英雄の芽7
ここまでのあらすじ
村へと到着した流星の願い。だがすでに村には火の手が上がっていた。
「よし、行くぞっ」
俺の開始の言葉と同時に全員が風の板に乗ったまま身構える。
村のそばまで近づくと3人が飛び降りる。先ほど火の手が上がっていた場所とはほぼ真反対の位置だ。
指示通りメルボンドは離れていき、ナイガイは村の中に少し入った位置でこっちに避難するように呼び掛け始めた。
エニメットは少し離れた位置で全体の状況を少しでも把握しようと周囲を見渡している。
ここは問題なさそうだ。そう思い俺たちは風の板に乗ったまま村の中に入り込んだ。
村は家々がバラバラに立ち並び道が入り組んでいることもあり、ある程度進んだところで風の板から降りる。
村人たちは避難しようとしているものの、どちらに逃げたらいいのかわからず立ち止まったり、色んな方向に走って混乱していた。
「全員向こうへ逃げるんだ。俺たちの仲間が待機しているし安全だ。他の者たちにも呼びかけながら逃げてくれ」
「あぁ、流星の願いの皆様……助けに来てくれるなんて…なんと感謝をすればよいのか…」
こんな状況にもかかわらず、村人たちは地獄に仏が来たかのような感激ぶりだ。
だが違う、俺はそんな存在なんかじゃない。
「周りに伝えながら急いで逃げろ。俺たちの人数じゃ盗賊全員は防げない。時間稼ぎくらいしかできないんだ」
「は、はいっ。任せてください」
俺の注意に笑顔で答える村人たち。悲惨な状況にもかかわらず笑顔を見せるのは…それだけ俺たちのことを信じてくれているのだろう。
罪悪感を感じないわけではない。だが、今はそんな気持ちなどゴミ箱にでも叩き込んでおくしかないのだ。
盗賊たちを倒し、仲間に死者を出さないことが俺にとって一番大事なことであり
結果的には村を守ることにもつながっていく。だからこそ迷っている場合ではない。
「急げ、向こう側に逃げるんだ」
「向こう側に走って逃げてましょう。ここは危ないです」
「あっちに逃げてねー。あっちだよ、あっち」
少し離れた位置でマナとシーラも呼びかけながら、火の手の上がった方へと進んでいく。
俺たちがやるべきことから考えると、正面からあの火の手の上がった一帯に向かって突き進むのは悪手だ。
まずは端にいる奴等から削っていこうと俺は指示を出し、全員で左寄りに動いて行く。
右側にいる村人たちには逃げる指示を伝えることはできないが、少しでも逃げる方向に一定の流れが出来れば右側にいる者たちもその流れに乗ってくれるかもしれない。
あくまで期待でしかないが…誰か1人を右側に行かせるなんて真似はできない以上…仕方のない作戦だった。
数分ほど呼びかけながら進んでいくと、前方100m程先に魔法使いの反応を感じた。
俺は2人に指示を出し、ゴーグル型の魔道具を使って敵の位置情報を共有する。
これは本当に便利な魔道具だ。特に俺との相性が抜群だと言える。
家や柵、塀や置いてある物など遮蔽物の向こうからでも相手の位置を確認でき、それを正確に2人に伝えられる。
貫通力では光属性の方が上なので、シーラに魔法を準備してもらい、その間俺とマナは相手との距離を詰める。
合図をして80mほど離れた位置から2発の<光一閃>が放たれ、家の壁を貫通して1人の盗賊の頭と膝を貫いた。
その周囲にいた2人が敵襲に気づき驚くが、即座に俺とマナが射線の通る位置に出て魔法を放ち即死させる。
すぐ近くにほかの盗賊は見当たらず、100m以上離れているのか感知できる範囲にもいないので、他の盗賊に気づかれることはなかった。
「よし、次を狩るぞ」
「うーん……思ってたより弱いね。多分LV20あるかないかくらい?」
「これならばしっかりと組んだ光一閃で相手の障壁ごと貫けそうです」
頼もしい言葉だが倒したのはまだ3人。この村の規模に対しこの小隊配置となると少なく見積もっても60人以上いそうだ。
……まぁ、盗賊がそんなにきっちりと人員を配置して拡大制圧しているとも思えないが。
「どこの盗賊団かわかるか?」
「うーん、聞く暇もなく死んじゃったしなぁ」
「あ、服に団章が…金剛団ですね」
「金剛石だろ。やはり近場の奴か…しかも数がいるという話の」
「す、すみません」
申し訳なさそうに謝るシーラを見て俺は少し肩の力を抜く。
俺があまり根を詰めすぎると、彼女たちもその空気に引っ張られているようで少し固くなっている…気を付けておくことにしよう。
こういった状況ではマナくらい力が抜けている方がいい。
もちろん強敵相手となれば集中しなくてはならないが。
「よし、次はあっちだ。外周をどんどん削っていくぞ。向こうが異変に気付く前に20は減らしたい。
次の小隊は4。右2は俺が、真ん中をシーラが。行くぞ」
「はいっ」
出来るだけ周囲の魔力を後方に流すようにして感知されないようにしつつ、俺たちは次の目標との距離を詰めていった。
◆◇
そのころ、炎上している場所から少し離れた位置で金剛石の盗賊団長ガランドが村の燃え盛る様子を見ていた。
「ふっ、この村はでかいな。燃やしがいがある」
「ボス、全部燃やしては何も手に入らないっすよー」
盗賊の一人がもったいなさそうに愚痴る。それを聞いた盗賊のボスは軽く鼻で笑った。
「大丈夫だ。全部燃やすわけがないだろ。腰抜け傭兵どもの到着もあと1時間半ほど…だったか。その前に村人の死体を100ほど集めておけよ。
傭兵どもが如何に無能かを思い知らせるためにも、見世物として燃え盛る死体の山を見せてやらないとな」
「1時間もあれば余裕かと。ですが、できるだけ年寄りどもを集めていますので油は多めにあったほうがいいかもしれません」
「新しい主人は誰なのか、きっちりと示しておかないとな。見世物用と合わせて200は減らしても構わん。
なんせこの村は千人ほどいるらしいからな。これほど躾けがいのある村は初めてだ」
ガランドの言葉に周りの盗賊たちが沸き立つ。
それをある程度抑えるかのように、先ほど答えた幹部の女性が大きな言葉で盗賊たちに語りかける。
「お前たち、進行のペースを乱すなよ。連れ帰る男や女を品定めする時間は十分にある。最初から決まっている形で破壊する範囲を広めるんだ」
「もちろんっすよ」
「わかってますぜ、姉貴」
「姉貴と呼ぶな!リーネシャスと呼べ。正式な名前以外で呼べるのはボスだけだと言っているだろうが!」
「へっ、へい」
よく通る高い声に盗賊たちは委縮する。
彼女がこの金剛石の幹部であり、全体の指揮を任されているリーネシャスだ。
ある程度盗賊たちが落ち着いたのを見て、次の小隊を出発させる。
適度に小隊を散らしながら村を制圧するのは、既にここを防衛する小鳥箱を壊滅させたからだ。
彼らは最初に金剛石とぶつかり1名救援を呼びに町へ向かわせつつ残りは抵抗したが、外壁もなく村の範囲を示す申し訳程度の柵とわずか7名という少人数ではどうしようもなく
彼らの半分は死に半分は村の中へと下がった。つまり逃げたということだ。
もはや抵抗する意思も見られない村など、魔法使いの集団である盗賊にとっては赤子の手をひねる様なもの。
出来るだけ広く見逃しの無いように小隊を広げつつ進行させ、村全体を制圧しようとしていた。
リーネシャスは全体の進行状況を確認するために風の板に乗り少し高い位置へと上がると、火の手の上がっている位置を確認する。
村人の住居など半分に減らしたところで、他の住居に押し込んでしまえば問題ない。
それより進行状況がここからでもわかるよう、金になる重要な施設以外を燃やすことで簡単に状況を確認できるよう指示していた。
そんな指示を出している彼女から見て、右側の火の回りが遅いことに気づく。
わずかではあるが遅れており彼女はため息をついた。
こういったことはよくある。気に入った村人をいたぶったり、か弱い抵抗をしてくる村人と遊んだりするとこうやって遅れが生じる。
所詮は盗賊に堕ちる程度の存在、馬鹿が自分の欲望を満たすために全体の進行を遅らせるやつなど彼女は何度も見てきた。
「ちっ、右手の端が少し遅れてる。誰かけつを叩きに行ってやれ」
「んじゃ、俺が行ってくるか」
多少めんどくさそうに幹部の1人であるヒロススが重い腰を上げる。
「5,6人くらい連れていけ。後れを取り戻させるまでは手伝ってやれよ、今の状況は美しくない」
「へいへい。だがリーネシャス、所詮俺たちゃ盗賊だ。あんまりきちっとした命令に従えるほど出来は良くねぇんだ」
「それくらいわかってる。だが異常を見つけやすいやり方は大切だ。お前らがさぼってることで間違ったエラーが伝わったとアホ共にもきっちり伝えておけ」
「りょーかい。じゃ、軽く見学にでも行ってくるわ。おい、お前ら一緒に行くぞ」
「へーい」
「うーっす」
「だるいっすねぇ」
やる気のない返事をする盗賊達5名を連れて、ヒロススが遅れている部分の支援に向かう。
金剛石は最初に村を襲って救援が向かってから、こちらに援軍に来るまでの時間もきっちりと計算し動いていた。
この村を支援している傭兵団がいるオクタスタウンからここに来るまでにかかる時間は4時間半ほど。
他の村を襲った時に救援を求めて使いが出た時間から計算すると、彼らが助けに来るまでにはあと1時間半ほどある。
1時間で村を制圧してしまえば問題ない。到着する奴らには悲惨な状態を見せることができる。そう考えていたのだが…。
◆◇
すでに彼らの右翼を15人ほど片づけたコウたちは、そろそろ中央を進行している盗賊たちを叩こうと考えていた。
周囲の家々は煌々と燃え盛っているが、残念なことにそれを消すわけにはいかない。
彼らがこちらを発見するタイミングが遅ければ遅いほど、コウたちは悠々と小隊を狩り続け盗賊たちを削ることができる。
もし消火して回れば、それこそ自分たちの存在をアピールし大軍を向けられる可能性だってあるのだ。
「よし、こっち側にいた奴らはあらかた片づけたな。少し中央寄りへ向かうとするか」
「そうですね」
コウとシーラが次へ向かおうとする中、マナが周囲の様子を見てある提案をした。
「ねぇ、師匠。この辺の家もちょっと燃やしておかない?」
「ん?なるほど、工作か…」
「うん、少しでも多く彼らを削るためにも、不自然さは消しておいた方がいいと思うんだよね」
確かに一理ある、そう思った時だった。こちらへ近づいて来る存在を感じた。
「数は6」
その言葉だけでマナとシーラはスイッチが入ったかのように対応ゴーグルに映る反応を見た。
「多いね、ちょっと強い奴も交じってる」
「こいつをやればもう少し時間が稼げるだろう…負担はかかるが、雑魚は一旦すべてシーラに任せる。代わりにこっちへの防御支援は無視していい」
「…わかりました」
「俺とマナはこの親玉を反撃させずにやる。一気に距離を詰めて魔力を相殺し……」
「大丈夫、わかってる」
ここでの戦闘が長引けば向こうはこちらに気づき、かなりの援軍を送り込んでくるだろう。
そうなるとこれ以上削ることは難しくなる。
まだ15人ほど…村人を犠牲にした結果としてはとてもじゃないが物足りない。
あいつらがここにやってきて回収していない魔石を発見する前に、本体と連絡を取られる前に、殺らなければいけない。
そんな説明しなくても2人は分かっているようなので、全員慎重に相手のとの距離を縮めた。
今話も読んでいただきありがとうございました。
この小話は10話くらいの量にする予定だったのですが…全然終わりそうにない。
うーん、考えていた話を文にすると余計なことをつらつらと書いてしまっているんだろうなと反省。
誤字脱字等ありましたら、ご指摘いただけるととても助かります。
感想ありがとうございます。やはり違う視点があると本当に助かります。
評価やブクマもいただけるとうれしいです。
次話は7/3(土)更新予定です。 では。




