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異世界からのスカウト ~光と闇の狭間に立つ英雄~  作者: 城下雪美
2章 下級貴族:アイリーシア家の過去 (18話~46話)
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姉妹の復讐劇2

いよいよ2人の姉妹の復讐の決行です。

これから先、ちょっと胸糞部分もあるかもしれません・・

が、ついてきてもらえると嬉しいです。


部屋を出たクエスは部屋の前にいた男に再び受付へ案内してもらう。

この店はいくつもの出入り口がある為、他の客どころかさっきまであっていた相手にも会わずに出口まで案内してもらえる。


再び受け付けへ戻るのはイレギュラーだと思うのだが、男は表情も変えず無言で受付まで先導した。

受付に着くと先ほどまで案内してくれていた男はすでにいなくなっていた。クエスは受付に再び待ち合わせ用の番号を告げる。


「モルド15、あと何か食事もお願いできない?」

そうクエスが告げると別の男が現れクエスを案内する。


都度都度案内役が変わるのを見てクエスは感心する。

この店が一人の案内役に誰から誰に会いに行ったという重要な情報を与えないようにしているからだ。


よく見ると受付の男も最初の受付とは違う人物だ。服装も髪型も似通っているが雰囲気は若干違っていた。

噂には聞いていたけど本当に想像以上にしっかりした店だと思いながら、クエスは男の案内に黙ってついていく。


さっきとは全く別の通路を通り部屋の前に着くと、男が部屋の扉を開けながらクエスに尋ねた。

「どういったものに致しましょう?」


クエスの隠れ家での食事は基本的に野菜類だけだった。

一応隠れ家の外の森で肉が取れるが大した量ではないし、見つかるリスクを抑えるためにも外に出るのは控えめにしていた。


時々手入れされていたような隠れ家だったがさすがに家畜の類はいなかった。

そのため外に出た時はついつい肉を食いたくなるのだ。


「肉類がいいわね」

そういってクエスは銀貨2枚を手渡す。

クエスがそれ以上の詳細な注文をする気がないと判断したのか、しばらく立っていた男は黙って頭を下げて下がっていった。


「さて…何度も会いたくない相手だけど仕方ないわね」


そういって不満を呟きながらクエスは奥の扉を開く。

中にはバルードエルス家の紋章が肩にあしらったきっちりした黄色と白の服装をした男が座っていた。


「何度も悪いわね、ルバール」

「私は喜んでここに来ていますのでお構いなく、クエス様」

「様付けはやめなさい、もう私はそこいらの石ころ同然の立場よ」


この男はルバール・アイリーシア

クエスのいとこに当たる人物、母の兄の息子でありクエスが幼いころは兄代わりとして接していた男だ。



このルバールはあの謀反騒動の時、いち早く降伏しバルードエルス家に下った。

だがクエスたちの捕獲には頑として協力せず、周囲に対する見せしめの意味も込めてルバールはその場で簡単な罰を受けた後すぐに投獄された。


その後3姉妹の捕獲作戦が失敗に終わり、アイリーシア家の貴族の多くが死亡してしまったため

アイリーシア家の属性「宙」をそれなりには受け継いでいるルバールは解放され

バルードエルス家が新しく立ち上げた転移門の事業において現場責任者として珍重されている。



アイリーシア家に受け継がれる属性の宙はかなり珍しく

光の連合国に所属する多くの貴族の中でも2つの家しか持っていない。


この宙の属性を持つ者は転移門の作成・整備に欠かせないためかなり重宝されている。

もちろんその2つの家がなければ転移門の修理が全くできないわけではない。

転移門は軍事だけでなく経済にも多大に貢献する無くてはならない魔道具だ。

その整備が出来なくなるのでは死活問題となる。


そのため、盟主国であるルーデンリア光国をはじめ、力のある国の貴族たちは、宙属性がそこそこ使える者を数名抱えている。

だがあくまで少数であるため自国以外の転移門の整備まではとても手が回らないし、大型の転移門となるとだましだましの修理しかできない。


アイリーシア家はその珍しい宙属性を一族の多くが持っているため、各国・各都市の転移門の作成・整備で多額の金銭を稼いでいたのだ。

バルードエルス家は三姉妹と共にこの金のなる木も狙っていたのだ。


「たとえ国が無くともクエス様の貴族の地位はなくなりませんよ」

ルバールは少したしなめるかのように言うが、クエスは厳しい表情を崩さない。


「わかってるわ、裏切り者に様呼ばわりされたくないだけ。それぐらいわかりなさいよ」

クエスは不満をぶつけながら席に座る。


この部屋は先ほどの部屋のようなソファーではなく、テーブルと一つずつの椅子だった。

この辺も事前に人数を伝えていた結果なのだろう。


当のルバールは裏切り者呼ばわれされても怒るどころか少し気まずそうにする。

王族直系の第一王女であり、妹のように可愛がっていたクエスを、仕方がなかったとは見捨てた自分に大きな負い目を持っていたからだ。



「今度は3日後ね」

「あの、今度こそ変更は無いんですよね?」


クエスの言葉に恐る恐る疑問で返すルバール。だがクエスはそれに答えようとはしない。

ルバールが聞き返すのは当然のことだった。


何しろここ一月程で3回も予定が直前で変更になったのだ。しかもクエスはその理由を詳しくはルバールに話そうとしない。

ルバールはそのたびに、バルードエルス家に仕える元アイリーシア家の者たちに理由を話すこともできないまま連絡・変更の対応を何度もさせられていた。



実はクエスが盗賊に依頼したのは今回で4度目だった。

前の3度の依頼は盗賊たちが城に報告しそうになったり、前金をもらって来なかったりと散々な結果だった。

そのたびにクエスはミントと共に裏切った盗賊たちを潰してまわっていたのだった。


「今回のはかなり感触が良かったから、大丈夫だと思うわ」

「了解しました。皆に必ず連絡しておきます」


ルバールは座ったままだが深々と頭を下げる。それを見るクエスの表情はあまり明るいものではなかった。

「一応言っておくけど、戦闘での協力はいらないから。あなたたちが協力したところで無駄な死者が増えるだけ。混乱した状況の中でも冷静に待機しておきなさい」


少し寂しそうにクエスは指示をする。

一緒に協力して敵討ちをしようという気持ちは当然クエスにもあった。

だが同時に、自分に協力を申し出ている元アイリーシア家の者たちをどうしても歓迎する気持ちになれなかった。


元アイリーシア家の者たちが生きているということは、目の前のルバールを含め、あの当時即時降伏した者もしくは裏切った者ということを意味する。

抵抗していた者たちは王や自分たちの元に駆け付けようと戦っていたことをクエスは知っていた。


さらに、彼らが生き残っていて仇のはずのバルードエルス家に仕えている。

これはクエスの立場では憤慨するほどの状況だ。


もちろん真っ当に生きていくためにはそれなりのところに仕えるのは仕方がない、そこは理解している。

それでも心のどこかで許せないと思う自分の気持ちがある。

だから共に戦うという選択はクエスには取れなかった。



その時部屋に「ビィー」っと呼び出し音がする。

頼んでいた肉料理が来たのだろう。クエスは扉を開け、2重扉になっている間の部屋(風除室ならぬ音除室の効果もある部屋)に料理が来てるのを見てこちらの部屋に持ってきた。

子羊の肉をデミグラスソースで煮込んだようなシチューのような料理だ。

クエスは笑みを浮かべて食べ始めた。


「クエス様、支払いは私がしておきますよ」

「いいわよ、既に払ってるんだから。そもそもあんたに世話になるつもりはないわ」

そういいつつ、お肉をむさぼるクエス。


ルバールは憎まれ口を叩かれまた少し凹むものの、クエスの食べる時の嬉しそうな表情を見て少し笑う。

ついつい昔の無邪気なクエスと重ねてしまうのだ。


「しかし、お金は大丈夫なのですか?」

「余計な心配しないで。だいたいここ1月で盗賊を3チーム潰させられたのよ。それで何も持って帰らないわけないでしょ」

「ああ、そうなんでしたか……クエス様も強くなられましたね」


ルバールは妹のように思っていた従兄弟のクエスが昔よりはるかにしっかりしていることに嬉しく思い言葉を発したのだが

それがクエスの地雷を踏んだようだった。

クエスが食べるのをやめ薄い殺気を漏らしながらルバールを睨みつける。


「私はね、あの時、妹の……妹のエリスよりしっかりしていなかったから今ここにいるの。強くなってなかったら、昔の弱いままだったらエリスが何のために……」


ルバールはまずいと思い「で、ではこれで」と一言いい残して逃げるように部屋を後にした。


「ちっ、ルバール。逃げるなんて……許さないんだから…」

悪態をつきつつも気持ちは落ち着いていく。


「でも彼がいなきゃ、アイリーシア家に以前仕えていた者たちに連絡を取るのも難しかった。そうなれば彼らにも剣を向けざるを得なかったかもしれない…彼の選択も後に生きる部分があったのかもね」

そう寂しそうにクエスは呟いた。


「さて、食事を済ませて今度こそ殲滅戦の準備ね」

そう言いながら最後まで料理を食べてしまう。クエスは成功を前祝いした気分になった。


ここからは復讐の鬼となったクエスが暴れる敵討ちの時間だ。

怖がっていたあの時に味わった苦痛、あの時勇気のなかった自分への後悔、すべてあいつらに叩きつけてやる。

そう心に言い聞かせ、部屋を出た。




決行の日、あの盗賊共と会談したあの日から3日、2人の姉妹は万全の準備を済ませていた。

各情報網を3重にチェックし、この日この時間ターゲットであるバルードエルス家の直系の者たちが全員この城内にいることは確認済みだ。


夜9時過ぎにクエスとミントは城の正門の近くの建物の路地にいた。

正門まではおよそ150m衛兵は8人。

いつも貴族たちがいる城の正門が閉まるのは夜の9時半頃、その直前を狙って忍び込む予定だ。


「ミント魔法の準備はいい?」

「うん<昏睡>と<日常風景>をストック済み、いつでも行けるよ」

「じゃ、行こうか。これを実行してしまったらもう真っ当な生活には戻れないわよ。でも私たちはその先へ進む、いいね?」


クエスが少しだけ名残惜しそうに言うとミントが反応する。

「最初から真っ当な生活なんて望んでないからね、私は」

「そうね」


クエスは少しだけ寂しく笑うと直ぐに笑顔になり自分の周りの魔力を微弱にして二人とも正門へ近づいた。



「すみませーん」

ミントが元気な声で正門の門兵たちに声をかける。


門兵たちは声の主を見るが、魔力の微弱な傭兵風の女性が2人だけということもあり面倒くさそうな表情をした。

この門兵たちは門を閉じればそのまま仕事終わりだったので、直前に来た彼女たちが疎ましかった。


「何の用事か知らないが、すまないけど明日にしてくれないか」

兵士たちは帰ってくれと手で追い払うしぐさをして、言い寄られると面倒だと思ったのか少し早い時間にもかかわらず、彼女たちを無視して門を閉めようと背を向けて動き出す。


全員が背を向いた隙にミントが門兵の詰め所までを範囲に含めた<昏睡>を放つ。

衛兵たちが一瞬何事かと思ったものの、睡魔に耐え切れなくなり崩れ落ちようとする。

その隙にミントの魔法に合わせて突進していたクエスは的確に兵士たちの鎧の上からサクッと心臓を突いていく。


クエスの手に握られている剣は母が自分たちを守るのに使い続けた、形見となった剣だ。

クエスが攻撃すると同時にミントは外に向かって広範囲に<日常風景>を使用する。


これにより正門付近の住民たちは門兵が何かだべりながらも閉門の作業をしているように見えるようになった。

この魔法は毎日見ている風景を見せることのできる魔法である。


この場にいない者が新たに来れば異常事態に気づかれるが、この時間に訪問者があえて城門の方に来ることは少ないので

門が見えるところに住んでいる周辺の者たちだけだましていればいいという判断だった。



「これで全部かな」

クエスが門兵をすべてかたずけた後、魔力を剣に流し込み一振りすると剣に付いた血がすべて落ちて刀身がきれいになる。


「予定通りここからは私1人で行くわね」

「うん、代わりにこの正門は死守するよ、ターゲットは絶対通さないから安心して。クエスお姉ちゃん、無理はしないでね」


自信たっぷりに言いながらも、姉のことを少し心配そうにするミント。

何度もターゲットや城内にいる者たちとの戦闘をシミュレーションして大丈夫だと信じてはいたものの、どうしてもエリスを失ったあの日を思い出し姉の心配をしてしまう。


「もちろん。無理せずに全員をきっちり父と母のもとに送って謝罪の機会を与えてくるわ」

笑顔で任せて!と言うようなジェスチャーをしミントを安心させると、クエスは単身城内に忍び込んだ。


いつも読んでいただき、本当に感謝しています。本当にやる気にもつながっています。有難いことです。

これからも頑張っていくのでよろしくお願いいたします。

ブクマ・評価・感想・誤字脱字の指摘、お手数をおかけしますがよろしくお願いいたします。


魔法紹介

<昏睡>夢:相手を眠らせる。<睡眠>より効果が高く十分寝ている相手にも効くが効果時間は短め。刺激を与えてもそうそう起きない。

<日常風景>夢:いつもの風景を相手に見せる幻術。対象範囲は広いが何度か同じ光景を見ている者でないと効果は薄い。


修正履歴

19/02/01 改行追加

20/07/19 誤字修正・タイトル変更

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