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中立地帯での生活11

ここまでのあらすじ


初の討伐依頼を終えたコウたちは報酬をもらいに行ったギルドでエンデリンを拾った。


3人で拠点へと戻ると、メイネアスが出迎える。


「お疲れ様です、コウ様。で、こちらがエンデリンですか?」


何で知っているのとコウが驚いていると、メイネアスは入り口のチェックゲート入ってすぐ右側に設置された黒いボードの方を向いた。

そこにはメンバー一覧が表示されており、一番下にエンデリンの名前が表示されている。


「えっ、あれ何?」


「あれは傭兵ギルドと情報を直結しているモニターです。ここから依頼を受けることもできますよ」


「おぉ、これが例の!」


コウは興奮してエンデリンの紹介をそっちのけに、モニターに向かい操作して依頼一覧を確認して始めた。


「こりゃ便利だな。いちいちギルドに行かなくていいし朝からここでその日の行動方針を決められる」


興奮するコウを見てマナもモニターの方へと駆け寄り、一緒にパネルをいじり始めた。

エンデリンをほったらかしにする2人にメイネアスが呆れてため息をつくと、連れてこられた彼もどうしていいのか苦笑いをしている。


「申し訳ありません。コウ様は大きく興味を引かれるものを見つけると、どうもそちらに集中してしまうようで」


「い、いえ…いいんですよ。僕は期待の戦力ってわけでもないんですから…」


申し訳なさそうにする彼を見てその人となりを確認する。

メイネアスの一次審査はひとまず合格のようだった。


「では、あなたの個室を用意していますので案内させます。コウ様、エニメットに案内させてもよろしいですか?」


受注可能クエストをあれやこれやとみていたコウは、呼ばれたことに気づき振り返る。

エニメットが個室のある方向を刺してコウに頭を下げるので、何のことか理解したらしく軽くうなづいて了承した。


「はぁ、困りましたね…後で事情は聞くことにしましょう。では、案内お願いします」


「はい、わかりました」


元々エニメットはコウの専属でありコウの指示にだけ従う存在だったが、今は便宜上メルボンドやメイネアスの手伝いもコウの了承をとったうえで行っている。

型崩れしない硬めのホワイトブリムをつけた少女に見えるエニメットが新人のエンデリンを部屋の前まで案内した。


「こちらがエンデリンさんの部屋になります。私物などは自由に置いてもらって構いません」


8畳ほどの1部屋だったがベッドと装備かけ一式がついており安宿よりもましな作りだった。

はっきり言ってどの傭兵ギルドよりも待遇がいいと言える。

最近エンデリンが利用していた格安のカプセルホテルみたいな寝るだけスペースと比べると天国だった。


一般的に傭兵団に途中加入した新人は、ほとんどが共同部屋に配置され大きな手柄を立てて初めて個室が与えられる。

運が良いと本部ではない離れの小さな拠点に配属され、個室が与えられる場合もあるが、離れの拠点はそれだけ防衛能力が薄く他のギルドと対立したり恨みを買えば真っ先に狙われる場所でもある。


新人でちゃんとした個室が与えられるのは、明らかに実力と実績を兼ね備えたスカウト組くらいだ。

エンデリンは傭兵をやっている者たちの中でも下の方になるため、共同部屋くらい当然の扱いだと思っていたのに個室が与えられたので驚いて言葉が出ない。


そもそもこのコウ率いる『流星の願い』の本拠点は1階・2階合わせて部屋が30以上あり、共同部屋を与えても1人で使えば個室と変わらないので

そのまま個室を与えることにしたのだが。


「いっ、いいんですか…こんなに広い部屋を」


「はい、この部屋を与えるように指示されていますので、そしてこちらが鍵になります」


鍵付きの部屋が与えられるなんて幹部扱いかよと思いながら、エンデリンは彼女から丁重に鍵を受け取った。

恭しく受け取る彼を見てエニメットは変な気分になったが、やる気を出してくれる分には何も問題ないのであえて触れずにスルーする。


「本日は夕方までゆっくりされていてください。部屋に必要なものがあれば買い出しに行かれても構いません。

 夕食後に明日以降の仕事の割り振りを相談する予定になっております。何かありましたら1階の誰かにお尋ねください」


「ありがとう…ございます」


エンデリンは立ったまま戸惑いながらも礼を言って、去っていくエニメットを見送る。

この扱いが本当なのか信じることができず、しばらく彼はそのまま立っていた。



エニメットが入り口まで戻ってくると、コウがそれに気づいて手招きをする。

主人に呼ばれたということで彼女はちょっとだけうれしそうに駆け寄った。


既に他のメンバー全員がこの場に揃っており、それを確認したコウが説明を始める。


「新しく加入したエンデリンだが…どうだろう。印象は悪くないと思うが…」


「固定の支払いは無し。報酬は当面参加した依頼から割合だけ…という点では随分と安上がりですが、ルルー様からのスパイの疑いを消せないのではないですか?」


相変わらず厳しい口調でメイネアスが指摘する。

それは妥当な意見だったので、マナ以外の全員が小さくうなずいた。


「ゼロではないが、俺とマナが見極めた結果限りなくシロに近いと判断して加入させたんだ。確実な根拠はないがその点は信じて欲しい」


実力としてはメルボンド程度かそれ以下であり、コウたちにかかれば簡単に取り押さえられるが

他のメンバーにとってはそれなりに脅威なので、皆厳しい表情を解かない。


「しかし、コウ様。いくら何でも結成2日目に急いでメンバーを増やす必要はなかったのではありませんか?」


「そうは言うが、メルボンド。俺たちはルルー様に目をつけられている可能性が高いしメンバーは全員把握されている。

 全員魔法使いだし町中はほぼ安全だと思うが、買い物やお使いなどを安心して任せられる人材が1人はいた方がいいだろう。

 俺たちと無関係な彼ならば関係性を調べるのにも時間がかかるだろうし、監視の目を欺くには適任かと思ってね」


「その…信頼できないわけではありませんが、食材の買い出しはできれば自分の目で選びたいのですが…」


「その時はあいつを護衛というより足止め役として使ってくれればいい。そのために入れたんだから」


コウの言い分にある程度納得したのか、エニメットは小さくうなづいた。

コウがエンデリンを加入させた最大の狙いは、ルルーからの妨害や攻撃からメンバーを守るためだった。


守ると言っても彼に護衛させるのではなく、代わりにお使いに行かせたり、メンバーが単独行動する可能性の高い時に彼を同行させたり、彼を足止め役の護衛として使ったりすることで

間接的にこのメンバーを守るというやり方だ。


町中では傭兵たちがある程度見張っているために単純な強硬手段はとれないが、それでも時間を稼いだり騒ぎ立て役がいるのといないのでは大きく違う。

ましてや簡単に切り捨てられる駒がいるのであれば、それだけ周囲に助けを求める時間が増えることになる。

これはとても大きなことだった。


最終的に彼が盾となり相手に捕まったとしても、コウたちに被害はなく脅しに屈することもなく対策を打てる。

彼がいない場合、複数名じゃないと安心して行動できなくなり不便になるだろうと考えた上で、コウは彼を引き入れたのだ。


「それに、ギルドの方にはメンバー情報を半年間金払って非表示にしておいた。これで彼がメンバーかどうかすら簡単にはわからない」


「ひとまずの対策として囮にも惑わせ要因にもなるから入れたということですか?」


「そういうこと」


シーラに対して答えるコウの言葉にある程度全員が納得する。

確かにルルーからの動きに何も対策しないというのは無防備すぎる。

そんな時ちょうどよい素直で使えそうな人物が来たから引き入れたというのは、悪い話ではなかった。


「まぁ、完ぺきな手じゃないが…悪くはないだろう?」


「えぇ、悪くはありません。ですが、少しコウ様らしくない手かと思います」


「俺らしくないというと?」


メルボンドが妙なことを言ってきたのでコウは不思議そうに聞き返す。


「コウ様は誰かを使い捨てにすることを好む方ではないと思っていたのですが…」


「……そりゃ、俺だってそういうことはしたくないが…こんなところまでついて来てくれたみんなを傷つけないためなら、少しは非情にもなるさ。

 甘いことを言って誰かを失う破目にだけはなりたくないからな」


真剣な表情で語るコウを見て、その場にいる全員が黙ってしまった。

味方を守るためなら、コウが無関係な他人を犠牲にしてもいいと言うとは思っていなかった。


皆少しだけショックを感じつつも、同時に大切にされていることを感じうれしくもある、そんな複雑な気分だった。

そんな様子を見て冷たすぎると思われたのか心配になり、コウは慌てて付け加える。


「いやいや、もちろん彼にはお使い程度でも衣と食を与えるんだし、俺達のために死ねと命令するつもりもないからな」


「そうですね、そこまではさすがに強要できません」


メルボンドが少し笑って答えると、コウも安心したのか笑顔を見せる。

現状では妥当の対応だということで、エンデリンの加入を全員が納得してくれた。


夕食後、これからのエンデリンの仕事をお使いや拠点の手伝い、時間があれば傭兵ギルドの仕事の手伝いということで合意し、新たに1名加えて流星の願いが本格的に始動した。




翌日、コウとマナ、エニメットとメルボンドの4人で魔物討伐へと向かい、シーラはエンデリンの実力を見極める役として拠点に残った。

本日の仕事もまた火ウサギの討伐(8匹)だ。


「ねぇ、師匠。どうして今日も火ウサギ狩りなの?」


「いや、この依頼って必ず一番上に出てるだろ。つまりこれってギルド側が受けて欲しいと思っている依頼なんじゃないかなって。

 向こうが希望しているものならその分信用度も上がりやすいかもしれないだろ」


「なるほど、確かにコウ様の言う通りかもしれません。町の外側に木の柵を置いているここでは、火属性の魔物たちは厄介でしょうから」


コウやメルボンドの予想はおおよそ当たっている。

火ウサギ狩りの依頼は毎日1傭兵団につき1回受注することのできる依頼となっている。


C-以上ならどの傭兵団でも受注でき、信用度の上がる量も高めに設定してあるのだ。

ただし、C-の者たちはC以上の者たちと一緒に受けないと町の外へ出られないが。


「でもこいつら、そこまで強くないよね?」


「まぁ、俺とシーラで8光折を同時に放てば8匹くらいならまとめて狩れるくらいだからなぁ」


「いやいや、見た目によらず結構な強敵ですよ。御二方は実力者なので余裕でしょうが、連合の新兵たちなら同数でも厳しい相手になりますよ」


メルボンドが呆れながら火ウサギの強さをそれなりに強調するが、コウとマナはあまりピンとこないようで少し不思議そうにしている。

そんな中エニメットは会話を聞きつつも周囲の状況に気を配っていた。


彼女にとっては主人の会話の相手をするよりも、主人に万が一危険が及ばないようにすることの方が大事な仕事だ。

それに気がついたコウが声をかける。


「エニメット、どうだ。周囲に敵は見えるか?」


「いえ、魔物の姿はありませんが…引き続き警戒します」


「わかった。俺もちょくちょく魔物の存在をサーチするから、エニメットは視界が開けている場所を重点的に確認してくれ」


「はい」


役目を与えられ嬉しそうにするエニメットを見て、連れてきてよかったとコウは考える。

護衛の役目がこなせるようにと魔法の訓練をしていたエニメットをこうやって同行させられたのは、コウが追放され自由になったからともいえる。


国に所属していれば兵士たちがいるので魔物狩りなどにエニメットを連れていくのは難しく、不幸な状況の中でも少しは良いことがあるものだとコウは思った。

そうやって話しながら30分ほど歩き回りようやく10匹ほどの集団を見つけ狩りを終える。


あっという間の戦闘終了に、魔物の攻撃を受け止める役目を果たしたエニメットは<光の強化盾>を解除しながら驚いていた。


「訓練の様子も見ていましたし、コウ様はすごい方だと思っていましたが…実際の戦いを目の当たりにすると、驚きで言葉もありません」


「ありがとう、エニメット。だが、これも練習環境を快適に整えてくれた侍女のおかげだよ」


嬉しそうに語るコウに彼女はちょっと恥ずかしくなって目を背ける。

あくまでコウの才能のおかげですと言い直したかったが、ちょっとだけ自分もお役に立てたんだという気持ちが思った以上に嬉しく、素直に主人であるコウの言葉を受け取った。


「さぁ、帰るか。しかし、次は採取系の依頼もこなしてみたいな。倒すばかりじゃちょっと飽きてくるし」


「ん~、でも採取系はもっと魔力のこもった場所でないとわざわざ要求するようなものが少ないし、素体用の素材だとあまりお金にならないよ。

 安くてよくつかうものは都市内で量産されたりしてるし」


「そっかぁ、だったら今は討伐依頼を淡々とこなすかなぁ」


安い報酬の採取依頼ならば、コウたちの『流星の願い』のランクであるCでも受けることができるが

高価な良い素材となってくるとそれなりに信頼性のあるものにしか採取場所を教えられず、最低でもランクC+は必要になる。

力だけあっても信頼がなければ、それなりの依頼を任せられないのが傭兵ギルドの仕組みだ。


コウたち一行はこの日、他の魔物に遭遇することなく町へと戻り、すぐに傭兵ギルドに行って報酬をもらった後は帰宅となった。


今話も読んでいただきありがとうございます。

ほのぼの過ぎる日々が続いております。できればもっと続けさせてあげたい。


誤字脱字の指摘ありがとうございます。発見次第報告してもらえると本当に助かります。

次話は10/1(木)更新予定です。では。

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