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乱戦13

ここまでのあらすじ


戻ってきたブーバンスに休戦を求められたミョウコクは、すぐに闇の国の首都へと飛んだ。

首都へと戻ったミョウコクは皇帝陛下へ状況を伝えるために、文官数名に急ぎ状況を伝えたいことがあると連絡を頼んだ。

あれらが光の軍に占領されたブラックフェーブルを破壊して戻ってくるまでにどれくらいの時間がかかるのか想像しにくいが、あまり悠長に構えている時間はないことくらいはわかっている。


すぐに話ができることが分かり、ミョウコクは各部隊長が揃って会議をするための部屋へと急いで向かった。

いわゆる軍人用の会議室のような場所で、ここでならば声だけの通信で皇帝陛下と言葉を交わすことができる。


皇帝陛下に直接会って話すことも立場上不可能ではないミョウコクだが、皇居の近くには転移門が設置されていないため移動には時間がかかる。

それに皇帝の周囲にいる強硬派にこのことを勘づかれる前に、直接自分が皇帝の考えを少しでも変えておきたかった。


薄暗い部屋に入り各部隊長が座る椅子が並んでいる中、自分の席についてフルフェイスの兜を外し目を閉じる。

先ほどまでの出来事がはっきりと頭の中に浮かぶ。


色々とあったが光の連合は撤退し、都市の一部は破壊されたが奪われてはいない。

修復するだけの時間は稼げるだろうし、都市を防衛するという結果だけ見れば上々とだった。


だがそれ以外の部分でいえば完敗と言っても過言じゃない。

長きに渡り開発していたあの再生壁はあっさりと破壊された。


改良点がわかったと言えなくもないが、ここから短期間で大幅に耐久度を上げることは難しいだろう。

耐久値の目処がついたとなれば、次から敵も効率よく破壊してくると容易に想像がついた。大した足止めには使えないと言っていい。


さらに戦闘シミュレーションで既にわかっていたことだが、光の守護者、特にクエスに対して全く歯が立たないことも証明されてしまった。

エンデバーは自信を喪失していなければいいが……そう考えたが、彼女が戦闘の記憶を消したと発言していたことを思い出す。

…トラウマになる要因が消えたのであれば、それはそれでありかもしれないとミョウコクは思った。


課題は山ほどありどれも容易に解決できるものではないが、どちらにしてもかなりの時間が必要。

この休戦が上手く成立すればその間に解決できる可能性もあるが、そうでなければ厳しい戦いとなる。

その場合どうするべきなのか…。


そんなことを考えていると、この薄暗い部屋に突然声が響く。


「ミョウコクよ、今前線では厳しい状況が続いていると聞くが、何故こちらへ戻ってきた」


「はっ、今後を左右しかねないことが起こりました故、自らこちらまで足を運んだ次第でございます」


突然話しかけられたにもかかわらず、ミョウコクはすぐに頭の中を切り替えて答える。

今の自分の一挙一動が皇帝の心証を左右する。ぶれるわけにはいかない大事な役目だとミョウコクは自分に言い聞かせていた。


「ならば皇居まで来ればよかろう。……いや、そうできない事情があるのか」


「さすがは聡明な皇帝陛下。実は、魔物の国が戦場に信じられない力量を持った部隊を送り込みまして、光の者たちと共に戦ったにもかかわらず追い返せず

 都市に被害が出たばかりでなく休戦を結べと要求しております」


「休戦を……魔物がか?」


いくら信頼できるミョウコクの報告とは言え、魔物が休戦を要求するなどさすがに信じられない。

魔物が言葉を話すはずなどなく、それらと意思疎通ができると思っている者など闇の国広しといえど見つからないだろう。


それくらいミョウコクも承知しているので、黒いモニターを出し自分の見てきた光景を映す。


暴れる業火の巨人とそこから出てきたブーバンスという言葉を話す存在、そして休戦を要求するところまでを見せ終えた。

皇帝は迷っているのか何も言いださない。


だが、休戦しなければあの都市が攻撃されるのは明白だ。

特に光の連合が休戦を受け入れこちらが休戦を拒否した場合、一方的に魔物の国を敵に回すことになる。


「僭越ながら申し上げます。先日主力ではなかったとはいえ、我々は魔物の国へ攻め込み返り討ちに合っております。

 ここで連合が休戦に同意しこちらが同意しなければ、魔物の国は我が国への圧力を強めると思われます。これは、光の連合を利することにしかなりません」


ミョウコクの進言にも答えがない。

相当迷っているのかと思い、彼はさらに言葉を続ける。


「今回の戦いにおいて、敵の光の守護者に我々部隊長クラスが挑んでも、個々では抑えることすら出来ないと判明しました。

 これを機に我々も部隊長クラスを鍛える機会が必要かと思います。考えようによっては、休戦も良いタイミングと言えなくもありません」


「……それは理解した。だがこれは元々光の連合を奥地まで誘い込み、一気に数の力で蹂躙する作戦だったはずだ。

 ここで休戦となれば強硬派は黙ってはいないだろう。余もどこまで説得できるかはわからんぞ」


多少予定外の被害は出ているが、闇の軍は反転攻勢の準備を整えつつ予定通り負けることで光の連合を奥地まで入れ込んできた。

ここで休戦とするのは確かに悪手といえる。


強硬派にしてみれば、散々犠牲を払って整えてきた盤面をあと一歩のところで手放してリセットするのと同等の行為。

受け入れられないという主張が出て来て当然だろう。


その点を考えなおしている最中に、ミョウコクの頭の中にある考えが浮かんだ。

もし魔物の国がそのことを知っていたうえで今回の提案をしてきたとしたら……闇の国の方が危機的状況なのではないか、と。


彼らは歴史上何度も強者を叩きバランスをとってきた。

なにが目的なのかはさっぱりわからないが、状況によっては彼らが両軍に対して戦いを仕掛けてきたこともある。

やるとなればとことんやって来るのが魔物の国だ。


もし今回の本当のターゲットは光の連合ではなくこちら側、闇の国だとしたら…光の連合がさほど弱まっておらず、主力の光の守護者も健在な状況で

こちらが2正面作戦を強いられれば、数の優位性などあっという間になくなってしまう。


首都に用意している反撃用の兵士たちの質は決して高くない。

数で包囲し優位性を取る作戦など、数を擁する魔物の国を同時に相手した時点で瓦解してしまう。


「陛下、魔物の国の数は尋常じゃないと聞きます。相手にすればこちらの数を有効に使うことも出来なくなりかねません」


「……数日以内に結論を出そう。この度の報告と判断、見事だった」


「はっ、ありがたきお言葉。この身は、陛下のために」


ミョウコクは右腕を軽く握りしめ、左手で右手の手首を握る。

最大の敬意と忠誠を誓う仕草だ。



これで話は終わるだろうと思って少し気を抜くと、突然皇帝の言葉が聞こえた。


「ミョウコクよ。あのクエスという者に対してなぜ情報を与えたのだ?」


その言葉にミョウコクははっとし緊張した。

先ほど一連の記憶の映像を見せた際、クエスとの取引場面の最後辺りから始まっており、都市にしかけた罠のことを教えた場面が映っていたのだ。


だが彼は取り乱すことなく落ち着いて答える。


「あれはエンデバーを助けるために必要なことだと判断し、情報を渡したのです」


「反撃の狼煙と共に、光の者たちをより押し込むための大事な作戦だったと聞いていたが」


「はっ。その通りでございます。ですが、あの場で私が光の守護者に借りを作れば、国の中で混乱が起きかねないと判断しました。

 だからと言ってエンデバーは見捨てるには惜しい存在。10年足らずでここまで登ってきた優秀な人材。これを機に成長すれば、きっと私の後継となりうる男だと思っております。

 そのような優れた者のためであれば、たとえ罰せられようとも悔いはありません」


「ふーむ……」


皇帝の言葉に迷いが見られる。理解できなくはない、といった感じだろうか。

ならばと思いミョウコクはさらに言葉をつづけた。


「私は…友人たちを犠牲にすることで、終にはこの国に貢献できる存在にまでなれました。彼らもまた、この闇の国の将来を考えて自らを犠牲にしたのだと思います。

 私も…彼らから受けたその恩を、次の世代の者たちへと返すべきだと考えておりました。エンデバーは、それに値する人材だと…」


「…よい。その思いは理解した」


皇帝はミョウコクの言葉を軽く遮りつつも、その思いを受け止めた。

闇の国に対する強い忠義が元であれば、なかなか強く罰するわけにもいかない。


しかも彼は今では『闇の国の矛』と呼ばれるほどの最高の魔法使い。

謹慎させるよりも良い使い方などいくらでもあった。


「ミョウコクよ、その行為は理解できるが何も罰さないわけにはいかぬ。もし休戦となった場合は、第1部隊の隊長の任を解き、他の者たちへの指導の役目を与える

 その思い、存分に発揮せよ」


「はっ、陛下の御心のままに」


そう告げると、ミョウコクのいた会議室は再び静寂に包まれた。

先ほどの皇帝の言葉は、罰というよりも彼の希望を聞き入れた形に近い。


その裁定に深く感謝しつつミョウコクはこの会議室を出る。

彼は休戦を何としてでも成り立たせるため、首都にいる文官や指揮官たちの元を訪ねることにした。




翌日、闇の国の上層部が急遽召集され御前会議が開かれた。


出席したのは軍関係から第1、第2、第4部隊の隊長、そして内政官からは財務、国土、人心をそれぞれ管理する長(総長)の計6名だ。

普段であれば、第3部隊隊長のエンデバーが召集されるのだが、今回彼はカプセル内で治療中のため繰り下がって第4部隊隊長のファニータが出席している。


内政派からは財務院の総長パレルモ。非常に好戦的なタイプで強硬派だ。

国土院の総長はメッシーナ。国土院は代々強硬派で、より多くの土地を闇の傘下に収めることを望んでいる。

人心院の総長はカターニャ。どちらかというと穏健派だが、光の連合の最初の反撃で多くの兵士や逃げ遅れた住民が殺されたことに激怒しており

現在は強硬派よりもたちの悪い存在となっている。


そんな集まった6名の前に、魔物の国から休戦するよう要請があったことが提示された。

当然強硬派の者たちはその要請を見て噛みついた。


「魔物の国だ?言葉も話せないやつらからどんな要請が来たというのだ。予算はがっちりと確保してあるぞ。

 このまま作戦を続け光の奴等を叩き潰すべきじゃ!」


「パレルモの言葉に同意するよ。奴らは私たちの都市を奪い破壊した。ここで休戦してしまえば、こちらはただ領土を失っただけになってしまう」


「人心院としては失った命の事を考えると、引くべきではないと考えています」


内政派は揃いも揃ってこのまま戦を進めるべきという考えを示す。

だが、実際に戦闘に参加している軍の各隊長はそれに猛然と反対した。


「魔物の国の部隊を見ただろう。このまま強硬に進めれば我々は2つの部隊を相手せねばならなくなる」


「ミョウコクの言う通りだ。このまま突き進めばじり貧。数がなくなっちまったら闇の良いところなんてなくなっちまうじゃん」


「実際魔物の国はかなり手ごわい。数だけでは押し切れない上に魔物の数が半端じゃないわ。

 ここまで作戦を進めて退きたくないでしょうが、むしろこれを好機ととらえ、一旦態勢を整えるべきです」


軍側にはこのまま作戦を進めれば、反転攻勢で最初の内は勝ち進められるだろうが、実力と練度の差から言って必ず押し返されると肌で感じていた。

数を揃えることにのみ注力し過ぎたこともあり、各隊長が自分たちの隊自体もまとまっていないと感じている有様である。


だが軍からの要求数値を満たしたことで戦争を主張していた内政派は強硬姿勢を緩めなかった。

個人の主張が強く仲間割ればかり起こす醜い光の連中を倒すのだと、国一丸となって闇の精霊に誓った上でのこの開戦。

立ち止まることさえ許せないと言わんばかりの姿勢だ。


議論が紛糾する中、ある程度時が進み、話が止まったタイミングでミョウコクが訴えかける。


「隊長から兵士に至るまで、残念なことに練度が足りていない。これは我々側の失態であり内政派の皆様方には申し訳ないばかりだ。

 それでも戦えというのであれば突撃もしよう。だが、せめて、兵士たちにはある程度満足のいく形での死に際を与えたいのが…隊長である我々の思いだ」


「光の者達への開戦機運が高まり、私はしぶしぶ了承しました。それなのに、なぜ犠牲が出た今になって…」


「我々の見通しが甘かったとしか言いようがない。だからこそ我々軍側は、闇に準ずる者たちを少しでも意義があったともわせる程度の練度にまで引き上げたいのだ。

 訳の分からぬまま死んでいくこと程、空しいことはないだろう。

 それに魔物の国も休戦の意思を示せばこちらと敵対する意志はないとしている。これはもう一度足元を見直せと、闇の精霊様が与えた好機なのではないかと思ったのだ」


カターニャを説得しようとするミョウコクの動きに、他の内政派の2人は猛烈に反対する。

そこへ軍派のエレシュキルとファニータが参戦し、再び議論が紛糾した。


確かに軍の見通しが甘かったのは否めない。

だが内政派もそこを無理に突くことはできなかった。それを認めてしまえば、それこそ休戦がベストだと認めてしまうようなものだからだ。


そのため何としても自分の主張を押し通そうと強く意見を主張し続け、平行線のままの話し合いは3時間も続いた。

互いに譲らないままもかわす言葉なくなりかけた時、ずっと座っていた皇帝が初めて口を開く。


「これ以上は不毛だろう。採決だ」


この採決はあくまで決定ではない。決定は皇帝が下すものだ。

だが参考にはする、そういった趣旨の採決だった。


採決となり、内政派のパレルモとメッシーナは机の下でこぶしを強く握りしめる。

明らかにカターニャの心が揺らいでおり、採決するには最悪のタイミングだった。

だが皇帝の命令となれば逆らうことなど出来ない。


「休戦に賛成の者は…挙手を」


その言葉に5人の手が上がった。

財務院の総長パレルモがここは不利と見て折れたのだ。


それを見たメッシーナは歯を食いしばりつつ、下を向き手を挙げた。

休戦を主張する軍がなんとか押し切った結果だった。


「この場に居る者たちの意見が一致したこともあり、我が国は光の連合との休戦を試みる。魔物の国の使いとやらにもそう伝えるよう指示を出せ。

 各隊長は、この休戦が各自の責任だと捉えこの機を利用しより躍進せよ。余はこれ以上、言うことはない」


それだけを告げると皇帝は席を立ち自身の奥の扉から出て行った。

皇帝が立ち去り、少しの間場が静寂に包まれる。


そんな中、少しの間をおいてミョウコクが頭を下げ話し始めた。


「本当に我々の責任だと思っている。許容してくださったことに、感謝する」


ミョウコクの言葉に続き、2人の隊長も頭を下げ謝罪する。

こうしてようやく、闇の国は休戦の方針が決まった。


今話も読んでいただきありがとうございます。


本日も無事更新できました!


誤字脱字等ありましたらご指摘いただけるとうれしいです。

ブクマや感想などをいただけるとうれしいです。


次話は8/5(日)更新予定です。 では。

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