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村の防衛14

ここまでのあらすじ


ナイガイの協力により、コウたちは村へとやってきた盗賊全てを無力化した。

ひとまずの脅威は片付いたが、これで村に対する脅威がなくなったわけではない。

盗賊「1ルピ林檎」の構成員は20名以上、ここにいる奴ら以外にもメンバーは生き残っている。


そいつらを放置したままでは、遅かれ早かれこの村に危機が訪れてしまう。

乗り掛かった舟、というよりはもはや途中下車のできないバスといったところか。


このことがすぐに残りのメンバーたちに伝わることはないだろうが、あまり悠長に構えるわけにはいかない。

ここまでの事をやってしまえば、残った盗賊たちも黙ってはいないだろう。


俺たちが彼ら盗賊団の拠点まで行き1人残らずせん滅することで、ようやく村人たちにも平穏が訪れるというわけだ。

今すぐにでも彼らから拠点の位置を聞き出し、残りのメンバーも殲滅しに向かいたいところだが、にしても捕虜というか足手まといが多すぎる。


とらえた捕虜を連れて降伏を迫るというのはありがちな光景かもしれないが

彼らは正規の軍隊などではなくいわゆる野盗、素直に降伏しない可能性も考えられる。


戦闘後の様子だったし、拠点に主力が残っていない可能性が高いのだが、彼らしか知りえない合図などを送られると厄介だ。

下手にこいつらを連れて行くことの方がリスクになるかもしれない。


「さすがにこの状況じゃ、このまま盗賊共の拠点に行くのは無理だな」


後ろ手で手首を白い拘束用魔道具で動かなくしているだけで、彼らは叫ぶことも出来るし走ることも出来る。


一旦町にでも行って引き渡してからすぐに拠点に向かう形の方がいいだろう。

彼らを連れて再び町の中央に戻ると、誰一人欠けることなく戻ってきた俺たちに村長を始め村人たちが驚いていた。


「ご、ご無事でしたか…」


「まぁな」


心配していたかのような、無事すぎて逆に恐ろしくなったかのような、いまいちつかめない反応。

おそらくその両方だろうが。


「騒ぎにして…悪かったな」


「い、いえ。とんでもありません。か、感謝しているほどです」


感謝しているような態度には全く見えないが、それも仕方のない事だろう。

今は何を話しても威圧的に受け取られそうなので、俺は状況を整理しすぐに次の行動に移ることにした。


もはや俺がこの町にとどまるだけでも、村人は落ち着けないだろうから。


「メルボンド、こっちは問題なかったか?」


「はい、抵抗する者はいません。多少期待する者もいたようですが、コウ様の姿を見ると逆らう気力も失せたようです」


「そうか。エニメット、出発の準備はできているか?」


「はい。今村人たちと従者に手伝ってもらっているところです。ですが、そのナイガイという方は…どうされるのですか?」


いつの間にか当然のように俺の横にいる彼に不安を覚えたようで、エニメットが確認を入れてきた。

横といっても少し離れているし、今もマナとシーラがかなり厳しく監視しているのだが。


「そうだな、先にそっちだったな」


この場で彼の意思をクリアにしておいた方がいいだろう。

今更俺たちに刃を向けるとは思えないが、どういう思惑があってこんな状況で裏切ったのか、この場ではっきりしておいた方が皆も安心する。

ぶっちゃけ俺も興味あるからな。


「さて、ナイガイ。今になって尋ねるのも少し変だがはっきりさせておきたい。お前はなんで仲間である盗賊を裏切ってこっちについた。

 俺から見ると命が惜しくて突然手のひらを返した、とは見えなかったんだが」


そうなのか?と言わんばかりにクーチャバランは驚きながら俺を見ているが、裏切った彼の意志がぶれなかったことは確かだ。

一応、まるで使命と言わんばかりの感情を持っていた事には触れないでおく。


「先ほどは俺のわがままな言い分を聞いていただき感謝する。

 身勝手な言い分なのはわかっちゃいるが、俺は…この団を昔の姿に戻すか…それが無理なら、終わらせたかったんだ」


昔?傭兵団?事情の分からないこちらには何のことかわからなかったが、どうやら村人の一部はわかっているようだ。

最初から盗賊目指して団を結成する奴が少ないことくらいは知っているし、彼もおおよそそういう流れで盗賊になったんだろう。


「昔はあなた方やそこの小鳥箱のように、俺たちも村を救うために頑張っていた時期があった。

 村人には歓迎され、俺たちもそれを受けて頑張り…それが続いて行くはずだった。

 だが、歓迎されもてはやされていくうちに…命を張っているんだから当然だと思い始め、普通の歓迎にも満足できなくなり過剰に要求を始め…」


「気がつきゃ賊と変わらなくなったってことか」


彼は黙って首を縦に振る。一見、同情の余地があるように聞こえなくもないが、それは増長した結果に過ぎない。

何も求めるなとまでいうつもりはないが、村人たちに対して過剰に要求してしまえば、それは対峙する盗賊たちと何ら変わらない。


「ある時仕事を2連続失敗したことがあって、大した損害はなかったが、当然報酬も出なかった。金銭的に苦しい立場になってしまった。

 だけど、村に行けばこうやって歓迎してもらえる。そんな苛立ちと甘えから俺たちは徐々に道を外れてしまった。

 最初は、多少物を融通してもらうだけだった。だがそれが次第に過剰になっていき、人材や女、必要以上の金を求めるようになっちまったんだ。

 もちろん、俺たちにだって薄っぺらいが最後に残った矜持だけはある。いや、あった、だな。村人を過剰には傷つけない……だった。

 そこが俺たちと他の賊との大きな違いなんだって、オブディオールはよく言ってたはずだったのにな…」


「だがさっき、奴は村の女性を一太刀で切って捨てた」


「……ああ」


「それなのに、今まではそんなことやっていなかった、と?」


「信じられないだろうが、そうだった。やってしまった以上、もう何の意味もないことだが…」


奴はうつむき、言葉を止める。

言いたいことはわかるが、被害に遭った村人にとってはそんな感傷など何の意味もないだろう。


だから何だと言ってしまいたくなる内容だが、ひとまず事情は理解できた。

もちろん、それで彼らの罪が消えるわけではない。


「急に変節したわけは何だ?仮にも盗賊として生活してきたのだから、今更元に戻りたいという気持ちなんてなかっただろうに」


そんなことを聞いたところで、亡くなった村人が生き返るわけでもないし、彼らのやったことが帳消しになるわけでもない。

でも、なぜか俺はそれを聞いてみたくなった。


「……俺たちは、昨日まで他の盗賊団と軽くやりあっていた。こっちは3人が死んだ。多少イラつきもあったんだと思う。

 そこにあんたらが食事を振舞っているのを見てしまった。昔の…とうに失ってしまった俺たちの過去の姿だ。

 きっとそれを見て、あいつも昔を思い出したのだろう。実際俺も、今まで目を背けていたことを指摘された気がしたんだ。

 俺たちのやっていることは間違っているが、メンバーが増え、広範囲の村を守り維持していくためには仕方がない。

 そんな言い訳など通じないくらいに、昔と比べて俺たちが汚れてしまっていたことに……気づかされてしまったんだ」


「で、お前はこの盗賊団を壊滅させたくなったというわけか」


「心のどこかではわかってはいたんだろうが、認めたくなかったんだろうな。だが気づいた以上、この好機に動くしかないと思ったんだ。

 せめてこの盗賊団を終わらせることには、手を貸したいってな」


「勝手な話だな」


「あぁ、そうだ。だからといって俺が1人で反旗を翻しても、俺が殺されて終わりだ。だけど、あんたならやってくれる…だから手を貸した。後悔はしてない。

 後は好きにしてくれて構わない。邪魔ならこの場で処分してくれ…いい」


力なく彼が語ると、村人たちは複雑な表情で彼を見ていた。

村人たちはやはり昔の彼らを知っているようだし、そんな変わっていった彼らから多少なりとも守ってもらっていた自覚があったのだろう。

村人1人が殺されたにもかかわらず、彼らから感じる感情は憐れみと無力さだった…。


翻って俺のやったことは本当に正しかったかと問われれば、正直自信をもって正しいとまでは主張できない。


俺たちはこれから継続的に村人たちを守ってやるわけでもない。いつかは光の連合に戻る身だ。

ただ感情に身を任せて盗賊を倒し彼らを助けたものの、すべてにおいてそれが正しかったかと問い詰められると、なんとなく目の前の彼と似たような気分になってしまう。


もし他の盗賊団がここに来て彼らを虐殺するようなことが起きてしまえば、それはきっと…少なからず俺の責任だ。

俺がこの村から盗賊ではあったが守護者と言う存在を消してしまったのだから。


だが、あの行為を平然と流せるようになってしまえば、きっと俺は俺じゃなくなってしまう…そんな気がした。


謝罪するわけでもなく、ただわずかな後悔と味方に手をかけてでもやり遂げた彼に、なんだか共感できる気分になった。

普通に考えると全く次元の違う話なのだが、流されるがままやってしまった事を後悔する彼を見て、俺も自分の行動を見直すことができたんだ。


まぁ、マナだったら全く違うと完全に否定しただろうけどな…。


多くの者がすべてを失ってからようやく自分が間違っていたと気づく。昔聞いた言葉だ。

今回の俺の行動は、実は間違いなのかもしれない。


可哀想だと思い捨てられた子犬を無責任に拾ったところで、飼えないのであれば、1食与えることが何の救いになるというのか…。

見なかったふりをして結果を知らないことが善なのか、感情的に救っておいて結果見捨てるのが悪なのか、俺には…全くわからない。


「師匠、大丈夫?」


「ん、あぁ、大丈夫だ。ただ色々と考えさせられたなって思ってさ」


「ふーん。まさかまた間違ったとか思ってないよね?あれは的確で素晴らしい判断だったと思うよ」


いつものようにマナが俺を褒めてくれる。

これがあるから救われているが、少しは自分の足で立たないといけないなとも思わされる。


「素晴らしいか…村人が切られて頭にきて動いただけだぞ?感情的に行動することはあまり良くないだろ」


頭にきて突発的に動いた結果、上手くいったことなんてあまりない。

そう考えていた俺だったが、マナから帰ってきた答えは逆だった。


「ううん。こういう時は感情的に行動するのが正解だと思うよ。盗賊倒したらこの地域はどうなるだろうとか、もっと村人を巻きこんだらどうしようとか

 そんなことを考え始めたら全然動けなくなっちゃうじゃん」


「…まぁ、それはそうだけど」


「その点師匠はもっとすごいよね。感情的に即座に動き出すのに、その感情的な目的を果たすためには冷静に動けるんだから。

 ちょっとした化け物だと思うよ」


「いやっ、化け物って…あのなぁ……」


俺とマナが話しているとメルボンドがそれに割り込んでくる。


「なるほど。確かにマナ殿の言い分にも一理ありますね。面白い考え方だと思います。それにコウ様がちょっとした化け物というのは賛成です」


「おいおいおい、話がずれてきてるぞ」


色々と悩んでいたが、気づけば悩みはどうでもよくなっていた。

やってしまった事は変えられない。ならばこれからどうすればいいのか、今の俺はそれを考える必要がある。


まずは人材だ。村人に柔らかく接することができ、彼らを守る覚悟のある人物が小隊のリーダーとしてほしい。

この際だ、傘下の傭兵団を募るというのも悪くはない。だが、町の外にある村を救う仕事はあまり人気がないらしい。

俺たちのような歓待を受ければ、少しは考え方も変わるだろうか?


だからと言って、先ほどの彼らのように志が変質してしまわないような人物が必要となる。

そのためにも、俺は彼が欲しくなった。


一度流されてそこから目覚め、仲間を見殺しにしてまで清算しようとした人物。

普通の状況では明らかにナシと判断したくなるが、沼から自力で這い上がり自分の罪を自覚している男。

町にいる奴よりは流されたりしないと言えるだろう。


「ナイガイ。お前の対応を決めた」


「そうか。もう覚悟は決めている」


「だったら話は早い。俺はお前の経験が欲しい。どうだ、もう行くところなんて残ってないだろう?うちの傭兵団に来ないか?」


「……んっ?」


確かに多少急な話だし、大喜びしろってのはさすがに無理だろうが、勧誘されてその反応はちょっと酷いと思うぞ。


「俺は彼ら小鳥箱のようにずっとここにはいられない立場だ。だが、俺の作った傭兵団はこの地域に常駐させられる。

 だったらまずはこの一帯を掃除してはどうかと思ったんだ。それには…ナイガイの知識や経験があると大いに助かる。

 盗賊目線ってのはこの先必要になるだろうからな。どうせ罪滅ぼしをするのなら、でっかくやってみるのも悪くないだろう?」


今度は詳しく目的を語り、再度彼を勧誘してみた。

先ほどは不意を突かれて困惑していたのだろうが、今度は理解できたようで…どう答えていいのかわからずかなり動揺している。


しばらく返事を待つかと思いきや、別の方向から突っ込みが入った。


「おいおい待て待て。コウ、さすがにそれは正気とは思えねぇ。こいつはさっきまで盗賊団の幹部だった奴だ。今まで村人たちを苦しめていた奴なんだぞ?

 しかもあんたら…じゃなくてコウのところはBーの傭兵団だろ?賊の幹部なんて仲間にしてみろ、C+どころかCランクにまで降格させられるぞ」


「まぁ、かもしれないな。とはいえ、ぶっちゃけここにいるユユネネも元は盗賊団所属だ。一応彼女は未遂だったし彼女の時ほど甘い裁定はないだろう。

 だが、ナイガイは仲間を裏切ってまで盗賊に成り下がったことを、自分たちのやってきた罪を、少しでも自分の手で清算しようとしたんだ。

 だったら、彼が村人の歓迎を受け再び甘い汁に溺れることはなさそうだろ?少なくとも村の防衛依頼を受けたことのない奴らよりは信用が置ける」


「いや、まっ、待ってくれ…」


どう止めて良いのかわからないのだろう。

クーチャバランは説得する言葉が浮かばないまま、ただ止めようとして慌てている。


それを見たナイガイは彼の方がまともだと思ったのだろう。

一旦彼を見て納得し、再度俺の方を見て信じられないという顔をした。


「なんだ、ナイガイも不満だったか。安心しろ、それなりに月日がたてばお前をこの一帯を見回る分隊の隊長にするつもりだ」


「えっ!?いや、それはいくらなんでも俺を…信用しすぎだろう。安心とか、そういう問題ではないはずだ。というかそもそも俺は罪人だぞ」


信用という部分が小声になるところがまた彼の性格を表している。

そういう奴でも気がつけば盗賊団の幹部にまで落ちぶれてしまうのがこの世界。


常に命の危険がある傭兵たちでも、豊かで満足のいく生活を送れるのは一部だけなのだ。

信用度Dである盗賊団へと転落する落とし穴は、常に我々の近くにあるのかもしれない。


「信用というか、お前は罪滅ぼしがしたいんだろ?自害ってのもわかるが、だったら他の盗賊を追い払い滅ぼしてみてはどうだ?

 死ぬよりよっぽど生産的だし、何ならその一生を終えたときにオブディオールやユーネシアに『お前たちの代わりに仕事してきたぜ』って言えるじゃないか。

 死ねば案外目が覚めて、お前の活躍をどこかで期待しているかもしれないぞ?」


「……だ、だが…」


「んー、だったらうちの傘下になる前提で傭兵団を作ってはどうだ。名前はもちろん『1ルピ林檎』でいいぞ。

 間接的とはいえ手を下してしまった彼らのためにも、お前が生きて名誉を回復させることができる。あいつらもお前自身も浮かばれるだろう」


なかなかうまい説得ができたんじゃないかと自画自賛したいところだったが、うちの身内からは「いくらなんでも彼は…」「どんな説得ですか!」と否定的な意見が念話で投げつけられる。

当のナイガイは涙を流しながらこぶしを震わせているが…これって上手くいったよな?な?


一応振り返って皆の表情を見てみると、全員困った顔をしている。

いや、ここは俺を褒めるところじゃ……ないんだっけ?


「ほっ、本当に…本当に俺みたいな…俺みたいなやつで…」


声を震わせながら、涙声にならないよう必死に言葉を出そうとする。

そんな彼に対して俺は笑顔で答えた。


「あぁ、お前が一番適任だと思ってるから誘っている。この機を逃せばナイガイという優秀な傭兵は二度と手に入らないからな」


彼は言葉を詰まらせて目を強くつむり、湧き上がる感情を堪えるようにして、俺に対して膝をつき頭を下げる。

彼からは強い感謝しか感じず、俺は満足のいく結果に心でひそかに「よしっ」とつぶやいた。


今話も読んでいただきありがとうございます。


誤字脱字等ありましたら、ご指摘ください。

前回も遅くはなりましたが、おかげで間違いが発見できました。ありがとうございます。

感想やブクマ、評価など頂けるとうれしいです。


次話は5/31(月)更新予定です。 頑張って書かなければ…では。

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