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揺れる信用度3

ここまでのあらすじ


待ち伏せされ襲撃を受けたコウたちだったが、何とか撃退に成功する。

その時襲撃メンバーの2人がコウたちの前に残された。


コウを襲った者たちは逃げ去り、残された2人にさっさととどめを刺そうとするコウだったが

それを見たシーラが直前で止めに入る。


「待ってください、師匠」


「っ、どうした。こいつらはここで殺しておいた方がいいだろう」


コウの冷静な目つきは元へと戻り、シーラの方を不思議そうに見た。


「それでも…いいですけど、せめて情報が欲しいところです」

「だけど…」


自分たちの戦闘情報を持っている相手を生かすことは周りの者たちへの被害へとつながる。

そう教わったコウはいまいち納得できなかったが、シーラが白色の腕輪を取り出すと2人の両腕に取り付けていく。

両手首につけられた腕輪は強力にくっついて離れず、彼らは魔法と両腕の自由を拘束された。


今回のようなことが起きこれからも続く可能性があるので、対策のためにもある程度情報が欲しかった。

そう考えてコウは仕方なくシーラの処置に賛成する。

完全に抵抗できないようにした後、軽めの止血処置を終えると2人を座らせた。


「師匠、とりあえずこれで彼らは魔法を使えません。腕も動かしにくくなっていますので暴力的に出るのも大変でしょう。

 逃げ出すようなら殺すしかありませんけど、ひとまず話くらいはできそうです」


「ありがとう、シーラ。逃げていった奴らも近くにはいないようだし…さて、どうだ。こちらの質問に答えるつもりはあるか?」


剣を向け厳しい目つきでコウは2人に尋ねた。


コウの周囲の者たちも武器を手に持ち少し離れた位置で警戒しており、とてもじゃないが彼らが逃げられるような状況ではない。

そして質問するコウの目は鋭く、何も言わないのなら殺すと言わんばかりだった。


「全部は答えられないが、答えるつもりはある。だから、せめてこいつだけは逃がしてやってくれ」


そう言ってアルデデスは隣の補助師の女を顎で指した。

一瞬恋人関係かと思ったコウだったが、彼から感じる雰囲気はどちらかというと愛情よりも責任感。

その行動を上に立つ者の責務からだろうと判断した。


「そうか、それはこれからの態度次第だ。では、質問しよう。なぜ俺を殺そうとした。誰の指示だ」


「勘違いしているようだが、俺たちはそもそも殺しをやらない。あくまであんたを負傷させ、捕縛するのが狙いだ。

 依頼主は…詳細を明かせないが、どこかの王子様だ」


この世界に王子や王女なんてたくさんいる。

ただ単に王子と言われても普通は見当もつかないが、コウにとって関係する王子はごく数名しかいない。

それにルルーならまだしもポトフ王子がコウを捕獲しようとする理由がいまいちピンとこなかった。


とはいえコウが読み取れる雰囲気からは、嘘を言ってこの場を逃れようという感じは受けない。

襲われた以上はできるだけ情報を聞き出すつもりだったが、ここじゃ町から少ししか離れておらず、少々目立つのであまり適切とは言えなかった。


「うーん、こいつらうちの拠点に連れて帰れないかな?そっちの方がゆっくりと話が聞けそうなんだけど」


「こちらが責任を持つという形であれば連れて帰れなくもないですが…逃げ出された場合は信用にかかわります」


メルボンドの指摘に少し悩んだが、マナあたりはこの手のことに詳しそうだし連れて帰ることにした。

白い布をかぶせあまり顔が目立たないようにし、白い腕輪がちゃんと働いていることを確認して拠点まで連行しようとすると、アルデデスが慌ててお願いをしてくる。


「待ってくれ、こいつの…ユユネネの傷をもう少し治してくれないか」


補助師として一緒に捕らえられた彼女は、すでに出血の大半は抑えたものの傷がそれなりに酷く歩くのもつらそうにしていた。

彼女自身は魔法を封じられており、肉体強化はある程度効いているものの傷口からは少しずつ血が垂れている。


「仕方ない。シーラ、頼む」


「はい、わかりました」


シーラはコウの指示によりある程度丁寧に傷口を<光の保護布>で包み回復を促進させた。

先ほどよりはましになったのか、歩く速度も少しだけ早くなる。


「問題なく連れて中に入れればいいんだが…」


コウは不安に思いながらも、出来るだけ情報を引き出すべく町へと戻った。




白い布を頭からかぶせ、腕輪で拘束したものたちを連れて町の入り口へと到着すると、案の定入口で兵士たちに取り囲まれる。

更に後方では援軍を呼んでいる姿が見えた。


あまり大事にはしたくなかったが今更避けては通れないので、コウは仕方なく事情を説明する。

彼らをもし連れて入れないのであれば、コウはマナを呼びに行かせようと思っていた。


その場合は町からかなり離れた場所で尋問となりそうなので、彼らの仲間が来るチャンスを作ってしまいあまり得策ではない。

拠点で取り調べ、必要なら傭兵ギルドに突き出すか処分する。それがコウたちにとって最善策だった。


「おい、ちょっと止まれ。その2人は何だ?身分証を」


明らかに拘束されている2人を見て緊迫する兵士たちに、コウたちは傭兵団の身分証を見せる。

それを照会した兵士たちは、捉えられている2人が部外者であることを確認した。


「4人で出たのに6人になっているな、その者たちは何だ」


「彼らは私たちを襲ってきた者たちです。これから拠点でじっくりと話を聞こうと思っています」


「おい、危険人物を中に入れることは簡単には許可できんぞ、とりあえずどのような人物か調べさせてもらう」


そう言って兵士たちはコウたちが見守る中、捉えられている2人に対して聞き込みを行う。


「お前たちは誰だ。傭兵団なら所属を言え」


「……血の痕跡のメンバーだ。後は好きに調べてくれ」


アルデデスが不機嫌そうに言うと兵士たちはさっそく黒いモニターで名前と構成メンバーを調べ始める。

男の方が一致したようで兵士たちは警戒を強めていた。


「どうやらDランク傭兵団の幹部のようだな、そっちの女は載っていなかったが」


「あぁ、まだ半年の新人だ。ギルドに顔が割れていないだけだろう」


それを聞き兵士たちが名前を聞き出し顔を撮影している。

それ以外に魔法を押さえ込む魔道具と、腕を自由に動かせないようにしている拘束具の状態も確認し、一応問題ないことが分かった。


ひとまず中へ入る許可は出たが、兵士たちは渋い表情でコウたちに告げる。


「こいつは間違いなくDに落ちた悪党どもだ。万が一街中で逃げられたりすればすべての責任をお前たちに負ってもらうぞ」


「ええ、構いません。我々が責任を負います」


「そうか……なら一応許可するが、その2人をその後どうしたか毎日傭兵ギルドに報告するよう、こちらからも伝えておく。

 それと、処分した場合は証拠を提出してもらう。ただな…出来ればそのままギルドに引き渡した方が身のためだぞ。万が一の時は、お前たちも町から追放だからな」


今回のことは、先日コウたちがドロスグロスを討伐したこともあり、データから捕縛した者たちくらいなら彼らが十分に抑えられると判断したうえでの許可である。

もちろんコウたちがそれだけの強さと貢献度を見せていなければ、兵士たちは許可などせずにここでの処分を命じていただろう。


許可が下りたことでほっとして、コウたちは2人を連れて行こうとするが慌てて兵士たちが引き留める。


「ああ、ちょっと待て。せめて6名で周囲を囲って連れていけ。普通、拠点に連れて帰る奴などいないからな、周囲の者が少ないと皆が警戒する」


「そっか…仕方がない。今1人向かわせて仲間を呼びに行ってもらっているが、もう一人十分な人数を連れてくるよう向かわせる」


「悪いが、助かる。こちらもあまりリスクは取りたくないからな。先日の魔物との戦いがなかったら、正直許可できなかったくらいだ」


兵士たちは少し困り顔で事情を説明する。

コウは便宜を図ってもらったと解釈して軽く頭を下げ、お礼を言っていた。


「で、あいつらは…何をやらかしたんだ?血の痕跡と言えば確か誘拐専門のやつらだ。ただ…この辺はテリトリー外だと思っていたがな…」


「詳しくはこれから聞き出す予定だが、どうやら俺を連れてくるよう言われていたらしい」


「あんたをか!ドロスグロスに直接傷をつけたあんたをとなれば、奴らじゃ戦力不足だろう。大方依頼主があんたらの戦力を読み違えたんだろうな」


「その点は幸運だったと思ってるよ。とはいえこれを何度もやられるとたまらないからな。できれば大元まで対策したくてこいつらを連れ帰ったんだ」


「なるほど、それじゃわざわざ連れくるのも仕方ねえな。傭兵たちがトラブルを運んでくるのはいつものことだが、出来れば町にまで影響を及ぼさないでくれよ」


「あぁ、わかっているよ。気を付ける」


コウがため息をつきながら兵士の言葉を了承する。

まさか連合の貴族がらみだとは考えていない兵士たちは、傭兵たち同士のトラブルだと考え軽く対応していた。


さすがに連合の貴族絡みともなれば、追い出すまで行かずともコウたちに何らかの処置をする可能性があった。

というよりも中立地帯に光の連合の貴族が武力的に絡んできた場合、それは往々にして大戦の合図となる。


大戦がはじまるとなれば、下手をすると兵士たちはこの町を捨てて外壁のある都市へと戻りかねない。

戦争時にこんなところを少人数で守っていたところで、無駄死ににしかならないからだ。

外壁のない町では遠距離からの攻撃を受けたときに防ぐ手段がなく、一瞬で町が廃墟と化してしまう。



そんな感じで兵士たちと話しながらも、コウは捕らえた2人の様子から目を離さない。

実際は目を離さないというよりも、周囲に薄く展開した魔力で相手の動きを感知しているといったところだ。


捕らえられたアルデデスたちはその魔力を感じ取り全く動けないでいる。

先ほどの戦いの様子から言って、彼らは少しでも逆らえばコウが自分たちを遠慮なく殺すことを悟っていた。


そうこうしているうちに流星の願いのメンバーたちが、ここ北3門にやってくる。

5人でやってきており、うち1人は捕らえた2人を厳しく見つめていた。


「マナ、来てくれたか。助かったよ」


「ううん、別にいいんだけど…それよりも彼らが師匠のことを?」


「あぁ、そうだ。それで、ここからはマナにも協力して欲しい」


マナの口調は普段通りだが、節々にはいつもの緩さはなく既に張りつめた雰囲気が見られた。

マナのピリッとした雰囲気を今まで見たことのなかったエンデリンは少し戸惑いを見せている。


「ん、了解」


そう言うとマナは再び彼らを見る。

そんなマナと目線が合ったのか、補助師の女は体に力が入りかなり緊張した様子だった。


それじゃ出発するかとコウは兵士に話しかける。


「じゃ、彼らを連れていく。一応聞いておくが、彼らをどうするかは俺たちが決めていいんだよな?」


「あぁ、構わない。だがこちらとしては傭兵ギルドに引き渡すことをお勧めしている」


「……引き渡したらどうなる?」


「一般的には奴らのアジトを聞き出して討伐依頼が出される。時々特例で解放される場合もあるが…期待薄だな。

 基本的にDのやつらは何度も他人に危害を加えているやつらだ。情状酌量の余地などない」


それに納得したのか彼らを連れて流星の願い一行は町中を通り拠点へと戻っていった。



戻ったコウたちは捕らえた2人を数名で監視させておき、彼らには聞こえない奥で話し合いを始める。

拠点の入り口は強くロックされ、中からも外からも簡単には解除できないようにしていた。


「で、師匠。襲われて逆に2人を捕らえたと聞いたけど、彼らはいったい誰なの?」


開口一番、マナは厳しい口調でコウに質問する。


連れて帰るということはいろいろとこちらの情報に触れる機会を増やすことにもつながる。

最終的に殺す場合ならありだが、殺さないのであればここに連れてきて情報を得られる状況にしたことは愚策でしかなく、マナが多少不機嫌なのも仕方がない。


「マナの言いたいことはなんとなくわかるがちょっと待ってくれ。彼らに色々と聞きたくてな。外でやれば目立つし向こうの援軍が来かねない。

 町中にある拠点なら奴らの援軍は入って来られないし、じっくりと話ができると思ったんだ」


「…リスクがありすぎる」


「わかってるって。だけどあのリーダー格の男が部下をだいぶ気遣っていたからな。じっくりと話す余地があると思ったんだよ」


「師匠は甘すぎると思う」


マナの厳しい返答にコウもそれ以上言い訳が立たないのか、口を強く結んでしまった。


「まぁ…確実に処分するのなら今からでもできますし、生きたまま傭兵ギルドに渡すのは結構信用度が稼げると聞くのでメリットはあります」


「すまん、メイネアス」


「いえ、事実を言ったまでですから」


フォローされたと感じたコウはメイネアスに軽く感謝した。

それを見たマナは少しだけ厳しめの姿勢を解く。


「それで…師匠は何を聞き出したいんですか?」


「依頼主とか、やり方とか、どうやって依頼を受けるのかとか、あと傭兵団の構成に関しても色々と聞きたいかな。次狙われた時の対策のためにもね。

 あとなんで信用度Dにまで落ちたのかとか…聞けることは色々聞いてみたい」


「コウ様、さすがに最後の方は少し主題からずれてると思いますが」


聞きだしたいことの多さに尋ねたマナだけでなくメルボンドまで呆れている。


「その辺だったら、わざわざここに連れてこなくても師匠が聞きだせばよかったんじゃ…」


「まぁ、かもしれないけど…俺よりもマナの方がその辺上手く聞き出せそうだしさ」


「うーん、まぁ、確かにここにいるメンバーなら私が唯一経験ありそうだけど…あまり上手くないよ?」


「そっか、でも一番上手いとは思うから協力してくれ、頼むよマナ」


「しょうがないなぁ」


もともと自分が尋問するつもりではあったが、コウにお願いされる状況をつく出そうとしたマナが一本取ったと言える。

だが、何やら余計な話まで聞き出すことになり、マナもちょっとだけうんざりしていた。


マナにとって急ぎ聞き出したいことはコウに対する危険をどうやって排除できるかの方法だ。

それには彼らの行動や依頼を受けるまでの流れ、ひいては依頼主の目的を押さえておく必要がある。


が、聞き出す内容が増えてしまいマナはちょっとだけため息をつく。

いいように話を持っていこうとして逆にコウから仕事を押し付けられる隙を作ってしまい、マナはコウの上手さに感心すると同時に自分の選択ミスをちょっとだけ反省した。


周囲がコウをフォローする前に話を決めてしまえば、余計な手間が増えずに済んだはずだった。

時間をかける、明らかに主目的でないことを聞き出そうとする、この2点は下手すると相手に反撃の一手を与えかねない。


その後、コウの肩口の傷を見てマナが怒り出す場面があったが、その怒りをなだめつつも治療に1時間以上費やすこととなった。

コウは見つからないように水の魔法で上手く隠していたつもりだったのだが…注意深く観察するマナの目から逃れられなかったのだ。


今話も読んでいただきありがとうございます。


誤字の指摘ありがとうございました。ちょっと酷かったので気を付けます。

感想やブクマ、評価とか色々もらえるとうれしいです。


次話は10/19(月)更新予定です。イラストは衣装案が決まらない。

では。

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