事件後、上級貴族たちの動き1
ここから2章の再興編になります。いわゆる事件のその後です。
ここを経て1章の状況に繋がります。人物がいっぺんに増えてしまいます。
光の連合の盟主国、ルーデンリア光国の王城内で最も高貴な者たちが集まる最高会議が開かれる会議室。
それは行き止まりのエリアにあり、一般の者たちはその近くのエリア一帯に立ち入ることすら許されない。
ここでこの光の連合の大まかな方針が決定されている。
豪華で巨大な長机のテーブルの左右に7つの大きな席
その大きな席には豪華な椅子が1つとやや小さめだが背もたれの付いている椅子が1つ置いてある。
そこは各上級貴族の当主が座り、その横の小さな椅子には相談役やその門閥の中級貴族の家長が座ったりする。
そして彼らが注目するテーブルの先には光の女王が座る席がある。
この会議は主に2月に1度だけ開催されており、この場所もその時にしか使われない。
ここで決められることは光の連合全体に影響を及ぼすものが多く、各国の国王も常に気にしているほどだ。
光の連合に所属する上級貴族は全部で7つあり、それぞれ住民に対する方針で大別すると3種に分けられる。
融和派:住民とうまくやっていき住民の発展をある程度認めつつ発展していこうと考えている派閥
・レンディアート家 当主(女):リリス・レンディアート
・ギラフェット家 当主(男):ボルティス・ギラフェット
中立派:融和派と支配派の考えをその場に応じて使分けるべきと考えてる派閥。双方に寄って離れてを繰り返しうまくバランスを取っている一面もある。
・リオンハーツ家 当主(男):シザーズ・リオンハーツ
・シヴィエット家 当主(女):メルティア・シヴィエット
・エレファシナ家 当主(女):アイ・エレファシナ
支配派:住民は貴族の所有物であり消耗品と考えている派閥。
・ライノセラス家 当主(男):バカス・ライノセラス
・ポンキュピーン家 当主(女):レディ・ポンキビーン
各派閥内でも多少の温度差はあるものの、基本はこの方針で分かれている。
この上級貴族の当主7名とルーデンリア光国の光の女王、基本は8人のトップによってこの連合は運営されていると言っても過言ではない。
時はバルードエルス家の直系全員が殺された悪夢の夜から2日後の朝
そこにはこの連合国を代表する7名の上級貴族と光国の女王が集合し会議が行われることになっていた。
「今日も当たり障りのない、いつもの顔合わせみたいな会議だと思って来たんだけど…何かあったのかな?」
役人たちがバタついている中、会議場に入ってきた中立派のシザーズ・リオンハーツが
誰か答えてくれませんかね~と言わんばかりに大きな声で言いながら席に着く。
先に席についていた支配派のレディ・ポンキビーンがその問いに答えた。
「まだ詳細は知りません。が、ライノセラス一門の中級貴族が一夜にして潰されたらしいです」
「おいおい、どこの馬鹿がやらかしたんだい?貴族同士の戦争はご法度だと以前決まったのに…愚かだねぇ。私が処断してやろうかな」
それなりに興味を示すシザーズ。どんな派閥の貴族たちでも守るという中立的な立場をアピールする。
その会話を聞いたのか、中立派の2人の当主が入って来る。
「騒がしい、それに面倒」
とだるそうに答えるメルティア・シヴィエット
「私のところじゃないのだからどうでもいい話なんだけど」
アイ・エレファシナは関わりたくない構えだ。
貴族家が滅ぶほどの争いとなれば、関わりたくないというものが出るもの自然な流れだった。
その後に支配派のバカス・ライノセラスが怒り散らしながら入って来る。
最後に融和派の2人リリス・レンディアート、ボルティス・ギラフェットが配下を連れて入ってきた。
最後に光の女王であるフェニー女王が入ってきて会議室の扉が閉められる。
そして定例の会議が始まった。
「さて、みなさん集まったようね。とりあえず席についてもらえないかしら。それと緊急の議題が入ってきたのでいつもの確認のような議題は後回しにさせてもらうわ」
女王はそう言うと、役人が後ろに用意した黒い板を叩いて起動させる。
魔力によって黒いパネルに映像を映し出す装置だ。薄いパネルだが現代でいうところのモニターみたいなものだ。
その黒いパネルにいくつかの映像が映し出される。
戦闘があったと思われる部屋中のものが壊されている寝室や、壁に破損などが見られる訓練室、漁られた金庫室などだ。
「ざっと紹介するけど、これが被害現場ね。被害者はライノセラス家の一門、中級貴族のバルードエルス家の直系全員。生きてる者はいないわ」
女王がそう紹介するとライノセラス家、バカス・ライノセラスが机を強打する。
彼の怒りを表すかのようなドン!と大きい音が部屋中に響く。
「もう少し説明するのでそれまでは待ちなさい」
女王が睨みながらバカスを制止するが、バカスは怒りが収まらない。
「俺の直属がやられてるのに黙ってろってか!」
それを見て同席しているバカスの秘書であり妻でもあるピルピーが制止して耳打ちすると
バカスは不服そうにしながらも大人しくなった。
「では説明を続けるわ」
女王はその後も淡々と説明を続ける。次は金庫の映像が映し出された。
「金庫を襲ったのは複数犯。少々手荒い跡から盗賊の類と思われるわ」
その説明に融和派のリリス・レンディアートが疑問の声を上げる。
「侵入した盗賊が少々有能だとしても、さすがに城に侵入して金庫を襲うとか考え難いね。ふつうは衛兵に殲滅されて終わりのはずなのに~」
「そうね、でも侵入したのが盗賊なのは間違いないわ。遺留品と目撃者がいたようでそこから絞り込めたみたい」
まだ聞いていない情報だったのか、バカスは女王の情報に聞き耳を立てる。
他の者たちは少し変な事件だなと思いつつも、黙って様子を見ていた。
「そのクソ盗賊どもは。当然すでに殲滅済みなのですよね?」
レディは冷静に語るが、多分怒ってるな、と周囲は者たちは理解しつつ、そのことには触れないよう何も言わない。
貴族が盗賊に全滅させられたなんて、不名誉どころか恥でしかない。それも同じ派閥の者だ。
レディが腹を立てるのも無理はなかった。
「その予定だったけどね。盗賊共のアジトに乗り込んだら誰もいなかったそうよ。まぁ、メンバーの特定は済んでいるし既に賞金首リストには出しているから発見次第連絡が来るわ。
ただ結構な魔力が漂っていたらしく、仲間割れがあった可能性もあるわ」
レディは「ふーん」と興味ないふりをし、バカスは目をぎらつかせる。
「それで首謀者と思われる者だけど、どうやら盗賊と共に侵入した凄腕の女性がいたみたいね」
淡々と説明を続ける女王の声にバカスが反応する。
「凄腕だろうが知るか!必ず叩き潰してくれるわ!」
再び机を、先ほどより強く叩いてバカスは怒鳴り息まいた。
「そいつが盗賊のリーダーというわけか」
ボルティス・ギラフェットが女王と視線を合わせずに正面を向いたまま尋ねるが、女王は困った表情で首を横に振った。
「どうもその女性、そこの盗賊団に元から所属していたわけじゃなさそうなのよ」
女王が困った表情で答えた。
盗賊のデータは元々、盗賊が根城にしているエリアに近い場所にある都市が収集している。
その内容はメンバーやその実力、犯罪傾向、横のつながりなどだ。
しかしこの盗賊団は中級貴族を殲滅させるほどの力を持っていなかった。
そもそもそんな恐ろしい盗賊団が存在するのなら、複数の貴族が力を結集して即日潰しに行っている。
「凄腕と特定した理由が気になるんだけど、その根拠は何だい?まさかその女性一人で潰したと言わないよね、女王様?」
とシザーズは気楽そうに、でもどこか探るように女王に尋ねる。
「あり得ない話だが、そんな凄腕だったらその人物はすぐに特定できるだろう」
とボルティスは落ち着きながらシザーズの言葉に付け足した。
貴族がおのおの言いたい放題になっているところに光の女王フェニーは注目が集まるように大きな声で発言する。
「そうよ」
その一言に会議室内が静かになる。
「直系の者たちへの殺害はおそらく1人で行われているわ。門番にも似た容姿の者がいたらしいけどそいつは実行犯ではなさそうね」
「へぇ、それはどこからの情報なのですか?」
先ほどまでは興味のなかったアイが急に興味を抱いたかのように女王に尋ねる。
他の当主たちも1人でという部分にどうやら強く反応したようだ。
「門番の件ならうちの配下からよ。事件の直前と思しき頃、ちょうど門を出ようとした者が見たと報告がありました」
目を伏せたままアイの方を見ることなく、レディは答えた。
「その1人で暴れたやつ、どんな容姿?」
端的に尋ねるメルティア
「髪は綺麗な薄い緑色。光が使える魔法使いらしいわ。生き残った侍女からの報告よ。有名な該当者はいないけど、LVは光41の家長エミールを倒せるほどだしその上の可能性が高いわね。
そうそう、ちなみにエミール・バルードエルスの父、いわゆる先代ね。彼もすでに殺されていたわ、多分数日前にね。ほぼ同一犯でしょう」
女王は資料を見ながらその内容に呆れつつも情報を付け加えた。
見事な手際に驚いたが、それよりも光のレベルが41より上という女王の言葉にざわつく貴族たち。
40を超えれば上級貴族の持つ戦力の中でも間違いなく主力の1人となりえる。
一般的な中級貴族では家長と総隊長を除くと数える程しかいないレベルだ。
そんな腕の者が盗賊たちを率いて城へ侵入し、直系の者たちを確実に殺害して家を滅ぼした。
はっきり言って映像を見て女王が説明していても、にわかには信じられない話だった。
そのざわつきの中で沈黙し顔を伏せ震えるものが1人いた。
融和派ギラフェット家の横に補佐としてこの会議に参加している、傘下の中級貴族の家長メルル・フィラビットだった。
その様子に気付いたボルティスは小声で声をかける。
「後で話をしよう」
その言葉をかけて肩を叩いた。その様子を女王だけが目ざとく見ていた。
「今のところここに上がってきた情報はそれだけね」
女王はひとまず報告を終える。
貴族たちは許すまじ、との態度は見せているものの裏ではその凄腕を自分の家で確保したいとぎらついている。
盗賊なんぞの指揮をしている輩ならば、十分な金さえ提示すれば簡単に釣りあげられる可能性が高いからだ。
それ以降はいつもの特に問題のない定例会、当たり障りのない報告会が進行した。
皆急いでいたのか、進行は早めでいつもの半分程度しかかからなかった。
会議が終わり各上級貴族の当主たちが退席していく。
とにかく自分達でさらなる情報を集め、早く接触し自分の手元に引き入れたい。
誰よりも早く見つけ確実に自分の手で始末したい。
それぞれの思惑を抱いて多くの当主たちが急ぎ本国へ戻っていく。
その中で席は立ったものの、退出しない貴族がいた。
それは先ほど様子のおかしかった中級貴族メルル・フィラビットとその守護者である上級貴族のボルティス・ギラフェット
さらに笑顔でノリのいいイケメンのリオンハーツ家の当主シザーズ。
そしてボルティスらの態度に気づいた光の女王フェニー・シヴィエット
その様子を察したのか役人たちはそそくさと退出し、すべての扉が閉められた。
この部屋は閉じられた瞬間、周囲に音を漏らさない<沈音>の効果が発動する特別な場所なのだ。
ブックマークも着実に増えてきました。読んでくれている皆様には本当に感謝しています。
ブクマや感想、誤字を含めたご指摘など、これからもお待ちしています。
この再興編は一気に使い捨てじゃない(すぐには死なない)人物がいっぺんに出てきて把握しにくいと思いますが
後々も出てきたりするので、よろしくお願いいたします。
(各キャラの言葉遣い・・気を付けてチェックしないと・・)
修正履歴
19/12/16 誤字脱字訂正、シザーズの口調変更。
20/07/22 内容の微修正など。




