果的なのが「今、他の村からも次々と集まっている」という殺し文句だ。


他の者たちが行くなら…という消極的な賛同の一面もあるが、何といっても大きいのは、このまますれば近いうちにその村は大きくなり、町へと昇格するのではという期待感だ。

町へと昇格しおいしい立場が既存住人に取られてしまった後では移住するうまみも少ないが、町に昇格する前となればうまみは大きい。


もちろん自分たちがいる村が発展すれば一番おいしいのだが、それはどこの村でも思い描く妄想のようなものであり、あまり現実的ではない。

だが誘われた村は可能性も高く安全となれば、利権にしがみつきたい村の幹部ですら移住はありなのではと思ってしまうのだ。


この作戦によりコウたちは新たに2つの村を吸収合併。すでに人口は500人を超えていた。

この計画を立案したのはメルボンドを中心とした流星の願いの頭脳陣と既存の村人たちである。

コウの『出来るだけ早くこの村を大きくしたい』という希望に沿って考えられた作戦だ。


ではなぜコウはそんなことを言い出したのか?


コウとしては一旦村長を引き受けた以上、わずかな期間面倒を見るだけ見て、さっさと連合に帰るというつもりはなかった。

逆にある程度この村を大きくして自分なりの役目を果たしたうえで、後悔なく連合に帰りたいと考え始めていた。


そこで出された言い訳が、ここを都市化して防衛拠点の新設するめどが立つまで発展させるという案である。


防衛拠点となり得る都市を新設したとなればかなりの功績だ。

中立地帯とはいえ目と鼻の先が光の連合のエリア、いざとなればこの一帯は確実に光の連合の傘下に組み込まれる。


そこに都市を作ったとなれば防衛面で盾が1つで来たことになる。

追放された先でも光の連合に貢献したことになり、クエスたちにはもちろんアイリーシア家にも泥を塗らずに済むというわけだ。


だが女王やコウの師匠たちがやってきて戻って来いという可能性は高い。

その時被害を受けた200名ほどの村を見せて『ここを都市化して防衛拠点にするので、名誉回復のためにももう少し居させてください』なんて言ったところで、誰も頷いてはくれないだろう。


都市として認められ外壁が作られるには、最低でも2万人くらいの住民が必要となる。もちろん人数だけでなく経済力なども必要だ。

それを200人規模の村を目の前にしてやりますと言ったところで、相手にされるわけがない。目標があまりに遠すぎて現実的ではないからだ。


そのためコウは急いでこの村の規模を大きくしようとしていた。


まずは付近にいる盗賊の殲滅で名をあげ、流星の願いがいれば安心だという存在感を出す。

だが傘下を含めても50名ほどの規模でしかないコウたちが全員で盗賊のアジトに殴り込みをかければ、相応の被害が出てむしろ自分たちが弱体化してしまう。


そのため主力メンバーだけを率い盗賊をちまちま削りながら、残りのメンバーで村を整備しつつ周辺の村にいる村人たちを勧誘して回ったのだ。


最初の頃は反応の鈍かった村人たちだったが、削り続け(つい)には盗賊団を2つも壊滅させたことで流れが一気に変わった。


オクタスタウンではこの盗賊退治の名声に乗っかりたい傭兵たちが続々と流星の願いの傘下入りを希望し、傘下を含めたグループとしての規模は100人超という町一番の巨大集団となった。

そうなって来るとオクタスタウン周辺に集落をつくっている村人たちの反応も変わる。


今やコウはちょっとした英雄として知られるようになり、流星の願いはこの一帯で知らない者などいないと言われるまでに急成長した。


「住民もだいぶ増えてきたし、村の整備も今のところ順調か。とにかく今はできるだけ村の規模拡大を急ぎたい」


「お任せください。資金面は問題ありませんし、人材もかなり集まっていることから建築速度は予定以上です」


メイネアスの答えにコウも笑顔を見せる。


建築にあたって一番の問題となっているのが建材となる石や木材の調達だった。

森はこの村から多少離れており、コウが風の板で運搬しないとかなり厳しい状況。


市販の魔道具で作り出した風の板では重量制限により多量の木材を一気に運ぶことはできず、コウが盗賊団を削りに行くまでにそれなりの木材を準備しておかないと建築が止まってしまうほどだ。


石材に関してはもっと深刻だ。

この一帯は多少の起伏があるとはいえ草原で、手ごろなサイズの石材が手に入らない。

しっかりとした土台となる大きな石となると入手することは不可能に近い。


コンクリートのようなものも存在はするが、魔物のはびこるこんな田舎では十分な量を確保すること自体困難だった。


集まった傭兵団のメンバーの中に土属性の使い手は数名いたが、全員土は作り出せるものの石は作り出せない。

同じ土属性でも、鉱物系にまで才能のある傭兵がいなかったのだ。


そのためオクタスタウンにある石材所から購入して運搬しているが、これもまたコウがいないとなかなか厳しい。

そのため村長でありながら毎日運搬業務に専従し、どうにか余裕のあるラインにまで資材を確保したのである。


「そう言えばこの周辺に残ってる盗賊団はあと2つだね。両方片づけたら、この一帯からは一掃したことになるよ」


「マナ殿、両方の盗賊団はそれぞれ50名は超えている。我々の主戦力だけで一気に壊滅させるのは難しいかもしれん」


「ん~そう言うけど、何日かかけてでも早めに叩いておくべきだと思うよ。2つの盗賊団は離れているとはいえ合流されたら厄介だし」


「ナイガイ、盗賊団が複数合流することはあり得るのか?」


2つの盗賊団は合流すれば100名を超える。

数だけで言えば流星の願いの傘下を加えた数とほぼ同等なのでコウが心配するのも当然だ。


傘下と言っても他の傭兵団のメンバーは、この村に常駐しているわけではない。

一応この村にもそれぞれ拠点となる建物を作っているので全くいないわけではないが、全員を集めるとしたら最低でも1日は必要になる。


コウはできるだけ仲間を死なせないという方針で盗賊退治に当たっているので、互いに全力をぶつけあうような戦いだけは避けたかった。

避けたいと言っても向こうがやってくればそうそう避けられるものではない。

100名もの相手とぶつかれば確実に犠牲が出てしまうので、早急に対策を打つべきだと考える。


「基本的に盗賊同士はライバル関係。コウ様の言うようなことは通常考えられない。ですが、盗賊団と傭兵団が正面切ってやりあわないこともまた不文律。

 これが破壊されている現状では、彼らが形式上協力し合う可能性はあるだろう」


「そうか…うまく連携を取れるとは思えないが、雑に突撃されればこちらの被害も大きいな…やはりさっさと叩くしかないか。

 どちらにせよこちらが先手を打っておくべきだな。3日後には討伐に向かう準備をしていてくれ。傘下の傭兵団から選りすぐりの人選で最低20名は欲しい」


「おっけー。私も声掛けしとくねー」


「はい。私も声をかけておきます」


マナとシーラが答える中、ナイガイも黙ってうなずいた。


「あとは…うちのメンツだな。えっと、エンデリンは…今週ずっとオクタスタウンだったか?」


「えぇ、彼はしばらくお留守番になっています。任せられる人が他にいなかったですから…」


ちょっと言いにくそうに答えるシーラ。

戦闘、内政、どちらにも深くは関わらない人物となると流星の願いにはあまりおらず、主にエンデリンがオクタスタウンの拠点待機の任についていた。


彼自身は戦闘で活躍したいと訴えているが、コウから見ると実力が今一つなのは否めない。


「盗賊団を削るのは、前回同様20名程の主力だけを動かしてやるとするか。その代わり村の守りは数が必要となるので

 いくつかの傭兵団にはしばらく村に人員を置いてもらえるようお願いしておいてくれ。本当は民への誓いに協力依頼できれば楽なんだけどなぁ」


「あれは無理だよー。最近はこっちを目の敵にしてるもん」


「目の敵って程ではないと思いますけど…あまりこちらと関わらないようにしているのは確かです」


コウのやり方を快く思っていないボルトネックは、コウの『仲間の命が最優先』というやり方に対して不満があり

流星の願いが指揮する村の防衛が手薄になる状況においても、協力に関しては出し渋っている。


特に流星の願いは傘下の傭兵たちが増えたことで『第一優先は自分の命、第二優先は仲間の命、第三優先が仕事の達成』という基本ルールを守らせており

ボルトネック率いる民への誓いの幹部たちが、これにある程度賛同する者と猛反発するもので二分してしまい、できるだけ流星の願いにかかわらないように動いていた。


彼らもコウのやり方が理解できないわけではない。

盗賊に対抗する方法として強者が数名いれば追い返すことはできるが、村を守ることはできない。

村という広範囲を守るためには、どうしてもある程度の数が必要になってくる。


特に奇襲をかけられた時には、四方八方から攻めてくる盗賊に対して数が必要となり、常駐している傭兵の数がものをいう。

とはいえ村に常駐したところで傭兵たちは食っていけないので、傭兵たちを半分村に常駐させるとしても必要数の倍の数が指揮下にいないと難しい。


このことから傭兵の数はかなり必要なり、今まで村人を守ろうとしていた民への誓いがまとめる村民団ですら

村の財産の一部に手を出すことを見逃す代わりに、村人の命に手を出せば許さんぞという形でしか村を守ることができなかった。


だが流星の願いはそんな暗黙の了解など知るかと言わんばかりに盗賊団を叩き潰して回り

後手後手に回った盗賊団はなす術もなく狩られていったのである。


だからと言って盗賊団との戦闘は簡単なものではない。ある面では魔物討伐よりも厄介だ。

戦闘から逃げ延びた盗賊たちは誰からやられたと他の盗賊に情報を伝え、彼らに目をつけられれば魔物狩りの途中に不意打ちで命を狙われかねない。


だがそんな盗賊たちも、流星の願いとその支配地域である村に対しては手をこまねいており、このまま盗賊たちは動かないのでは?という観測がオクタスタウンで広がり始めている。

現にコウたちが盗賊団を潰し盗賊たちの支配から解放された村々では、別の盗賊団が手を出していないのだ。


これは同様のケースで手を出した盗賊団を流星の願いが叩き潰しに行ったことが大きい。

盗賊側もそのことを知っているので大きな態度を取れないのである。


この状況をメルボンドが利用すべきだと進言し「盗賊から狙われない」「傘下の傭兵たちの命も大切にする」「傘下に入ると固定の収入が得られる」

という安全・安心・固定収入の3本柱を売りにしたことで、オクタスタウン内で一番の巨大組織へと成長したのだ。


とはいえ流星の願いに入団できた者はほとんどいない。

コウが入団希望者の雰囲気を見て次から次へとはじいたことが原因だったりする…。


「よし、盗賊に関しては問題なさそうだし…メルボンド、村の開発は順調か?」


「はい。コウ様の指示通り完全に1から区画整理、主要道路と建物の設置を始めています。

 村人たちはかなり戸惑っていましたが、今のところ反対する者はおりません」


この村は、前回盗賊団が襲ってきた際に半分ほどの建物が壊滅した。

その状況を利用して、コウは村の位置を元の場所から少し移動させ、1から村全体の配置を決めたのである。


ちなみに以前被害に遭わなかった村の建物は、現在新規の移住者たちの仮住まいとして再利用している。

新しく作っている村からは少し離れているが、目視による確認は可能なので魔物の被害なども今のところ起きていない。


区画整理に関しては、連合で都市長をやっていたエクストリムでも道路整備を1からやることで物流などの効率化を進めたが

一部使える建物が残っていた区画では思ったほどの整備ができなかったこともあった。


だが今回は盗賊に襲われたことを理由にし、効率的で安全な街づくりをするためにも、近くにあった小高い丘を巻き込む形で都市設計を行った。

このコウの案に関心を示しメルボンドが手を加えた形で、巨大な町サイズに成長することを前提に村の区画整理が行われている。


一般の村は町や都市のようなある程度整理された形で建物が立っていることはほとんどない。

各々がここが自分の土地だと主張して勝手に家や畑を作るからそうなっている。


だがコウはここに都市を作ることを目標にしているので、途中で無駄なコストや手間が発生しないよう、将来大きくなることを見越して道路などの配置を決めた。


これはコウがゲームで都市育成シミュレーションをやっていた時の知識から来たものだったが、普段平民街になど興味を示さない貴族たちとは違い

面白い視点で村を作ろうとするコウの姿勢にメルボンドが乗っかったと言える。


もちろんあまりに風通しの良い道を敷いてしまうと、戦時敵に攻め込まれた場合に敵の侵攻を容易にしかねないが

この世界では都市の外壁が破壊され大量の敵兵がなだれ込んだ時点で都市側はほぼ陥落したと言っていいため、こういった形でも問題ないとメルボンドは判断した。


「不満なんて出るはずないって。師匠は村長で村の全権があるから当然だよー」


嬉しそうに語るマナを見てコウも思わず笑みがこぼれる。

流されてしぶしぶやることになった村長という役目だが、しばらく経つにつれ、コウも今度こそは結果を残したいと思うようになっていた。


「メイネアス、傘下の傭兵団はあと少しくらいは増やしても問題ないよな?」


「資金面でしたら問題ありません。ですが、質の悪い連中だけは増やさないでください。評判が落ち全体の空気も悪くなりますので」


「わかってるよ。あとはちゃんとした産業と…その製品などの売却先の問題だなぁ」


「それより師匠、盗賊退治の前に戦闘訓練しとこうよ~」


「ん、そうだな。ナイガイ、お前も強制参加だからな」


「はい。お手柔らかに…お願いできれば」


訓練に参加するのは拒否しないものの、あまり乗り気ではないナイガイ。

それを見てコウが笑うとマナとシーラも軽く笑った。


連合から連れ戻そうとする使者が来る前に何とか形を作っておく、コウを始めここにいる全員がその目標に向かってまい進していた。


今話も読んでいただきありがとうございます。


この一連も小話の連番とする予定でしたが、考えた結果小話のタイトルを変えることにしました。


誤字脱字等ありましたらご指摘いただけると助かります。

いつもご指摘いただきありがとうございます。

ブクマや感想などいつでも大歓迎です。


次話は10/2(土)に更新を予定していますが、ワクチン接種の影響で伸びるかもしれません。

その場合は活動報告にてお知らせします。  では。

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