中立地帯での生活1
ようやく第2部へと突入&6章となりました。
ここからは中立地帯での生活の話となっていきます。
主人公中心の話が増えるかなと思っていますが、ちゃんと?別の地点の話も書いていくつもりです。
ポトフ王子などの策略によりコウは光の連合にいられなくなり、一部の希望者を連れ今日中に連合から離れるためにも、中立地帯に隣接する都市ピーッツオにやってきた。
都市の城内から飛んできたとはいえ、テレダインス家の者ではないので転移門の警備兵にしっかりと確認を受ける。
「身分証をお願いします」
兵士たちの声に各自が身分証を示す。
コウはまだ公に公表されていないこともあり、準貴族用の身分証を示した。
転移門に張られた障壁の外から兵士たちが確認する。
「えーと、テレダインス家の方はいないようですが…」
「ああ、俺たちは今日までテレダインス家の都市エクストリムの発展を手伝っていたのだが、それも今日で終わりでね。それでこの都市へと来たんだ」
他家の者が集団で都市の城で仕事をするのは珍しい話だが、彼らはメルティアールル家とアイリーシア家の者たちでこの都市を治める同じ融和派の貴族様だ。
貴族や準貴族の方々には、兵士たちが立場上知ることのできないことがあるので、代表者らしきコウと、マナとシーラの身分証を預かって魔力パターンを照合する。
すぐに問題ないことが確認されたので兵士たちが身分証を返すと、周囲の魔法障壁を解除しコウたちを外へと案内した。
「どうぞ、こちらへ。それでこの都市にはどのような御用で?」
「少し両替するのと、ここからちょっと旅に出ようかと思っていて」
「旅…ですか」
この辺の都市外は特に特徴的な地形があるわけでもなく、魔力だまりのスポットや精霊様を祭る場所もない。
更にこの時間帯ではすでに暗くなっており、こんな時間にうろつく者は周囲を警戒して見回る兵士くらいなものだ。
旅に出るとなればおよそ朝からだろうが、今日は宿にでも泊まるのかと不思議に思う。
転移門があるこの世界では、普通出発直前に都市へ飛んでくることが多いからだ。
コウの説明を聞いた兵士たちはかなり怪しんだが、同じ派閥に属する貴族様たちであることから、言えない事情があるのだろうと察して了解した。
「わかりました。硬貨の出金は貴族街に何店舗かあります。一番近いのはこちらの大通りをまっすぐ行ったところですね。
旅への出発はいつごろになりますか?」
「今日中には出るよ。ありがとう」
そう言って笑顔を見せコウたち一行は去っていく。
転移門を警備する兵士たちはおかしな話だと思ったが、あまり立ち入らない方がいいかと思い記録だけをとって忘れることにした。
コウたちはそのまま真っすぐ両替所へと向かう。
この世界における魔法使いたちのお金のやり取りは主にデータをタッチ式で支払う形になっており、硬貨が必要な場合だけこの両替所に行くことになる。
ここではデータから硬貨へ、硬貨からデータへと変換できる。
もちろん金貨や銀貨を両替することもやっているが、その業務は平民たちのいる平民街で行われることが多く貴族街では硬貨とデータの変換が主になる。
連合内の貴族間で硬貨が真っ当に使われるのはチップや小遣い的なものか特殊な買い物をするときくらいであり
多くは裏金や足のつかない取引用となっているため、貴族内で硬貨を必要とすることはあまりいいイメージではない。
市民たちはデータのやり取りをする魔道具を持っていないので普通に硬貨を使うが、貴族は記録の残るデータでのやり取りする。
だが今回は中立地帯に行くので、どうしても硬貨が必要だった。
店の前まで来ると、コウたちはどれくらい硬貨に変えるか相談し始めた。
「どうする?多めに1千万ルピ分交換しておくか?」
「拠点を購入するのなら、いささか物足りないかもしれません」
「多い方が何かと便利だと思うよ」
コウが尋ねるとメルボンドとマナが答えた。
1千万ルピで足りないとか、ちょっと多くないかと思いつつもコウはその倍を両替することにする。
「うーん、なら2千万くらいか?って、それだけ交換すると金貨2千枚持つことになるんだけど…さすがに一部白金貨にしても構わないよな?」
「白金貨はよほどの状況でないと使えません。せめて2,3枚にとどめておいた方がいいと思います」
「シーラがそういうならしょうがない…白金貨2枚と金貨1800枚を両替しておく」
コウが両替所に入り硬貨を指定すると身分証を求められ、準貴族の身分証を見せると店員は驚きながら慌てて店の奥の在庫を数えに行った。
白金貨は金貨100枚分、1枚100万ルピ(2億円)になるのだが、使用した場合お釣りとして大量の金貨が必要になる。
5万ルピの買い物をして白金貨を出せばお釣りに金貨95枚が必要になるが、普通の場所ではポンと金貨50枚をお釣りに出せないことの方が多い。
そのため白金貨はよほど大きい買い物をするときにしか使えない。
そんな白金貨2枚と1800枚もの金貨を引き出すとなれば、店側も慌てて当然だった。
10分ほどしたのちに店側が息を切らせながら、コウの要求した枚数の硬貨を用意する。
そのお金とともに店の責任者らしき女性が出てきて、コウの顔をじっと見る。
「失礼なことをお聞きしますが、コウ・アイリーシア様はこのような大量の硬貨をどうされるのですか?」
「あぁ、ちょっと外へと旅に出ようと思ってさ。あっちにいるメンバーと長期間外に出るので、それなりのお金を硬貨で持っておいた方がいいと思ってね」
コウの視線の先には8人の男女が並んで座っていた。
コウが店に入って数分経っても出てこないものだから、待ちくたびれて全員が店の中に入ってきて座ることにしたのだ。
責任者の女性は、これほどのお金が本当に必要なのかと思いながらも一応納得する。
まっとうな都市の中では一般的に接触式でお金をやり取りするが、都市の外では硬貨でのやり取りの方が圧倒的に多い。
とはいえちょっとした旅に2千万ルピほどのお金が必要になるかと言われると疑問が残る。
「他に大きな買い物をする予定でも?」
「まぁ、拠点になる建物を買おうと思っている。場所や予算はまだ決まっていないけどな」
都市外の拠点の相場は安いが…場所と造りによっては結構な値段がする場合もある。
アイリーシア家であれば、所属する一光様が時々向こう側へ行くこともあるらしいし、それ関連かと思えば納得のいく範囲だ。
「なるほど……わかりました。こちらのパネルに触れてください。こちらの硬貨をお渡しいたします」
コウは自分の持ち金1千万ルピと予備費1億ルピから1千万を指定してパネルに触れた。
合計所持金が2千万ルピ減って店側のお金が増えたのを確認できたのか、女性の責任者がプレートに乗った硬貨を渡す。
「どうぞお受け取りくださいませ」
「あぁ、ありがとう」
コウはアイテムボックスを開くと、50枚ずつ積まれた束が合わさり金貨の山となった物を乗せたプレートを傾け、一気にアイテムボックスへと流し込む。
それを見ていた店の責任者はコウの受け取り時の堂々とした態度を見て少々驚いていた。
それなりの地位に就いた有名な貴族でない限りこれだけの硬貨を一度に目にすることはそうそうない。
そもそもこれだけの額を硬貨で必要になることがないからだ。
しかもそれが使いに来た準貴族ならば、普通は恐れ多いかのように丁寧に扱うのだが、隠れ家にいた時のお使いからかなり高額なお金の扱いに慣れていたうえ
都市長として大きな予算を扱ってきたことからコウは平然とそれを受け取っていた。
コウは最後に白金貨を2枚受け取って裏表を見ると、それも落とすようにアイテムボックスへと入れる。
「えっと、白金貨の有効期間はどれくらい?」
「50年以上はございます」
「そうか、なら全く問題ないな。ありがとう、世話になったよ」
そう言ってコウは軽く手を上げると、メルボンドたちのいた場所へと向かい一緒に外へ出ていった。
両替所の店員は驚きながら責任者に話しかける。
「すごいですね、あんな多額の金貨を平然と扱える準貴族がいるなんて…」
「まぁ、アイリーシア家だし…そんなものかもしれないわ。同じ融和派だけど、あそこはやっぱり規格外の国なのね…。
さぁ、明日は朝一でこれを硬貨に戻してくるわ。半分以上持っていかれてはこちらの仕事にならないもの」
「これで手数料が100万ルピの時と同じというのも…ちょっと損した気になりますね」
「いいのよ、ぼったくり過ぎて貴族に恨まれるよりは。それよりちゃんと記録しておきなさい、問い合わせが来る可能性もあるから」
接触式でコウが2000万ルピ両替したことは、ちゃんと記録として残り後日アイリーシア家へと伝えられる。
大きな額が動いた時に連絡しないでいると、時々貴族から何があったと問い合わせがくる場合もあるからだ。
「さて、両替も終わったしさっさと外へ出るか」
まだ時間は残っているが、食事も終えているし必要な食料や道具もある程度は持っている。
これから数日は転移門を使わず移動するため野営をすることになるが、それに必要な物もほぼ揃えてあった。
テレダインス家に仕える兵士たちがせめてということで簡単な野営道具一式を渡してくれたおかげで、大した準備も要らずに出発できる。
その野営生活を支える魔法に関しても、コウは水や風の属性が使えるしマナが火属性も使えるので、火起こしや水を生成する魔道具すら必要なかった。
そういう点では都市の外で生活するとしてもあまり不自由のないパーティーともいえる。
後は土属性の者がいてくれれば、野宿用の建物すら造成出来てテントすら不要だったくらいだ。
そろそろ出発するかと外門へと向かうコウをメルボンドが呼び止める。
「少々お待ちください。どうせでしたら移動用の部屋を作る魔道具を買っておきましょう」
彼の提案にコウは疑問に思った。
「いや、移動するだけなら風の板でいいし、どれだけ大きいものでも俺が簡単に作れるから要らないぞ」
「それはそうなのですが、それではコウ様が常に魔力を消費し続けなければなりません。
外は盗賊などもいますし、戦闘要員の魔力は余裕を持たせた運用をした方が皆の気分も楽かと思います」
「ああ…なるほどな。風が一番得意な俺が魔道具の風の板に乗るってのもなんか変な気分だが、仕方がないか」
都市の外は魔物に盗賊にと危険が多い。
戦える者は常に魔力の余裕を持たせておきたいので、メルボンドの提案も納得せざるを得なかった。
特に移動に風の板を使うとなると、コウはその間ずっと風の板を維持するために魔力を使い続けなければならない。
5分10分の移動ならまだしも、数時間単位となると魔力の消費量も決して軽視できる量じゃない。
更に戦闘でコウが疲弊すると移動自体が困難になってしまう。
なので、風使いがいたとしてもこうした長時間の移動の場合は、魔道具に頼った方がいい。
余談だが、戦闘となると移動用の風の板は風属性の使い手が作り出した方がいい。
急に板を厚めにしたり、壊れた代わりをすぐに作成できる分魔道具よりも状況の変化に対応できるからだ。
だが風属性を使う本人は足役として使われることで、他属性の魔法使いたちに下に見られがちになりあまり快くは思っていなかったりする。
このへんは隊の雰囲気にもよるので常にそうだとは限らないが、風属性を学ぶ者が少ない理由の1つになっていた。
「なら、さっそくものを見に行きましょう。時間はまだありますから」
「だったら、あの店とかどうかな?移動部屋の魔道具が置いてある店っぽいよ」
「いいですね、行ってみましょう」
マナとメルボンドが先行して店へと入っていく。
「おいおい、俺が支払うんだからちょっと待ってくれよ」
それを見たコウが慌てて追いかけて行った。
「私たちは外で待っていましょうか」
「そうね」
シーラとメルボンドはそんなはしゃいでいる光景を見てちょっと呆れつつ笑顔を見せる。エニメットも手伝えることはないと思い同じくそこで待機する。
皆状況を受け入れつつあり、9人のパーティーの雰囲気も明るいものになっていた。
誰もが思うところはあったが、一番の被害者であるコウが率先して楽しんでる雰囲気を作っている以上口に出すわけにはいかない。
それが続けば自然に皆が気にしていない雰囲気になっていき、今ではちょっとした旅行前夜の気分になっていた。
今話も読んでいただきありがとうございます。
ブックマークなど頂けるとうれしかったり、うれしかったり。
誤字脱字は遠慮なくご指摘ください。ちょっと調子が戻らないですがちゃんと定期更新は続けていきます。
次話は9/1(火)更新予定です。ではでは。




