信用度C+の環境4
ここまでのあらすじ
新しいタイプの依頼を受けようとギルドへ向かったコウたちだが、その活躍を聞き加入したいと考える者たちが次々と押し寄せてきた。
用事を済ませ受付に礼を言って傭兵ギルドを出ようとすると、控えていた24人もの魔法使いの視線がこちらに集まる。
これじゃまるで俺たちが見張られるべき悪人みたいじゃないか。マジでどうにかしてほしい。
そんな不満を顔には出さず黙って通り過ぎようとすると、その中の1人が声をかけてきた。
「今回はどのような依頼を受けられたのですか?私でよければぜひ力をお貸ししたく待機しておりました」
うざい。一言で言うとうざい。
そりゃ多少の下心は誰しもあるもので、それを敬意に混ぜられることに強い不快感はない。
普通の者ならば、周りからそんな敬意を示されればうれしいことかもしれない。
だがあいにく俺は都市長の頃の生活で良くも悪くもその状況を1年半も味わい続けた身だ。
下心付きの敬意など四六時中向けられていたと言っても過言じゃない。
今更、そんな敬意に対して感動するほどピュアな精神の持ち主に戻れるはずもない。
こういう奴はこちら側に先の計画があり手持ちの札が欲しい時は使い勝手が良いが、この先いつ光の連合に戻るかわからない今の身ではあまり手元に置きたい存在ではない。
積極性は買うが今でなくても引っ張って来れそうな人物だと思う。
「ありがとう、気持ちだけ受け取っておくよ」
そう言って俺はスルーしようとする。
そしたらほかの者たちが次々と声をかけてきた。
「私なら魔物の警戒にお役に立ちます」
「俺ならどんなことでやって見せるぜ」
「お役に立ちますので是非」
そんなに色々と言われても、こちらははなっから連れていくつもりなどないのだが…。
具体的に役に立てる部分をアピールしてくる者は一応覚えておくが、とにかく役に立つとかいう奴は論外だろう。
そういうやつは自覚できるアピールポイントがないと白状しているものだからな。
強いて欲しいと言えばこの町の事情をよく知る者とかだが…そんな奴がここに居るとは思えない。
魔物の警戒は他にやってくれる人がいれば俺も楽できるのでありがたいが
索敵に関しては俺の範囲の方が圧倒的に広いだろうし、ぶっちゃけ役に立たないだろうな。
「悪いが今日は初めての依頼に挑戦するので、こちらの力量を試したいし助っ人は必要ないんだ。
さっきも言ったが今のところ新メンバーを募集する予定はない。募集する場合はギルドの情報に出すからそっちを参考にしてくれ」
言いたいことを言ってさっさと立ち去ろうとしたが、それくらいで納得できるようならここまでくらいついて来ないだろう。
案の定、すがるようにこちらに同行できるよう求めてきた。
「せ、せめて荷物持ち…」
「盾にならなれますから…」
「これ以上ここで話しかける奴は絶対に加入させないリストに入れる。以上だ」
少しイラっとした俺の一言で皆が黙る。
罰の悪さを感じながらも俺たちは何とか傭兵ギルドを後にした。
「ふぅーーっ」
ギルドを出て疲れが出たのか、思わず大きなため息をついてしまう。
必死なのはまぁわかる。
同じように必死なエンデリンを加入させているし、そのことは当然彼らも知っているのだろう。
だからこそああやって群がって来るのだ。
その点ではこの必死さを招いた原因はこちらにも少なからずあると言える。
とはいえ、あの頃とは状況が全然違う。
とりあえず金だけは持ってそうで、食いっぱぐれなければそれでいいと思いながらやって来たエンデリンは
こちらの雑用係が欲しいという思惑と一致したから加入させたまでだ。
だが彼らはC+という信用のある傭兵団に入れるからとか、この先さらに上に行けそうだという恩恵にあずかりたい思惑がある。
成功したところに入りたいと言うわけだ。
C+になったことで自分もしっかりしなければと考えているエンデリンとは天と地の差だと言えよう。
中には真っ当そうなものもいたが、この場で加入を認めれば大騒ぎになるのでさすがにスルーせざるを得ない。
もはや惜しいと言う気持ちすらわかないほど俺の心は疲弊していた。
「大丈夫ですか?師匠」
「まぁ、依頼をこなす分に支障はないよ。とはいえ、あそこまで加入希望者が出るとは驚いた。
全員に情報がいきわたるまでしばらく時間がかかりそうだし、それまでは我慢するしかなさそうだな、あれは」
今更頭を抱えたところでどうしようもない。
手は打ったのだから、その効果がより早く伝わることを祈るしかないだろう。
さっさと町を出ようかと思い歩くペースを速めたところで、俺はメルボンドに呼び止められた。
「コウ様、ここは一度拠点に戻ってこのことを伝えた方が良いかと思われます」
「んー、そうか?マナもいるし大丈夫じゃないか?」
「マナ殿はある程度しっかりしていますが、さすがに今の状況は異常です。マナ殿が怒ってトラブルを起こすことの無いよう、手を打たれた方がよいかと思われます」
「……まぁ、確かに」
一見喧嘩っ早く見えるマナだが、あれでもかなり理性的な女性だ。
譲るところはちゃんと譲る精神を持っているし、火属性に合う豪快な性格が目立つが案外我慢もできる。
とはいえ先ほどのように次から次へと言い寄られてはさすがのマナもうんざりしてキレかねない。
メルボンドの言うようにフォローしておくべきだろう。
「仕方ないか、いったん拠点へ戻るか」
「そうですね」
「わかりました」
別に俺が悪いわけじゃないんだが、なんだか少し申し訳なく感じた。
不意を突かれ後手後手の対応になっているが、特に良い手があったとは思えない。
強いて言うなら、反響に対するこちらの見積もりが甘かったな。
「たかが新規傭兵団が早々とC+になっただけなのにな…」
ぼやいてみたところで状況は変わらない。
今は打てる手を打っておかなければならないのだ。
いったん拠点へと戻った俺たちは状況をマナたちに説明すると、予想通りマナは嫌そうな顔をしていた。
「そんな顔を俺に向けないでくれよ」
「ご、ごめん。そんなつもりじゃなくて…」
「わかってる。まぁとにあく、誰であっても、どんな加入希望でも、どんな誘いでも今は全部断ってくれ。
募集は情報掲示板に出すと言って引き下がらせればいいから。ただしトラブルはできるだけ避けてくれよ」
「はーい」
やる気のないマナの返事だが、ここは仕方がない。
俺だってやる気の出ない状況だもんな。
「無理言って悪いな、マナ」
「いいよ、有名税みたいなものだと思うから。それだけ師匠が誇らしいってことだし」
こういう時に持ち上げてくれなくてもいいのだが、これはこれでうれしかった。
ちょっとだけやる気が出てくる。こんな時にも俺に気を使ってくれるとはありがたい。
「あと、今日の買い出しは俺かマナ戻ってから行くので、それまでは不用意に出ないでくれよ」
「わかりました」
念のため従者たちにも警告しておく。
今日はエニメットを採取依頼に連れていくので、普段であれば従者たちがエニメットの指示したものを買いに行く日なのだが
奴らが押しの効きそうな相手を選んで突撃してこないとも限らない。
なんでこんな心配までしなきゃならんのかと思うが、こうなった以上先に手を打っておかねば事が起きてから動いても問題が大きくなる。
ひとまず対策を敷けたので、俺たちはようやく採取依頼をこなすために出発した。
いつもと違う門に向かい挨拶すると、どうやら傭兵団が警護していたようで挨拶し返してくれる。
どうやら彼らにも認知されているようだった。
そのまま門を抜け、目的の背丈の高い草の生えたエリアへ向かう。
正直相手したくないが、諦めの悪いやつらが3人ほどついてきていた。
ここからは魔物と遭遇する場合もあり、変に協力しようと寄ってきてこちらの邪魔をされてもかなわない。
仕方がないのでリーダーである俺が一声かけることにした。
「ふぅ、すまないが君らはいつまで付いてくるつもりなんだ?」
彼らは声をかけられたのがうれしかったのか、ここぞとばかりにアピールしてくる。
「ぜひ何かのお役に立てればと思って」
「周囲の警戒は私にお任せを」
「この方向は採取依頼ですか?品目さえ教えていただければお手伝いできます」
まさに三者三様と言った感じだ。
それぞれ協力的なのはこちらとしても不快ではないが、ここまでしてうちに入りたいのかと思うとやや呆れもする。
彼らにとっては嫌われるリスクよりもチャンスを逃すリスクの方が大きいということだろうか?
「いや、悪いが手伝いは要らない。こちらも初めての依頼で色々と経験しておきたいんだ。
フォローがうれしくないわけではないが、その分こちらも経験を積む機会を失うことになるからな」
「では遠巻きに待機しています。もし何かあればお力になれますので」
「私もそう致します」
「では、私も」
どうあってもこのチャンスを逃すまいと言わんばかりだ。
後々トラブルになっても面倒なので、一応これだけは言っておく。
「報酬も分けないし、何の礼も感謝もしないぞ。それでよければ勝手にしてくれ」
冷たく突き放したところで去ってくれるとは到底思えないので、事後のトラブルだけは避けるべく手を打っておいた。
俺の言葉に彼らはただ頷いて少し距離を取り始める。
とりあえず少し離れてくれたが、オブラートに包んだこちらの真意は全く伝わっていない。
ここまで彼らが必死になる理由もいまいち理解できないが、今更それはどうでもいい。
ただ、こちらにとっては迷惑だということを理解してくれなかったのはちょっと痛い。
俺がメルボンドたちのところへ戻ると、彼らが先ほどより距離をとったので不思議そうに尋ねてきた。
「説得が、通じたのですか?」
「いいや、全然」
「ですが、彼らは遠ざかっています」
「予備として待機してるってさ。あれじゃ偵察なのか加入希望者なのか、はたまた嫌がらせなのか全く区別がつかん」
「師匠、もう彼らのことは忘れてさっさと目的地へと向かいましょう」
シーラの言葉に同意し、俺はさっさと風の板を作ると全員を乗せて目的地へとスピードを出しながら向かった。
俺の作る風の板は、その辺の魔道具で作ったものよりもはるかに速い。
1人は走って残りの2人は風の板を作りついて来るが、目的地へ着くはるか前に彼らは見えなくなっていた。
今話も読んでいただきありがとうございます。
危なかった…更新日と気づかずお話書いていました。反省。
誤字脱字、ご指摘していただければ嬉しいです。
ブクマや感想などなど、お待ちしています。大歓迎です。
次話は1/31(日)更新予定です。 では。




