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異世界からのスカウト ~光と闇の狭間に立つ英雄~  作者: 城下雪美
2章 下級貴族:アイリーシア家の過去 (18話~46話)
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姉妹の復讐劇1

ここまでのあらすじ

親を次女のエリスを、家までも失ったクエスとミント

長い年月をかけてその復讐の準備を着々と進めていた。


まずは使い捨ての道具の調達です。

使い捨てと言ってもそれなりのものを用意しないといけません。

大事の前で質の悪い道具を用意していては、失敗の可能性が高まりますから。たとえ使い捨てでも・・


クエスは憎き相手であるバルードエルス家の治めるエルス国の首都クロスシティーに入り、中心街から少し外れた小綺麗な店構えの大きい建物の前まで来た。


店の名は「静かな泉」よく秘密の商談に使われる店で出入り口が10か所ほどあるらしい。

こっそりとした相談事をするにはもってこいと有名な店だ。

クエスはそのまま店の正面から入っていった。


クエスは店に入ると受付に一言だけ発する。

「チャト40(よんぜろ)」

この店には合言葉を事前に登録しておき、相手にも伝えておいてその合言葉で店の人が部屋に引き合わせる仕組みだ。



クエスは案内するスタッフの後ろをついていく。

入り組んだ廊下を進み部屋の扉の前まで案内されたところで案内役の者が扉を開ける。


一つ目の扉を開けるとすぐ目の前に横にスライドする扉がもう一つ見える。

後ろの扉を閉めないと前の扉は開かない仕組みになっている。


クエスが開けてもらった扉を進むと最初の扉をスタッフに閉められる。

すると周囲の音が何も聞こえなくなる。<静寂の結界>が部屋全体にかけられているのだろう。

そして前の扉を横へ開くと中には体格がよく髪のない大きな男と黒髪でセミロングの細身の女性がいた。


クエスは2人を観察する。彼らの所属する集団はそこそこの力を持ちうまい話に飛びつくだけの度胸とそれなりの思慮深さがある。

これから依頼する内容の相手としてはひとまず合格だった。

後はこれから少し変わった依頼をするのでうまく進めないといけない。

そう思いながらクエスは向かい合ったソファに軽めに腰かけて話し出す。


「遅くなったわね、依頼主のチャーよ」

クエスは偽名で自己紹介する。

偽名と言っても傭兵ギルドで登録した名前だ。調べればちゃんと存在しているので問題はない。


「おぅ、俺は盗賊頭のアダマント」

「私は副頭のミスリーよ」

盗賊である2人も簡単に自己紹介を返した。



「それで、チャーさん。依頼の件ですが」

副頭が早速切り出す。盗賊側は少々内容がイカれているが高収入の依頼があるとしかまだ聞いていないのだ。

クエスはせっつく盗賊たちを気にすることなく淡々と話しを始める。


「ええ、私たちは3日後この都市の城に忍び込みます。そこで私たちが混乱を引き起こすのであなた方には城の物を奪ってほしいのです」

クエスが真剣な顔つきで内容を話す。

2人の盗賊は驚いてお互いを見合った。


この都市は中級貴族の国家の首都であり、この辺でも一番大きい城郭都市だ。

国家の首都となると中級貴族の実力者たちが集まっている可能性が高い。

もちろん兵士だって普通の都市の倍以上待機しているのが普通だ。

そんなところを襲うという話は盗賊たちから見てあまりに馬鹿げていた。


「めちゃくちゃなことを言い出すね、お嬢ちゃん」

一瞬面食らったアダマントだったが、すぐに気を取り直して愉快そうに話しだす。

この依頼のやり取りで少しは優位に立ちたいからだろうか、やや見下した態度にでるアダマント。


実際こんな依頼を聞けば、普通は自分たちを踏み台にするとしか聞こえない。

だがそこそこ名の知れた盗賊団を率いるアダマントは怒るより余裕を見せ詳細を確認しようとする。

隣に座っている副頭の女性は、突然ばかげたことを言い出すクエスを睨むが、今は何も言わない。


クエスはそんな挑発はさらりと流して話を続ける。

「当日夜、必ず城内は混乱します。それに乗じて侵入し、めぼしいものを持って帰ってもらう。それだけで構わない」


数千の兵と腕利きの貴族や兵将がいる場内が混乱する事を確信して話すクエスに、盗賊2人はますます顔をしかめる。

しかも具体的な説明はなく、先ほどとさほど変わらない内容を淡々と繰り返すクエスを見て少し苛立つアダマント


「どう混乱するのか詳細を聞きたいんだ。状況の詳細も知らずに城に侵入するなんてまともな神経じゃねぇからな」

「そこは説明できません。時間は夜の10時です」

「あのなぁ!」


完全に盗賊の態度を無視して話を続けるクエスにアダマントは我慢の限界が来た。

立ち上がり大声を出して怒りを向けるアダマント。

それを横にいた副頭のミスリーが制して落ち着かせる。


一瞬怒りをミスリーにも向けたアダマントだったが、ミスリーの目を見て何か納得したのかそれ以上は怒鳴ることなく諦めたように大人しく座った。



アダマントが少し落ち着くとミスリーがクエスの表情を見つめる。だがクエスは平然とした表情のままだ。

この盗賊団の頭脳役のミスリーは落ち着いて考える。


混乱を起こしているうちに貴族のいる城内から財宝を盗み出すというのは、盗賊への依頼としてはあり得る範囲だ。

報酬や難易度、目的以外の品の扱いによっては受けてもいい以来だと思いつつ、詳細をクエスに尋ねる。


「盗み出す目的の品は何かしら?あとできればそれをいくらで買い取るつもりかも聞いておきたいわね。もちろん報酬とは別料金に……」

ミスリーの質問に表情を変えることなく軽く手を挙げて途中で制止するクエス。


驚いたミスリーは思わず質問をやめてしまう。

それを見計らってクエスは聞きたいことに答えるかのように条件を提示した。

「報酬は前金で20万ルピ。盗み出すものは何でもいい、できれば良い物がいいけど状況に任せるわ。あと、買い取るつもりはない」


買い取るつもりはない。それを聞いたミスリーは驚いた。

普通は欲しいものがあるから城内に侵入するものだ。

お膳立てはするからそれを盗んで依頼主に渡す。これが普通の流れだ。


だが目の前の女から言われた仕事は「何か盗め。もってかえっていい」だけだ。

いくら盗賊に依頼するとしてもまともな仕事じゃない、怪しすぎる。


怪訝そうな顔をするミスリーと、なんだそれは?と不思議そうにするアダマント。

とにかく条件の詳細を確認しようとミスリーはクエスに質問をした。


「盗んだものは全て私たちの物でいいのかしら?」

「ええ」

「混乱する状況もあなたが作るの?」

「ええ」

「それ以外の条件は?」

「開始の時間は正確に、くらいね」


「そう……この依頼あまりにうちらがおいしすぎて理解ができないわ」


内容が内容なだけにミスリーが怪しむのは当然だろう。盗賊と言えども知恵くらいはないと長生きできない。

まぁ今回の内容ならば知恵のない盗賊でも怪しむだろうが。



「私が聞きたいのは返事だけ、それも今すぐここで」

クエスはそれだけを言うとソファーに深く腰掛けた。


「美味すぎるがまずい話よりはいいんじゃないのか?」

アダマントはミスリーに受けてみるべきじゃないかと提案する。


ミスリーは悩む。20万ルピ(日本円だと4000万円程)は美味しい報酬だ。

それに城内から盗んだものも全部懐に入れていい。


それだけを聞くと即決で飛びつきたくなる話だが、目の前のチャーと名乗る依頼者が何をしたいのかわからないので、容易に受けていいものか判断できずにいた。

とりあえず自分たちを捕らえるためのおとりの依頼だと困るので、依頼者からもらえる報酬をいつもらえるのかだけでも確認することにする。



「チャーさん、前金はここで渡してもらえるのかしら?」


もし捕らえるための罠の依頼なら、報酬は大体開始直前に渡すと言われる。

20万ルピもの大金を渡して逃げられては笑い話にもならないからだ。


依頼の受諾に前のめり気味のアダマントを無視してミスリーがそう質問するとクエスは持参した腰のポーチから

1万ルピ金貨20枚を取り出して彼らの目の前に無言で置く。


その金貨に手を伸ばそうとするアダマントをミスリーは慌てて制す。

「待って、アダマント。受け取れば依頼を受けたことになるわ」


もちろん金貨だけ受け取ってとんずら、もしくは彼女を取り押さえて城の貴族へ引き渡す、城にチクって情報料をもらい双方から金を受け取る。

様々な案は浮かぶものの平然と大金を並べて楽すぎる依頼をする依頼人を軽く見るのは危険だと、ミスリーはこれまでの経験から判断した。


「チャーさん、もう少し質問いいかしら?」

「何か?」


「最初は我々をおびき寄せて一網打尽にする計画かとも思ったわ。だけど20万ルピをポンと出されればさすがに違うとわかる」

「それを理解してもらえればありがたいわ」


「ならばあなたの目的、我々に依頼した目的を知りたいの。正直見当がつかなくて判断ができないわ」


真剣なまなざしでミスリーはクエスを見つめる。

アダマントは口を出さない方がいいと悟り、イスに深く腰掛けてのけぞりミスリーにもう全部任せたように手足を投げ出す。



「あの貴族に一泡吹かせたいのよ。それだけ」

深く腰掛けたまま動くことなく、『一泡吹かせたい』の部分に少しだけ怒気を込めてクエスは返答する。

「………」


いまいち納得のいかないミスリーは少し考える。

一泡吹かせるにしても我々への依頼はしっかりとした陽動ではない。


責任は逃れたい内部の人間が家への憂さ晴らし、というのは考え過ぎだろうか。

なかなか依頼の本質がつかめないミスリーは、今度は方向を変えて盗む物の詳細を詰める質問をした。


「盗み出すものはどんな些細なものでもいいのかしら?」

「城内の石ころとかは勘弁ね。少々金目の物なら何でも構わない……生きている子供でも」

クエスの雰囲気が「生きている子供」と言った瞬間だけ、強い憎悪を帯びる。


気を抜いていたアダマントがクエスの感情に咄嗟に反応し座ったまま防御態勢を取る。

それを見たクエスは素直に頭を下げた。


「ああ、ごめんなさい。あなた方には関係のない感情よ」

クエスが素直に謝るのを見てアダマントは少し警戒を解いた。


「嬢ちゃん、いきなりの殺気は笑えないぜ」

「ええ、気を悪くさせてすまなかったわ」


淡々と返答するクエスを見てエルミーはさっきの殺気を思い出す。

(どうも恨みがあるというのは間違いなさそうね、我々へのだまし討ちは無しと考えていいかしら)


「そう、言い忘れていたけど状況によっては城内に私の仲間がいるかもしれないわ」

「仲間?」


ミスリーは、そりゃ貴族の城に単独で突っ込むなんてアホしかいないんだから仲間くらいいるだろうと言いたいが

先ほどの殺気のこともあるし口には出さない。


「俺はあんたたちの味方だ、っていう兵士がいたら可能なら見逃してあげてね」

「おいおい、1対多で兵士が窮地になれば言うかもしれんだろう。後での不意打ちや援軍を呼ばれるリスクは負いたくないんだが」


アダマントがそんなアホな要求があるかと言わんばかり抗議する。

だがクエスは淡々と答える。


「そういう場合、「見逃してやるから助けてくれ」って言うでしょ。いきなり盗賊の仲間とか普通言わないわ。それにその仲間に聞けばお宝の場所まで案内してくれるかもしれないじゃない」


ミスリーは凝った罠の可能性も考えたがクエスの言い分に一理あると判断した。

それにその仲間とやらのいうことを素直に聞かなくてもいい。

怪しかったり不要ならば殺してしまえばいい、そう考える。

クエスは仲間がいる、といっただけで殺すなとは言っていないからだ。


「そうね、考慮に入れておくわ」

と盗賊たちは仲間の件は留意しておくことにした。



「こちらからは言うべきことはすべて言ったわ、どうするの?」

クエスは二人を見つめそれ以上は何も言わない。

アダマントとミスリーはしばらく相談をしていたが…しばらくして結論を出した。


「わかった、受けるわ」

ミスリーが発したその一言を聞くとクエスは立ち上がる。


「3日後、22の日の夜22時ね。その時に城に侵入して」

それだけを言うとクエスはさっさと部屋を出ようとした。それを見てミスリーは慌てて止める。


「待って、侵入はどこからが良いのか聞いてなかったわ」

「正門でも裏口でも、あなたたちが知る特別な場所からでも好きな場所からどうぞ」

そういうと扉を開けてクエスは出て行った。


「ふん、楽すぎる仕事だな!しかもそれでこの前金」

嬉しそうに金貨をつかみ20枚とも虚空から取り出した頑丈そうな黒く小さな箱に入れ、箱を再び虚空へ収納した。


「そうね……でもたぶん、これはやばい仕事よ。もう簡単には逃げられない程にね」

ミスリーはアダマントに聞こえないようにつぶやいた。


いつも読んでくれている皆様、ありがとうございます。

余裕があれば、ブクマ・評価・感想・誤字報告などお願いいたします。

みなさんの1プレビューにいつも励まされます!


魔法紹介

<静寂の結界>静:空間指定で、エリア内の音は一切外に漏れず、外の音は一切中には聞こえない。


修正履歴

19/02/01 改行追加

20/07/19 タイトル変更・内容微修正。時間表示を25時間制に。

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