おまけ:各国の対応(コウの処罰に対して)
今回は急遽、こういう形の1話にさせて戴きました。
色々と加筆していくうえで次話の投稿が間に合わず苦し紛れです。
本来本編の絶好調時の落とし穴1からの話を修正してからが良かったのですが…間に合わずお許しください。
コウが別れのあいさつをするために市中を回っている頃
融和派の各所に女王様からのコウの処罰に関する通知が、各々が届き慌ただしい動きを見せていた。
◆ギラフェット家の場合
当主ボルティスと第1王子のレオンはともに戦場に赴いていたため、連絡は代理である第2王女ルルカが受け取った。
内容を知りルルカは慌てる。
普段ならばコウのポイントを稼ぐためにとすぐに動き出すところだが、今は当主代行という立場でありうかつな真似はできない。
至急アイリーシア家に連絡を取りつつ、今後の対応について有力者を集めて協議を始めた。
「なんとかならないの?このままじゃ彼がこの連合から出て行ってしまいます」
ルルカの訴えにも周囲の者たちの反応は鈍い。
ボルティスや相談役のルルフェリもいない中、コウの才能の話を不確かなまま持ち上げるわけにもいかず、ルルカは材料のないまま周囲を説得しようと奮闘する。
「ここで事を荒立てるべきではないと思います」
「女王様の罰も妥当な範囲、あまり出しゃばりすぎると余計な軋轢を生みかねないかと」
「けど、同じ一門の仲間よ。このまま傍観するわけにはいかないじゃない」
「やむを得ない場合もあります。ここは耐え、ボルティス様やクエス様が戻られてから動いても遅くはないかと」
「それでは遅い場合もあるわ。一門のメンバーを守るのが当主家たる私たちの役目じゃないの?」
「ですが今は……」
「さすがにこの状況では……」
消極的な意見ばかりが周りから出されるが、それらも決して的外れの意見ではない。
コウの才能という情報を出せない中、なかなか周囲を説得できずルルカは手をこまねいているしかなかった。
彼女はあくまで代理であり強権は振るえず、だからといって無責任に自分が動くことも出来ない。
妹でコウと親しいルーチェを同行させるという案も考えたが、それも周囲に反対されてしまう。
そもそもこれ以上ルーチェとコウを仲良くさせたくないので、反対されたルルカは少しだけ安心した。
結局はコウがまだ世間的には準貴族であることが効いている。
準貴族は支配者層にとって、事と次第によってはお荷物扱いされることもある。
既にコウは貴族だが、公表していない以上、それを説得材料にするにはあと半日では時間が足りなかった。
なかなか良い手が見つからない中、アイリーシア家から連絡が来た。
ひとまずコウをアイリーシア家で匿うことにするとのことだった。
「ルルカ様、アイリーシア家がそう動くのでしたら、われわれは事の成り行きを見守りつつ、アイリーシア家をサポートする側に回ればよろしいかと」
ボルティスの影響でルールを重んじるものも多いからか、この件で積極的に動きたがるものがルルカしかおらず
彼女は苦々しく思いながらもその案を受け入れるしかできなかった。
嫌な予感がしながらも、ルルカは祈ることしかできなかった。
◆レンディアート家の場合
同じ融和のレンディアート家当主、リリスにも同じ内容のものが女王から届く。
通知書を確認しテーブルの上に置くと、リリスは少し考えこんだ。
「んー、どうしようかしら…彼は確か、クエスの弟子だったわよね?」
「ええ、そうです。しかし彼も…かなり無茶するもんだね。
女王様やルルー様にケンカを売るなんて、さすがの俺でもやらないのに。さすがはクエス様の弟子だ」
リリスと話しているのは、レンディアート家の総指揮官を務めているユリオンだ。
軽い口調で話しているが、リリスの周囲は大体いつもこんな軽い調子で話し合いが行われている。
当主であるリリスが堅苦しい雰囲気を嫌うからだ。
なのでボルティスとリリスはあまり話が合わない。決して仲が悪いわけではないのだが。
「あら、ユリオンは冷たいのね。以前魔物討伐で一緒した仲だったんじゃないの?」
「いやいや、確かに一緒に戦いましたが別部隊ですよ。多分向こうも覚えているかどうかの薄い関係です。
それよりリリス様こそちょっと距離感ありませんか?同じ融和派ですよ」
「んー、そこはそうなんだけど、今は戦時で内部のごたごたには厳しいじゃない?
なら自分で蒔いた種くらい自分で対処して欲しいと思ったのよ。それに…後はクエスが何とかするでしょ」
「いや、一光様は今戦場なんですけどね」
それを聞きリリスは少し困った顔をする。
それを見たユリオンは俺に振らないでくださいと言わんばかりに、困った顔で返した。
「こちらから動くのはちょっと難しいわね。次期女王の選定、ここでトラブル興しちゃうと融和派から出す予定がパーになっちゃうでしょ?
そこまでして彼を助ける価値があるのかしら?」
「それを私に問わないでくださいよ。それは当主様のお仕事ですから」
「それもそうね。じゃ、ギラフェット家一門から何か連絡が来たら教えてちょうだい。その時には動きましょ。
下手に動いてクエスに恨まれちゃったら骨折り損になるだし」
「了解しました。少し薄情かもしれませんが、ここは傍観しておきますね。
あと、メルティアールル家から何か言って来たら、さすがに動いてくださいね。一光様と三光様両方に恨みを買われたんじゃ、俺の身が持ちませんよ」
冗談なのか本気なのか、軽い調子でユリオンはリリスに告げた。
それを見てリリスは軽く笑って済ませる。
彼らは仲間を守る意識が強く仲間と認識していればこういった軽い対応では済ませなかったかもしれない。
だが、コウはクエスたちによって隠匿されていたこともあり、融和派の仲間内では存在感がなく
彼らが苦労してまで動く価値があるとは判断されなかった。
レンディアート一門であるメルティアールル家から救援要請が来ればまた対応が違ったかもしれないが
今は内向きで無用な混乱を起こさないようにとメルティアールル家も動かなかったため、救援には余計に否定的な方に傾くことになった。
◆テレダインス家の場合
テレダインス家にも女王からの通知書が届いた。
もちろんコウを解任し、連合から追放する旨を記したものだ。
それを見て不在のオーギス国王に変わり代理を務めていた王女のパーミラは思わず目を疑った。
1月ほど前にはコウを首都オクロイに呼んで、後1年半ほど統治を任せると決まったばかりである。
彼女はコウのことをかなり買っており、父であるオーギスに彼を配下にしてはどうかと言ったのも彼女であった。
それが本日付で突然の解任となり、ポトフ王子が後を引き継ぐことになっている。
しかも自国のことなのに、自分の頭を飛び越えて一門の当主であるルルー様が賛同している。
見方によっては、これはルルーからの強い指示と言えなくもない。
何か陰謀の臭いを感じたパーミラは、コウが去った際に都市長になるポトフ王子を呼び出した。
同じ兄弟とはいえパーミラは継承2位、ポトフは4位であり立場がかなり違う。
「ポトフ、この件まさかあなたが絡んではいないでしょうね?」
「パーミラ姉さん、いきなり何のことだい?」
ポトフはパーミラにコウがエクストリムの都市長から解任され国外追放されると書かれた通知書を見せられる。
「へぇ…ということは俺が都市長に返り咲けるってわけだ。なんで俺を疑うのかは知らないけど俺は関わっていないよ」
「あなた、裏でエクストリムの貴族たちと何やらこそこそ動いていたでしょ。バレてないとでも思ってた?
今まで何もなかったらお父様も放置していたけど…」
「いやいや、こいつが勝手にヘマっただけで俺のせいにしないでくれるかな。
それよりも思ったより早く都市長に返り咲けるなんて、なんてうれしい知らせだ。連絡ありがとう」
どこか予定通りという雰囲気を感じさせるポトフに、パーミラはかなり疑問を覚えるが
一門の当主であるルルー様が認めているので、確たる証拠がなければ動きようがなかった。
しかも通知書では、コウの罪が『女王様と当主への暴言、都市エクストリムでの不法行為』とだけ記してあり
不法行為の中身は明確には記されておらず、女王様などへの暴言とも記されているため、ポトフだけに問題があったとは思えない。
問いただすにもルルー様に尋ねなければいけないが、代理をやっているパーミラはあまりルルーに面識がなかった。
知っているのはせいぜい押しの強い人、というくらいである。
下手に動けば自分の王位継承レースにマイナスになることから、この問題は父である国王が帰ってきてから対応することにせざるを得ない。
「今は…ポトフがやらかしていないことを信じるしかないわ。やらかしていたら罰則があるのよ…あの子、わかっているのよね」
明日から都市長に返り咲けるとうれしそうに去っていくポトフを、パーミラは黙ってみているしかできなかった。
お読みいただきありがとうございます。
感想でいただいたご指摘の件、加筆修正中となります。対応が終わり次第活動報告にて詳しく連絡します。
今回はその加筆部分で独立させてもよさそうな部分を抜き出して1話にしました。
スケジュールが間に合わず申し訳ありません。次話こそはシーラの日記、そしてその次が6章となる予定です。
次更新は8/26(水)の予定です。
では。




