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共同討伐4

ここまでのあらすじ


緑壁と同じチームになったコウたちは、強力な一撃を隠しつつ手数で炎狼を撃破した。


炎狼を倒しほっとして談笑していると、後方で援護してくれていたドミンゴスがやってきた。


「やるじゃねーか、お前。マジで炎狼を近づいたまま倒せるとは思わなかったぜ」


「…いけると信じて作戦に乗ったんじゃないのかよ?」


「いやぁ~、さすがに無理だろうし、タイミングを見て加勢しようと思ってたんだがな…」


これまでよりずいぶん嬉しそうにドミンゴスが語る。一応彼の御眼鏡にかなったようだ。


「お前のとこの侍女も結構役に立ったぜ。あれくれーの腕があるのならうちでも他所でも歓迎されるだろうな」


「俺は手放すつもりなどないぞ」


「まぁ、そうだろうな」


答えながらニヤリと笑うところはちょっとムカつく。

しかし…わかっていながら言ってくるということは、わりかし本気で欲しかったということだろうか?


どちらにしてもエニメットは俺の大切な侍女。誰かに渡すつもりなんてない。

とはいえ他の者にも認められたことは、主人である俺としても鼻が高いが。


「なんにせよ、炎狼相手にあそこまで近接やれる奴がいるとはたまげたぜ」


「普段狩るときは全部遠距離からなのか?」


「そりゃそうだ。あの炎をまき散らすやつとか近くで受けると厄介だろ。それに体毛が燃え盛ってるから直接攻撃するとこっちもやけどを負っちまう」


確かに腹部以外は周囲に炎が燃え盛っており近づくだけでも危険な相手だ。

しかし動きが早く当てるのが困難なあいつを遠距離できっちり仕留めるというのも相当困難だと思うんだが。


「時々出るのか?炎狼は」


「ん?まぁ、年1~2ってとこだな。毎回犠牲者や負傷者が出るから、お前みたいなのがいれば楽なんだがな…

 さて、もう1匹はいつも通りやってるか~?」


そう言ってドミンゴスが遠くを見ると、もう1チームが炎狼とやり合っているのが見える。

周囲から小さな攻撃が飛ばないところを見ると、雑魚は既に処理してしまっているようだ。


大きな火の玉を飛ばしながら別の方向へ突っ込む炎狼だが、それを読んでいたかのように何重もの魔法障壁で攻撃を受け止めつつ

突撃をためらうほどの攻撃を浴びせている。


たまらず奴の足が止まれば、そこを集中砲火し着実にダメージを与えている。


仕方なく炎狼が距離をとると、絶え間ないけん制攻撃を続けて強力な攻撃を準備させないよう抑え込んでいた。数の有利を使った見事な戦法だ。

とはいえ既に数名は負傷しているようで、彼らは少し離れたところで回復役2名と共に待機しつつ情勢を見守っている。


「……さすが慣れてるだけあって手際がいいな」


「確かに手際はいいが気は抜けねぇ。奴は頭がよく隙を見せればすぐに付け込んでくる嫌な奴だ」


半円状に囲む陣形を作り突破されないようけん制攻撃を厚くして対処しつつ、本命の攻撃を混ぜ常に削り続けている。

半円状の陣の端を狙おうとすると、その部分は直線になるように下がりつつ引きつけ、反対側が距離を詰めながら攻撃する。


炎狼が陣を崩そうと無理に突破を試みれば、敢えて陣を崩して突破させつつ再度包囲にかかっていた。


「これじゃ、もう俺の出番は不要のようだな…」


がっつり働かされるのではと思っていた俺は少し安心してつぶやいた。

手の内をどんどん披露させられるのはさすがに好ましくないので助かる話だ。


「がはははは。さすがにやめてやれ。お前が乱入したら、あいつらの取り分がなくなっちまう」


「…っ、た、確かにそうだな。俺の実力を見たいがためてっきり参加させられるのかと思ってたんで…」


「…それじゃあ、うちが金を出した意味がなくなっちまうだろ?」


あー、そう言うことか。

この人もさすがにB-のリーダーだけあって間抜けではない。


敵対せずに済んだだけでもありがたい話だが、今度は彼らの綱引きに巻き込まれそうな気がした。

あんまり気を許し過ぎるとずぶずぶな関係にされそうで怖い。


「あー、ところで、お前のところの増員の件だが…」


何もすることがなくなったところに、一番触れて欲しくない話題を投げられた。

雰囲気は悪くないが彼の性格から知らないふりをするのは悪手だと思うので、先にこちらの考えを述べさせてもらう。


「あれは、俺たちが意図的にやったわけじゃないんだが…」


「そりゃわかってる。んじゃなきゃ、明確に敵対行動をとったと判断して今頃はこんな雰囲気になってるもんかよ」


そう言われればそうなんだが、今でも十分雰囲気悪いと思うんだけどな…。

こうやって軽く受け答えできる雰囲気を作ってくれてるのは緑壁くらいなものなんだし。


「一応こちらとしても募集人数を絞り、個人面接にして誰がうちを受けたのかわからないように配慮するつもりだ。

 こっちだって町中の傭兵団に喧嘩売りたいなんて思ってないからな」


「あぁ、知ってるぜ。なかなか殊勝な心掛けだ。その甲斐あってか、あいつらの疑いも少しは薄まっていると思うぜ」


「全然そうは感じないんだがな…」


「自分の団が壊される可能性もあるんだ。そうそう気を許すことはしねーだろうよ。あぁ、あとこれだけは言っとくぜ。

 うちから引き抜くのなら1人…まぁ、2人までなら見逃してやる。それ以上手を出せば……お前は俺たちの敵だ」


「は、はい…」


圧に押され思わず返事してしまったが、2人までは許すってことはどういうことなのだろうか?

どこに地雷が埋まっているのかわからない避けたい話題だが、この機を逃すと聞くことすら難しくなるので仕方がない。


「い、いや…2人って…普通1人でもダメだと思うんですけど」


「まぁーな。だがお前のところは思った以上にすげー集団、うちから行った奴が将来核となって名をあげる可能性もあるくれえだ。

 そんな可能性を潰すってのは自由な傭兵団のリーダーとしてつまんねーだろ?もちろん、うちがガタガタになるくらい引き抜かれちゃたまらんが」


「あ、ありがとうございます」


「なぁーに、そんときゃ俺たちとお前らの仲がいいってだけでこっちが得するんだ。気にすることはねーぜ」


あてにしているぞと言わんばかりににやりと笑う。

メンバーたちもそれを聞き納得しているようだった。


一軒豪快で脳筋に見えなくもないドミンゴスだが、俺以上にこれから先の損得をきっちりと考えての発言。

リーダーとしてどっしりと構える度胸も先見の明も、俺よりはるかに上だと思い知らされる。


仲間が行けばつながりができてこっちも得をする、か。

こちらからは言えない台詞だが、言ってもらえるのはありがたい。

もちろん、それなりのプレッシャーも感じるが。


「期待に添えるよう頑張らせてもらいます」


「ふっ」


俺の言葉に軽く笑うと、そのままもう1チームの戦いの様子を見るドミンゴス。

この共同討伐で彼と同じチームになれたのは思いがけない幸運だったと言えるだろう。



それから5分ほど経過した。


こちらはやることがなく手を貸すわけにもいかないので、魔石だけ回収して先ほどの位置から動かず彼らの戦いを観察する。

というかそれ以外やることがなかった。


向こうのチームはあれから更に2名が陣形から脱落したが、炎狼の動きもかなり鈍くなってきている。

この調子なら、これから5分…いや10分もあれば炎狼を仕留められるだろう。


戦い慣れしているだけあってか、着実に相手を弱らせて討伐まで1歩1歩討伐まで駒を進めている感じだ。


「もうちょっとで終わりそう。追い詰め方もうまいよね」


マナに言われ徐々に相手との距離を詰めていることに気がついた。

攻撃も徐々に激しくなっており炎狼も先ほどより攻撃できなくなっている。


「嬢ちゃん鋭いな」


「マナだよ。このままだらだらと削るのかと思ってたらちゃんと時短してるんだもん、感心だよねー」


「ありゃ俺たちが編み出した戦法だ。俺たちはそういう魔物の倒し方も考案して広めてるからな。

 時間をかければ他の魔物がやってくるかもしれねぇし、相手がへばってきたらテンポを上げるのも大事なことの一つだ」


「おぉー、さすがは専門家だね」


「あぁ、、まぁな」


感心するマナに対して、当然だと言わんばかりのドミンゴス。


俺たちは目標を倒した後周囲に敵がいないこともあってずっと彼らの戦いを観察している。

とはいえ、うちからはシーラやエニメット、緑壁からも数名が周囲の警戒を続けていた。


ここは俺たちではなく魔物のテリトリー、大物を倒したからって油断していられる場所ではない。

もちろん俺も時々魔力を薄く周囲に飛ばして警戒を続けていた。


そうこうしているうちに向こうの炎狼がバランスを崩し倒れ込んだ。

すぐに起き上がったが、討伐ももう目の前と言ったところだろう。そんな時だった。

後方からとてつもなく大きな雄叫びが聞こえた。


「うぉぉぉぉぉーん」


俺たちは即座に武器を取り出し後ろに振り返って戦闘体勢をとった。

200m以上先、小高く盛り上がった場所の上に炎狼がいてこちらに向かって再び吠える。


「炎狼!?3匹目かよ……マジか」


予定外の炎狼の出現に俺は戸惑った。


討伐依頼を出す際には事前の調査が行われる。

特に大物相手となると2匹と3匹の違いはかなりの違いとなり、必要となる戦力に大きな差が出る。

そのため大物相手の討伐依頼は当然十分な下調べが行われているはずだ。


なのに調査では見つからなかった炎狼の出現。しかもこの一帯は多少の起伏があるとはいえ丈の低い草の生えた草原。

下調べ時に体高1mほどの炎狼を見逃すなんてまずありえないはずだ。


「おい、もう1匹いるぞ。どうなってやがる!」


「いえ、十分な下見をしたのですが…3匹目なんて一切見当たらず…」


どうやら緑壁がこの一帯の下見していたらしい。

大物相手なので下見も安全を重視して上位の傭兵団に行かせたのだろう。


ならばなぜ3匹目が出てきた…しかもこのタイミングで…俺はかなり嫌な予感がした。


「向こうに加勢されてはまずい。援軍に行きましょう」


「待て、あいつは俺たちの方がはるかに近い。向こうへの援軍は不要だろう、俺たちが迎撃すればいい」


そう言いつつもう1チームの様子を見ると、向こうにも先ほどの咆哮が届いたようで明らかに動揺している。

先ほどまで狭めていた陣形も再び広がり、2名は陣形から離れてもう1匹の炎狼を警戒していた。


「ですが、ぐるりと回り込まれて向こう側に加勢に行かれたらこっちが追いつけなくなる。ここはさっさと瀕死の炎狼を倒すため援軍に向かうべきでしょう」


こちらの方が近いので俺たちで炎狼を倒しに向かってもいいが、それを避けるようにもう一チームの方に向かわれるとかなりの犠牲が出かねない。

こういう場合は疲れている仲間の方へ向かうのがセオリーのはずだ。


「いや…大丈夫だ。基本的にあいつらはお互いに連携をとったりはしない。向かってくるならこっちの方だろう」


もう1戦やるしかないかという雰囲気でドミンゴスは語った。


「連携をとらない?」


「あぁ、あいつらは炎狼がリーダーの群れだ。基本的に各群れは他の群れのことなどほとんど興味がねぇ。

 むしろやられている群れがいるなら逃げ出すくれえだ。自分たちも同じ目にあう可能性があるからな」


なるほど、そういう生態ならドミンゴスの言い分も理解できる。

だが、何か違和感があった。彼の言い分が正しいなら、最初の2匹はなぜあんな風に出てきた。


そして今度出てきた炎狼はわざわざ目立つように吠えたのか。

なぜ自分たちに興味を向けさせたのか。あれは他の群れを助けようとした行動に見えた。


長年観察してきた緑壁の人たちが大きなミスをやらかしたとは考え難い……では、いつもと一体何が違うのだろうか?

考えているうちに俺の中である仮定が浮かんだ。


この過程が合っていたとしたら相当まずいが、現段階ではその根拠はかなり薄い。

笑われるかもしれないがドミンゴスに相談してみよう、そう思った時だった。


遠くに現れてアピールしてきた炎狼が明後日の方向にゆっくりと歩き始める。

こちらの注目を引いておきながら、囲まれている炎狼を助けることなく立ち去るもう1匹の炎狼。


ドミンゴスの言う個々の群れ理論が正しかったということだろうか?だったらなぜ吠えたんだ…。

確証の持てないまま次の展開へと移行し思考が散らされたかと思った時、シーラが声をかけてきた。


「師匠、大変です。あの方向の先には村があります」


「あぁ、そういやあったな…ちっ、しかたねぇ。俺たちで追いかけて()りに行くか」


ドミンゴスは狩りに行くことを決めたようだ。

幸いこちらはまだ余力がかなり残っているし、なぜだか炎狼も追いかけて来いと言わんばかりにゆっくりと向かっている。

今なら追いついて倒すことができる。


だが俺は先ほどの違和感がより強くなったことを感じて指示を出した。


魔物の共同討伐とはいえ、俺の傭兵団メンバーに対しては俺が指示を出せるし勝手に動いてはいけないというルールもない。

少なくとも当初の目標である2匹はほぼ討伐完了なのだから。


もちろん、他に負担を押し付ける逃亡や事前に決めた分を逸脱する横取りはペナルティーとなり悪評を生むが、最悪の可能性を考えるとペナルティー覚悟でも動いた方がよさそうに思えた。


「マナ、あの死にかけにとどめを刺してこい。そして……いいな、頼むぞ」


「ん、了解」


真剣な表情でマナは何も聞かず俺の指示に従って動き出した。

こういう時ごちゃごちゃと反論せず素直に指示を聞いてくれるのは助かる。今まで培った信頼関係がなせる業だろう。


次にシーラとエニメットに指示を出す。


「2人は俺に同行してくれ。特にエニメットは俺かシーラのどちらかからできるだけ離れるな、いいな」


状況を理解しているのかはわからないが、何も聞かず2人も同意してくれた。

だがそれを見たドミンゴスたちは慌てだす。


「おいおい、マナを止めろ。さすがにこのタイミングで横取りはまずい。喧嘩を売ってるとしか思えねぇ」


「悪いが嫌な予感がするんだ。緑壁はここで次の動きに対応して動いてもらえると助かる」


「あぁ、次の動き?なんだそりゃ」


「すまんがゆっくり説明している暇はない」


俺はそれだけを告げると<風の板>を作り2人を乗せ、村へと向かう炎狼を全速力で追いかけた。


「おい、待てっ」


止める声が聞こえたが、俺は無視して一気に先ほど現れた炎狼へと向かう。

いつもこの辺りで炎狼を討伐している彼らでは逆にこの可能性を見落とす場合があり、その場合俺たち討伐隊に大きな被害が出る可能性があった。


しかし、ここでの討伐に慣れていない俺たちには違和感として強く感じるものがある。

それをゆっくりと説明し納得してもらう暇はなかった。


今話も読んでいただきありがとうございます。

日曜日は早く帰宅できそうなので、更新時間も早くなりそうです。


誤字脱字等ありましたらご指摘ください。いつも指摘していたいてる方、ありがとうございます。

ブクマや感想など頂けると、励みになります。


活動報告に書きましたが、リアルがちょっと厳しい状況になっております。

頑張れる範囲は頑張っていきますので、これからもよろしくお願いします。


次話は3/17(水)更新予定です。 では。

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