それぞれの思惑7
ここまでのあらすじ
コウの才能を知った女王とボルティスは今すぐコウを連れ戻すよう動こうとするが、クエスとボサツはそれに反対する。
ひとまずコウに対する対策を練ることになり、この後開かれる祝勝会にクエスたちも参加することとなった。
パーティーが始まるまでの1時間程、クエスとボサツはボルティスやバカスと今後の話をしていた。
ボルティスはかなり強行してでもコウを連れ戻すよう主張していたが、クエスやボサツがそれに対して頑なに反対する。
師である2人から見てコウは非常に従順な人物だった。
そんな相手に強引な手を使うというのはまさに最終手段。その場では上手く行ったとしても、お互いの強固な関係にひびを入れかねない。
何より彼は追いつめられると思わぬ方向に走り出す悪い癖がある。
空気を圧縮すると突破できる一点を破壊してまで外に出るような感じで、予想がつけば対処も出来るが予想を外すと最悪の事態にもなりかねない。
これ以上コウの悪い部分を利用されないよう敢えて言葉にはしなかったが、連れ戻したいはずなのにつれ戻すことに反対する2人にボルティスもいい案が出せなかった。
「んじゃどうするんだ?ほったらかしていい程の安い人材じゃねーんだろ?」
「コウをこれ以上追いつめないためにも、まずはコウの希望を聞くのがいいと思います」
「それで戻りたいって言えば解決だな。辺境にいるよりは貴族生活の方が楽しいだろ」
「そんな単純な性格だったら、私たちもこんなに悩まないわよ。そもそもコウは1億ルピ程の自由に使える金があるはず。貴族でも個人が持つには超大金よ。
貴族生活がしたいなら、その金を持って中立地帯の都市で豪遊してるでしょ?その大金使って村を発展させたいとか普通考えないわよ…はぁ、全く何なのよあの子」
クエスが頭を抱えると、そのボヤキを聞いたボサツも顔をしかめ考え込む。
良く知っている2人がここまで悩むということは、それだけコウが扱いづらい人物だと言うのが嫌でもわかる。
2人が女王に噛みついた件もここまで聞けば納得がいき、その分対応の難しさに苛立ちが募る。
「ならばやむを得ぬ。コウの希望を聞いてから考えるしかないようだ。説得には私も同行しよう」
「ちょっと、いくらギラフェット家の影響が強い地域だからって、当主のボルティスが中立地帯に入っちゃまずくない?」
「あー、確かにそれはまじぃな。下手すると休戦協定すらひっくり返っちまうぞ」
「それを言ったらクエスもだろう。仮にも光の守護者、2人も発覚すれば問題になる」
中立地帯はあくまで中立を保たれててこそ防波堤となる。
いくら陰で支援しており繋がっているのが公然の事実とはいえ、光の連合の当主クラスが訪ねたとなれば中立性が担保されてないとみなされかねない。
もちろんそれは光の守護者たるクエスやボサツが訪ねた場合も同じだ。
だが2人にはちゃんとした対策があった。
「大丈夫よ、そこはちゃんと考えているわ」
「はい。女王様が引き起こした一件ですので、それなりの応報は受けてもらいます」
「おいおい。何するのか知らねーが、派手なことに俺を巻きこむなよ?」
バカスは興味がないのか関わりたいくないのかボサツの言葉をスルーしたが、ボルティスは見当がついたようで慌てて止めようとする。
「ちょっと待て。さすがにそれは…まさか、パーティーの席ではないだろうな?」
「皆私がどれだけ怒っているかを理解していないようですし、これくらいしないと気がおさまらないのです」
ボサツの怒った表情はポーズではなく本気に見えた。
同じ融和派とは言え他の一門であり光の守護者でもあるボサツをボルティスが力ずくで止めるわけにもいかない。
「じゃ、そろそろ始まるし…会場に行こうかな」
ボサツの表情を見つつクエスもニヤリと笑う。
ボルティスはまずいと思いクエスだけでも止めようとするが、その行動をバカスに阻止された。
「やめとけやめとけ。気楽に話すもんだからある程度飲み込んでたのかと思ってたが、ありゃダメだ。巻き込まれるだけだぜ」
「だが、あれでは女王の顔に泥を塗り大問題になりかねん」
「謁見の間で武器まで抜いてるんだ。思った以上に腹に据えかねていたんだろうよ。一発ぶちかましてすっきりさせた方が今後のためだ。関わらんに限る」
「んー……だがな…」
女王と光の守護者に亀裂が入ったままだと今後様々な悪影響が起きかねない。
それだけ頭にきているのであればここで発散させるバカスの案も悪くはなかった。
仕方がないのでボルティスは女王のフォローに回ろうと考える。
そうして祝勝パーティーが始まった。
パーティーは立食形式で、出席者は自由に飲み食いができる。
普段は貴族の侍女や近侍をやっている者たちがホールスタッフとして酒を運んでおり、まさに選ばれた者たちだけが堪能できる最高の空間となっていた。
しばらく談笑していると、華やかな音楽と共にルーデンリア光国の女王が入場する。
こういった場ではお互いかしこまる必要はないので、女王は軽く手を振り、出席者はそれを拍手で迎えた。
女王の前には光の守護者である一光、二光、三光の3名が女王を先導するように歩く。
大きな功績を立てこの休戦へと持ち込むきっかけを作った(ということになっている)光の守護者を先導させるその姿は、まさしく光の連合の盟主国女王としてふさわしいものだった。
部屋の中央に設置された少しだけ高い壇上に立つと、女王は出席者を見渡しながら話し始める。
「この祝勝会に参加していただき、心より感謝します。ここにいる皆のおかげで、我々光の連合は境界線を押し込む形で休戦することとなりました。
あくまで一時的な休戦ですが、今はこの勝利を活躍した者たちと共に祝いたい」
女王の言葉に出席者の全員が食事の手を止めグラスを置き耳を傾ける。
多少長話になるが、こういった場ではお約束のようなもの。全員が女王の言葉に勝利を実感する。
参加者はこの戦でそれなりの功績を立てた者、当主、それに当主の付き添いくらい。
この祝勝会は半無礼講の場であり、地位の低い者にとってはお偉い様に自分をアピールできる絶好のチャンスである。
この場に揃った当主ではない一般の貴族たちは、普段会うことなど出来ない面々に緊張しつつも場の雰囲気に合わせて女王を見る。
しばらくして、ようやく勝利を祝う長い言葉も終わり女王がグラスを掲げる。
「この戦を勝利へと導いたここにいる多くの者たちと、光の精霊の加護に大いなる感謝を」
「光の精霊の加護に大いなる感謝を」
女王の言葉に続き、参加者の全員がグラスを掲げ今回の勝利を光の精霊への感謝で締めた。
そして再び自由な時間。
食事や酒に舌鼓を打つ者もいれば、必死にアピールしようと他の出席者に対して顔見せで回る者もいる。
特に今回大きな活躍を見せたクエスとボサツの周りには10名程の貴族たちが集まっていた。
「一光様、この度の活躍おめでとうございます。次の戦場では、ぜひお供させていただければと思っております」
「三光様、素晴らしい活躍を聞いております。次に戦力が必要とならば、このガフェインをぜひお使いください」
2人も先ほどの女王との緊迫したやり取りなどまったく尾を引いてないかのように、にこやかな笑顔で受け止めつつ使えるなと思った人物を記憶していく。
光の守護者は戦場で指揮を執る側の立場、使える人物はぜひ覚えておきたい。
逆に貴族たちにとっても光の守護者に覚えられるということは、それだけで実力があると連合中に示せることになるし、より功績を立てるチャンスにもつながる。
これは互いに利のあるやり取りなのだ。
2人ほどではないが、二光であるグンの周りにも3人ほど人が集まっている。
開戦初期に都市の防衛責任者でありながら闇の国に都市を奪われてしまったが、彼もその後の反転攻勢では陣頭指揮を執りしっかりと活躍していた。
コネでなった守護者などという噂もあるが、今回の活躍でそれを何とか黙らせることができ面目躍如といったところである。
いつものように盛り上がる場を見て、女王は安心して他の当主たちと会話を交わしていた。
時計の針が進み、自慢話や功績アピールも終わって一通り落ち着いたころ、ボルティスが女王のそばに来る。
「女王、少しいいだろうか」
「あら、ボルティス。先ほどは助かったわ。で、何か用かしら?」
女王インシーが答えると、ボルティスはすかさず魔道具を使い、周囲に声があまり伝わらないようにする。
それを見たバカスが気を利かせて他の当主たちに声をかけ自然に2人から遠ざけた。
これならば安心だろうと思い、ボルティスは話し始める。
「女王、クエスとボサツが何かやらかす気だ。おそらく先ほどの一件だけでは腹の虫がおさまっていないように思われる」
「2人が?そんな風には見えなかったわよ?」
「パーティー前にはそうした話がちらっと出ていた。特にボサツの方が乗り気だったようだ。
バカスは多少のうっぷん晴らしをさせるべきだと言っていたが…一応報告だけはしておこうと思ったのだ」
それを聞いてちらっと2人の方を見ると女王は考え込む。
クエスが怒ることはあらかじめ予想していたが、ボサツの怒りは完全に予想外。
何が原因なのかがいまいちピンと来ていなかった。
そんな女王の様子を見てボルティスが話を続ける。
「おそらくだが、ボサツはこちらの考えている以上にコウのことを溺愛しているのだと思われる」
「……どうして?いつもはそんな素振りなど見せていなかったわ。コウのことを隠そうと行動していたのはむしろクエスの方だったはずよ?」
「私もそう思っていた。というよりボサツの場合は隠すのではなく、コウ自身を大切な存在だと思っているのかもしれん」
その言葉を聞いて女王の眉間にしわが寄った。
「彼女は50年ほどの間、異性をそのように見たことなどないと聞いているわ。むしろ彼女は研究の虫。
魔法の研究に始まり、呪いの研究や魔道具の開発、近年は自国の農産物の研究を手伝い始めたと聞いているくらい。
私がコウと少し対面してた感想で言えば、誠実さはありそうだけどどこにでもいる普通の人物。彼女が引き込まれるほどの存在には見えなかったわよ」
「それに関しては同意する。だが、注目すべき点はそこではないと思われる。
コウの才能表を見たときに少し似てるなと思ったのだ。師であるボサツに」
「確かにあの才能表を見れば、複数の属性を使えるスキルは間違いなく持っているでしょうし、ボサツが興味を示すのは理解できるわよ。
だけどあまり怒らない彼女の怒りに火をつけるほどの存在になるなんて、とても…」
使える属性の種類から言えば、2人は光・風・水が共通点となっており、ボサツが師としてコウを指導することは適切だと言える。
だがボサツが過去の弟子にそこまで肩入れしたという話は聞いたことがない。
必要とされたから教えたといった形式的なものが多く、怒りを示すほど愛着を持った弟子など今まで聞いたことがなかった。
一定以上育てば役目は終わったとさっさと放り出したという話の方が多く、最近は弟子を持つこと自体煩わしく感じていたのか、希望者をすべて断っていたくらいだ。
実際、直近に素晴らしい才能を持った精霊の御子がいたのだが、話を聞く様子もなくけんもほろろに断れたと女王に相談が来たほどである。
「だが実際にボサツはコウに対してかなりの愛着、もしくは執着を持っている。ここからは私の予想でしかないが、おそらく彼女はコウを後継者のように見ているのだと思われる」
「後継者?まぁ、属性はかなりかぶってるし理解できなくはないけど…」
「あくまで噂程度の話だが、以前の彼女は戦闘で貢献するよりも、新しい魔法の開発で連合に貢献することに重きを置いていたらしい」
「確かにそのとおりよ。実際二光ではなく三光の地位にいるのも、自由な時間が少しでも欲しいという彼女の希望でそうしているわ」
「なるほどな。であれば、予想が正しいかもしれん。彼女は昔、多くの魔法を作り出し連合に貢献しようとしたが、彼女が作り出した魔法の多くが複属性使い用の魔法だったり
高LVの魔法ばかりでその価値を認められなかったと聞いている。複属性の使い手など下の方を入れても50もいないからな仕方のないことだがな」
「…つまりボサツにとってコウは長年の研究に価値をつけてくれる人物ってこと?それなら、あの怒りようも理解できるわ…まいったわね…」
なんとなく事情が呑み込めたのか、女王は暗い表情でため息をつく。
その時、少し離れた位置からボサツが厳しい目つきで女王とボルティスを見ていたことに気づく。
女王はすぐにジェスチャーで離れるようボルティスに伝えると、彼は状況を察して他の当主たちのところへと向かった。
ボサツの怒りがおさまっていないことは、先ほどの表情で十分に理解できる。
だがこの時の女王はパーティーの最後に行う特別報酬の授与式のこともあり、2人が何をやるのか予想するだけの余裕もなかった。
今話も読んでいただきありがとうございます。
えーっと。
更新日が昨日だとすっかり忘れておりました。
私事が忙しいと…どうもダメですね。申し訳ありません。
誤字脱字等ありましたらご指摘いただけると助かります。
感想やブクマ等々頂けるとうれしいです。
次話は今話が1日遅れたので、9/26(日)更新します。
では。




