乱戦11
ここまでのあらすじ
業火の巨人を止めるべく一時的に共同戦線を張るクエスとミョウコクだったがなかなか仕留めることができない。
ようやくダウンさせた時、水の魔法が巨人の頭をえぐった。
この場にいる3人はすぐにそれが誰の仕業なのか理解する。
この感じ、あれほど強力な水の魔法、今ここにいる光の連合で該当する者は1人しかいない。
「ボサツ!」
「三光かっ」
クエスだけではなくミョウコクも強力な助っ人の登場に喜びの声を上げる。
ボサツはクエスの近くに降り、即座に型を作り始めた。
「苦戦しているとは思いませんでした」
「いや、特殊個体とかいう次元じゃないくらい固いのよ、あれ」
その言葉を聞き、より強力で貫通力のある魔法を使うためにボサツは型の形を変える。
その時だった。起き上がろうとする業火の巨人から声が聞こえた。
よく見ると起き上がる巨人の前に1mちょっとの小さな少年のように見える存在が立っていた。
一見逆立った赤い髪かと思えるそれは赤い炎であり、ゆらゆらと揺れるさまがなんとも不気味だった。
この巨人シリーズも含め人型の魔物はそこそこの種類がいるが、その姿は知識の中のどの魔物とも一致しない。
それは数歩歩くと立ち止まり、突然話始めた。
「ちょっと待ってほしいかな。さすがに最高峰と超越者2人を相手にこれじゃハンデがありすぎるよ」
光と闇の国では微妙に言葉が違うが、自動翻訳のできる魔道具によってほぼ違和感のない会話ができる。
だが魔物が言語を操るなどこの場の誰も聞いたことが無い。
魔物とは言葉を話さず、覚えている魔法も種別ごとに同じで、魔法使いのような魔素体になる前がない存在のことを指す。
だが目の前のそれは言葉を話せるのに、明らかに元の素体などなさそうな話すことのないとされる魔物だ。
聞いたことのない状況にボサツは型を作成した段階で止め魔力展開を進め、クエスも警戒しつつ魔力の展開を始めた。
ミョウコクはヌヌネシアを少し後ろに置きつつ、何が来ても対応できるよう複数の型を作り始める。
「誰?とすら聞いてくれないとは、警戒されちゃったね」
「……当たり前でしょ。この状況で…あんたどこから出てきたの?」
周囲には高LVの魔法が飛び交ったその魔力残渣が残っており、無関係な人物がこの場に転移してくるのはかなり厳しい。
となれば業火の巨人と一緒にいたことになるが、普通ではありえないことだ。
相手の図体がでかいとはいえそれなりの時間戦っていたのだから、別の強力な存在を見落とすはずがない。
だがミョウコクは思い当たる節があったのか口を開いた。
「なるほど、貴公があの障壁を張っていたのだな。いくら特殊個体とはいえ、我々の攻撃をあれほど見事に防ぎきるとは思えなかったが…これで合点がいった」
「さすがです、隊長。つまり私たちは3対2だったのかー」
「あぁ、そうなる」
「だったら、いうほど恥ずかしくはないよねぇ。いやー、1対3でこれだとちょっとやばいよなーって思ってて」
緊張感のないヌヌネシアの言葉にミョウコクも思わず笑いが漏れる。
「うーん、やっぱり流石だね。最高峰って言われるだけはあるかな」
「いや、言われたことなどないが…」
なんだかよくわからない呼び方に戸惑うミョウコクだったが、そこに割り込むかのようにクエスが尋ねた。
「ということは、あんたが魔物部隊の指揮官ってわけね」
「ん、そうだよ」
「あんたの望みは何?この場をここまで混乱させておいて、何をしたいのよ?」
「うーん……」
「こっちはもう帰るところなんだけど、帰すつもりはなく皆殺しかしら?」
「そこまではしちゃダメなんだよね。せめてここにいる人たちを負傷させるくらいかなぁ」
いまいちはっきりしない目的にクエスの眉間にしわが寄る。
力を持ちこのようなボヤっとした目的を告げる者というのは、大抵碌なものじゃないというのが彼女の見解だった。
ボサツにそれを念話で告げると、彼女もその意見に同意した。
明確な目的もなくこんなに大暴れするのであれば、それはそれでたちが悪いが必死に逃げればたいてい追ってこない。
目的を言わないのははっきりしたものがないのか、それとも隠しているのか、子供のような見た目と態度のせいで誰も判別がつかなかった。
「じゃ、殺しちゃいけないというのなら…下手に逃げるよりは戦った方がよさそうね」
なぜそうなると不満げなミョウコクを置き去りにし、クエスとボサツは武器を向けその存在に向けて戦うことをアピールする。
それを受け、その存在はちょっとうれしそうに笑った。
「その方がいいね。僕も役目がちゃんと果たせるし…あ、でも全力を出しちゃいけないって言われてるし…
んーでも、超越者2人を相手にそれは厳しいよなぁ」
「どっちなのよ…」
クエスが呆れた顔をした瞬間だった。
ボサツがその脇から<高圧砲>を放つ。
だがそれは特に動じることなく<火の集中盾>を3枚張りして、1,2枚目を割られつつもその一撃を防いだ。
不利属性で障壁を張るということは、目の前のそれは火属性しか使えない可能性が高い。
これなら少しはチャンスがあるかと2人は考えた。
「名前は?しゃべれるくらいだし、何か名前はあるんでしょ」
「ブーバンスっていうんだよ。レッド、君にはそっちの最高峰とその部下を任せるからね。もちろん、殺しちゃダメだよ」
「ぐぉぉ」
業火の巨人が低い声を上げる。
魔物と会話できる、もしくは意思疎通ができることにこの場にいる者たち全員が驚いた。
どれくらい精密なやり取りができるのか気になったが、それを問いただす暇などない。
確認する間もなく唐突に戦いが再開してしまった。
業火の巨人がミョウコクたちの方へ向かうのを見て、クエスとボサツは巨人から距離を取る。
互いに技を見られれば今後対策されかねないし妥当な判断だった。
さらに言えば、魔物たちが意思疎通できるのであれば連携を取りかねない。
一方のクエスたちとミョウコクたちは連携が取りづらい。
結果、お互い分かれて戦った方がより実力が発揮できる状況だった。
まずはクエスがサポートに回り、ボサツが水属性で攻撃を仕掛ける。
さすがに水属性の魔法は辛いのか、強力な障壁を複数貼りつつブーバンスは反撃してきた。
大きな炎の塊が上空からクエスたちを襲う。
「…っ、でかい!」
クエスはすぐにボサツのそばに行き、<位置交換>を使ってその一帯ごと別の場所と入れ替えた。
先ほどまでいた場所は大きな炎の塊が爆散して一帯に炎が降り注ぎ、十分な水分を含んだ草までもが燃え盛っている
「んー、やっぱり直接見ると早いね」
「さっき殺す気はないって言ってなかったっけ?」
緊張感無く感心するブーバンスを睨み、クエスは殺る気満々じゃないかと指摘するが、それはただ笑って返すだけだった。
最初の一撃をやり合っただけで実力差を感じた2人は、真剣にならねばと顔つきが変わる。
クエスもボサツも、現在光の連合や闇の国では到達限界とされる魔法の総LV50に達している。
LV50、それはそれより上が存在しないという意味なのだが、目の前の存在は明らかに自分たちより上、さすがにやばいなと思い始めていた。
だがそれだけ危険な相手だからこそ、このチャンスに情報を取っておきたい。
情報はあればあるほど確実な対策を取ることができ、次出会った時の勝利へとつながる。
しかも何故か相手はこちらを殺すつもりはないらしい。
ならばいくら格上相手でも2人はここで引くわけにはいかない。
「見た?魔核の数」
「はい。私の1.5倍以上です。少し自信が無くなります」
「私たち2人の合計よりは少ないのが…救いかしら」
扱える魔核の数は魔法をどれだけ同時に発動できるのかに直結する。
ちなみに光の連合においては、1位がボサツ2位がクエスなのだが、目の前にいる相手はそれをはるかに凌駕していた。
「もう休憩?作戦会議もいいけど、せっかく僕の情報を取るチャンスを捨てるなんてもったいないよ?」
子供っぽい声で挑発してくるブーバンスにクエスはちょっとイラっとしたが、相手が各上であることは疑いようのない事実。
どうしたら自分たちのような限界で止まっている状態を突破できるのか聞いてみたかったが、わざわざそれを教える馬鹿がいるとは思えない。
たださっき目の前のそれが話していることで気になることを思い出した。
「そういえば、さっき私たちを超越者とか言っていたわね。あれ、どういう意味?」
「あれー?戦闘データより知識が欲しいとは思わなかったよ」
「別にいいでしょ。そんな言われ方されたことないし気になったのよ」
「んー、あっちの闇の人はまさに限界ギリギリにまで上り詰めてるから最高峰、でお二人はその枠を出ちゃってるから超越者、だよ?」
それを聞き2人は首をかしげる。
確かに2人とも光の連合の中ではトップの実力者だ。
1番得意な属性はLV45という限界値に達しており、2番目に得意な属性もLV45、そのため実際に使う魔法の威力はL49.5級となり総LV50という呼ばれ方をしている。
だが同時にそれが頭打ちであることも確かだ。
どうやったってそれ以上の威力は出せない。
それこそがこの世界において絶対的なルールであり、歴史上それを超えた者はいないとされている。
目の前の存在はその例外がいるのだが、それはそれとして自分たちが限界を超えた記憶はない。
「それではわかりません。私たちはあくまで限界に達した者です」
「んー、詳しい説明はできなんだけど……まぁいいや。お二人の実力を見たいし、もう少し遊ぼうよ」
そう言い終えると即座に2発の大きな炎の塊を飛ばす。
先ほどと同様爆発すると見抜いたクエスがボサツごと別の場所と位置を入れ替えた。
「そっちかぁ」
大技を躱されたことなど大して気にしていないかのように、ブーバンスは手のひらを向け巨大な炎をブレスのように放出する。
クエスがそれを<光の集中盾>で受け止めると、隣にいたボサツが左右から回り込むように<水刃>を放った。
それに対して軽めに障壁を出し受け止めたが、ボサツが後ろで作っている型の一部が見え何が来るのかわかったのか
ブーバンスは魔法障壁の型を複数作り始めた。
その間クエスとボサツはバラバラに分かれて、クエスが収束砲をテンポよく連発する。
固まっていた方が防御面では安心できるが、実力差から押し負ける魔法合戦になってしまいかねない。
そのため2人は、相手の殺さないという言葉に賭けて2対1という状況を使い攻撃で押し切る作戦に出た。
ボサツの魔法の完成を邪魔したいブーバンスだが、クエスの放つ魔法も捨て置けない威力。
とりあえず作った障壁を複数枚クエスの攻撃に対して並べて置き、ボサツの周囲に複数回爆発魔法を放った。
ボサツは周囲に大量の水を発生させて爆発の威力を殺す。
そしてその水の中で魔法を発動させた。
「いきます。<大瀑布>」
さすがにまずいと思い爆発を使って逃げようとするが、クエスが障壁をすり抜けるように左右から<収束砲>を放ち足止めを食らわせる。
移動しつつ遅延発動をかけておいた魔法が、角度的にブーバンスが張った障壁を上手くすり抜けるよう配置していたのだ。
「あっ、まずいかも」
どこか余裕のある言葉にも聞こえたが、ブーバンスの上から大量の水がかなりの勢いで降り注いだ。
ブーバンスは自分の上に5枚もの障壁を張っていたが、さすがに水の魔法に対して火属性の障壁では効果が薄いのか最終的に5枚全ての障壁が割れる。
自由落下よりも明らかに強い勢いで降り注ぐ水がブーバンスを叩きつけ、さすがに身動きが取れないかと思われた。
だが、突如その水の中で大爆発が起こり、ブーバンスが滝の中から飛び出した。
しかし、その瞬間をクエスは見逃さなかった。
<閃空斬>を発動し、手に持った精霊武器を素早く横に振り切る。
見事に命中したようで、ブーバンスは何かをくらった声を上げ小さな爆発を起こし地面に着地した。
「いったぁー!あの状態に当てるとか、本当にすごいね」
予想外の反応が返ってきてクエスは戸惑う。
当てた瞬間は水魔法をもろにくらって多少なりとも魔力が落ちていた状態、感触はものすごく固いものを切った感じだったがそれでも手ごたえがあった。
それでもなお相手は大きなダメージを受けたようには見えない。
さすがにクエスとボサツからも焦りの表情が出てきた。
「参るわね。ばっちり当てたつもりだったんだけど…」
「ばっちり当たったよ。お腹の表面と…多分内臓も一部切れてると思うし。とりあえず応急処置をしなきゃ」
そう言うとブーバンスは60個程の魔核で型を作り即座に魔法を発動させる。
するとクエスが切ったと思われる部分から炎が飛び出してきて数秒後には収まった。
(回復魔法?火属性にあんな魔法あったっけ?)
(いえ。私も知らないので特殊な魔法だと思います。一応型は覚えました)
魔力を再展開しながら知らない魔法を眺める2人。
中途半端な魔力展開では返り討ちにしかならないため、ブーバンスの行動をただ黙ってみているしかなかった。
逆に言えば、それだけブーバンスの魔力展開量も展開速度も2人をかなり上回っていたのである。
「まいったね。このままやり合うと思ったよりも負ける確率が高そうだよ」
「でしたらこちらはうれしいのですが、正直その言葉が信じられないです」
「やっぱり賢いよね、お二人は。でも僕もこのままやられっぱなしというわけにはいかないんだよね…いくよ!」
さっきまでよりも更に魔力の放出速度が上がる。
額には火属性のマークが浮かび上がり、それの皮膚が剥がれていきながら魔力に変換されていく。
明らかにやばい状況に、クエスは即座にボサツのそばへと飛んで手を握り、再び距離を離すために飛ぶ。
だがブーバンスも逃がすつもりはないのか、自分の背中に大きな爆発を起こして追ってきた。
「やばっ、あれやばすぎ」
「クエス、ありったけの核で防御魔法を多重張りします」
ボサツが見たのは見たことのない火属性の魔法の型。
しかもその数は200程の魔核が使用されており、彼女が扱える魔核の数とほぼ同等だった。
「いっくよー、すべてを破壊し尽くす…<深紅の波動>」
それが言葉を発した瞬間だった。
危機を察したクエスとボサツは2人で全方位に対する障壁を合わせて6重に張る。
強力な魔力と熱の波動が二人を囲った障壁を優しく包むように覆いかぶさり、外側に張ったクエスの<光のドーム>が連続で3枚とも割れた。
ボサツはそれを見て危機を感じ障壁の中を水で満たす。
クエスはボサツの魔力と干渉しないように、体の表面ギリギリにまで魔力を押さえこんだ。
その波動はクエスたちの後方まで続くように広がっていく。
テレポートでは逃げられない広範囲魔法だったのを見て、障壁を張ったことが正解だったことを思い知った。
だが安心したのも束の間、波動が触れていった部分のうち、魔力反応がある部分が一斉に連爆する。
ボサツの張っていた水属性の障壁もその爆発に耐え切れず割れていき、内側の水の表面までもが何十回と爆発した。
最終的に2人は飛ばされ、地面に伏せる。
その頃には先ほどの魔法も終わっていたようで、辺りは静かになっていた。
「さすがに死んでないよね?」
「死んでないわよ…」
クエスが起き上がるとボサツも起き上がり魔力を再び展開し始める。
「うわぁ、あれを受けてやる気になった魔法使い、初めて見たよ」
「やる気ではないです。危険なあなたをここで逃がすわけにはいかないので、殺す気です」
いつものボサツとは明らかに違う殺気あふれる言葉。
クエスも思わず一瞬視線をそちらに向けてしまうほどだった。
「んー、さすがに僕もこれ以上戦うと危ないしお二人を殺しちゃいけないから素直に引いて欲しいんだけど…ダメかな?」
よく見るとブーバンスも先ほどの魔力展開時に無理をしたのか、見えている部分の皮膚は所々剥がれおり全身からうっすら出血している。
お互いかなりのダメージを受けているように見えるが、向こうは自ら受けたダメージでありクエスたちが有利だとは言えない状況だった。
「引くわよ、ボサツ」
「ですが…」
「情報収集は十分。これ以上本気で向こうの命を狙えば、さすがに向こうも殺さないというわけにはいかなくなるわ。
情報は持ち帰ってこそ成果よ」
少し不満そうな顔をしたが、徐々にボサツの表情が怒りから平穏へと戻っていく。
ここで無理をして死んでしまえば、それこそ持ち帰る情報がゼロになってしまう。
妥当かつ仕方のない判断だった。
「もう引くけど、まさか追ってきたりはしないわよね?」
「僕も追うだけの気力は残ってないよ。さすが超越者は強いね」
何がしたいのかその目的がわからぬままだったが、あり得ないほどの強さを持つ存在がいることを知らせるためにも
クエスとボサツはゆっくりと森の方へと退却した。
今話も読んでいただきありがとうございます。
ちょっと書くペースが追いついておらず、語尾や表現に変なところがあるかもしれません。
また、誤字脱字等も指摘していただければ助かります。
次話は8/30(月)更新予定です。 では。




