頂上対決3
ここまでのあらすじ
森の中で気を窺うクエスたちに対し、都市を守る闇の国は援軍を要請した。
◆◇◆◇
それから数日後、ブラックフェーブルに援軍が到着する。
第1部隊の精鋭100名、そしてその先頭にいたのは闇の国の最高戦力と呼ばれた黒騎士ミョウコクだった。
歓迎しようと転移門の前で待ち構えていたニッキロウをはじめとする士官たちは、想定外の援軍に思わず固まってしまう。
森の中にいる光の奴等にはあのボサツがいるとされている。そんな奴等に対抗できる人物といえば、闇の国ではせいぜい第1部隊か第2部隊の隊長くらいだ。
とはいえ、今は重要な作戦の準備中と聞いていたので、まさか最強とうたわれる第1部隊の隊長、黒騎士様が来てくれるとは思っていなかった。
しかもエリート集団第1部隊の精鋭100名まで連れてきている。
これなら状況が好転すると味方に思わせるには十分な絵面であり、兵士たちの士気は一気に上がる。
まさに生贄を要求する魔物を退治してくれる勇者様が現れたような状況で、彼らは異様なほどの熱烈な歓迎を受けた。
「ずいぶんだな…この沸き立ち方は」
「ここまでの歓迎ぶりとは、来たかいがあったかもな」
「仲間にここまで歓迎されりゃ、やる気が出るぜ」
「さぁ、悪魔退治だ。腕がなるぜ」
精鋭たちが味方の歓迎を受け少し浮かれる中、黒騎士はフルフェイスのヘルメットの中で真剣な顔つきをしていた。
先の光闇大戦で虹色の悪魔として闇の国の兵士たちを恐怖へと陥れた存在、それが光の守護者の1人、ボサツである。
今から30年以上前、戦場で暴れていた彼女はまさに悪魔のような存在だった。
風属性で狙った相手を決して逃がさず、雷属性で相手を即座に射貫き、火属性で広範囲の仲間を焼き尽くす。
そんな魔法を闇属性で防ごうとすれば、光に貫かれて消し去られる。
為す術もなく消されて行った仲間は大勢いた。
それを今から倒しに行く。ようやく…この時が来たのだ。
黒騎士は今までの事を思い出しこぶしを力強く握りしめた。
◆◇◆◇◆◇
30年以上前のことだ。私が第1部隊の仕官の中で頭角を現し始めた頃、同じように頭角を現し始めた2人の友人がいた。
2人の名はトゥトゥーリとリュウズ。
トゥトゥーリは普段優しい女性だが、戦場では味方に気をまわしながら戦える才女。
視野が広く力押しよりも削るのを得意とする。決して派手ではないが安定した戦いぶりから兵士たちにも評価されていた。
リュウズはやや前のめりなところがあるが、仲間に対して熱い心を持った才子。
敵に突撃することで味方を鼓舞するその姿は、彼の部隊だけでなく周囲にいる味方の兵士たちも勢いづかせていた。
私はその2人の中間的な存在であり、程よい視野で的確に兵士を動かし相手を倒せるか見極めるのを得意としていた。
時には部隊の先頭に立つことで味方を盛り上げ、時には遠距離から相手を削って疲弊させ、安定した功績をあげていた。
お互いの活躍を戦場で聞きながら、集まる機会があれば集まって色々なことを話す。
共に大隊長として精鋭部隊千人を率いており、ライバルでありながら心の内まで相談できる大切な友人でもあった。
「よう、ミョウコク。今回もずいぶんな活躍だったようだな。光の貴族を討ち果たしたという話がこっちまで流れてきたぞ」
「よしてくれ、リュウズ。君の突撃が勇ましくうちの兵士も感化されたからこそ得られた功績だ。私としてはリュウズ様々だ」
「ははっ、言うじゃねーか。まぁ、才能面でもお前は将来第1部隊の隊長になれるって噂されるほどだ。俺がもてはやされるのは今だけさ」
「何を言っている。私はリュウズの下で兵を動かした方が功績を立てられると思っているぞ。勝手に私を押し上げないでくれ」
私が素直に否定するとリュウズは私の肩を叩きながら笑う。
私にはあれほど兵士たちを盛り上げる技術はない。死と隣り合わせの戦場では、兵士を盛り上げる才能こそ必要とされるべきなのだ。
「そういや聞いたか?またあの虹色の悪魔が暴れたらしいぜ。しかもこの近くだ」
「そうか…我々の部隊と遭遇すれば、確実に屠ってやるんだがな…」
「おっ、やけに強気じゃないか」
「当然だろう。我々の仲間を次々と殺している奴だ。これからも障害となり続ける存在、誰かがあれを倒さねば光の連合を滅ぼすことなど出来ん。
将来闇の国を背負って立つ我々3人ならば、決して引けを取らないはずだ」
「だな…俺の同期もあいつに殺されている。大いなる闇と一つになる前に、あいつだけは闇に飲み込ませなければならない」
そんな男同士の熱い談議の中にトゥトゥーリがやって来る。同じく大隊長として千の兵を率いている隊長だ。
闇の国では大隊長なら2千の兵を率いている者もいるが、我々は部下が全員精鋭兵のためか千人の大隊長となっている。
まだ経験が浅いからとも千人しか兵がいないと囁かれてはいたが、そんな我々を大隊長とするのはそれだけ期待されていたからだった。
「どうしたの?なんの話?」
「あの例の悪魔の話さ。この近くにいたらしいから、ぜひ倒しておきたいって話をしてたのさ」
「例の悪魔…あぁ、あの虹色使い!でも…あれって相当強いんでしょ?」
「確かに我々が1人では勝ち目はないだろう。だが我々3人と精鋭兵3千がいれば…敵ではあるまい」
「格好つけんなよって、トゥトゥーリの前だからってさ」
「ちょっ、違うぞ。戦場で散っていき大いなる闇と一つになった仲間のためにも我々が…」
慌てて私は主張するが、2人は笑ってスルーしてくれた。
トゥトゥーリはリュウズの方を気に入っているし、私はあくまで彼らに花を添える程度の存在だ。
リュウズもそれをわかっていて、むしろそれをごまかすために私を茶化しているのではと思ってしまう。
だがこの関係は私にとってとても心地よかった。
同じような力量で同じ境遇の者たち。話も合うし色々なことを相談し合える関係は、才能を見出されポンポンと出世した私にとってとても大切なものだった。
出世自体はありがたいことなのだが、あまりその勢いが強いと嫉妬ばかりが表に出て話しの合う相手がいなくなってしまう。
孤独にならなかったのは偶然にも同じ境遇の者がいたからだ。彼らには感謝しかない。
この時は盛り上がり意気込んだものの、結局虹色の悪魔に遭遇することはなく我々は次の光の都市を落とすために進軍を続けた。
それから1月ほど経った頃だった。
我々の部隊約3千は別動隊としての任を受け、光の連合が支配する地域へと進行していた。
闇の軍本体は光の都市を攻めるべく正面から大軍を進ませており、我々はその虚を突くために優秀な兵士たちと裏から回り込むという作戦だ。
回り込むと言ってもかなりの距離があるので簡単な話ではない。不慣れな光の支配地域をこそこそと闇に隠れるようにして進軍する。
出発して2日、昼になり明るくなったことで一休憩を入れようと3部隊がそれぞれ少し離れて休憩に入った。
我々闇の兵はできるだけ明るいうちは行動したくない。明るいからといって特にダメージがあるわけではないが、習慣から少し眠くなったり体が休みを欲したりする。
そのため少し影のあるところで歩みを止め一休みをすることになった。
行軍速度も問題なくこのまま予定通り行けば作戦は成功だと考えていた頃だった。その順調さが故、どこか油断があったのかもしれない。
警戒のため広めに部隊を展開させ待機しているところに、突如光の奴等が攻め込んできた。
「大変です、ミョウコク様。中央のトゥトゥーリ様の部隊が光の連合の急襲を受けております」
「何だと、どれくらいの数だ?」
「およそ千だという報告が…」
「よし、その程度ならすぐに殲滅できる。全兵士を起こして向かわせるんだ。挟み撃ちにするぞ」
まさか不意を突くための我々が不意打ちを受けるとは思わなかったが、数を聞いて私は勝利を確信した。
こちらは優秀な精鋭が千人の3部隊。しかも指揮するのは最近頭角を現しているリュウズとトゥトゥーリと私だ。
この時はどんな奴が相手でも囲んですり潰せば勝てない相手などいないという自信を持っていた。
そう、我々は本当の強者というものをまだ知らなかったのだ。
すぐに兵を動かして突撃している光の部隊のけつを叩きに行く。
同タイミングでリュウズの部隊も突撃した光の部隊の横っ腹に攻撃を開始していた。
どう見ても勝てる、というか負けようがない迅速な行動による挟み撃ち。
だがなぜかこちらが押し込めずに、トゥトゥーリの部隊がより押し込まれているように見える。
後方に位置している私からはいまいち様子が掴めないが、どうもいつもとは感覚が違っていた。
それなり戦争経験を積んできた私だったが、この感じは未体験であり嫌な予感がして私は副隊長を問い詰める。
「どうなっている。完全な挟み撃ちで横っ腹も突かれているのに、敵は瓦解するどころかトゥトゥーリのところが押し込まれているぞ」
「わ、わかりません」
私より戦場での経験が長い副隊長ですら状況が把握できていないようだった。
ますます嫌な予感がし、私自ら部隊の先頭に立って状況を確認するのがベストだと判断する。
「仕方がない、私が前に行く。部隊にはもっと圧をかけるよう指示を出しておけ」
「はっ」
後方からの指示は副隊長に任せて、私は味方の兵士らをかき分けながら前線へと向かった。
先頭までくると、相手は平面に部隊を揃えつつこちらの攻撃を受け止めており味方が押し込めないでいた。
ここは私が一気に切り開いた方が状況が早く好転すると考え、周囲の兵士に声をかけ突撃する。
こういった膠着状態はなかなか厄介だが、一度崩してしまえばもろいのが鉄板だ。
いつもの状況、いつもの光景、いやな予感がしていたのは気のせいだったのかもしれない。
後方の味方から一斉に黒いレーザーが放たれるが、目の前に多数の<水の強化盾>が展開され貫通できない。
そしてその後方から細かい光の線が幾重にも飛んでくる。
それを突撃することでかいくぐり、<黒拳>を使って闇の魔力を両拳に集め目の前の障壁をたたき割った。
しかし敵も相当訓練された部隊のようで、隊列の崩れた部分をくの字型に変え私に集中砲火を浴びせてくる。
光と闇では攻撃した方が有利。よほどの力量差がない限り防御側はいとも簡単に障壁を貫かれる。
このまま殺れなくもなかったが、どうも心の隅で何かが引っ掛かる。。
あまり簡単に崩せるとは考えない方がいいと思い、近距離で撃ち合うのを止めて一旦距離を取った。
すると光の兵士たちはすぐに元の陣形に戻し、正面に水の壁を張る。
その上から先ほどと同じように屈折した光や弓なりに光の矢が飛んできた。
私は左手で後ろの味方に一旦待つよう指示すると、再び距離を詰めながら魔法を発動させる。
「<澱み沼>」
これで相手の展開した障壁系の魔法や周囲に展開させた魔力を一気に飲み込んだ。
その好機に後方の味方兵が<闇の槍><闇一閃>を一斉に放ち、光の兵士たちは次々と倒れていく。
なにも大将が力押しで相手を崩すだけが戦ではない。
こうやって味方をうまく使うことで、余力を残しつつ相手を崩すことだってできるのだ。
「よし、好機だ。一気に突き崩すぞ!」
私が出した指示に従い兵士が突撃して相手を崩そうとしたその時、向こうの兵士の奥から金髪の少女…いや小柄な女性が飛びあがって魔法を放つ。
一瞬なんだこいつはと思ったが次の瞬間想像以上の魔力の密度に一瞬体が固まり、すぐに我に返ると大声で私は叫んだ。
「防げーー!!」
一気に相手を突き崩すぞ、という体勢から突然防御に切り替えるのはよほど慣れていないとかなり難しい。
ここが攻め時という場合は型のストックでさえ攻撃魔法に切り替えるからだ。
そしてそれが精鋭であればあるほど、防御への意識を捨てる。
1対1を行うことのある隊長格ならば常に防御を念頭に入れているが、精鋭とはいえ所詮は画一化された戦闘集団。
攻撃に転じろという指示が出れば、そこに自分の考えを挟まない方が優秀という扱いを受ける。
それが裏目に出てしまった。
その金髪の女性から放たれた魔法は、赤く小さい魔力の塊が8発ほど。
ぱっと見は大したことが無いように見えるが、あれは火属性の魔法<爆散弾>だった。
味方が障壁を張る間もなく、私の周囲や後方に撒かれたその赤く小さい塊が地面近くまで到達すると強烈な熱を放つ。
そして即爆発し多くの味方が上空や後方、酷い者になるとピンボールのように何度か跳ね返りながら吹き飛ばされた。
私は即座に<闇のドーム>を張って防いだと思ったが、爆発と同時に障壁は割れ高熱の中を吹き飛ばされる。
一瞬意識が飛び、気がつくと目の前に風の魔力を感じた。
まずいと思い慌てて障壁を張ろうとするも間に合わず、私は地面に叩きつけられる。
状況を把握しようと魔力を探知するも周囲の状況より先に敵が放ったと思われる雷属性の魔力を感じた。
先ほど作りかけで間に合わなかった<闇の強化盾>とは別にもう2つ同じ型を作って必死に正面へ展開する。
もはや周囲にいる俺が率いていた兵士たちの状況すら把握する暇などない。ただ必死に目の前の攻撃を防御するしかない状況だった。
普通は数十発しか飛んでこない雷の針がびっくりするような数飛んできた気がした。
だが私の張った障壁は貫通できなかったようでダメージはない……そう思ったが足が痺れいうことを聞かず前のめりに倒れ込む。
何が起きたのかわからず、地面に伏したまま私はその相手の声を聴いた。
「ボサツ様、あちらの部隊が攻勢をかけています。至急援護に」
「ではこちらはお任せします。補助として<疾風><爆芽><風刃の衣>をかけておきます。殲滅は任せます」
それだけ言うとその恐ろしく強力な魔力を纏った存在は離れていく。
味方の方へと向かったとなればこのまま黙って寝ているわけにはいかない。
体中に魔力を流し、足を少し麻痺させていた雷の魔力を打ち消して私は立ち上がった。
今話も読んでいただきありがとうございます。
誤字脱字等ありましたらご指摘ください。
もしよかったらブクマや感想、評価などなど頂けると大変うれしいです。
せっかくの年末なのでちょっと頑張って更新ペースを上げたいと思います。
次話は12/29(火)更新予定です。
まだ仕事がばたばたですが、多分大丈夫なはず。 では。
魔法紹介
<澱み沼>闇:空中に水面が広がるように闇が広がり、防御系の障壁や展開された闇以外の魔力を呑み込む魔法。
<爆芽>火:L2補助魔法。周囲に火属性の魔力を纏わせ、対象が武器や素手等で攻撃した時に時間差で爆発を付与する。
<風刃の衣>風:L3補助魔法。かかっている対象の周囲に風の刃を発生させ近づいてくるものに自動で攻撃する。
※補助魔法のL2とかは、対象(生き物)と魔法の効果場所の距離を示す。
距離によってかけられる補助魔法の数が変わる。L0~L3まで。




