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村の防衛11

ここまでのあらすじ


村から盛大に歓待を受けたコウたちは、お返しに料理を振る舞うことにした。

早朝から準備し、村人たちはそれを大いに喜んだ。


5分ほど経ち、招待された村人たちが俺たちの振舞った料理に舌鼓を打っていた頃

突如村の見張り台2か所から、盗賊がやってきたことを示す黄色の光の点滅が村の中央へ向けて放たれた。


続いて村の見張り台の一部が白く光り、白い煙が細々と上がり始める。

見張りの訓練に参加したおかげで、ほとんどのメンバーはすぐに状況を理解した。


脅威度がほとんどないと示していることから、おそらくいはいつもの盗賊団がやってきたと思われるが

村での対応が必要の信号も同時に灯っており、村人たちの表情はあまり良くない。


信号の意味だけを学んで、定期的な金の徴収時はどのような信号が出るのかわからない俺たちは、ただ成り行きを見守るしかなかった。

いつもと同じくただ金をとりに来ただけですぐに帰ってくれればいいのだが…。


もしかして俺たちがいるから要警戒なのかもしれない。

そうであれば、なんだか申し訳なくなる。


「村長!」


俺は急いで村長に声をかけた。

その声に彼は真剣な表情で振り返る。どうやら先日俺が村長にかけた言葉を忘れてはいないようだった。


「今回は我々だけで対処いたしますので、どうか…」


心苦しそうな表情で俺たちに訴えかけてくる。

あの時は殲滅しても構わないと言ってくれたが、やはり彼らとしては、今村にいる俺たちがこの場で盗賊を退治するのは問題があるようだ。


確かに俺たちは村に常駐しているわけでなく、報復された時にすぐに救援に向かうことなど出来ない…。

もどかしさを感じつつ見張り台を見るとどうやら相手は十数名ほどのようだ。


いつも来る『1ルピ林檎』のメンバーは25名ほど、全員ではないとなると、それこそこの場でうかつに手を出せないので、俺たちは傍観者に徹するしかない。

もはや食事どころではなくなった村人たちがそわそわしていると、体格の良い奴が先頭に8名の盗賊が村の中央の広場にやってきた。


せっかくの場を滅茶苦茶にしてくれた彼らなど即座に排除してやりたいくらいだが、ここは落ち着いて村長の作る流れに従うことにする。

念のため、万が一の時は動くぞと皆に念話で伝えておいたが、そんな必要はないことを祈りたい。


「おぅおぅ、ちゃんと集まってんじゃねーか。ん?飯か。こんな朝から言い身分だな、おい」


「はっ、はい。それで…いつもの、でしょうか?お金はすぐに用意いたしますので…」


「あぁ、それもだがあれを使わせろ。ちょいとやばい奴がいるんでな」


「わっ、わかりました。すぐに用意させますのでしばらくお待ちください」


村長はペコペコしながら、何やら要求されたものを用意するよう近くの者に指示している。

事情の分からない俺たちは、ただ黙って関わらないようにしていた。


せっかくの食事会を潰されたのは頭に来るし、いけ好かない態度で偉そうに振舞っているのが癪に障るが

トラブルを起こさないことが村の意向ならば、こちらはそれに従うしかない。


「よし、お前ら2人は先に手当てを受けろ」


明らかに負傷している2人の盗賊たちは、傷口を押さえながら村人が数名待機している方へと歩いて行く。

軽傷といった感じではない。よく見ると先ほどから偉そうにしているリーダー格の男もそこそこ負傷しているようだ。


「しかしお前らも、朝からこんなところでゆったりと食事だとは…俺が来ることを予期していたのか?だったら許すぞ」


「えっ、ええ。こうやって食事ができるのも、いつもオブディオール様が見回ってくれているからでございます」


「ふっ、まぁいい。それよりなんだ、旗が増えてるじゃねーか。どうやらつまらん努力はしているようだな」


「はっ、はい。何とか…おかげさまで」


別にそいつらのおかげではないだろうと思いつつも俺は聞き流す。

面倒くさそうな奴なので、ただただ早くどっかに行ってほしかった。


もし絡まれればマジで手を出したくなるような嫌な奴等だ。

まぁ、俺よりもマナの方からもっとやばそうな雰囲気を感じるので、心配すべきは彼女の方だが。


「そういや飯がまだだったな。外の連中も入れて俺たちがこれを片付けといてやるぜ。こんな料理、お前たちには過ぎた代物だろ?」


「えっ、えぇ…まぁ…」


言葉に詰まりながらも、村長は必死にこちらを見ないようにしている。

間違いなく、トラブルを起こしたくないからだろう。


だが俺にとって、奴らが俺たちの用意した料理に手を付けることだけは許せなかった。

あくまでこれは昨日までの村人に感謝の気持ちを込めて作った物。

俺たちの心を込めた料理に土足で入り込む盗賊共を、黙って見過ごすわけにはいかない。


説得して聞く相手ではないことくらいわかってはいたが、俺はどうしても言わずにはいられなかった。


「悪いが、その料理だけは勘弁してくれないか」


軽く息を吐いて落ち着いた後に彼らの会話に割り込んだ俺は、背中から呆れたと言わんばかりの雰囲気を感じる。

メルボンド達の気持ちもわかるが、それでもこれはエニメットを始め皆で朝から村人のために用意したもの、奴らに食わせてやる義理も道理もない。


「何だぁ~、お前は」


「この近くの町で傭兵をやっている者だ」


「あぁ、たかが傭兵が俺たちのことに口を出そうってのか」


「悪いがこの料理は村人たちのために俺たちが用意したものだ。決してお前たちに食わせるための物ではない」


これで引くわけがないとわかっていたにもかかわらず、俺はオブディオールと呼ばれた男の目を見て答えた。


口出ししない方が穏便に済むことはわかっている。

だがこの料理は俺の思いを受けてエニメットを中心に皆で考え、早起きしてわざわざ用意したものなのだ。


「ふんっ、この村でのルールを知らん奴のようだから教えてやろう。この村の物は全て盗賊団『1ルピ林檎』のものなんだよ!」


右のこぶしを握り締めながら、魔力を周囲に展開してこちらに圧をかけてくる。

実力は俺より下。多分シーラよりも少し下だろう。俺たちが目立たないよう魔力を加減していたからか、これで引くと思ったらしい。

この場面で、手加減してこちらの判断を狂わせながら圧をかけてくるほど頭が回るタイプには見えないし、これが奴の全力だろう。


負傷個所は左腕と左足だろうか、全体的に右に重心が寄っている。

よくそんな状態で新たに敵を作ろうと思ったなと感心したが、料理にさえ触れなければ、こちらだって敵対するつもりはない。


「なるほど、それは理解した。だがその料理は村の物ではなく俺たちの物だ。誰が食べていいかはこちらが決める」


「ふざけたことをぬかせ!この村にあるのは全部俺たちの物なんだよ」


奴が叫ぶと同時に、右手に持った大剣を振り上げる。

いきなり攻撃してくるとかこいつ狂っているのか、そう思った瞬間、その大剣が俺とは違う方に向けられた。


「おっ、おい、何を…」


俺は急ぎ止めようとしたが、相手との距離は遠く、奴の大剣は無慈悲にも近くにいた村人の女性へと振り下ろされた。

首元から腰までを斜めに切り裂かれ真っ二つになったその体は、おびただしい血を流しながらもその場に転がっている。


訳が分からなかった。奴がなぜそんなことをする必要があるのか。

文句があれば俺に対して行動すればいいだけの話。なのに奴は弱いものを傷つけ、殺し、そうやって俺を威圧してきた。


彼女は素体の村人、2つに別れた体と大きな血だまりは、死ぬと魔石になる魔法使いではないことをはっきりと示している。

傍若無人などという言葉では生ぬるい程の卑劣な行動、こいつは絶対に許してはいけない、俺はそうはっきりと判断した。


俺は頭にきて即座に<氷の心>を使う。発動期間は目の前の奴等全員の無力化までだ。

こいつらをこの場から排除し、村人たちを安全な状況にすることが今の俺の役目だと言える。


「んっ?生意気な。俺とやろうというのか?」


どうやらこちらの魔法発動に気づいたらしい。

なかなか鋭いところを見るに、決して雑魚ではないようだ。


奴はすぐに光一閃の型を作り始め、こちらの予想より早く出来上がったが、同時に俺の斜め後ろにいるマナから<火の槍>が2発放たれた。

オブディオールは即座に<光の強化盾>で火の槍を防ぎ、狙いを俺からマナへと変える。


マナは防がれることを前提に奴の魔法をかわし距離を詰めていた。

それを俺は動かずにただ黙ってみていた。


「てめぇー」


「ふんっ」


奴は大剣を構え怒りをあらわにして叫ぶが、マナは気にも留めていない。

マナは俺がすぐに動かなかったことに少し戸惑っているようだったが、すぐに次の魔法の型を準備する。


突然の戦闘開始だったが、後ろにいるシーラやエニメットの反応は早い。ユユネネもほぼ遅れなく魔法の準備に入っている。


俺は、オブディオールの視線から外れるように緩やかに外側に移動し、奴がマナに集中した隙をついて自分に<疾風>をかけると同時に前かがみで奴の懐へと近づいた。

が、思ったよりやつの反応は早く、腰にぶら下げていた金属の棒で俺の攻撃を受け止めようとする。


「その程度じゃ」


俺はとっさに体をひねって狙いを奴の腹から腕に変え、<加圧弾>で方向を強引に変えつつ距離を詰め、奴の左腕を切り落とした。

どうやら他所での戦闘で魔力も潤沢ではないのだろう。ここまで簡単に切り落とせるとは思わなかった。


「ぐぅあっ」


奴の汚い叫び声など聞き流し、俺は冷静に次の攻撃へと移る。

これは汚物の処理でしかなく、早さが大事なのだ。そこに迷いなどない。


俺が先ほどいた場所から1発の風の槍、そして移動先から反転して奴に<風刃>を放った。

さすがにここまでくると周りの取り巻きも反応したようで、部下たちが俺の風の槍と風刃をそれぞれ必死に受け止める。


そこにシーラが<8光折>を2つ発動し、16本の光が盗賊たちの周囲に向かって放たれた。

それに盗賊たちが一瞬気を取られた隙に、マナが先ほど俺の攻撃を防いだ2人を巻きこむようにオブディオールの周辺を爆発させた。


『やったか!?』といいたくなる場面だが、相手にダメージを与えた感触のあるマナは、相手が倒れていないと確信し更に近づいて剣を抜く。

爆発の土煙が晴れる前にマナは剣を振り抜く。首を狙ったようだ。


「ちっ、浅かった…」


そんなマナに反撃しようと奴は右手に持った大剣を振り下ろそうとしたが、マナは目の前で爆発を起こし距離をとる。


その爆発でひるんだ隙に俺が奴の背中から剣を突き刺し、そのまま右肩へと切り上げる。

そしてすぐに距離をとり、今度は強めの<風の槍>を3発放った。


その頃シーラが放った16本の光が屈折し角度を変え、周囲の盗賊たちを貫く。

防ぐ者もいたが、ここに来るまでの傷とシーラの一撃で半分は戦闘不能になったようだ。


結局、俺の風の槍が2発オブディオールの体に突き刺さり奴は膝を屈し、残りの1発はそれを防ごうとした盗賊の体を貫いた。


「まだ生きているとはタフだな」


オブディオールは息も荒く出血もひどい。

一応奴の周辺の魔力は俺の魔力で相殺し続け、ほとんど抵抗できないよう予備の剣を杭代わりに右足に突き刺してうつ伏せにしている。


「き、貴様…何者(なにもん)だ…」


「今更聞いてどうする。流星の願いって傭兵団だ。冥途の土産話にでもしてろ」


「聞いたことねぇ名前だ…お前ら、こんなことして…」


まだ余計な口を利くだけの余力があるようなので、俺は左足の指付近を風刃で切り落とした。


「うぐぅあ」


こいつと一緒にいた他の7名の盗賊たちも全員無力化している。

先に治療を受けると言って離れていた2人は、騒ぎを聞きつけ慌ててやってきたところ、この状況を見て即座に降伏した。


マナの爆発に巻き込まれた2人は、そのままシーラの8光折に数か所貫かれ、崩れ落ちたところをエンデリンがとどめに光一閃を放ち死亡。

残り3人のうち2人も似たような感じだ。


ただ1人だけシーラの攻撃を防ぎきりなかなかの技量を示した奴がいたが、防御に回り続け降伏すると叫び続けたのでひとまず生かしている。


「マナ、拘束用の魔道具は着け終わったか?」


「うん、だけど後2個しかないよ。私くらい強い奴なら最低でも2個は必要になるから、腕のいい奴を捕獲したいなら1人くらいしか無理だと思ってね」


「わかった。あくまでアジトを聞き出すために生かしているだけだ。抵抗しなかったら一応ギルドに引き渡そうとは思うがな」


「了解」


こういう時のマナは本当に素晴らしい。端的で的確に動いてくれる

それに俺と同じく賊に対してかなり反感を持っているようだ。向いてる方向が同じなのも助かる。


「全員問題ないか?」


「はい、問題ありません」


いきなりの事だったとはいえ、シーラも見事に対応してくれた。

ユユネネの反応が早かったのは思わぬ収穫かもしれない。エンデリンは…後でシーラから小言が飛びそうだな。


まず、昨日は更新しておらず申し訳ありません。

更新日を勘違いしておりました。今後気をつけます。


誤字脱字等ありましたらご指摘いただけると助かります。

ブクマや感想や評価等、お時間があればよろしくお願いいたします。


いつもの仕事は暇なのですが、代わりに他の仕事が増えちょっと大変な状況ですが

次話は5/22(土)更新予定にしています。

(明後日ではなくてすみません)

では。

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