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英雄の芽13

ここまでのあらすじ


ようやく町へと戻ってきたコウだったが、自分の責任の重さに耐えきれず

1人で拠点から出て行った。


コウが出ていくと、皆何を言うべきなのか迷って部屋が沈黙に包まれる。

こういう時、あまり空気を読まない人物がいると案外助かるものだ。


「なぁ、1つ思ったんだが…コウ殿はナイーブすぎないか?一応、貴族なんだろ?貴族ってものはもっと偉そうにしていると思っていたんだが…」


「ナ・イ・ガ・イ!私たちは新参者、そういうところに口出しちゃダメでしょ」


「まぁ…そうだが…気になるだろ?」


注意に対して悪びれるつもりもないナイガイの言葉に、ほかの者たちも呆れて場の空気が変わる。

少し気が楽になったのか、メルボンドが話し始めた。


「誰しも失ったことによる悲しみを受け止める時間は必要です。今は少しそっとしておきましょう」


メルボンドの意見に皆が同意する中、マナはどうしても気になるのかシーラに話しかける。


「ねぇ、こっそり後ろをついて行ったら…ダメかな?」


「ダメですよ。師匠の感知範囲がどれくらいあるのか知っているのでしょう?視界に入る範囲で尾行すれば絶対にばれます」


「うーん…そうだよねぇ。師匠は家の向こう側にいようが余裕で感知できるもんね。はぁ」


「各自出来ることをして、元気になったコウ様をお迎えするしかないと思います。私は早速夕食の準備を始めますので」


エニメットがそう言うと、少しでも何かしたいと思っていたエンデリンとユユネネと従者たちが彼女の元に駆け寄った。

メニュー表を開き、どれがいいかと話し合いが始まる。

少しでもリーダーに元気になってもらいたい、そんな気持ちが伝わってくる光景だった。


「んー、じゃあ私も出かけてこようかな」


「マナ!師匠の後をつけちゃダメって…」


「大丈夫、それはやらないよ。ちょっとギルドに行ってきて盗賊団の情報をもらってこようかなって思ってね。

 それと師匠のことが心配で急いで戻ってきたから、報告を適当にすっ飛ばしちゃったんだよねー」


「でしたら私も行きますよ」


「だったら俺も行こう。一応盗賊共を2人は殺したからな」


「おっ、ナイガイもやってたんだー。だったら全員で40超えたじゃん。なかなかだよねー、私たち」


楽しそうに会話しながら出て行く3人。

残ったメンバーもコウのために今やれることをこなそうと動き始めた。

そんな中、メルボンドがメイネアスに近づき小声で尋ねる。


「メイネアス、コウ様はどうでした?」


先ほどの場に居なかったこともあり、彼は状況を詳しく知りたがっていた。

だがメイネアスは質問に少し迷った様子を見せる。

ここは詳しく話を聞くためにも、彼はあくまでメイネアスのせいじゃないことを強調した。


「ショックはかなり大きそうでしたが…仕方がありません。結果は期待以上でしたし、後はコウ様の気持ち次第ではないでしょうか」


「私も…大丈夫だと思ってますが……あの方は思ったよりしっかりしているので、今は信じるべきかと。

 必要だと思った時に支えるのが私たちの役目です」


「ええ、あなたがそういうのなら大丈夫だと信じましょう。少なくとも氷の心で逃げずにちゃんと受け止めている辺り、私も大丈夫だと思っています。

 とはいえ、なかなか厳しい言葉をぶつけたのですね」


「正直言えばコウ様に対して多少甘く接してもいいのですが…今回もそれだけの成果を出したことには違いありませんし。

 ですが、我々があまりに甘すぎる対応をとっていると、入ってきた傭兵たちの敬意が薄れてしまいかねません」


「なるほど、確かにそうです。しかし…残念なことに期待以上のことは起こらなかったようですね。

 あなたの言葉でコウ様が指揮官としてより立派になられるとかと思ったのですが」


「いちいち嫌味を言う暇があったら、さっさと報告書でも書いてれば?」


「ふふっ、意地悪言わないでください。状況は正確に把握しておかないといけません。

 あまりズレた報告書を書くと、向こう側が動き出しかねませんから」


皆どこか落ち着かない様子を見せながらも、コウが元気になって戻ってくることを信じ、今は自分のやるべきことに目を向けることにした。



◆◇◆◇



精神的に疲れきった俺は、皆が心配しているあの状況から逃げ出した。

周囲の心配している感情すらも非難しているように感じたからだ。


そのまま特に目的もなく町を歩いているが、1人になったらなったで何度もあの光景が頭に浮かぶ。

すべては自分が発端となり300人を超える村人が犠牲になった。


泣き叫びながら行方の分からぬ者たちを呼びさまよう村人たち、その原因は自然災害ではなく自分だ。

彼らの声や姿が頭の中で再現されるたび、俺は胸が締め付けられる。


「くっ…こんな結果を…望んでなかったのに…」


すべては俺の甘さ、視野の狭さが引き起こしたこと。

そんな彼らから恨み節を投げつけられれば、ここまで自分を責めることもなかったかもしれないが

彼らが出した答えは俺をリーダーとして、旗印として、村を再建する案だった。


俺が犠牲を出してしまった以上、彼らの期待を受けて死力を尽くすべきだとは思うが

この状況でリーダーになることが、300人もの死体を積み上げた高台から指揮するように感じ即答できなかった。


それに再び盗賊が襲ってきたら、その時も俺は仲間の命を優先させるだろう。

だって…流星の願いにいる皆を失うことだけは…許容できないから。


そんな俺が村のリーダーに就任する?あり得ない…いや、許されるべきではない。


「だが…どうすればいい…」


そう言いながらもやるべきことはわかっていた。

彼らが期待を寄せ頼る存在は、残念なことに俺くらいしかいない。


村を指揮し、元の状態以上にすることくらいしか今の俺に出来るお詫びはない。

彼らの死を乗り越えて、再び犠牲が出る可能性も許容して、それでもやるべきことをやらなくてはならない。


はっきり言って道化師よりも酷い役だ。民衆から笑われるのではなく、民衆にどこか睨まれながらも彼らを導くなんて…。

こういうことを受け止めて前に進むのが、メイネアスの言うような指揮官としての資質なのだろうか。

せめて、再び盗賊が襲ってきたときに返り討ちに出来るような体制が欲しい。


だが、肝心のボルトネックとは仲が悪く、これ以上仲の悪い傭兵団を増やすべきではないから、大量の人員獲得は避けるべきだろう。

今でも資材を始め色々な点でこの町を村の発展のために利用している。

町全体と険悪になれば、その恩恵すら受けられなくなり村が干からびかねない。


「もっと俺に力があれば……」


そう呟いてみるが、すぐに間違いだと気づく。

俺に力があったところで3つの村全てを同時に攻撃されれば守ることは不可能だ。


では、どうすればいいのか。簡単だ。

数と質の両方を揃えればいい。最近目標にしていた傭兵たちのでかい組織を作り上げればいいんだ。


多少なりとも数を揃えるのはまだしも、質を揃えるのはかなり難しいと言わざるを得ない。

言っちゃ悪いがエンデリンぐらいの奴が100人いても…勝てなくはないが犠牲はかなり出る。


『部下や大切な者たちを全員守り切って勝つ戦いなど存在しません』


メイネアスの厳しくも正しい言葉が再び頭の中で響く。

結局地道に歩んでいくしかない。それは村人の更なる犠牲も許容することになる。

考えても考えても、思考がループし結論が全くでてこない。


「くそっ。仲間を優先し…なんだよ、もう…」


考えがまとまらず苛つくが、イラついたところで何も前には進まない。


村長の遺志を継ぐためにも、死んでいった村人たちが無意味でないと証明するためにも、俺たちのやり方が間違っていないと示すためにも

シーラとマナにとって誇れる師であるためにも……俺が出来る限りの時間で村を発展させればいいだけなんだ。

そう、彼らの死体を土台に高みへと昇って……。


再び盗賊たちが来たとしても、犠牲を許容して前に進む。本当に吐き気のする話だ。


「いつから俺は…こんな考えが出来るようになったんだ」


思い出してみれば都市長として指示を出している時も、多少の不満や犠牲を許容してきた。

都市の住民の生活をよくしようとすれば、その分貴族たちから不満が出る。


だがそれでも都市の発展には必要と考え、彼らに犠牲を強いてきた。

犠牲失くして変化はあり得ない。村人たちの覚悟のようなものを、俺も都市長として受け入れてきたのだ。


「そうか、あの時から徐々に俺は慣らされていたのか…」


知らず識らずのうちにとは、なかなか立派な育成計画だと思う。

きっと俺には必要なのだろう。今回の犠牲を飲み込むことも、次の犠牲を許容することも。


俺は立ち止まってこぶしを震わせ、息が乱れ始めた。

どうしようもないことに抗うことなど、今の俺には出来ない。


何もかも投げ捨てれば抗えるかもしれないが、あの厚遇を考えると師匠たちや光の連合は俺を簡単に捨てたりはしないんだろうな。

ならばそれを利用するしかない。そうすれば俺はもっとなすべきことをなせるかもしれない。だが……。



もう夜になってきており辺りは薄暗い。

だが今の俺にはこの薄暗さが少しだけ心地よかった。


目立つことなく、この身が闇に溶け込んでいくように感じる。心までも闇に溶け込んでいく感じだ。

そんな時だった。いつの間にか目の前にいた爺さんに声をかけられる。


「そこの若者よ、随分と悩んでいるようじゃのぅ」


「まぁ、悩んではいるが爺さんに相談するほどじゃないよ」


見た目はずいぶんと歳をとっている爺さんに見えるが、うっすらと魔力を感じることからこの町にいる傭兵だろう。

とはいえ俺より年月を重ねていることは間違いない。


魔素体になると年齢を固定できるが、急激に年を取ったり若返ったりすることはできない。

少なくとも俺より4,50年は長く生きているはずだ。下手すると百年以上かもしれない。


魔法使いは若い見た目をしている者が多いが、見た目を年寄りにする魔法使いはまずいないと聞く。実際俺も見たのはこれが初めてだ。

一度固定年齢を後ろへずらすと若返ることも出来ないし、魔力や魔法である程度補えるとはいえ、年老いた体では基礎体力が落ちる。


貫録を出すためだとしても一般的には40代が限度、そういった意味ではこの爺さんは相当の変わり者と言える。

まぁ変わり者じゃなきゃ、今のこんな俺に話しかけたりはしないだろうが。


「ほっ、ほっ、ほっ。わしはだてに歳をとっておらんぞ。若いお主の悩みなどすぐに解決してやろう。

 それに、悩みと言うものは赤の他人に相談する方がすんなりと話せるものじゃ。溜めこんでおいても何の得もせんぞ?」


随分と言いたい放題言ってくれる。

が、確かにマナやメルボンドに相談するよりは気が楽かもしれない。


今まで会ったことのない爺さんだし、来訪者なら一度話したらそれっきりで終わる可能性が高いだろう。

なんせこんな町中で爺さんの格好をした魔法使いなんて、今まで見たこともなかったしな。


「まぁ、よくある話だよ。俺の指示が失敗して犠牲者が出た。責任を感じているが、周りは気にするなと言わんばかりだ。

 いちいち気にしていても仕方がないのは分からんでもないが、死んだ奴は戻らない。気にするなという方が無理だろう」


「ふーむ、なるほどのぅ。つまり指揮官のプレッシャーから逃れたいというのじゃな?」


「逃げられるものならばな。だが、現実はそんなに甘くない。俺がみんなの命を預かっているんだ。勝手に逃げるわけにはいかないのが現実さ」


確かに逃れたい。だが、俺は師として、皆をこんな場所に連れてきてしまった大将として、責任を放棄するわけにはいかない立場なんだ。

それを捨ててしまえば…きっと俺についてきてくれる者など誰1人いないだろう。


「ならば妙案があるぞ。お主はおそらく組織の中で一番偉い立場なのじゃろう?ならその次に偉い者を指揮官とし、お主は裏で指示するというのはどうじゃ。

 問題が起きればそやつの責任に、功績を立てれば横取りするかそいつを褒めればよかろう。褒美を与えるというのもありじゃな。

 これならばお主は褒めるか叱責するかの役割となり、そこまで苦しむことなどあるまい」


ははっ……確かに妙案と言えなくもない。もちろん責任から逃れたいだけならばありだろう。

だがこの苦しみをマナやメルボンドに押し付けろと?いくら逃げ出したい俺でもそれだけは許容できない。


「悪いがそんな話には乗れない。大切な仲間に苦しみを押し付けて後ろでふんぞり返っていろと?

 そんなことできるわけないだろ、ふざけるな!」


「ほっほっ、それほど強い意志があるのなら悩みなど直に消えるでじゃろうに。

 となると、お主が欲しいものは今の苦しみから逃れるすべではないのじゃろ?」


最初から見透かしていたと言わんばかりの言い方に、俺は睨み返したが気にする様子はなさそうだ。

年の功だけあってか、俺に対しても動じることなく話してくる。


こんな一期一会の相手の方がはっきりと言ってきそうだし、ある意味良い相談相手かもしれないが…。

そう考えたせいか俺はあまり警戒することなく本当のことを話し始めた。


今話も読んでいただきありがとうございます。


誤字指摘ありがとうございました。

今後ともご指摘いただければ、本当に助かります。


次話は7/21(水)更新予定です。

次でこの小話は終わるかな…次の次かな。。そんな予定です。 では。

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