村の防衛2
ここまでのあらすじ
宴の翌日、祝勝会でドミンゴスの言った通り、流星の願いは信用度B-へと昇格した。
昼食後、改めてメンバー全員に信用度B-へと上がったことが発表された。
コウを始め人材募集へと動いていた者たちは頭を痛めたが、エンデリンやユユネネは信じられないといった表情をしつつ、お互いに見合わせてかなり喜んでいた。
除け者扱いだった自分が、気がつけばこの町の最高ランクの一角に所属しているのだから無理もない。
だが悩んでいるコウたちの手前、喜ぶのはぐっとこらえていた。
既に日程も決め、コウの能力の精度も試し終わっていたタイミングでこれだ。
さすがに主要メンバーからは喜びの声が一切出ない。
「メルボンド、やっぱり採用の予定は再延期か?あまり延期してもこれじゃ変わらないと思うが」
「確かにコウ様の言うように変わらないかと思いますが、多少は熱を冷ました方が加入後も落ち着きやすいかと思います。
加入直後にやる気満々で空回りされると、こちらの統制も難しくなってしまうかと」
「なるほどなぁ、過度に張り切るような奴は厄介だし仕方がないか」
「はい」
コウはまだその盛り上がりを直接体験していないが、昨日の買い出しの様子などは耳に入れており
確かに熱量がありすぎるのも問題だなと同意した。
「めんどくさいよねー」
「仕方がないですよ。あまり張り切り過ぎられると、困るのは私たちですから」
「ううーん…」
マナはコウの希望通りに多くの人材を入れて団が大きくなることに積極的賛成の立場だ。
だが、他のメンバーの言うような問題も無視できないと考えているようで、結構悔しそうにしていた。
「んー、だったら先に緑壁から1人くらい入れちゃわない?」
「それもありなのですが、そうするとコウ様の希望されている戦闘力はないが別の能力に優れている者が応募しにくくなります」
「あー、そっかぁ」
「まぁ、なんか英雄っぽく祭り上げてるのも、しばらくすれば冷めるだろ。今の盛り上がりも一時の熱に浮かれているだけにすぎないからな。
その間俺たちはのんびりと依頼でもこなし、落ち着くのを待つことにしよう」
なかなか妙案は出ず、水面下で準備していたメンバー募集の時期も再び延期となった。
これで話は終わりかと思いきや、コウはもう一つ話があると立ち上がる。
「昨日は全員よくやってくれた。皆疲れも残っていることだし、今日は1日休みにしたいんだがどうだろう」
その言葉を聞き、メンバー全員が驚いた。
いつものコウならば『B-へと昇格したがこれまで通り依頼をこなすぞ』なんて言い出しそうなのに、突然1日休みにすると言い出したのだ。
確かに今も外はコウを一目見ようと、コウに一目でも見てもらおうと、素体の住民や傭兵たちが出待ちしている。
人目につきにくい早朝を逃した事もあり妥当な提案だったが、一部の者たちはその不自然さに疑いを持ちつつも黙ってその案を通した。
「よしっ、だったら僕は買い物に行く!」
昇格で気分が上がりまくっているエンデリンは、旧友たちに自慢しようと思い買い物に出ようと思った。
だが呆れた表情のシーラがそれを止める。
「エンデリン、今行くと大変なことになると思いますよ?」
「えっ、あっ、そっか…」
シーラの一言でエンデリンは一気に気持ちが萎えた。
昇格の件で浮かれあがっていたエンデリンは、外の状況のことをすっかり忘れていたのだ。
今外に出れば、確実に声をかけられまくる。
昨日の買い出しで嫌というほど体験していたはずなのに、まさかのB-への昇格ですっかり意識から外れていた。
「ダメじゃないですか、状況判断能力が落ちていますよ。いつもシーラさんに注意されているのに」
隣にいたユユネネも注意し、ますます凹むエンデリン。
「まぁまぁ、2人ともエンデリンをそんなにいじめるなって。今日は何もかもが普段と違うんだから仕方がないさ」
コウが笑いながらかばってやると、エンデリンは何度もコウに頭を下げていた。
「それで、師匠は昨日の対策ですか?」
昼食後の情報整理を終え、庭にいたコウにシーラが話しかける。
その横にはマナとエニメットもいた。
「なんだ…目的はバレバレか」
だろうなと思いつつコウは軽く息を吐く。
出来るだけ記憶が鮮明なうちに反省点を上げ、対策を考えて試してみる。
クエスやボサツと模擬戦をやっていた時はいつもそうしていたので、コウが休みを言い出した時点でこの3人はすぐにピンと来ていた。
「私たちにも必要なことですから、師匠だけで悩まないでください」
「…そうだな」
あれほどの危機に遭遇したにもかかわらず、マナだけでなくシーラやエニメットまでもしっかりと次のことを考えている。
コウは、これが死に対する受け入れ度合いの差なのだろうかと思い悩んだが、すぐにその考えを止めた。
弟子たちや侍女までもが、こうやって次どうすればいいかというのを考えているのだ。
あの時もっといろんな練習をしていたら、なんて事を今考えるのは全くもって無駄である。
周りに教えられてばかりだなと思い自嘲気味に笑うとコウは立ち上がった。
「よし。あの時は奇跡的に上手くいったが、次も上手くいくとは限らない。ひとまずマナの爆発系や俺の加圧弾なんかの精度を上げていこう。
それと、試しに4人まとめてだとどれ位飛ぶか試しておかないとな。風の板でのんびり脱出していては逃げきれない相手だったし」
倒すための算段ではなく、より上手く逃げるための方法を練習するという発言に3人は少し驚いたが、実にコウらしいと思い素直に賛成した。
才能のある魔法使いには特に強く出る傾向だが、負けた相手や魔物を次はどう倒すかというところに考えが行きがちである。
『自分は誰よりも優れているはずだ』なんて考えを持っていれば、そういう方向に行ってしまうのも仕方がない。
だが、コウはすぐにもっと上手く確実に逃げるための練習へと目線を切り替えた。
将来的には勝てる可能性があったとしても、直近では小手先の工夫をしたところでどうにかなる相手ではない。
それくらいの差をここにいる誰もが感じていた。
だからこそ、次はもっと安全に逃げられるように、防ぎ、離脱する方向へと練習のかじを切る。
なかなかやらないタイプの練習だったからか、途中エニメットが夕食の準備で抜けた後も練習が続いた。
「よし、今日はこれくらいにしておこう」
「うーん爆発はやっぱり勢いの調整が難しいなぁ…思った以上に課題だらけだよ~」
「障壁を動かせるようにして爆発を受ければいけると思ったのですが、想像以上に爆発の威力を打ち消すので、私ではお役に立ちそうにありません」
「いや、その分シーラは障壁で相手の魔法を受け止めることに全力をかけて欲しい。それはそれで大事な役割分担だ」
「あの時1枚目は即割れでしたし、型から工夫してみないとだめですね…」
シーラも役割があることに喜んではいたが、簡単に解決できる課題ではない。
どれが欠けても死ぬ可能性があった、その事実が全員の意識をより前へと押し出していた。
「師匠の加圧弾の方がやっぱり効率いいよね」
「確かにそうだが、爆発系と違って大勢をまとめて押すのは向いていないんだよ。
3人を同時に押すより2人を抱いて俺だけを押した方が効率良いんだよなぁ…ただバランスがより難しくなるが。
エニメットを入れて3人を抱えてとなると、俺だけで重心を自由に動かすのも難しいし…」
色々と見直した結果、納得がいかない点が多く洗い出され、夕食後再びエニメットを交えて更なる効率強化を求めて練習に励んだ。
翌日、コウはいつものように朝から魔物討伐を受注する。
町の門の警備及び連絡役などおいしい仕事も受けられるようになったが、初回は時間や回数などの調整となっており、その辺はメルボンドに丸投げした。
エンデリンたちにはあこがれの仕事だったらしく、昼に行う調整会には彼らも出ることが決まり、コウたちは早朝からいつもの全力討伐メンバーで出発した。
出発のため拠点を出ると、早朝にもかかわらず多くの傭兵たちが目に付く。
もちろん目に付くだけじゃなく、しっかりと声をかけてくるのだが。
「早いですね、頑張ってください」
「何かあったら、手伝いますぜ!」
「あぁ、その時は頼む」
あちらこちらからかけられる声にコウは簡単に答えていく。
都市長だった頃も、互いの地位や状況は違えど、こうやってあちこちから声をかけられることはあった。
コウが軽く手を上げて答えると、視線の先にいる傭兵は認知されたとよろこんでいる。
「師匠、よく平気だよね。私なら怒りがふつふつと溜まっている頃なんだけど」
「まぁ、そう言うなって。多くの…特にああいった素体の住人は本当に感謝しているんだ。その気持ちを受け取るのも俺たちの役目の内さ」
「実際、流星の願いは町を救った英雄だなんて声も聞こえてくるくらいです」
「はぁ、別に俺たちだけで討伐したわけじゃないんだけどなぁ」
コウは多少うんざりしつつため息をつくが、その言葉にマナやシーラはあえて触れなかった。
確かにコウの言う通りなのだが、今回の討伐戦でもし流星の願いが参加しなければ…簡単に想像するだけでもかなりの危機的状況になっていたとしか思えない。
だからもう少し偉そうにしてもいいのに、と言いたくなったが、コウの性格上そのアドバイスは聞き流すだろう。
さすがに人が増えてきたこともあり、王女として多少こういった経験に慣れているシーラも仕方なく軽く手を振りはじめる。
いつもは10分ほどしかかからない門までの道のりを、今日は20分ほどかけて歩かされた。
そんな日々が数日続いた頃だった。
町の人々からの敬意はさほど変わらないが、朝から挨拶するために待機している傭兵たちが少しずつ減ってきていた。
多少の落ち着きを取り戻しつつも、新しい頼りがいのある傭兵団を町がおおむね歓迎しており、コウたちへの好感度は高い水準を維持している。
そろそろ募集に向けて始動しようかと思っていた頃、朝起きて今日出ている依頼をチェックしたエニメットがコウの寝室へとやって来ていた。
「コウ様、起きてらっしゃいますか?」
「あぁ、こんな朝からどうした?」
「それが、指名依頼が来ておりまして…」
また厄介事かと思い頭を抱えつつコウは部屋を出た。
信用度も上がり、短期間でこの町の上位層まで上り詰めた流星の願い。
階段を下りながら、B-になればこれくらいの頻度で指名が来るものなのかと思い内容を尋ねると、エニメットから告げられたのは予想外の内容だった。
「指名で来ているのは『村の防衛』依頼です。依頼者はそこの村のまとめ役、いわゆる村長です」
「はぁ?」
コウは大方、この町の町長かギルド、最悪同じB-の傭兵団が接触するために指名してきたのだと考えていたのだが
予想もしていなかった相手、しかも内容がその村の防衛である。
指名依頼料は決して安くはない。しかも依頼する場合は、依頼する側にも一定の信用が求められる。
町に合流しない、小規模の村にいる村長がどれだけ信用できるのかは知らないが、そんなに潤沢な予算があるとは思えない。
が、昇格してから初めての指名だ。
コウはひとまず内容の詳細を聞いてみることにした。
「んで、防衛って何をすればいいんだ?」
「それが……内容は2~3日後、村に3日間滞在して欲しいとのことです。メンバーは3名以上が常にいればいいだけだそうで…」
「ん?まぁ、変な内容だが敵は誰なんだ?正直炎狼だったらうちだけじゃきついぞ。この間の一件を考えると、またあの巨人に出くわしかねない」
「いえ、えっと…その、想定される敵は…何も書いておらず…」
「はぁ?敵はわからないが、とにかく3日間居てくれってことか?」
「そのようです。それで指名料が、炎狼の魔石1つ、報酬は1日2千ルピで最終日渡しだそうで」
かかる時間と成功報酬だけ見れば、火ウサギを狩りに行った方がましなレベルである。
だが、指名依頼料の魔石にコウもエニメットも誰が依頼してきたのかピンときた。
「あのおっちゃんたち、生きてたのか」
「はい、そのようです。それで…魔石を返すための方便ってことでしょうか?」
「んー、ついでにお近づきになりたい、ってのは入っていると思うぞ。新しい上位の傭兵団と接触するなら上手い手だと言えるだろ」
「そうですね。それでは警戒した方がよいでしょうか?」
「…うーん、とりあえず皆に意見を求めてみるか。魔石だけで最低5千ルピはあるし、加工すればもっと高く売れる。決して悪い報酬じゃないだろう」
受ければとりあえず5千ルピ(100万円)、3名以上とはいうものの敵が少数で弱ければ、実力のある誰か1名と他エンデリンたち2名でもよいことになる。
火ウサギに苦戦する彼らにとっては悪くない報酬なので、彼らの直接収入目当てで参加するのはありだ。
が、敵はわからないのに防衛ってのが気になるので、ここで結論を出すのは避けておく。
最悪、ドミンゴスのいる緑壁かこの手の仕事を専門とするボルトネック率いる民への誓いに聞くことも視野に入れ、この場での結論は保留となった。
今話も読んでいただきありがとうございます。
ようやくここまで話を進めてこれたという思いです。
誤字脱字等ありましたらご指摘ください。気をつけてはいますが、最近でかい間違いが多いですね、すみません。
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次話は4/28(水)更新予定です。
早く続きを書いていかないとなぁ…では。




