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中立地帯での生活5

ここまでのあらすじ


町を警備する兵士たちに警戒されつつも、コウたちは無事に入ることができた。


移動部屋の稼働を切り立方体へと戻してアイテムボックスに放り込むと、町中に入ったコウたちはさっそく傭兵ギルドへと向かう。

最初の目標は傭兵団の結成とその申請だ。


傭兵団を作れば、それに付随した身分証が傭兵ギルドから発行される。


もちろん、個々で傭兵ギルドに登録しても身分証は発行されるが、コウたちが貴族であるため9人の中で個々の信用にかなりの差が出てしまう。

そうなると一部のメンバーが特定の場所に入れなかったりと不便なことが起きてしまうので、コウは団を結成して全員の信用を統一する方法を選んだ。


大通りの先頭を歩くのは傭兵関連に詳しいメイネアスと一行のリーダーであるコウだ。


「とりあえず受付に行って申請すれば、それだけで傭兵団として結成できるんだよな?」


「はい。ただ費用として団登録に5千ルピ、メンバー1人につき5百ルピかかりますね」


「つまり9千5百ルピもかかるのか…結構な額だな」


1万ルピが200万円くらいなので、決して安い金額ではない。


「それでどこでも使える身分証が揃えられると考えれば楽なものです。

 あと初めはランクCからのスタートですから、ある程度実績も積み重ねなければなりません」


「実績なぁ…依頼をこなした時に依頼主やギルドから評価されるやつだっけ?」


「はい。ある程度魔物退治をこなせばランクC+までは簡単に上がるので、あまり心配する必要はないかと」


傭兵団としてのランク、これは結成時Cから始まり、C+・B-・B・B+・Aと上がっていくものである。

ちなみに下はC・C-・Dとなっており、Dはいわゆる盗賊団扱いだ。C-はその予備軍ともいえる存在でかなり警戒される。


ちなみに依頼側もランクがあり、A~Dで信用できる依頼主かどうかを判定しており相互監視の役目を果たしている。

嘘の報告をすれば、一定期間依頼ができない&受けられないだけでなくランクも下がるので、ほとんどの依頼者や傭兵団は正直に報告する。


また悪意のある虚偽報告は記録として一生残るので、その数が多いと依頼主から断られたり、傭兵仲間から共同での依頼受領を嫌煙されたりするのでやってはいけない。

(そういうメンバーが混ざると、ギルド側から他のパーティーに確認と仲裁が入る)


ここ中立地帯ではしっかりした大都市以外、国がしてくれることはおまけ程度の守備隊としての兵士を配置してくれるくらいである。

特にコウたちの訪れたオクタスタウンのような町やより小規模な村では、国から予算だけが下りて来る程度であり

傭兵たちがある程度積極的に町に近づく魔物の掃討などに当たらなければならない。

それを中心となって調整するのが傭兵ギルドなので、中立地帯の町などでは結構な権力を持っている。



歩きながらいくつかの説明を受けているうちにコウたちは傭兵ギルドへと着いた。

建物はしっかりとした3階建てで見た目はかなりきれいな感じだ。


周辺の建物と見比べると浮いているほどしっかりしており、壁の硬さを上げる魔法も常時発動させている。

ちょっとした要塞じゃないかと思える作りだ。


酒場が併設されているような異世界物の冒険者ギルドを想像していたコウは、ちょっとした商業ビルのような建物の作り驚いていた。

中に入ると外観以上に驚かされる。


「うわぁ、想像していたのよりかなりすごいね」


3階までしかないとはいえ1フロアがかなり広く、中も綺麗なつくりになっている。

床も磨かれた石かタイルのようなものが敷き詰められており、洋風の高級ホテルと言われても納得してしまいそうだった。


「中立地帯での彼らの力は強いですから。それを背景に光の連合や闇の国にも手を伸ばしているほどです。

 まあ、連合内では貴族がいるのであまり大きな顔ができずひっそりとやっていますが…本場は辺ぴな町にでさえこの規模ですからね」


「となると、都市にある奴はもっとすごいのか」


「えぇ、向こうでは上位の傭兵団たちに金庫や倉庫、作戦会議室なども貸し出しており

 国家ですらそうそう表立って対立はできないほどですよ」


「優秀な傭兵団を取り込んでいるってことか…結構えぐいな」


これは傭兵ギルドが国にいいように扱われないために打った対策の一つで、傭兵たちもその恩恵にあずかれることもあって協力的に動いている。

優れた傭兵団の中には本拠地までギルド内に置いているところもあり、相互関係を強めながら圧力をかけられないよう協力体制をとっているくらいだ。


こうまでするのは、傭兵団が個々に活動しながら傭兵ギルドから仕事をもらうだけの存在でしかなかったら

国や都市がギルドや団に直接圧力をかけることで、彼らが簡単に徴用されるからだ。


それをされてはギルドも傭兵たちも必要な時だけ駆り出される都合のいい、緊急時だけ兵士になる使い捨ての駒みたいな存在になってしまうので

ギルドと上位の傭兵団が結束していることを強く示すことで、国に無茶な命令を出させないようにしているのだ。


さすがに戦時に内側で揉め事を起こすバカはほぼいない。

下手をすればいざこざどころか都市内で内戦状態になってしまう。団結した傭兵たちの戦力は国にとっても侮れないからだ。


ちなみに闇の国や光の連合では国家の力が強過ぎて対抗できないため、傭兵ギルドは依頼を受けた上で協力を呼びかけるというスタンスをとっている。

特に防衛となると割と積極的に呼びかけることから渋々参加する傭兵団も多い。


中立地帯ではそれが少し緩くなり、通常の報酬付き依頼という形で街の防衛に参加する傭兵団を募るという形をとる。

まぁ、その地に長く居座っている傭兵団は、その地の防衛ということなら結構参加してくれるのだが。

ちなみに国や都市を挙げての遠征となると、依頼として一応受け付けているが傭兵ギルドはお勧めしていない。



1階の入り口から少し進むとロビーになっており、窓口がいくつも用意されていた。

少し離れた位置には個室の面談部屋までがあって、まるで銀行のような作りだ。

依頼が張られるボードは電子式のようになっており、検索条件で依頼を絞り込むこともできる。


上には依頼受付中・受注中・平均達成率などの数値が並んでおり、コウが想像していた酒場でワイワイ的な冒険者ギルドの雰囲気とは全く違ったものだった。


一応、受付から離れた位置にはテーブルと椅子が並んでおり、複数のグループが座ったまま情報を検索している。

そのうちの何人かが、コウたちを横目で観察していた。


「うーん、明らかに見られているな」


「それはそうでしょう。この辺で見ない顔ぶれですから」


非常に近代的に整備されたギルドを見回しながら、なんだかちょっといいホテルに泊まりに来た感じがしていまいちわくわく感が出てこない。

まぁ、ぶっちゃけ仕事あっせん所なんだし、高級な施設に併設されたハローワークみたいなものだと思えばわくわく感がなくても当然だが。


「さっさと受付を済ませないとな…絡まれたりしないよな?」


「それはないでしょう。彼らにとってもここは大事な場所。傭兵ギルドからの評判が下がるというのは大きなダメージになりますから」


「だったらいいんだけど…」


お決まりのパターン『初めてのギルドで雑魚が絡んでくる』という展開を危惧していたコウは、少し落ち着かない様子のまま傭兵団登録の受付へと向かった。


「ようこそ、傭兵ギルドへ。こちらは総合受付になりますが、どのような御用でしょうか?」


制服に身を包んだ受付のお姉さんが尋ねてくる。

わずかながら魔力を感じることから彼女も魔法使いだ。


ギルド職員はほとんどが魔法使いである。

強大な力を持った使い手はいないが、何かあった時は動けるだけの実力くらいは持っている。


「えっと、新しく傭兵団を作りたくて申請に来たのだが…」


「わかりました。メンバーはどれくらいですか?あと、すでにギルドに登録されている方はいますか?」


「登録している者は…いないよな?」


コウが後ろを振り向いて尋ねると全員が首を縦に振った。


「いないようです。それと、ここにいる9名全員がメンバーです」


「わかりました。では、代表者の方はこちらに記入を、メンバーの方は先に登録をお願いします」


コウが用紙に必要事項を記入する傍ら、他の者たちは身分証を見せたり身体データや魔力パターンを登録していく。

メンバーは別に魔法使いでなくてもなれるが、今回は全員魔法使いだったので各々の確認作業が多く、登録に少し時間がかかっていた。


ちなみにこうやって集められたデータは、魔法協会や各国に渡すことはないので安心だそうだ。

それだけちゃんと中立性を保てるほどの力を彼らは持っている。


「そういや、団の名前はどうする?」


町に入った後すぐにやって来て身分証獲得のために団を結成したので、名前なんて何も考えていなかった。

そのため何気なくコウは尋ねたが、皆からはなかなか厳しい答えが返ってくる。


「そうですね…コウ様がご自由にお決めください」


「師匠の決めたのなら何でもいいよ」


「はい、私も師匠にお任せします」


「私もお任せします。興味ないですから」


全員に丸投げされてコウは驚いて、再度尋ねなおした。


「これから全員が名乗る名前だぞ?さすがに俺に丸投げはまずいと思うんだけど…」


「いえ、ここにいる全員がコウ様の決めた名なら何でも構わないのです。決して丸投げではありませんよ?」


笑顔で語るメルボンドに周りの皆が同意する。

それが丸投げっていうんだろうと反論したかったが、多勢に無勢、仕方がないのでコウは自分で考えることにした。


じっと待っている受付のお姉さんの視線が辛くて必死になって考える。

何か明るく希望の持てる感じがいいなと思いながらコウは思い浮かべたものを適当に組み合わせた。


「ん、そうだ。流星の輝きってのはどうだろう?」


「りゅうせい……ですか」


みんな流星という言葉が聞きなれないようで、不思議そうな顔をしている。

考えてみればこの世界の空に星というものを見たことがない。


ならば流星どころか星という概念すらないので、自動翻訳も音声を訳すことなくそのまま伝えるしかなかった。

ここで詳しく説明しても伝わりそうにないので、コウは適当にそれっぽく説明する。


「流星ってのは…まぁ、数秒ほど強く輝いて次第に光が弱くなって消えていくものなんだけどね。俺のところの風習ではその消える間に願い事をしたりするんだ」


「うーん、火弾みたいな感じ?」


それは放たれた火の玉が次第に弱くなって消えるやつだろうと突っ込みたくなったが、大きな分類で区別すればそんなに変わらないと言えなくもないので

それに近いとコウは説明せざるを得なかった。


「ですけど、消えていくものを名前にというのは…あまり縁起が良くないと思いますが」


「まぁシーラの言うとおりだとは思うけど、俺たちはここに長居するわけじゃないだろ。その短い間に強く輝ければという思いを込めてさ」


「なるほど、それでいいと思います。元々コウ様へ一任していましたから」


メルボンドがそういうと、周りの者たちも納得し始める。

あまりにあっさり受け入れられて、今度はコウが逆に心配になった。


確かに輝いて後は消えるだけだ。しかも流星は元々燃え尽きて消えるもの、縁起が良くないと言われれば否定ができない。

流星って言葉は好きなので、雰囲気をちょっと変えたいなと思ったコウは再び団の名前を提案する。


「流星の願い、というのはどうだろう。わずかの期間輝く間、皆の願いを少しでも聞き叶えたいという気持ちを込めてさ」


「うん、いいと思う」


コウは提案した後ですぐに自分たちが神頼みしているようにも聞こえるなと思ったが

マナがすぐに賛同し、皆もそれはいいと前向きに賛同したのでそのまま決定した。


『流星の願い』という団名で提出すると、受付のお姉さんは笑顔でそれを受け取った。


今話も読んでいただきありがとうございます。

すごくいっぱい感想をいただき、本当にうれしいです。

悪い点も受け止めつつ精進していきたいと思いますが、頑なに受け入れない部分があったとしても大目に見てもらえると…うれしいかな(汗


誤字脱字の指摘も、ありがとうございます。気を付けていますが、なかなか減りませんね。

指摘されると明らかなのですが、確認の時は書いた本人だからか意外とスーッと読んでしまいがちで。。。


ブクマも感想もいただけると、とてもうれしいです。

感想に関してはできるだけ返信します。ちょっと遅くなる時もありますが、その点はご理解ください。


次話は9/13(日)更新予定です。 では。

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