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乱戦2

ここまでのあらすじ


進軍したクエスたちだったが、闇の国が用意した再生する壁に引き付け役すらままならない状況が続いていた。

状況を打開すべく、クエスが最高会議あてに報告書を送った。

◆◇◆◇



数日後、クエスの書いた報告書と言う名の上申書…いや、抗議文が女王の元へと届く。


「先行している引きつけ部隊から再び上申書が来ております」


文官が封された封筒を丁重に渡し、女王がそれを受け取った


「ん、確か先週そのまま攻撃を続行せよと命令を出したはずよね?」


「何か新しいことがあったのかもしれません」


「んー、それはそれで困るわ。一光たちにはそれなりに敵の注目を引きつけてもらわないと。

 その間こちらはトルクレンツを落とす手はずよ、そうしないとブラックフェーブルを活用するのに支障が出るわ」


少しイラつきながら中の書面を取り出しその内容を読んで、女王は渋い表情になった。

厳しい表情のまま、彼女は人差し指で机を何度もトントンと叩く。


一部の者にしか話せない内容だと理解したのか、周囲の者たちの大半はすぐに退出した。

聞かせていい人物だけが残ったことを確認し女王が口を開く。


「まいったわね、思った以上に再生する壁は厄介なようよ」


同封されていた薄いチップを黒いモニターに差し込みむと、すぐに映像が映し出された。


クエスとボサツが壁に向かって収束砲を放つと、大きな穴が2つ空き一見突撃可能のように見えるが

いったん下がって様子を見ると、徐々に壁が再生し、数分後には再び分厚い壁に戻っていた。


これでは内部への突入など不可能と言える。

今はブラックフェザーにしか見られない外壁だが、これが他の都市にも実装されれば非常に厄介だ。


「これが破れずに思った以上に苦戦しているようね。被害報告に実数がないから大したことないと思っていたけど…既に1割は死者が出ている。想像以上に厳しいわ」


「ううむ……」


「女王様。原理はわかりやすいですが、これは維持するだけでも相当な魔力を食うはず。消耗戦にもっていけばこちらが有利なのは変わりないと思いますが」


「そうでもないみたい。一光の報告によると、相手は壁のどこでも自由に穴があけられて突撃できるそうよ。2人のいない防御の薄いところを上手く狙えるようね。

 これでは互いに兵を削りに合えば、補給線の薄い分こちらが不利になる一方。消耗戦はあの2人をもってしても厳しいと言えるわ」


「それは確かに。しかも弱いところを狙われる分損害が出やすくなっているとは…さすがの御二人でも3千の兵すべてをカバーするのは不可能でしょうな」


「下手に追いかけて再生壁の内部に入れば分断され各個撃破。ここで想像して案を出すより、いいからこっちに来てみて見ろってのが実に彼女らしい言葉ね」


クエスは部下の前で話しながらシンプルな報告書を装っていたが、実は色々な状況を手早く書き留めていたのだ。

そのため状況がより詳しくわかり、具体的な対処法を考えた方が良いのではと女王も思い始める。


「しかし、要請してきた風の部隊千人は結構厳しいわね…あと、あれもか。んー、さすがにあれは今連れ戻せないし…まいったわ」


「あれとは?」


「ああ、クエスの弟子よ。なぜかは知らないけど……って、ああ。彼は風属性が使えたわね。

 あの例の男。確か今は村長をやっていたわよね?」


「コウの事ですか。隠密隊の報告では、村長に就任し村を立て直しているとなっています。どうやら村民の支持が強かったらしく…」


「はぁ、このタイミングで呼び戻せなくなるなんて…」


コウはまったく気にしていないが、女王にとってコウは悩みの種であり続けている。

クエスが戻る前にはコウを連合へと連れ戻したい。そう考えていた女王は見張りをつけ常にその機会をうかがっていた。


どうせすぐに傭兵生活に音を上げるだろうと高をくくっていたし、その時に連合に戻らないかと提案すればすべてが丸く収まると考えていたのだ。


最初の使者が拒否されたまでは想定内だと軽く受け止めていたが、時間が経つにつれ、彼が中立地帯の傭兵生活に馴染んでいくのは完全に想定外だった。


なんせ都市長として最高権力を握り、権力者として満足のいく生活をしていた者が、まさか傭兵生活に馴染むなんて誰も想像つかない話である。

そして、放っておくうちにあれよあれよと功績を立て、町にとって欠かすことのできない人物にまでなってしまう。


ここまでなら強権的に連れ帰ることも、周りに手をまわしてとにかく戻らせることも何とか可能だった。

もちろん強権的な手法は関係にさらなる亀裂を生みかねず、女王としても手をこまねいているしかなかったのだが。


そんな状況で目の前の戦争に集中していた隙に、コウが村長になったという知らせを聞いて、女王は思わず握っていたペンを落としたほどである。

もはや自分に対する当てつけにすら見える村長就任で、女王側がコウを連合に連れ戻すことが相当困難になってしまった。


「女王様、2時間後には今回の報告書を受けて既に最高会議が組まれております」


「はぁ、手を打つのが早いわね…わかったわ」


報告書の文面を見せてもらえない軍司令部や内政官のトップの面々は、ため息をつき続ける理由がわからずかける声が見つからない。


ただ単純に一光様と三光様が想像より厳しい状況に立たされているのだと思い、各人がよりよい手を考えるべく一旦自分たちの持ち場へと戻る。

残された女王は八方ふさがりの状況に胃の痛む思いだった。




2時間後、一番最後に女王が入室し席につく。

会議が始まると早速声が上がる。


「戦況は変わらずだと聞いてるんだけど?」


笑顔で訪ねてきたのは中立派のシザーズ・リオンハーツ。

戦況が変わらないのなら何のための集まりなんだと不満を言いたげだが、表情はいつもの薄っぺらな笑顔だ。


「ええ、そうよ。だけど敵の主力を引きつけておくための一光たちが結構苦戦しているようなのよ。このまま時間が過ぎれば万が一もあり得るわ」


「確か再生する壁がうっとうしいって話じゃなかった?」


中立派ルルー・エレファシナの確認に女王がうなずいた。


「そうね。だけど思った以上に厄介で打ち破れず、すでに1割の死者と2割の負傷退場者が出てるわ」


「どーぜ一光と三光は死にはしないわよ。いいじゃない、放っておいて」


「勝手なこと言わないでほしいわね。三光はうちの一門で最も大切な人物の1人であり、この連合においても最重要人物の1人なのよ。

 そんな仲間を見捨てるような発言をしていると、いざという時あなたが見捨てられるんじゃない?」


ルルーにチクリと針を刺したのは融和派のリリス・レンディアート。ボサツを擁するメルティアールル家の守護家の当主である。

その指摘に多少思うところがあったのか、ルルーは不満そうな表情を浮かべながらも反論しなかった。


「とにかくこの映像を見て」


女王がクエスの送った映像を自分の後ろと正面にある大きなモニターに表示させる。

クエスやボサツ、それに数百の兵士が魔法を放つも、兵士たちの攻撃では思ったより崩せず、クエスたちの攻撃なら貫通するものの数分で再び元に戻っていた。


前回も同じような映像を流したが、再生する特長にのみスポットが当たった映像だったためそちらばかりが注視され、そこまで脅威だと判断されていなかった。

だが今回の映像により、思ったより強度があり再生力も高い土壁だとわかり出席した当主たちは渋い表情を見せる。


「前回結論が出たように、これはかなりの魔石が使われていると考えられるわ。

 ただし、これを過剰な攻撃で再生システムごと壊せるのかどうかを早期に試しておきたいというのが、現場のクエスの意見よ。

 確かにここで試しておかないと、いざという時に使われると相当な足止めとなりかねないわ」


そういうとモニターにクエスの直筆の報告書が表示される。

愚痴っぽい表現がところどころに見られ皆多少呆れるが、あまり良くない状況だというのはしっかりと伝わった。


「援軍に風の部隊千人…無理ね」


支配派のレディ・ポンキビーンはため息をつき、クエスの要請をバッサリと切り捨てた。

ちなみに残りの当主3名は戦場に出張っており、代理はよほどの緊急事態でない限り最高会議には参加しないため空席となっている。


「何とか兵を回せないかな~。僕は一光の言う強度を調べる案に賛成だね。それに無理させている2人の要望を少しは聞いてあげないとさ」


「無理無理。風使いの千人単位の部隊ってルーデンリア傘下の風の国にしかないじゃない。しかもトルクレンツの攻防に千5百は回してるはず。

 これ以上出せというと、さすがに猛反発するんじゃない?」


「それはわかるけど、これ以上放置するのは一光たちにも悪印象になるし、手を打っておくべきだと思うな~」


反対するルルーに対してシザーズが笑顔でクエスたちの意見を汲み取ろうと踏みとどまる。

穏やかに見える彼だが、一旦堅持する姿勢を見せるとなかなか動かない事でも有名だ。


「無理なものは無理よ。だったらこのコウって奴でも送っとけばいいじゃないの?」


「君がそれを言うのかい?君のところにいたのを中立地帯送りにしたことは、この場に居る全員が知ってるよ」


「……っん、あいつのこと!?…まぁ、うちの一門がやらかしたことは認めるわよ。でもそれは過ぎた事じゃない。

 女王様が使者を送って、クエスの名でも出せばすぐさま帰って来るでしょ?」


少し勝手過ぎる発言に、隣にいた相談役のエリオスが机の下で手を触れると、ルルーは一旦エリオスを睨むも悔しそうに口をつぐんだ。

こうやって制御できる者がいるからこそ、周りもある程度ルルーに対して寛容だったりする。


仮にも互いに同格の立場なので一方的に上から注意するわけにもいかず、コウの件に関しても特段処罰は下っていない。

確固たる証拠もなく、一勢力をまとめ上げている上級貴族の当主を他の当主たちが処罰するのはさすがに難しいのだ。


「ルルー、その話はその辺に。残念なことに今彼をこちらに戻すには穏便な手を使えない状況なのよ」


「えっ、なんで?たかが貴族でしょ。あんなところにいるよりこっちにいた方がずっといい生活が送れるじゃない」


事情を知っている女王とリリスは軽く息を吐くも、ルルーの言葉を無視して話を進めようとする。

だが余計なことにシザーズが首を突っ込んできた。


「へぇ、どういうこと?師である一光の要請にも従えないほどの状況だと、それはそれでまずいんじゃない?」


リリスはわざとらしく困った顔をするので、女王は軽くため息をつくと簡単に説明し始めた。


「今彼は色々あって村の村長として復興作業を指導しているのよ」


「えっ?」


これには質問したシザーズだけでなく、ルルーやレディも驚きを隠せない。

中立地帯に追放されたとなれば大抵やるのは傭兵業だ。それなりの実力があれば食う分には困らない。


だが村長と言うのはいくらなんでも話が飛び過ぎている。

貴族とはいえ、それを名乗ったからといって中立地帯の平民たちがついてくるわけがない。

どうすればそうなるのかすら彼らには思いつかなかった。


「途中の流れは説明しないけど、今彼は村長をやってる。ここで彼を強制的に呼び出せば、ルルーがやったことをまたやることになるわ。

 クエスにとって彼がどんな存在なのかは測り知れないけど、これ以上の関係悪化は悪手ってくらい誰でもわかるわよね」


「なるほどね……思った以上に彼は変わってるなぁ。となると彼を向かわせるのは無理だとして、代わりの何かは手当しないとねぇ。

 どちらにしても一光や三光があの壁を危険視している以上、こちらも何らかの手を打つべきじゃないかな」


「やむを得ないわね。2百程度の風の兵士を混ぜた混成部隊を送るよう手配しましょう。風の国への説明はこちらで行っておきます」


「助かります」


「いいね~、さすが女王様」


「まぁ、無難な手かと」


ルルーは完全にスルーされ、女王と当主3名が合意したことで話は終わる。

女王の言葉に自分がやったことではないと反論したかったが、下手に口出ししてぼろが出るのも危険なのであえて触れないことにした。



「しかし、予想以上にトルクレンツ攻略には時間がかっているよね?そんなに大変?」


「えぇ、敵の数はおよそ3万の上に援軍も随時呼んでいるみたい。風の高速移動部隊はうまく機能しているようだけど、敵を混乱させるまでには至らないわ。

 一見優位が続いているけど、底が見えないと報告も来ているわね」


「そこが気になるんだよね」


「シザーズ、どういうこと?」


女王との会話にレディが混ざって来る。彼女もぼんやりとだがこの状況に違和感を感じていた。

その答えをシザーズが持っているのではと思い、普段はあまり積極的に会話に混ざろうとしない彼女が女王との会話に自ら混ざってきたのだ。


他の2人もそのことに驚きシザーズの方を見る。


「いやぁ、都市に入るキャパっていうか、外壁付近に立って守る兵の数にはどうしても限界があるでしょ?」


「ええ。とはいえ、どちらの都市もかなりの大きさだし敵兵も3万は余裕で入る。実際数に任せた堅固な守りが敷かれているわ。

 確かに一光たちのいるブラックフェーブルでは一部に立たせておけばいい状況だけど…」


「でも向こうの兵力ってそれだけじゃ少なすぎるでしょ?だったらどこかをこっそりと進行してきているんじゃないかと不安になるんだよねぇ」


「少なくとも今監視網に引っかかった闇の部隊はいないわ。その点はルーデンリア内の戦略会議でも指摘があったので、監視の強化は指示しているわよ」


「だったら中立地帯とか?」


「それこそあり得ない話じゃないかな?今諸刃の剣を抜くほど闇の国が追い詰められているとは思えないし」


中立地帯が戦場と化した場合、中立地帯を飲み込んだ後の互いの国境線は現状の数倍に広がる。

お互い防衛を捨てざるを得なくなる血みどろの争いと化すのが誰の目にも明らかだ。


だからこそリリスが指摘するように、よほど追いつめられない限り中立地帯を戦場化しようとは思えないのである。


「一旦落ち着きなさい。一度各一門で監視を強化すべき地点を再度洗い出すよう要請します。

 5日後の定例会議で各一門から上がってきた情報をもとに、強化すべき場所を絞り込みましょう。

 ほかに議題がないのであれば、解散とします」


この場に居るほぼ全員がシザーズの言う『秘密裏の侵攻』を気にしたため、その対策を優先するためにも延長されることなく臨時の最高会議は終わった。


出席できなかった当主のいる一門は、ルーデンリアから急ぎ指示が伝えられる。

一門の各国が関わるところでどこか危険な場所はないかなどを、各国が急いで情報をまとめ上げることとなった。


今話も読んでいただきありがとうございます。


誤字脱字等ありましたら、ご指摘ください。

誤字だらけの上に内容を少し変えたりしていたら、修正にかなり時間がかかってしまいました。


感想ありがとうございます。

読者様には日々感謝です。…頑張らないとな(汗


次話は7/30(金)更新予定です。 では。

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