幸と不幸が訪れた日4
ここまでのあらすじ
2手に分かれて刺客と戦うコウたちとベルフォート。
2つの戦いはどちらとも膠着状態となっていた。
◆◇
ベルフォートが苦戦する一方で、コウたちもロスドリオを攻めあぐねていた。
遠近を織り交ぜながら不意を突く戦いもダメ、遠距離からの多重攻撃もなかなか決め手にまでたどり着かない。
時々隙を見て放たれるロスドリオの広範囲攻撃はコウたちをかする程度にしか傷つけていないが、何度もくらい続けるのはまずい。
お互いある程度の手の内を明かしてきたが一向に勝負の行方は見えなかった。
何度目のことだろうか、お互い足を止め魔力の再展開を始めたときだった。ロスドリオがコウに話しかけてくる。
「しかしお前、大した実力だ。それだけ強いのになぜこんな場所にいやがる。光の連合にいれば大隊長をやっていても不思議じゃないぞ?
小国ならば総大将にすらなれるだろうに」
「あんたこそ恐ろしく強い。こんなとこにいるより光の連合にいた方が、贅沢な暮らしができるんじゃないのか?」
コウの体感では、以前戦った本気でないトマクよりもはるかに強く、1対多の戦いにかなり慣れた動きだと感じていた。
各国が実力者を囲い込むのに余念がないと聞いていたので、これほどの者が殺し屋をやっているのが不思議に思えたのだ。
「ふん、大隊長だろうが将軍扱いだろうが、所詮はお前たちのような貴族たちの駒だ。…だがここなら実力こそが全て。煩わしいものは何もない!」
「…確かにそれには同感だな」
ごちゃごちゃした貴族たちの足の引っ張り合いがなく、解放された気分で過ごしているコウは思わずロスドリオの言葉に賛同してしまう。
それを聞いたロスドリオは思わず笑ってしまった。
「ふっ、はははは。お前は相当変わった奴のようだな。支配者層の奴らがこの中立地帯を気楽だと言い出すなんて思ってもみなかったぞ」
「そんな奴だっているさ。だからこそ、お前に捕まるわけにはいかないんでね」
「なるほど、だがこっちも仕事だ。わりぃな、小僧」
お互い限界まで周囲に魔力を展開し、型も複数用意して周囲に浮かべている。
コウはマナの魔法が発動するまでの時間を稼ぐ方法をいくつか考えたが、これまでの相手の動きを考えると、どれもこれもあと一歩足らない。
今までの流れを見ているとこのまま削り合っても勝機はありそうだが、一撃の威力は相手の方が上、相手が隠し持っている重い一撃を食らってしまえば形勢は一気に逆転してしまう。
自分の発動できる連続魔法の限界、ストックの数とその中身、それぞれ考慮に入れてこちらから軽くリスクを取り削りに行く方が勝機は高いと判断した。
もちろん勝ちに行くという手もある。
こちらは3人のうち誰かが重傷になっても、相手をそれに近いくらい負傷させれば、コウたちが一気に有利になる。
それだけ数のアドバンテージは大きい。だが、逆を言うと相手が軽い負傷のままこちらが1人でもやられれば形勢が逆転する。
相打ち狙いはそれだけリスクのある行為だった。
コウが1歩踏み出すと、ロスドリオはその動きを注意深く見守る。
それと同時にわずかに警戒を緩められたと感じたマナが大きな型を取り出し<烈火弾>を放った。
1m以上の大きな火の塊が飛んでくるが、ロスドリオとマナの間には結構な距離がある。
これは火弾系の魔法の使い方としてはあまり褒められたものではない。
一番下の火弾であれば複数飛ばすこと前提に離れた距離から連打することもあるが、最上位の烈火弾は1mを超える大きな火の塊。
もちろん連発など出来ず単発で放つことが前提の魔法なので、大勢の兵士相手ならまだしも単独の相手であれば、大量の魔力を消費して遠くから放っても簡単によけられてしまう。
そんな状況に戦い慣れしているロスドリオはすぐさま疑問を持った。
先ほどまで息をつく暇もない連携攻撃をかましていた奴らが、いきなり素人攻撃をしてくれば疑うのも当然のこと。
だが、黙って突っ立っていてもくらうだけなので、ロスドリオはコウから距離をとるように動いて回避を試みる。
が、その先を塞ぐかのようにシーラが2セットの<8光折>でその一帯を狙った。
「行かせないつもりか?そうは行くか」
強化盾を張り、そのまま複数の光を受け止めながら進むロスドリオ。
その先には先ほど烈火弾を放って回りこもうとしているマナがいた。
彼女は周囲の魔力を大きく減らし遠距離攻撃に対する防御力、発動可能な魔力量、全てにおいて弱体化している。
「まずはお前だ!」
逃がさんと言わんばかりにマナに向かって突き進むが、突如、先ほど回避したはずの大きな火の玉がバラバラになりながらロスドリオの方へと飛んできた。
烈火弾が突如バラバラになるなんて聞いたことが無いし、そもそも回避したはずの魔法がこっちへ方向転換したこと自体不思議でならない。
「なっ、な!?」
慌てて彼はストックから取り出した型をいじり、大きめに<光の集中盾>を張る。
烈火弾の炎は普段燃えない物にまで引火する強力な炎。
飲み込まれるのは論外だが、バラバラに飛んでくる火の球を周囲に展開した魔力だけで相殺するのはリスクがありすぎる。
ロスドリオにとって見たこともない挙動を防ぐつもりなら、ここは手堅く大きめに防御するしかない。
1対3が続いている以上、下手にリスクを取りに行っては本当に負けてしまう。
「よし、使った」
ストックにある防御魔法を使ったことを確認し、今度はマナの方から距離を詰めてきた。
だが、烈火弾から飛び散った火の粉は全て防いでおり、問題はないはずだと彼は目の前に迫るマナへと集中する。
全く動きのないコウの存在が頭の隅にちらつき、ロスドリオは正面のマナに全神経を集中できないが、それでも1対1なら有利であることは変わりない。
破裂槍が彼女のすぐ傍から1発だけ飛んでくるが、即強化盾を張って防ぎ間を詰める。
その防御と同時にロスドリオは魔法を発動させた。
「あめぇ、もらったぜ」
「えっ」
マナも既に魔法を準備して発動直前だったが、ここはロスドリオが一歩早かった。
型を取り出して一気に発動させると、早いタイミングで振り始めた彼のバトルアックスに<光の斧>が付与され、魔法で出来た巨大な光り輝く斧へと変わる。
さらにリーチが伸び高威力となった光る巨大な斧がマナの左腕を狙った。
届かないと判断した一撃が急にマナの左腕に迫り、とっさにシーラが<光の集中盾>を張るが
それを難なく砕き苦し紛れに張ったマナの魔法障壁をも砕いて、彼女の左肩に光の斧が突き刺さった。
マナは一撃をくらう前にこの間合いから脱出する予定だったが、光の斧により相手のリーチが伸びたため、魔法を発動させる位置を変更しなければならない。
そのロスドリオを囲むように爆発させる位置を調整することに時間を使い、不意の一撃を回避できずにくらってしまった。
光の斧の一撃が力いっぱいに振り抜かれると、マナは左腕から血をばらまきながらそのまま吹き飛ばされる。
腕を切断するまでには至らなかったが、確実に左手を使い物にならなくした感触を得てよろこんだのも束の間
マナが飛ばされる前にロスドリオの周囲に発動させた<散弾爆>が一気に爆発した。
高温と爆発の衝撃で周囲が感知できない中、相打ち狙いのマナの隙を狙ったロスドリオは思わず笑みを浮かべる。
このマナの置き土産を魔法障壁無しで耐えるしかなく彼も無傷では済まないが、相手には先ほどまでの動きができない程の一撃を入れている。
片腕を切り落とせなかったのは残念だったが1人は戦闘不能、これで勝ったとロスドリオは確信した。
あれだけの連携を組めるチームであればそれだけ仲間意識が強く、仲間の重傷に対して冷静でいられる者は少ない。
ここからは2対1、しかも相手は動揺している、これだけの条件が重なればロスドリオでなくとも勝ちを確信する。
「相打ちOKってやつだ…同じ相打ちでもダメージが違うのは強者の特権だが」
高笑いして優勢をアピールするロスドリオだが、コウの動きに気づいておらず正確に状況を掴めていなかった。
爆発がおさまり高熱と衝撃の中耐えていたロスドリオの左腕にコウの剣が伸びる。
それにすぐ気づいたがダメージもあり体の反応が鈍く回避が間に合わない。
後ろから近付いたコウは十分な魔力を込めた剣で左腕の上腕を切りつけ、その深さは骨にまで達した。
ロスドリオは慌てて体を回転させバトルアックスでコウ叩き潰そうとするが、コウはいつものように<加圧弾>を使い脇をすり抜けるように移動しながら右足を切りつける。
追撃として太ももを浅く切り付けたコウだったが、ロスドリオもやられっぱなしのままで逃がすつもりはない。
一撃を入れ離脱しようとするコウに3発の<光一閃>を放ち、2発は頬と腹をかするが1発がコウの左腕をやや深めにえぐるように命中した。
コウが体勢を崩したのを見て反撃が成功したと思ったその時、シーラが少し遠間から<収束砲>を放つ。
左手に盾を装着し防ごうと思ったが、先ほどの一撃で左腕がいうことを聞かず、さすがに直撃はまずいと残り僅かな周囲の魔力を使い強化盾を2枚張った。
と、その瞬間コウは属性を氷に変え<氷の棺>を使ってロスドリオを氷の中へと閉じ込める。
シーラの放った収束砲は強引に軌道を変え、その氷を破壊することがないよう端を削る程度にまでずらされた。
周囲の魔力がほとんどなくなっていたロスドリオは氷の中へ閉じ込められ、慌てて必死に魔力を放出しながら周囲の氷を光の魔力で破壊し始める。
「防御魔法を使わされた?いや、それよりもこの氷だ。あいつ氷も使えるのかよ」
頭の中で情報の整理が追いつかず、まずはこの状況を脱出すべく必死に氷の中でもがくが、このタイミングを冷静なコウは見逃さない。
ストックから半分くらい充填した型を取り出し、即座に充填を完了させると周囲の魔力を全部使って<貫通槍>を発動させた。
「これで…死ね!」
冷静に狙いを定めて魔法を放ちながらコウは呟く。
氷の外に強大な魔力を感じたロスドリオは、どのような魔法が来るのかを想定し、一か八か必死に体をひねって回避を試みる。
氷で動けなくした後に来るものと言えば、貫通タイプの一撃だという読みは当たっていた。
その結果、胸の中心を狙ったはずのコウの一撃は少しずれ、彼の右肩を綺麗に貫く。
「がっ…」
ロスドリオの声が聞こえるが倒れてはいない。
コウは狙いを外されたことに対して焦ることなく、冷静に次の一撃のための魔力を展開し始める。
一方のロスドリオは弱っていたとはいえ、まさか自分の内包する魔力による防御を簡単に貫通できるほどの魔法が来るとは思っておらず
右肩を貫かれ右手の握力が無くなりバトルアックスを落とすと、現実を受け入れられないほど動揺していた。
「嘘…だろ。俺を…貫ける、だと…」
実力差は明確だった。ロスドリオが想定したコウの第1属性のLVは38程度。実際はもう少し上だがほぼ合っている。
それくらいの風使いでは光属性LV42の自分に一撃で致命傷を与えることのできる魔法はほぼないと認識していた。
風属性は攻撃面・防御面・補助面、どれを見てもバランスの取れている属性であり、逆に言えば特化していない。
貫通力は他の属性に比べればあるが、光や雷属性には劣る。
先ほどのコウの一撃だって自分の腕を切断するには至らなかった。そこでコウとの実力の差を改めて認識し勝てると考えていた。
だからこそここまでの一撃を受けるとは思っていなかったロスドリオは、この戦いで初めて生ではなく死を実感する。
楽しめる生ではなく、恐怖を伴う死の実感、これを感じさせる相手とは戦ってはいけない。
これも彼にとって大事なルールだったが、今は氷に閉じ込められてそれどころではなかった。
現状、この場に居る全員が周囲に展開した魔力を使い果たし魔力を再展開しなおして型を用意する、いわゆる充電ターン。
この間に氷を破壊してこの一帯から脱出しなければと焦るロスドリオは、使い物にならなくなった両腕に魔力を帯びさせ強化し、腕を振り回すことによって氷を破壊する。
「おらー!くそがーー!こんな氷なんぞ…」
今はここに居る全員が周囲の魔力を使い果たしすぐに強力な攻撃は飛んでこないはず…そう思っていたが、ロスドリオの思考からは彼女の存在が完全に抜け落ちていた。
先ほどの一撃で戦闘不能にしたはずの存在、マナ。
彼女は地面に伏したまま出血を軽く処置しただけで、血を流しながらも残りの時間全てを型を組み周囲に魔力を準備することに費やしていた。
周辺の魔力展開もあまり派手には行わず目立たないようにしていたことで、ロスドリオに自分が戦闘不能だと判断させた。
念入りな仕掛けの末、準備完了とともにゆっくりと仰向けになり頭を上げると彼女はうれしそうに笑う。
「相打ちOK?私にとどめもさせてないのに…笑わせるよね」
マナの周囲にある魔力が消え、少し上に強力な魔力を感じさせる決め技<火蛇渦・拘束>が発動した。
本来であれば、目立たないよう控えめに展開した魔力量ではこの魔法は発動できない。
だがマナは流した血を魔法発動に消費したのだ。
血とはいえ魔法使いの体は魔素体、つまり体内に流れる血の全ても魔力で構成されている。
本体から離れた血はしばらくするとただの彼女のパターンを含んだ魔力となり、霧散する程度のもの。
それを魔法発動に必要な魔力として使用したのだ。
もちろんこれは体の一部を使っても同様のことが出来るが、練習も必要だしあまり練習する者もいないが…。
発動した魔法から感じる巨大な魔力に、さすがのロスドリオも顔が青ざめる。
「お、おい、マジか。なんだそりゃ。ありえんだろ…まずい、このままではまずい」
「強かったあなたに、ご褒美をあげる」
マナがうれしそうに言うとその大きな炎の塊から6匹の巨大な炎のワームが次々と飛び出して、氷から脱出しかけていたロスドリオを呑み込むように巻きついていった。
「うぉぉぉぉ」
炎の中でロスドリオは叫び自分に肉体強化の魔法を使い耐えきろうとするが、1匹、また1匹と彼を包む炎にワームが飛び込むたびに
その炎はより激しく、より高温となり彼を焼き尽くそうとする。
しばらくその叫び声は続いていたがやがて聞こえなくなる。それでも追撃は止まることなく、6匹目のワームがその炎に飛び込んで行った。
距離を取って見守っていたコウは念のためともう一度貫通槍の魔法の型を準備していたが、炎に包まれた人型の両腕が崩れ
足が支え切れなくなったのか体と思しき部分が地面に落ちた時点でコウはその型を霧散させてマナの方へと駆け寄る。
マナはかなりの量出血しており周囲には少しだけ血の流れた跡が出来ていたが、先ほど傷口を焼いたらしく既に出血はほぼ止まっていた。
「だ、大丈夫か、マナ」
コウは氷の心を解き慌てた様子でマナのほほを触る。
それと同時に光属性で少しずつ傷を癒そうとした。
「師匠は心配し過ぎ。しゃべれるくらいだから大丈夫だって」
シーラも離れた場所で戦っているヘグダリオを警戒しつつマナの元へと駆け寄る。
傷口と血の跡を見てシーラは慌てて保護布の型を組み始めた。
「マナ、治療しますから力を抜いてください」
「まだ戦いは終わってないから…くっ、大丈夫。シーラは警戒して…」
まだ警戒を緩めないマナに対し、焼き切った痛々しい傷口にシーラが<光の保護布>を使い傷口を少しでも癒そうと試みた。
今話も読んでいただきありがとうございます。
誤字脱字等ありましたらご指摘いただけると助かります。
ブクマや感想等頂けるとうれしいです。
魔法紹介は…特に新しいものを使ってなかったし…いいかな?
次話は12/6(日)更新予定です。 では。




