村の防衛16
ここまでのあらすじ
村に着た盗賊らを壊滅させたコウたちは、村への報復が行われる前に残りを対処するため
まずは捕虜を村へ運ぶことにした。
それから先は話が早かった。
今までとは違い俺たちがこの町の主力傭兵団の1つとなったことが大きいのだろうか?
到着して事情を話すとすぐに兵士がギルドへと向かい、5分もしないうちに傭兵ギルド職員がやってきた。
盗賊団を半壊させたことを告げ、5名の捕虜を引き渡す。
彼らの魔法を封じるために使っていたマナの魔道具は、引き渡す時に無事回収した。
後は連行するだけだが、その面倒な作業はどうやらギルド側と兵士たちがやってくれるらしい。俺たちも随分と偉くなったもんだ。
こちらも急いでいるから助かるが、まさか料金を請求されたりしないよな?
「彼らが1ルピ林檎のメンバーだ。取り調べはそちらに一任するので引き渡したい」
「わっ、わかりました。こちらで取り調べを行い、情報は先に流星の願いへとお渡しします」
「先に?」
「は、はい。盗賊団の拠点にある程度資産を隠し持っている場合がありますので、それを先に探索する権利を与えるためにも…」
「ああ、そういうことか。俺たちは幹部を1人味方に引き入れたので情報は問題なさそうだが…まぁ、後で受け取りに行くよ。
それより、まだ残党が拠点にいるのでそちらを今すぐ叩きに行く。残しておくと村が狙われるからな」
「は、はぁ…それなら…。えっ、幹部?はい?」
「とにかく急ぐので、彼らの事は任せるよ。あぁ、後彼だけは少々素直なようだから、多少手心を加えてもらえると助かる。もちろん無理にとは言わないが」
こっちだって急いでいるんだし、ごちゃごちゃしそうなナイガイの話は後に回すことにした。
ここで認められないだのなんだの言い合っていたら、無駄に時間を消費しかねない。
急ぐべきは1ルピ林檎の残党を全て片付け、村への脅威を完全になくすことなのだから。
「行くぞ、もうひと働きだ」
俺の号令に対して、全員が即座に風の板に乗った。
職員の立場では俺に対してあまり強く出れないのか、深く突っ込まれなかったのは幸いと言える。
なんだかんだ立場が変わったことを実感しつつ、俺たちはすぐに町を後にしてナイガイの指示の下盗賊の拠点へと向かった。
向かう途中、マナの持っている拘束用魔道具に魔力を充填する。
マナ、シーラ、メルボンド、ユユネネ、エンデリン、そしてナイガイ。
丁度6名いるので1人1個が担当となる。このため全員を連れてきたと言っても過言じゃない。
正直、盗賊の待機組を抑えるだけなら俺とマナだけでも手が余るほどらしいし置いて行きたかったのだが
全員捕獲するのであれば全部の魔道具を再充填した方がいいとのことで、俺以外に6人魔法使いが必要だった。
俺は?もちろん移動担当だ。
この拘束用魔道具は、周囲への魔力拡散を腕輪内の魔力を使って相殺することで魔法を封じる。
又、型を作るための緻密な魔力コントロールを妨害する機能もついており、これをつけられたら低LVの魔法使いは一切魔法が使えなくなる。
そのため使用後は魔力が消費され充填する必要が出てくる。
普段はマナが暇な時にやっているらしいが、今はすぐに再使用するのでこうやって総出で魔力を補充してやらないといけない。
その上これは拘束具としても優秀で、魔力で硬化することで簡単には壊せなくなる。
便利な一品だがその分かなり高価なもので、町のギルドや兵士たちの使っている者より強い魔法使いを拘束することも出来るそうだ。
ちなみに俺に効果があるかと聞いたら、少し悩んだ後
「多分壊れるから試さない」
と言っていたので、捕縛できる実力者の上限は思ったほど高くないようだが。
町を出てから5時間ほど風の板に乗ったまま進み、ようやく1ルピ林檎の拠点へと着いた。
速度をアップした改良版の風の板の魔法だが、消費魔力量でいえばそこまででもない。
だが持続的な魔力消費は少なからず体に負荷がくる。
軽い荷物とはいえ数時間持ちっぱなしだと、腕が疲れてくる感じに似てなくもない。
「ここか…」
高さ10mほどの垂直の崖に大きな横穴が空けられている。
ある程度手が入っていることのわかる綺麗な入口だが、これはこれでどうかと思う。
盗賊なんて目立たないように森の中の小汚い小屋に隠れ住んでいるイメージだったが、1ルピ林檎は20人を超える大所帯だし…こんなものなんだろうか?
「目立つな」
「はい。そのほうが存在を強調できるので」
「目立って…いいものなのか?普通だと隠れ住むものだろう。寝床がわかりやすいと町や都市から傭兵たちがわんさかやってきそうだが」
「あいつらは村の存亡など気にしていない。自分のところに引き込めたらいいくらいに考えているだけだ」
どうやら町なんかは盗賊のことをあまり気にしていないらしい。
言われてみれば依頼は魔物退治ばかりで、こんなわかりやすい場所に住んでいる盗賊を追い払う依頼すらないもんな。
「で、どうするのが一番だ?お前が説得できるのならそれが一番だが…事前に言っていた通り、捕らえた奴らはギルドに引き渡すぞ」
「それで構わない。彼らもそれくらいの自覚はある。ただ彼らは待機組で戦闘は苦手だ。圧をかければ抵抗はしない。
一緒にきてくれればそれだけで捕らえられるはずだ」
「わかった、同行しよう。マナ、シーラ、俺と一緒にきてくれ。残りは念のため外を見張っておいてくれ。
この状況に感づき逃げ出す奴がいるかもしれないからな。あと、外で何かあれば中に来てくれ。中で何かあった様子に気づいたら撤退準備を頼む」
「わかりました。コウ様もご無事で」
外はメルボンドたちに任せておく。
弱い奴等しか残っていないってのは本当のようだし、他所の盗賊たちと戦うために出発したのなら、戦闘が苦手な面子を置いて行ったのも妥当。
ナイガイが嘘をついている点は見当たらず、雰囲気もすっかり忠誠を誓っているようなので、俺たちは彼の後ろをついて行った。
「そういや、有能そうな奴はいないのか?」
「戦闘面ではいない。だが、あいつは後方ながら色々と役立っていた。コウ様のお眼鏡にかなうかはわからんが…」
「ふぅん、だったら一応話を聞いてみるか」
「師匠、盗賊からじゃんじゃん人を引き抜くのはあまり良くないと思うよ?」
「まぁな。だが、町にいる傭兵を引き抜くよりごたごたは少ないだろ」
「そうだけど…別の意味でごたごたすると思うけどなぁ…ギルドとか」
確かにマナの言う通り、元盗賊を次々と加入させればギルドも黙っちゃいないだろう。
まぁ、信用度なんて思ったよりも早く上がるし人材優先でもいいと思ってるが…あまり周りを心配させるのも良くないか。
特に口には出さなかったが、良い人材がいてもあと1人にしようと心の中で決めた。
洞窟の中はきちんと石のタイルが引かれており、壁もきっちりと補強がされている。
左右にはいくつもの扉があり、町にある建物の内部と比べてもさほど遜色ない出来だ。
ご丁寧に作戦会議室やら食糧庫やら武器庫やらとネームプレートがつけられており、俺が想像していた盗賊団の根城というよりは
普通の傭兵団の拠点、もしくはそれよりも出来のいい拠点に見えた。
物があちこちに転がって散らかっているわけでもなく、飲んだくれの盗賊がその辺に寝転がってもいない。
ずいぶんと秩序立っているというか…どうやら俺が知っている盗賊のイメージは一度壊した方がよさそうだ。
そのまま進みナイガイが食堂と書かれたプレートのある扉を開けると、中には3名の盗賊がいた。
戦闘する気はないのか武器も携帯しておらず、のんびりと談笑している。
「ナイガイだ、今戻った。至急全員をこの食堂に集めて欲しい」
「は、はいっ」
慌てて3人の盗賊は別の扉からメンバーを呼びに出て行った。
1分もしないうちに6名全員が食堂へと集まる。
さすがは幹部、なかなかの権威をお持ちのようだ。正確には元幹部だが。
「急に集まってもらって悪かった。先にこの場で伝えたいことがある。この2名だが、俺は彼らと共に戦うことにした」
「??」
「??」
事情を知っている俺たちですらそんな言い方じゃわからないだろうと思ったが、当然盗賊たちには伝わっていない。
お互いに何のことなのかと確認するものの、やはりわからないらしく首をひねっている。
知らない奴を連れて来て、訳の分からないことを言っているにもかかわらずこの態度というのは
盗賊と言えども非戦闘員ってだけはあるようだ。これほどまでに危機感がないとはな。
だが1人、おそらく幹部の1人と思われる女性だけはすぐに今の状況を把握したようだった。
「ナイガイ、一つ聞いていい?」
「なんだ?」
「2人は…負けたの?」
「あぁ、ここにいる方にな」
このやり取りで多くの盗賊がさすがに察したようだが、特に動き出す真似はせず抵抗する気はないようだ。
まだ一部は何のことだかわからないようで不思議がっていたが…いくらなんでも緊張感無さすぎじゃないか?。
「おい、ナイガイ。まだ理解してない奴がいるようだが…もう少しわかりやすく説明してやれ」
俺の命令口調の指示に彼が従う。
これでいまいち理解していない者たちも、ようやく事情が理解できたようだ。
「オブディオールとユーネシアは後ろにいる2人によって殺された。そして俺はこの方に拾われ、この方の下で命を捨てることに決めた。
今日で1ルピ林檎は解散となる。以上だ」
「いや、おいおい…」
「間違っては…いないはずだが?」
確かに間違っちゃいないが、何というか、ナイガイはとんでもない奴だということが分かった。
突然仲間を裏切り、俺のために死ぬとか元仲間の前で堂々と発言するんだもんな。
割り切りがいいと言えば聞こえがいいが、これはさすがに度を超えている。
今更人選間違ったとはいえないよなぁ…。
呆れていると向こうのリーダー格の女性が気づいたようで同情のまなざしを向けてくる。
元々こんな奴だったのだろう…以前の場所でも周りは手を焼いていたようだ。
まぁ、使える奴ではあるのでこれ以上は考えないようにしよう。
ここまで真っ直ぐであれば、こちらが場所を選んで使う分には問題なさそうだし。
「はぁ、あとは俺が説明する。ナイガイの言った通り、今日でこの盗賊団は終わりだ。俺たちは君らを傭兵ギルドに連行するつもりでいる。
直接悪事は働いてないとはいえ…」
そこまで語った時だった。座っていた盗賊の1人が小刀をもって俺にとびかかってきた。
俺は即座に<加圧弾>を使い、それに反応した相手は即座に障壁を張ろうとするが間に合わず左の壁にたたきつけられると、追撃の<風刃>で×の字に切り裂かれる。
そのまま無言で<風の槍>を首元へと飛ばすが、それは魔法障壁でかろうじて防いだものの、ほぼ同時にマナから放たれた投げナイフが首へと刺さり、爆発して頭だけが吹っ飛び、1度だけ跳ねて床に転がった。
「マナ、そのナイフ高いんじゃなかったのか?」
「素早くやるには一番効果的だと思ったんだし…しょうがないじゃん」
一瞬にして仕留められた仲間を見て、盗賊たちに緊張が走る。
もはや逆らうことは無駄でしかないと悟ってもらえたようだ。できれば最初から言葉で理解してほしかったが…。
今話も読んでいただきありがとうございます。
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次話は6/6(日)更新予定です。では。
修正履歴
21/06/05 盗賊の拠点に同行するメンバーにシーラを追加




