乱戦10
小タイトルを変更しました。
前話は新規更新ではなく、お詫びの文を「乱戦9」の内容に変更したことで更新したので
新着表示がなかったと思います。読み飛ばしにご注意ください。
ここまでのあらすじ
クエスとボサツは業火の巨人を倒そうとするも、森で兵士たちが別の魔物に襲われたため二手に分かれることにした。
一方のクエスは燃え盛る業火の巨人と対峙していた。
クエスは遠距離攻撃で光線を何発も放ち、炎でできた巨人の体に穴をあけたかのように見えたが
すぐに炎がその穴をふさぎ、ダメージを与えているのかいまいちわかりにくい。
一方の巨人側も遠距離で撃ち合うことを望んでいるのか、何発もの炎を飛ばし躱されたのを見ては、クエスの周囲を爆発させて攻撃の手を休めない。
ただどちらも本来の実力の隠し様子見の戦いを続けていた。
通常の業火の巨人であればここまで慎重になる必要はないのだが、相手は特殊個体。
特に『核爆弾』を使える存在ともなれば通常の魔法使いとしても超一流、一般的な魔法使いより身体能力や総魔力量の高い魔物が使えるのであれば、最大限の警戒が必要となる。
「ちっ、やたら手数が多いわね、こいつ」
爆発を躱したかと思うと巨大な火の玉が飛んできて、それをクエスが障壁で受け止める。
威力からして火属性のLVは43ほどだと思われるが、通常の個体よりも魔核が多く扱えるようで手数が圧倒的に多い。
しかも魔物たちに指示しているだけあってか頭もそれなりなようで
単調な攻撃を続けたかと思うと、躱して安心してきたところに本命をぶつけてくるような小賢しい真似をしてくる。
クエスが巨人の中心部分に向けて収束砲を放つと、巨人は<火の集中盾>をしっかりと張り受け止めつつ、目の前に炎の壁を展開した。
巨人の姿は見えるものの2m程の炎の壁は視界を遮っており、クエスは慌てて距離を取る。
そうさせまいと巨人は<大火弾>を連発しクエスの後方に炎をばらまくと、<獄炎砲>を放った。
渦を巻いた炎が直線的にクエスの方へと向かう。
「仕方ないわね」
炎の壁でよく見えないが、周囲の魔力が大きく消費されたことから大技が来ると判断したクエスは
<瞬間移動>で巨人の左側へテレポートして回避した。
知恵のある魔物はそれなりに学習する。
出来るだけ手の内を見せないように戦いたかったクエスだったが、あの手数の多さを考えると、足を止めたまま敵の魔法を受け止めるにはリスクが高い。
防御時にそのまま押し込められかねなかったため仕方ない一手だった。
「だけどこれで」
クエスは目の前に2つの大きな光の塊を出す。
テレポートする際に小さめに作った2つの型を限りになく自分に近づけておいたので、型と一緒に飛び、すぐに魔法を発動させることができた。
2発の収束砲が業火の巨人のわき腹から中心部分を狙うように放たれる。
が、再び2つの<火の集中盾>がそれを遮るように出現し、奇襲攻撃は見事に防がれた。
違和感を感じつつもクエスは再度攻撃に転じた巨人の魔法を回避する。
大きな炎を2つ回避した時だった。その移動先に6つの<火の槍>が飛んでくる。
着地の瞬間を狙われたことで再びテレポートで躱そうとした時だった。
クエスは覚えのある魔力パターンにより構成された魔法が目の前で発動するのを感じそのまま立ち尽くす。
クエスの目の前には闇のもやが現れて、6つの火の槍は全てその闇に飲み込まれた。
新手の登場により業火の巨人は一歩下がり魔力展開に入る。
一呼吸置けるなと思ったクエスは、やってきた者たちに声をかけた。
「助かったわ、ミョウコク」
「ふっ、貴公ならあれくらい簡単に防げただろう」
「そりゃそうだけど、あいつやたら手数が多いのよ。1対1で足を止めると延々と魔法を打ち込まれそうな気がするわ」
「それは厄介だな。だがこちらが3名ならば奴も思い通りには戦えまい」
互いに並び立ち、互いを見ることなくただ業火の巨人を見つめたまま会話する。
ミョウコクの少し後方に待機するヌヌネシアは、まるで2人が信頼し合ったコンビのように話すのを見て不満がかなり顔に出ていた。
「だけどあなたが来るとは思わなかったわ」
「こちらもあれに都市をやられては困るのだ。初弾は再生壁にぶつけられたが、範囲内に都市の一部が巻き込まれ被害は大きい。
それに貴公が戦っているとなれば、こちらにもかなりの分がある」
「買いかぶってくれるのはうれしいけど、あいつは攻撃も防御もかなり厄介よ」
「ふーむ、ならば我々が防御メインで動こう。その隙に貴公が全力を叩きこんでもらえると助かる」
お互い少し離れた状態で魔力を展開し、巨人の動向に注力しながら会話を続ける。
敵同士で連携はとれないし、光の闇の魔力は近づいただけでもすぐに相殺し始めるので、近づいたままでの協力は難しい。
互いに立場もあり攻守をどうするべきか悩んでいたさなか、ミョウコクから盾になる提案があったおかげで話はスムーズに進む。
それでもクエスは一瞬考えた。確かにこの3人ならば、自分が一番効率的に巨人にダメージを与えられる。
だが、それはこちらの手の内を見たいからこその提案ではないかと。
黒騎士ミョウコクは再びフルフェイスの兜を被っており表情は見えないが、その雰囲気からクエスを頼っていることが何となく読み取れた。
どちらにしてもこの戦いは一時休戦が決定しており、その流れを邪魔したのが目の前の巨人。
ならば迷っている暇はない。とっとと邪魔者を排除してお互い帰り次に備える。
それこそが今最優先にすべきことなのだ。
「わかったわ」
そう言うとクエスはふわりと宙に浮かぶように上昇する。
「ヌヌネシア。防御主体で時折けん制を入れる」
「はいっ」
光の使い手に協力するなんてもってのほかだが、先ほどの核爆弾の一発で都市の一部は壊滅している。
あんなものを何発もくらってしまえば、光の連合から都市を守るどころではなくなってしまう。
彼女はミョウコクの命令に迷っていた思考を戦闘へと切り替えた。
不規則に空中を動くクエスに対して、巨人は再び手数で襲い掛かる。
だが今回は危ないところを闇の2人が上手くカバーして、そのタイミングでクエスは反撃に強力な光の光線を放ち続けた。
数発は手や足などを容易に貫くが、すぐに燃え盛る炎がその穴を埋めるように隠し、傷を負っているのかわからなくなる。
肝心の胸付近にある紅い部分は巨人が攻撃を続けているタイミングでもきっちりとガードされ、なかなかダメージが通らなかった。
再び巨人の攻撃が止まり、クエスはミョウコクたちの近くに降りてくる。
「やっぱダメね。コア部分のガードが固すぎる」
「あのぅ……クエス、さん」
「なに?」
少し不満そうにしながらも、ヌヌネシアが話しかけてくる。
クエスは相手が闇の使い手だからと言って特に気にすることなく、フランクに話を受けた。
「その…コア部分に攻撃を通せば、業火の巨人って結構なダメージを受けるんだよね?」
「ええ、そうよ。1対1で倒したこともあるからそのはずなんだけど…この特殊個体はやけにガードが固すぎるのよね」
クエスの返答を受けてヌヌネシアは驚いた。
あれを1対1で?こいつ化け物かよ、といわんばかりの表情である。
「クエス。貴公ならあの離れた位置へ斬撃を飛ばす技で、直接コアを狙えるのではないか?」
「まぁ……行けるとは思うけど、かなり近づかないと厳しいわよ。接近する前に魔法連発されて距離を詰められないの」
「こちらもちょくちょく狙ってはみたが、異常な防御反応で正直埒が明かない。あの技がどれくらいの有効範囲かは知らないが、限界まで近づいてもらえないか?
その間のガードは我々2人が全力を尽くす」
クエスがヌヌネシアを見ると、やや不満ながらもそれを飲み込むかのようにして首を縦に振る。
闇の国では上司と部下の間における命令は絶対だと聞いていたので、ひとまず2人を信用することにした。
「じゃ、2人には先行して攻撃を受けてもらうわ。私は後方から型を組み立てて狙う。
いけると思った瞬間声で伝えるから、それを聞いたら防御しながら離脱して。合図後は自分のことだけ考えてもらえればいいわ」
先行して盾になる、上司からの命令でも不満を態度で表したくなるような作戦だが
ミョウコクが黙って首を縦に振ったことでヌヌネシアも、思いっきり不満を顔に出しながら視線を逸らして首を縦に振った。
地位ある自分が憎むべき敵である光の使い手に使い捨ての駒のような命令を出されたことは、ヌヌネシアにとってかなりの屈辱だった。
だがそれ以上に、今目の前にいる特殊個体の業火の巨人は排除すべき脅威だった。
もしあの一撃が都市にぶつけられていなかったら、彼女はクエスの作戦に猛反対しただろう。
それほどまでに闇の側も追い詰められている状況だった。
お互いに見合わせ頷いた後に、ミョウコクとヌヌネシアが前方に魔力を展開しつつ巨人へと向かって走る。
その後ろをクエスが後方に魔力を展開しながら型を組み、狙えるタイミングを計っていた。
巨人は腰辺りから前方の2人に対して炎を噴出させると、後方のクエスに対して魔力の込められた赤い粒を放つ。
前方の2人は炎を障壁で受け止めながらも足を止めず、さらに後方のクエスの前方に<闇の渦>を発動させる。
最初彼らが現れた時と同じように、巨人の魔法をその闇は飲み込んで消えた。
なおも近づこうとする彼らに対し、巨人はさらに攻撃の手を速める。
正面と上から次々と炎の塊が飛んできて、ヌヌネシアは苦痛の表情を浮かべた。
彼女がミョウコクと同じような攻撃を受けても何とか耐えているのは、彼女の2つ目の属性が火属性だからだ。
闇の障壁に火属性を混ぜることで、どうにかミョウコク並みの障壁強度を維持できているのである。
「ぐっ、なんという魔法連打だ」
例えボサツクラスでもこの威力を連打できるというのは考え難い。
おそらく1人であれば受け切れなかったであろうこの攻撃を受けながら、先ほどまで1人で相手していたクエスはこれを受け流していたのかと考えると
ミョウコクは改めて彼女のすさまじさを感じていた。
だからこそ、ここは受け切って彼女の攻撃までつなげると強い意志を持ち、魔力を使い切る覚悟でさらに前進を続ける。
ヌヌネシアもまた、自分の失敗は隊長であるミョウコクの威信を傷つけることになると自分に言い聞かせ、ただただ前進を続けた。
「今よ!」
既にかなりの熱を感じる程まで近づいた時、クエスの声が聞こえ2人は90度方向を変えて巨人から離脱する。
巨人は去っていく2人よりさらに突っ込んでくるクエスを脅威に感じたのか、狙いをクエス1人に切り替えた。
よくそんな魔法が放てるほど魔力が展開できてたなと言いたくなるくらい、ここぞと言わんばかりに巨人は<獄炎砲>を放つ。
その渦を巻いた炎はさらに接近していたクエスを飲み込んだ。
だがクエスは既に巨人の背中側へとテレポートしており、魔法を発動させて剣を振るう。
何も知らないものから見れば虚空を切るようにただ剣を振り下ろしただけにも見えるが、ミョウコクはそれを見てぐっとこぶしを握り締めた。
「よしっ!」
ミョウコクはそれを見て反転攻勢に出ようと攻撃の型を複数組み上げ始める。
シミュレーションでしか見たことのなかったヌヌネシアも成功したのかと思い、一歩遅れて攻撃態勢を整えようとした。
「ぐぅおおおぉぉ!」
巨人の苦痛に満ちた雄叫びが上がる。
クエスの斬撃は見事業火の巨人の核へと届いたのか、炎で出来た左手と左足の一部が物体からただの炎に戻ったようでバランスを崩し左前に倒れ込む。
業火の巨人の核は、1m程の人型をしている。
といっても炎に包まれており近づけばうっすらと黒く見える程度で、それが巨人の皮を動かしている人型の魔物なのか、はたまた魔石のような物体なのかはわかっていない。
どちらにしてもクエスが切りつけた部位に影響があったようで、業火の巨人は初めて大きな隙を見せた。
それに反応して3者とも一斉に攻撃を放つ。
光と闇の光線が倒れ込んだ巨人の各部分を狙うように飛んでいき倒したかと思った瞬間だった。
3方向共に<火の集中盾>が現れきっちりと3人の攻撃を防ぎきった。
「なにっ!?」
「はぁ?」
「えぇー!?」
3人が驚いたのも束の間、急激に巨人の周囲に魔力が展開され<大輪開火>が発動。
倒れ込んだ巨人をも飲み込むような巨大な炎が発生し、周囲に花が開くように広がると爆散し全方位の炎をまき散らした。
3人とも下がりながら必死に障壁を張ってガードする。
残りの魔力のほとんどをここぞとばかりに攻撃に振り分けたこともあり、全員が障壁を割られ炎を浴びて負傷した。
だがその時、大きな水の塊が渦を巻きながら業火の巨人の頭部をめがけて飛んでいく。
向こうも相当魔力を費やして防御面は薄かったのだろう。その水の塊は業火の巨人の頭部を飲み込み消し飛ばした。
今話も読んでいただきありがとうございます。
なんとか…なんとか更新に間に合いました。。
誤字脱字等ありましたら、ご指摘していただけると助かります。
感想やブクマ、評価など頂けるとうれしいです。
次話は8/27(金)更新予定です。では。




