表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
377/483

乱戦6

ここまでのあらすじ


再生する壁を使い優位に立っていた闇の軍だが、捨て身の攻撃に壁が崩され、優位性は一気に逆転した。

◆◇



一方、光の軍は一気に勢いづいた。


壁を壊せば退却する予定だったが、今までやられっぱなしだった借りを返すかのように

崩れた壁に巻き込まれた闇の兵士たちを狙って攻撃を集中させる。


闇の兵士たちは何とか土の中から脱出しようと闇の魔法を使い土を除去しようとするが、そちらに魔力を割いたところに光の矢や槍が降り注ぎ次々と力尽きて行った。


「先にぼう…がっ」


「ダメだ、抜けだしても…ぐわっ」


各所で小隊長や中隊長クラスと思われる指揮官が防御態勢をとるように声を上げようとするが、身動きが取れずパニック状態のまま攻撃を受ける兵士たちの叫びが

少しでも味方を救おうとする指示さえもかき消していく。


先ほどまでは上から見下ろし楽々と敵を狩っていた極楽席だったのに、今や阿鼻叫喚の地獄絵図。

そんな中、いち早く土の中から出てきたエンデバーは、光の軍のやりたい放題の状況に怒り狂った。


「ふざけろ!お前たちのようなクソ共が俺たちを踏みにじるとはいい度胸だ!」


仕返しといわんばかりに、光の魔法を受けながらも<暗黒砲>を左右に作り2発を光の軍に向けて放つ。

一発は兵士たちが集団で障壁を張りつつも貫かれ手傷を負ったが、もう一つはクエスの<宙の集中盾>によって防がれた。


「あれ、集中まで使わなくてもよかったみたいね」


クエスはそういいながらお返しと言わんばかりに4発の<光一線>を放つ。

エンデバーは即座に盾を取り出すと、受けの姿勢を取りつつ<水の強化盾>で何とか威力を殺し残りかすを盾で防ぎ切った。


「貴様、いちっ…」


怒りをぶつけながら噛みつこうとしたがすでに目の前にはクエスはおらず、右近くで同様の魔力を感じると右側に迎撃態勢をとる。

目の前まで近づいていたクエスが剣をふるい、エンデバーもそれを受け止めた。


が、地面が粘土のようになっており踏ん張りがきかず、クエスの一撃を受け止めきれない彼は体勢を崩す。

一方のクエスはわずかに宙に浮いており、支えるものがないにもかかわらずしっかりと踏ん張りがきいていた。


このままでは追撃でやられると思ったエンデバーは、とっさに<水玉陣>を使い周囲に水玉を100個近く生成させた。

次の敵の一撃を躊躇させるのが狙いだったが、クエスはそれを見抜いていたのかすぐにワープして距離を取り、<斬撃光>で光の斬撃を飛ばしてくる。


「それはっ…効かん」


何度もシミュレーションで苦汁をなめさせられたクエスの攻撃である。


ただ斬撃を飛ばしてくるのであれば大したことはないのだが、それと同時に振られる剣筋を違う場所に移動させると、受け手が大きな傷を負うことになる。

飛んでくる斬撃をただ防御すればいいわけではなく、エンデバーはクエスの周囲の魔力の減りにかなりの神経を注ぎつつ、<水の強化盾>を何度も発動し飛んでくる斬撃を受け止めた。


1振りだけ大きく魔力が減った瞬間、即座に右後ろへと下がり難を逃れる。

クエスは少し驚いた表情を見せたがその後も斬撃を飛ばしてきた。


回避で体勢を崩しつつも防御姿勢を崩さないエンデバーを見てクエスが話しかけてくる。


「へぇ、さすがに研究してるじゃない」


「お前のような奴の小手先の技など初見でないと通じないよ」


しっかりと相手の必殺技を封じているぞとアピールし、無傷だったことからエンデバーも調子を取り戻す。

そんな彼を見てクエスは少し笑って見せた。


「過剰な自信は死に繋がるだけだと思うけど?」


「種明かしされた後でも過剰な自信を誇るとどうなるのか私自ら教えてやるよ。お前の悪事をここで終わらせる」


「へぇ、かっこいいじゃない」


クエスの軽い受け流しにエンデバーはむっとするが、周囲に展開した魔力は十分な量に達し攻撃へと移る。

とはいえ、相手の強力な一撃に距離は関係ない状況は続いている。


まずは慎重に動くべきだと考え、彼は自分の周囲にある水玉を30個ほどクエスの方に飛ばす。

これはほとんど威力のない攻撃だが相手の周囲の魔力を相殺する効果があり、まずは展開した魔力量で優位を取ろうという作戦に出た。


だがクエスはそれに<百の光矢>を当て破壊し、型を準備しながら少しずつ距離を詰めていく。

いつでも瞬時に移動できる相手がゆっくりと近づいてくることは、思った以上のプレッシャーだった。


何度もシミュレーターで経験済みの状況だが、失敗すれば死へとつながるこの状況はエンデバーの精神を想像以上にすり減らす。


「あら、そっちは様子見?言葉だけじゃ私は終わらないわよ」


そういってクエスは悪そうな笑みを浮かべた。

少し離れた位置では光の軍が土の中にいる闇の兵へ向けて絶え間なく魔法を放っている。


あちこちで魔力反応を感じるが今は正面の敵に集中しなければならない。


勝つことが大前提だが、味方が次々と狩られていくこの状況下では時間をかければかける程味方が死んでいく。

エンデバーはじっくりと戦う選択肢すら奪われた状態だった。


「黙れっ」


周囲にある残りの水玉を全方位へと放ちながら破裂させる。

水しぶきが魔力へと変わり、彼の周囲へと瞬間移動できない状態を作り上げた。


これこそが彼の自信の根源だった。

周囲に濃い自分の魔力を展開すれば、相手は離れた位置にしかワープすることができない。

それはそれで厄介ではあるが、不意を突いた強力な一撃を受けずに済むことは相手のアドバンテージを奪ったともいえた。


状況をイーブンに戻したと思い、彼は真正面のクエスに対して<暗黒砲>を放ち、彼女がどこへ移動するか集中して探る。

その期待通りクエスは瞬間移動して回避した。


即座に左側に飛ばれたことに気づき、エンデバーは速度を重視して<闇一閃>を放つがクエスは躱しつつ距離を詰め、背中で収束砲とさらに別の2つの型を準備し始める。


型の作成を複数種並行して作ることは上級者でも難しい。それに速度が加わればなおさらだ。

型の作成速度を上げるのに一番効率のいい練習は、いわゆる反復練習だ。何度も何度も作り上げるうちに慣れていき、気が付けば即座に型が出来上がる。


だがこの練習だけだと、他の型と同時に作ろうとすると頭の中がこんがらがりやすくなってしまうのだ。

その型作りの差だけでエンデバーは相手との実力差を感じ取った。


「だがっ」


自分を奮い立たせるように声を出し、<百の闇矢>を左右に2セット発動させ近づくクエスに向かって放つ。

中距離で広範囲に放った2百もの闇の矢。おそらく瞬間移動で躱すだろうと読んでいたエンデバーの勘が当たった。


この時エンデバーはあえて背中方向の魔力展開を薄くしていた。

相手がどこに飛ぶのかわからない以上、敢えて狙いやすい位置を用意して誘導する。誰もが行きつくであろう答えに彼もたどり着いた。


クエスから見れば実に滑稽に見えたのだろうが、彼は相手が狙い通りの位置に来たことで一気に大技を繰り出す。


「もらったぁ」


<闇の斧>を大量の魔力を使い瞬時に発動させ、濃密な闇の魔力が彼の剣にまとい斧の形状になるのを待たずに

エンデバーは真後ろに感じたクエスの魔力を叩き潰すかのように、素早く振り返りながら剣を振り下ろした。


が、そこにあったのはクエスの魔力パターンを帯びた濃厚な魔力の塊だけ。

彼女がエンデバーの背面に飛ばしたのは自分の体ではなく、周囲に展開した自分の魔力だったのだ。


体勢も魔力も大技を放ったことで相手の攻撃に対処する余裕のない隙だらけの状態に冷や汗をかく。

即座にクエスの位置を確認すると、右斜め前にいて剣を軽く振るい光の斬撃を2発だけ飛ばしてきた。


とっさに<闇の強化盾>を2枚張ると、その位置から動こうと後ずさる。

が、その時両腕に痛みが走った。


一瞬何が起こったのかわからなかった。

ミスの原因は単純だ。隙だらけの状態になってしまった焦りから、相手の繰り出した技が平凡な斬撃飛ばしだと勝手に解釈してしまったのだ。


先ほどの闇の斧発動で自分の周囲の魔力が薄くなり、相手の魔法の発動を妨害することすらかなわない状況。その隙を見事に突かれたのである。

罠を仕掛けたはずの側が逆に罠にかかってしまい、一気に状況が傾く。


人はミスしてしまった場合、どうしても自分のミスが大きいものにならないように、物事を勝手に解釈しがちになる。


隙を作ってしまった時に、相手が弱い攻撃をしてくれ自分のミスを最小化してくれたと思えるような動きを見ると

多くの者はそんなはずはないと疑うよりも、相手も下手を打ったという思考に飛びついてしまうものだ。


だからエンデバーはその攻撃が斬撃を飛ばしただけでなく、斬撃自体を移動させた魔法が発動したとまでは思わなかった。


最初はあんなに警戒していたのに、自分のミスが最小限に抑えられたという安心感に飛びつきたかったが故、その奥にある罠に警戒心を回す余裕などなくなってしまう。

そして見事にクエスの術中にはまってしまった。


「ぐぅあああぁ」


左腕は前腕が切断され、右腕は先ほどの一撃の振り下ろしをより強力にするために魔力を多く回していたことで切断されずに済んだが

数cmは切り込みが入り握力が落ちたことで、持っていた漆黒の剣を落としてしまった。


飛んできた斬撃は確実に障壁で受け止めたのに…致命的なダメージを受けてしまった。

彼は一瞬何が起こったのかわからず、現実を受け止められない。


幸運だったのは彼が即座に後ずさりしたことで、クエスが狙っていた胸部めがけて×の字切りの斬撃を移動させたはずが、彼の両腕を切る形で済んだことである。

致命傷には至らなかったが、これでエンデバーはクエスの接近戦に対してなすすべがなくなったと言ってもいい。


そう考えると、これが幸運だと言えるのか微妙なところではあるが。


「なっ、な……」


さらなる追撃だけは避けようと後ろへ飛ぶエンデバーだったが、そんなことをしても無駄だということまでは頭が回らなかったようだ。

すぐにクエスは瞬間移動し彼の後方へと現れた。


とっさにクエスの方を振り返るが、両手が使えないという恐怖で足がすくみつつも目の前の相手に集中する。

命の危機を感じたことで、エンデバーも何とか頭の回転がいつもの状態へと戻り始めていた。


ここは以前ミョウコクが戦った時のような味方から孤立した森の中ではない。

周囲に味方は多く時間を稼げば助かる道がある、そのことだけが彼の集中力をつなぎとめていた。


少し笑顔を見せたクエスが再び斬撃を飛ばす。

エンデバーは集中し、クエスの周囲の魔力が大幅に減っていないことを見極め、目の前に<闇の強化盾>を3枚出して、飛んできた2発の斬撃を防いだ。


「あら、さすがに隊長クラスだけあってこの状況で冷静ね。褒めてあげるわ」


「ふっ、ふははは。悪党に褒められるとは私も落ちたものだな…ふははははは」


かなり危機的な状況に不安定な感情のまま、エンデバーは空元気なのか恐怖で脳の一部がいかれたのかわからない笑いを飛ばした。

先ほどの攻防で足場はマシな場所に移動したが、気がつけば味方からは少し離れている。


孤立するように誘導もされていたことに今更気がつき、彼は目の前の化け物との実力差を否応なしに感じさせられていた。

左手の切断面と右の切り傷は<傷埋め>で止血はしているものの、もはや敵の接近戦を完璧に対処することはかなわない。


黙ったままエンデバーに微笑みかける目の前のクエスに、思わず言葉が漏れる。


「これが死神か…」


目の前のクエスが視界から消える。

魔力を感じた右後方を振り向こうとしたがその直後に左側からの魔力を感じ、逆方向に体をひねりながら新しく感じた方向に<喰らう闇>を使った。


単体に対して非常に強力な魔法であり、これならカウンターとして効果があるだろうという考えだったが、相手はそんなやわではない。


自分の左肩に剣を突き刺されながらも心の中で一矢報いたと思ったエンデバー。

だがよく見ると先ほど使った魔法は狙ったはずの位置よりも遠くに発動しており、クエスは予想よりも近距離にいた。


こちらの魔法発動の位置を相手が動かすことなどできるはずがない。

想定外の現象に彼はただただ戸惑うばかり。


「な……なぜだ…」


クエスは突き刺した剣を真横に切り裂くように動かし、軽く後方へと飛んで距離を開ける。

再び受けた大きな傷に対してすぐに<傷埋め>を使い止血するが、すでに体はボロボロで反撃の気力も尽きかけていた。


何よりも完璧に決まったと思った魔法が躱されていたのが痛い。

喰らう闇は単体相手の魔法であり、強力ながらも回避されやすい。


だが飛んで来た位置は正確に把握していたし、狙いも完璧だったはず。

釈然としない結果となかなかやってこない仲間の救援、もはや絶望的だと感じたエンデバーは体の力が抜け身も心も折れてしまった。


正面にいるクエスが再び消えたのを感じたが、もはや彼は魔力探知で次の攻撃の対処をしようとすらしなかった。


今話も読んでいただきありがとうございます。


誤字脱字等ありましたら、ご指摘ください。

ブクマ等々ありがとうございます。


次話は8/11(水)更新予定です。 では。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=977438531&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ