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村の防衛13

ここまでのあらすじ


村の中央までやってきた盗賊団のボスを倒したコウたちは、賊だった内外の協力を得て、待機している残りを倒すべく村の外へと向かった。

中央に集まっている村人の輪から出て、俺たちは盗賊の片割れが待機している村の入口へと向かう。

村の中央からも見える場所ではあるが、そこそこ距離があるので何が起きているかまでは把握していないはずだ。

把握していれば、すでに村の中で大乱闘になっているだろうからな。


外にいる盗賊たちに近づいて行くと、向こうもこっちに気づいたようだ。

見知らぬ俺たちがいるのからか即座に警戒したようだが、仲間のナイガイが先頭にいるのですぐに肩の力を抜いてくれた。


「ナイガイ、中心付近で魔力反応が強く出てたが何かあったのか?」


赤髪で短髪の女性。気は強そうだがそれなりに顔も整っている。おそらく彼女がこの一団のトップ、ユーネシアだろう。

そんな彼女が少し警戒心を持ってナイガイに尋ねた。


「あぁ。突然の来訪に村長はじめ村人たちが驚いて、リーダーが圧を示すためにちょいと暴れたんだ」


「おい、リーダーじゃない、頭と呼べと言われているだろう」


「すまん、だが頭の前じゃないんだしいいだろ?それよりそっちが乱入してこなくて助かった。頭がより怒りかねないからな」


「当然だ。私たちは頭の命令で待機しているんだぞ。逆らって怒りを買うような真似はしない」


どうやら彼らはしっかりと上の命令に従うタイプのようだ。特にリーダー格の彼女は何かが起きているとわかっていたにもかかわらず、待機の命令を忠実に守っていたらしい。

見かけない俺たちがいるにもかかわらず自由に話しているところを見ると、こちらの目論見はうまくいったといえる。


「で、相変わらずお前の後ろに隠れている小心者の傭兵どもは別として、そいつらは誰だ?」


その質問に対してナイガイに動揺は見られない。

ここまで短期間で腹をくくれるとなると、心の底から裏切るつもりなんだろう。

覚悟を持っている証拠であり、ただ我が身可愛さで裏切ったわけではないようだ。


「こいつらは村にたまたま呼ばれていた傭兵共だ。ちょうどこいつらの歓迎会をやっていたところに乱入してしまったので、村人も動揺したらしい」


「ふん、なるほど。災難だったな、お前たち」


「いえ。偶然とはいえ、お会いできてよかったです」


俺は少し下手に出て言葉を返す。

こちらが周囲の魔力を抑えているからか、こちらを格下にみているようでいい感じに油断してくれている。


もしくはこの村と盗賊の関係を理解して手を出さないと高をくくっているのか…どちらにしても都合がいい。

あとは初撃を入れるタイミングをうまく見つけられるかどうかだ。


それは俺たちが判断して勝手に動くとナイガイやクーチャバランに伝えているので、彼も自然に動けているようだ。

後ろに控えているクーチャバランは多少ビビっているが、どうやら向こうから見ていつものことのようなので、何とかごまかせているようにも見えるが。


「で、ナイガイは状況連絡にでも来たのか?そんなもの下っ端にでも任せていればいいだろうに」


「いや、こいつらを見せておく役目もあったからな。下っ端に任せてこっちでもトラブルになったらさすがにまずい。

 リーダーたちの負傷の件もある。出来るだけ事は穏便に進めるべきだろう」


負傷のあたりは小声になっていたが、俺にはばっちり聞こえている。

これ以上の戦闘は避けたい、そうした彼らの思惑がこちらに有利に働いているようだ。


「そうか。それなら治療も無事に進んでいるのだろう。半日ほどはここで待機だろうし、村人に食料を持ってこさせてくれ。私は一旦部下に指示をしておく」


そういって彼女は後ろを向き、一緒に待機している部下たちに指示を出そうとする。

彼らはここで村の防衛といったところか。先ほどの待機という言葉を聞き配下の盗賊たちもだるそうにし始めた。


小さな隙はたびたび見せていたがようやく見せた大きな隙、俺とマナはその機を逃すわけもなく即座に動き出す。


俺たちは少し体勢を崩す様にして距離を詰めながら、共に手のひらから剣を射出するように取り出して柄を握りしめ

一撃で仕留めることを狙いつつ、簡単には回避できない腹部を背中から切りつける。


一撃で仕留めるには首を狙うのが一番妥当な方法だが、気づかれると容易に回避されるため、回避されたとしてもそれなりのダメージを与えるために大きな部分を狙う。

個々の実力差はこちらの方がわずかに上、負傷させておけばその後も楽に押し込めるからだ。


この状況、村人や俺の大切な仲間の命がかかっている。

今は博打より堅実狙い、そう考えた俺とマナの狙いは一致した。


一見完璧に見えた攻撃だったが、他の盗賊たちからは丸見えであり即座に彼らが動く。

部下の動きと表情に、狙われた盗賊の幹部ユーネシアが即反応した。


「なっ、貴様っ!」


とっさに両腰に下げていた剣を引き上げて俺たちの一撃を受け止めようとするが、体勢は悪く少しでもダメージを減らそうと

マナのほうに体を寄せつつマナの攻撃を受け止め、俺の一撃だけは回避しようとした。


「そうはいくか!」


俺は体勢を崩しながら剣を振りぬく方向を変え、後方で魔法の型を用意しつつ腕狙いに変えた。

切り落とすまではいかなかったが、骨近くまでを切り付けかなりの傷を負わせる。

これで奴の右腕は自由には使えなくなった。


マナの初撃は見事に防がれてしまい、それを受け止めた衝撃でユーネシアは飛ばされるがそれは予定通りだろう。


「ちっ」


マナは不意打ちが決まらず悔しがっているが、もちろん追撃の手は緩めていない。


飛ばされたユーネシアに向けて<火の槍>を2発放つが、それを盗賊の部下たちが慌てて防ぐ。

それを後方のシーラとクーチャバランが<光一閃>で貫いた。


マナの一撃を受け障壁が弱ったところにすかさず放たれた一撃。どうやら彼も盗賊と対峙する覚悟を決めたらしい。

彼の行動で俺たちはさらに有利になった。


「お前の相手はこっちだ!」


そんな中俺は、ここにいる盗賊共の頭となっているユーネシアを素早く屠るべく、リスクをとって接近戦を挑む。

剣で切りつけようとし何度も受け止められるが、俺が少し横にずれれば後ろから<風の槍>、少し距離が空けば<風刃>で牽制しつつ反撃の隙を与えない。


反撃のために向こうが隙を少しでも見せようものなら<加圧弾>で一気に距離を詰め、少しずつだが確実に相手に傷を負わせていく。


「こっちもいるからね!」


俺の攻撃に合わせるかのようにマナが<大火弾>や<火の槍>で攻撃しつつ、マナを妨害しようと攻撃を仕掛けてくる盗賊たちには周囲を爆発させて近づけさせない。

普段から手合わせしているからか、俺の攻撃速度やパターンを見切った上で割り込むマナの攻撃。


さすがマナは頼りになる……が、こりゃ俺も攻撃パターンを増やさないと次の手合わせでは俺が追い込まれそうだ。


猛攻をしのぎきれないユーネシアを見て、なんとか彼女を守ろうと必死な盗賊たちは、マナの攻撃を障壁で防ぐべく間に立つが

そこをシーラやクーチャバランが待っていましたとばかりに撃ち抜き、次々と傷を負っては地面に座り込む。


「くそっ、お前らいったい何だ」


「お前たちこそ何様だ。村人を所有物化のように扱って」


「ふざけたことをぬかせ!この村の物も素体も、すべて私たちの物なんだよ」


俺の一撃を振り払い距離をとった瞬間、ユーネシアの<8光折>が拡散から俺の方へ集中するように飛んでくる。

俺はそれを無視して<風刃>で奴の足を切り付けた。


俺の一撃は致命傷とはならなかったが、これで奴の機動力は落ちる。

ちなみに相手の魔法はきっちりとシーラが受け止めてくれていた。


「何だ、なんだよお前ら。強すぎるんだよ!」


「盗賊ごときが…消え去れ」


既に右手を傷つけて片手しか使えないやつの残った左腕をも切り落とす。

だが、奴もやけくそなのか、左手を犠牲にしつつ時間を稼ぎ、俺に向かって<収束砲>を放ってきた。


が、相手の魔核の型を見てすぐにそれが来ることをわかっていた俺は、後方で型を準備しておき水属性に切り替えると<水泡の盾>でぎりぎり受け止め切る。


決まったと思った一撃が防がれたユーネシアは、それを見てもはや抵抗は無駄だと悟ったのか、両膝を地面に着き傷ついた両手で地面を支えることも出来ずうつ伏せに倒れた。

相手の頭が完全に負けを認めたと感じ、俺は周囲にこれ以上無駄な戦闘を避けるよう伝える。


「そこまでだ。もうお前たちに勝ちはない」


俺の言葉に盗賊たちは振り返り、地面に伏したユーネシアを見て動きを止める。

その中1人、隙をついたつもりの盗賊が俺に<光一閃>を放つが、その光線はシーラの魔法障壁に止められ、俺とマナから魔法を数発受けて絶命した。


再度俺が周りを見回すと、4人ほど生きていた盗賊たちは既に戦意を無くしていた。

念のため話を聞くかと思い、俺は伏しているユーネシアを加圧弾で地面から軽く上に飛ばし、仰向けにした状態で落下させる。


「ぐおっ」


「おい、村人への謝罪くらい言ったらどうだ?」


「な、なんだ…お前は。私たちに、なにを、させたい…」


両腕の出血はすぐに<光の保護布>で抑えていたようだが、それでも血が漏れてきて両腕の切断部分に小さな血だまりを作っている。

見た目は少々男勝な雰囲気の女性だが、ここまでボロボロになるとさすがに弱々しさを感じる。


だがそれは彼らの普段の行いから当然の結果だと俺は思っていた。


「はぁ、今までの行為を村人たちに謝罪し、後はギルドへと引き渡すから大人しくしてくれ。俺が求めるのはそれくらいだ」


「はっ、ははっ。なんだそれ。そんなことのために私たちにケンカを…ぐあっ」


話がどうやら通じないようなので、俺は彼女の肩に剣を突き刺す。

仕掛けた側の俺が言うのもなんだが、殺し合いなんて互いの価値観の違いとその場の突発的な事件で、簡単に起きてしまうもののようだ。


「謝罪する気はないのか?」


「はっ、じゃあ、この傷を先に治して…」


『何であいつらにそんなことをしなきゃならんのだ』そんな感情がわかりやすく伝わってきたので、これ以上話すのは無駄だと悟った。

マナも捕獲用の魔力を抑える魔道具が残り少ないと言っていたことだし、こいつはここで処分した方が早いだろう。


俺は諦めた目でどう始末すべきか狙う場所を探し、彼女の頭を踏みつけ横を向けさせると、そのまま首を切り落とそうと剣を振るう。


「ぐぁぁ」


魔力を集中させ必死に守ったのだろう。

切り落とそうとしたつもりだったが、数センチの深さの傷をつけただけに過ぎなかった。


仕方がないのでもう一度切り落とそうと反対側から切り付けようとしたが、彼女が再び必死に首を守りながら

その一方で俺が相殺し続けていた魔力をかき集め、少し離れた位置に型を作ろうとしたので、それに気づいたマナとシーラが型を破壊し、俺は剣の向きを変えて肩から腰までを斜めに切り裂いた。


「ふんっ」


「ぎぁああああ」


奴の悲鳴など無視したまま、俺はその傷口に向けて<氷のナイフ>を2個投げて突き刺す。

刺さった部分から徐々に凍結が始まり、彼女がそれを防ごうと必死にそちらに魔力をまわしたところで、俺は彼女の首を切り落とした。


「片付いたぞ」


「師匠、お疲れ」


「誘導がさすがですね、師匠」


「さ、さすがです…」


マナとシーラは平然と返してくるが、ユユネネは少し引いているようだった。

だが相手は最後の一瞬まで一矢報いようと必死に反撃を狙っていた相手だ。

下手に同情して気を緩めるよりは、あの対処法が正しかったと思う。


警戒する必要がなくなり氷の心が解けた俺は、先ほどまでの行動の正しさに納得しつつも、その行動をとった自分の精神状態を受け入れられず心にしこりが残る。

だがそんなリスクを負ってでも、この魔法は便利だから使わざるを得ない。


「マナ、拘束用の魔道具は後2個だったっけ?」


「うん、だから4人はちょっと多いね。誰を減らす?」


そういう返しがくることは予想できていたが、先ほどとは違いサクっと処分する気にはなれず何とも言えない気分になる。

少なくとも彼らは降伏しており無抵抗だ。そんな彼らを拘束具がないという理由で殺すのはさすがに気が引けた。

とはいえそれを俺が顔に出すわけにはいかない。


もう一度氷の心を使ってこの場を乗り切っても良かったが、自分が始めてしまったことを最後くらいちゃんと受け止めておきたくて、俺は素のままできるだけ冷徹に対応する。


「そうだな、別にどれでもいい。あぁ、ちゃんと今までのことを反省してそうな奴を2人選んで生かしてやれ」


「うん、おっけー」


戦いも終わったからかマナのノリが軽い。本当にこういうことに慣れているんだろう。

マナはちょっとだけ楽しそうに命乞いをする4人の盗賊の表情を見比べていた。


彼らもさっきまではこの村で天下を取った気になっていたんだと思うと、状況は一瞬にして変わる者だと意識させられる。

力がなければどんな理想を抱こうとも成し遂げることはできず、一度敗北すれば、今恐怖におびえている彼らと同じ立場にならざるを得ないのだ。


「た、助けてくれ。本当に反省しているんだ。これからは村の防衛に貢献するから」


「私は酷いことなんてしてない。今まで生きていくためにしかたなくここに所属していただけで…」


「頼む、頼む、何でもするから助けてくれ」


「私は役に立ちます。必ずお役に立ちますから」


さっきまでの光景とマナとの会話を聞いていたのだろう。彼らの必死の請願が耳に入ってくる。

だが彼らは今まで盗賊として非道な行為に加担していたことは間違いない。


こういうことはマナに任せがちだが、本当は俺が判断しなくてはいけないんだがな…。

そう思いながらマナを見ると、彼女も誰を残していいのか悩んでいるようだった。


「どう?決まりそうか?」


「うーん、全員がただ必至なだけだしよくわかんないんだよねぇ」


やはりここは俺が判断したほうがいいかと思って、降伏し魔力も展開させず座り込んでいる彼らに質問する。


「お前たちはそれなりに悪事を働いてきたんだろ?無抵抗な素体を襲ったこともあるはずだ。本当に反省しているのか?」


その質問に全員が必死になってうなずく。

こうなると雰囲気を探る程度では判断がつかない。


自分の命がかかっているのだから、全員が必死で反省しているとアピールするので当然だろう。

心の中が読めるのではなくあくまで雰囲気を鋭敏に感じ取れる能力、彼らの悪事をいちいちほじくり返して嘘か真か判断するにも時間がかかってしまう…どうしたものか。


「まいったな…。あっ」


ふと俺は思い出した。

そういえばナイガイを取り押さえていた魔道具はすでに回収しているはずだ。

それなら拘束具は2つではなく4つあるはず。4つあれば彼ら全員を連れて行けるのに…マナは黙っていたな。


おそらく彼女なりに意味のある行為なのだろうが、そこに気づいてしまったからには彼ら全員を連れて行くしかない。

身勝手な判断で取捨選択をする気にはなれなかったからだ。


「なぁ、マナ。拘束具4つ余ってなかったか?確かナイガイの分が余ってただろ」


「……うん、あったね。使う?」


一瞬考えこんだように見えたが、悪びれることなく使うか聞いてくる。


「あぁ、そうしてくれ。少なくとも今の状況ではどいつを処分するべきか判断ができない」


マナがこんな連中を嫌っていることは知っているが……まぁ聞いたら出してくれたし、これ以上言う必要はないだろう。


ひとまず4人とも拘束し、これで6名と…なぜか協力してくれたナイガイの7名を確保。

9人は倒して魔石になったところを回収し盗賊たちを片付けた。


今話も読んでいただきありがとうございました。


多少残酷な表現になってしまったかな…。


誤字脱字等ありましたらご指摘いただけると助かります。

ブクマや感想など頂けるとうれしいです。


次話は5/28(金)更新予定です。では。

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