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異世界からのスカウト ~光と闇の狭間に立つ英雄~  作者: 城下雪美
2章 下級貴族:アイリーシア家の過去 (18話~46話)
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事件後、上級貴族たちの動き2

ここまでのあらすじ


バルードエルス家を滅ぼしたクエスたち。だが貴族一家が殺されたとなれば、光の連合全体が動き出す。

各貴族の当主たちが、それぞれの思惑を持ったまま。


<沈音>の効果が発動し、青白い光が部屋の壁を伝わる。

これで外には音が一切漏れなくなった。

ちなみに、この魔法がかかっていても外からの音は中には聞こえる。非常に便利な魔法だ。



「さてと、あなたはフィラビット家の家長だったかしら、お話ししてくれると嬉しんだけど」


女王はまどろっこしい手などは一切使わず、メルルに対して隠していることを話すよう直球の一手を投げかける。

事件の内容が内容なだけに、急いで情報を集めて動きたいという思惑があってのことだ。

実際退出した貴族たちは、即部下を動かし情報集めに奔走している。


「まっ、光の連合国の利になるのならば、私だって協力することもやぶさかではないさ」


シザーズも味方に付くかのような言葉を発する。

君の味方に付くから安心してくれと、発言を促したいようだ。


彼の言葉は、その対象と早く接触したいからであってメルルを思いやったものではない。

ただ連合内に組み入れるという点では味方と言えなくはないが。


「シザーズ、お前が気づくとは思わなかったぞ」

ボルティスはシザーズの方を見て少し驚いて言った。


「嫌だなぁ、一見適当な奴に見えたとしても、ちゃんと要所は押さえておくのが優秀な当主というものだろ?」


シザーズはウインクをしながら返す。

ボルティスは男からウインクされ、不機嫌そうに何も言わず目をそらした。


緊張感の欠けた軽い雰囲気に押されたのか、この周りは味方しかいないと判断したのか

少し落ち着いた表情をして、メルルは話し出す。


「あの…女王様がいわれた特徴を聞いて…思い出した人物がいるのです」

「誰かしら?」

「ほぅ」


女王とシザーズが興味深そうに顔を寄せてきた。


「今回被害に遭ったバルードエルス家によって滅ぼされたアイリーシア家の……3姉妹です」

「おぉ、あの優秀と言われていた3人娘か、言われてみれば確か髪が緑色だったな」


ボルティスが思い出した!といった態度で、相槌を打つかのように感心した。


女王は知らないようだったが、シザーズは知っていたらしく右手を顎に当てながら思い出しつつ語る。

「なるほど、あの優秀な3人姉妹ならあり得る話か」

つぶやきながらも真剣に考えているようだった。


「その3姉妹ってのはよく知らないけど、アイリーシア家と言えば滅んだのは20年以上前じゃなかった?」


「はい。それ以来、生き残りを探してはいたのですが全く見つからず、バルードエルス家に取り込まれた者たちも

 誰かと連絡を取ったり活動している様子もなかったので皆死んだと思っていたのです」


「ふむ、確かその時はメルルのところで2年ほど都市アイリーを治めていて、一族の生存者を探していたんだったな」


「はい、そうなんです。広範囲への呼びかけも数年にわたり行ったのですが直系の血を引く者は現れず……さらに人員的に都市アイリーを維持するのが難しくなり、やむを得ずバルードエルス家に移譲を」


「それで20年以上たった今、突然復讐の惨劇が行われたってわけか、興味深いねぇ」


3人はアイリーシア家の3姉妹について話が盛り上がっていたが

女王はその肝心な3姉妹のことについてあまり知らなかったので尋ねてみた。


「その3姉妹ってのはそんなに優秀だったの?私は全然聞いたことがないんだけど?」

「ああ、すげぇ優秀で当時は有名だったんだよな。長女クエスは精霊の御子、次女と三女も天才と言われててさ」


シザーズは昔を懐かしみながら語った。

クエスの10程年上だったシザーズは当時からその3姉妹には目をつけていたのだ。


「その、今となっては話してもいいと思うのですが……」


言いにくそうに左手をゆっくり上げながら、目上の者たちが語っている場に割り込む。

3人がメルルを見て「ん?」といった表情をすると、メルルは語りだした。


「私はアイリーシア家と相当親しかったので知っているのですが、実はあの3姉妹全員が精霊の御子らしいんです」

メルルの言葉を聞いて、その場の3人は全員が驚いた。


精霊の御子は魔法使いになってから半年で第1属性がLV30を超えたものに与えられる称号で、連合全体でも数年に1度出る程度の貴重な人材だからだ。


精霊の御子に対しては光の連合から目をかけられ、潤沢な支援金が出される。

もちろん将来的に闇の国に対しての切り札になりえる貴重な存在になると期待しているからだ。


「ほ、本当か!?」

門閥の長の立場に当たるボルティスも知らなかったらしく相当驚いている。


「私は妹2人が天才と聞いていたけど……それが本当ならなぜ隠したんだい?まぁ、当時は今よりも精霊の御子を保護する制度は弱かった気がするけどさ」

シザーズがそう疑問を呈すがメルルは困った表情になる。

彼女はあくまで妹たちの才能を知っているだけで、その事情までは深く知らない。


「下級貴族ということで目立ちすぎるのと、姉妹への色々な要求を避けたかったと思いますが、正確にはわかりません。私も口止めされていただけなので」

メルルは少し申し訳なさそうに答えた。



女王はそんな話を聞いていてその3姉妹の価値はとても大きいものだと思った。

ただでさえ中級貴族の一族が全滅しており光の国の戦力が一部失われたところだ。

そんなに優秀なら光連合国の主力として是非手中に収めておきたい。


「ねぇ、その3姉妹、ぜひこの光の連合に欲しいわね。確実に戦力として期待できるわ。……いい手はないかしら?」


女王の一言にシザーズはすこし感心しつつ、悪い笑みを浮かべる。

ボルティスは何とも言えない表情を浮かべたが、メルルは女王の言葉に思わず笑顔がこぼれた。


「私が実行するなら、彼女たちが欲しているものをあげるだろうね」


シザーズは自ら具体的な提案は避けつつも、手堅い提案をした。

具体的な案を避けるのは、自分がその3姉妹を手に入れたいと思っているからだ。


「それでしたらやはり、都市アイリーではないでしょうか?一族の仇を討った今、欲しがると言えば亡き父母に報告できる国の再興かと思います」


メルルはここぞとばかりにクエスをアシストしようと、通常では考えられないような提案した。


クエスたちは普通に考えれば貴族一家を惨殺し、家を滅ぼした大罪人だ。

この国では貴族に対しての犯罪はとても厳しい。


通常の対応なら、国中を上げて彼女たちを見つけ出し処罰することで見せしめにし、同じことが起きないように抑止とするべきだ。

それなのに処罰どころか闇との戦いでかなりの武勲を立てた者にしか与えられないような国起こしを認めようと提案したのだ。


秩序と賞罰を重んじるボルティスは、自分の保護対象のメルルの提案に驚いて声も出ない。

普段のメルルはボルティスの思想信条を理解し、こんな常識外れの提案などしてきたことが無かったからだ。


「なるほど、それはなかなかいい手だね」


シザーズは満面の笑みを浮かべ、メルルの提案にもろ手を挙げて賛成のようだ。

女王は少し目を伏せてしばらく考えるように黙り込んでいたが、決心がついたようで提案をする。


「そうね、その手はアリね。さらに今回は貴族同士の復讐法をうまく適用しましょう」


復讐法とは貴族同士の争いを抑えるために制定したルールだ。


被害に遭った貴族が被害を与えた貴族に対して一定の条件の元決闘をし

被害を受けた側が勝利した場合受けた被害と同じものを与えた貴族に負わせるものだ。


決闘では生死を問わず決着がつくまで行われ、どんな酷い被害を受けても、たとえ一族皆殺しであっても決闘で勝利すれば同等の被害を与えられる。

このルール制定により勝ち逃げやり逃げへのリスクが増大し、貴族同士の争いを減らすきっかけになったのだ。


ちなみにこのルールはアイリーシア家とその半年後別の貴族家が滅んだ時に、これ以上光の連合内で内紛が起こるのを止めようと制定された。


貴族同士が争い光の連合下の国同士でで殺し合いになる事は、連合全体から見れば戦力の低下でしかなく

結果として闇の国を利することにしかならないということで、それを防ぐべく全会一致で決まったのだ。


ただ復讐行為として決闘を行うには前提があり、事前の申請と最高会議への決闘の連絡が必要なのだ。

今回のように思いつき手で適用するためには作られていない。


「女王様、良い手だとは思いますが確かあれは事前申請が前提ではなかったかと。これではさすがに不満が出るでしょう、特にバカスから」


ボルティスは心の内では賛成したい気持ちもあったが、ルールを守る必要性とバカス側の不満からの混乱を懸念して否定的な意見を出す。


メルルは自分の保護者に当たるギラフェット家の当主の発言を聞いて落ち込んだ。

直属の上級貴族の意見は被保護家の家長メルルにとってほとんど絶対だったからだ。


「そうね、まぁボルティスの意見もわかるわ。だけど、もし犯人が精霊の御子の3人だとすると、今ここで彼女たちに冷たく敵対するとどうなると思う?」


女王はメルルの顔を見て笑う。意見を求めているようだった。

だがメルルは厳しい表情を変えないボルティスを見て、意見することが出来ず下を向いてしまう。


「親しかったメルルに長女のクエスとやらの性格を加味して意見を聞きたいわ、いいでしょボルティス?」

「ええ、構いません」


ボルティスも判断に迷っているのか、メルルの意見を聞きたいようだった。


「あ、あの、あくまで過去のことなので想像ではありますが……信頼には信頼で答える分、敵対には敵対で答えそうなはっきりした子でした」


メルルは何とかして保護者であるボルティスを説得しようと

必死に訴えるように言葉を続ける。


「あの子は長女として一家の期待と責任を背負う役目を重要視していました。なので家の再興は光の連合への忠義のきっかけになると思うんです…その、私の願望も入っていますが……」


メルルは精一杯の進言をしたが、話の最後は自らの願望だということで、明らかに勢いの落ちた声になる。


「うーん、なるほどねぇ。どうあれこちらが賞金首や手配書で彼女たちを探そうとすればほぼ敵対となるでしょうね」

「まぁ、そうでしょうなぁ」


女王の意見にシザーズは軽く同意を示した。


「いや、ですが…」


それに対して規律を厳守したいのか、なおも納得しかねる様子のボルティス。

そんな態度に女王はやや呆れつつも理解を示し、説得を試みる。


「連合にとってこれ以上失うものがその3姉妹だけならボルティスの意見もアリだと思うわ……でもあと1つでも中級貴族をつぶされたり上級貴族に重大な損害が出たりすれば調子づくのは闇の国の奴らよ」


女王はボルティスに圧をかけるような迫力で言葉を続ける。

そんな状況をシザーズは楽しそうに見守っていた。


「私の立場では光の連合全体の強化こそが最大の関心事、あなたはルールの厳守でしょうけど。ここは譲ってもらえないかしら?」


ボルティスは反論できずに自省するかのように少し俯くと顔を上げ

「やむをえません、飲み込ましょう」

それ以上は反論をせず、やや諦め気味の小さめの声で同意を示した。



翌日、光の女王から各上級貴族に連絡がいく。

「バルードエルス家を殲滅させた緑髪の女性とその仲間は光の連合に取り込む。発見次第女王への連絡を。害を与えることは一切禁止する」


この連絡を受け、自分の門閥の貴族を家ごと潰されたバカス・ライノセラスは激怒する。

先日の会議では何とか一番乗りで目標を発見し殺してしまえば不問にする雰囲気だったので、いきなり出鼻をくじかれた気分になったからだ。


「なんだと!うちの守護対象を叩き潰されて黙って居ろってか。ふざけやがって!すぐに撤回させに行くぞ」

そう言って女王への面会の予約すらすることなく、バカス自らルーデンリア光国へ乗り込んできた。


急遽やってきたバカスだったが、光の女王は当然予見済みだった。

一門のしかも中級貴族をつぶされて黙るどころか取り込むなどと言われれば、抵抗することは目に見えていたからだ。


バカスは個室に案内され、女王と対峙する。


「女王、この連絡はどういうことだ!貴族を害した重大犯罪者を仲間になどありえないだろ!」


内容が内容なだけに女王は事前に他の6人の当主からは今回の一件の承諾を取り付けていた。

そのため議会を開けばこの案をバカスは承諾せざるを得ない状況なのだ。もちろん当の本人はその状況を全く知らない。


だが女王は根回しをしたうえで、出来るだけバカスをも説得したいと考えていたのだ。

たとえ今回の犯人を味方に引き入れたとしても、上級貴族とのごたごたが起きるようでは元も子もない。

ある程度強引にでも納得させたうえで引き入れる。これが女王の目論見だった。


「バカスの言い分も一理あるわ。単純に考えればその通りね。でも、今回貴族も有能な兵士も多く亡くなっている。

 その上にそれだけのことが出来る強者までを始末しようと消耗すれば闇の国を支援する行為にしかならないでしょう?」


「何を言っている!これだけのことをやる奴を仲間として置けるかよ!」


「あなたたちも門閥・派閥でいつもごたごたやっているじゃないの。時には暗殺もね」


復讐法が制定されたからと言って貴族間に何事も起こらなくなったわけではない。

暗殺から小さいいがみ合いまで貴族間では今でもトラブルが度々発生している。


「だが、それは……」

言葉に詰まるバカス。一家全滅までは無いにしても裏では様々な策謀が行われていることは事実だった。


「だ、だが、そいつが本当に強いかは不明だろ?不意打ちでやっただけで、さほどの強者ではないかもしれん」


女王は考える。ここまで情報が揃うとあり得ない話だとは思うが、バカスが言うことも一理ある。

今回の主犯が本当に精霊の御子と言われたアイリーシア家の姉妹とは限らないからだ。


「そうね、それはあるわね。……どう?もし名乗り出てきたら実力を測ってみては?」


「ふん、雑魚ならこっちで殺しても構わんと言うならこっちから決闘要員を出してやるわ!」

バカスは息巻いて殺してやると言わんばかりだ。


女王はバカスのガス抜きとその姉妹の実力を確認したいという考えから、その提案を飲む。

いい線に落ち着きそうね。女王は心の中でほくそ笑んだ。


「では名乗り出た時点でその主犯と思われる者たちの最低1人はあなたのところの人材と決闘ね。話にならない実力なら制止を聞かず殺してもいいことを裏で約束していいわ」


「ほほぅ、さすがは女王。話が分かるな。こうなれば奴らが出てくるのが、むしろ楽しみになったぜ!」

バカスはどうせ大したことがない奴だと高を括っているようだ。


「あと、この件が片付くまでクロスシティーはルーデンリアで、アイリーはフィラビット家で管理するわ」


「おいおい、それはいくら何でも乱暴すぎだろ。うちの門閥の管理都市だぞ二つとも」

女王の発言に再び食ってかかるバカス。


「アイリーはあなたのところにあってもトラブルの元になるわ。下手に彼女たちが乗り込んできて荒らされてもかなわないでしょ?

 それと、クロスシティーは決闘の結果によってはそちらに戻すから我慢しなさい。なんなら議題にでも上げましょうか?」


女王の勝ち誇った態度を見て、予想はしていたものの、バカスは根回しが済んでいることを察し一旦引く。


「まぁいいさ、うちの門閥をつぶしたクソどもを決闘で殺せばいいんだろ。丁重に管理していてくれよ、すぐにうちで管理するようになるんだからな」

そういうと満足そうにバカスは帰っていった。


「ギラフェット家に恨まれるか、ライノセラス家が下手打ってさらに被害を出すか、どちらにしても実力は測れる。なるようになればいいわ」


そういいながら女王も実務に戻った。

この取り決めはさらなる討論を避けるため女王とバカス間でだけの裏約束にして事前には知らせないこととした。

女王にとっては光の連合が強くなればそれでいい。それこそが光の連合をまとめる女王の仕事なのだ。


昨日のうちに大方の修正を終えたので、何とか更新できました。

読んでくれた皆様、ありがとうございます。ブクマ~誤字報告まで、大歓迎です!


魔法紹介

<沈音>音:特定のエリア以外には音が伝わらなくなる魔法。だが、外の音は中にはっきりと聞こえる。便利なので色々な施設に魔道具を介して使われている。


修正履歴

19/12/16 発言の一部など修正

20/07/22 一部表現などの修正

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