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異世界からのスカウト ~光と闇の狭間に立つ英雄~  作者: 城下雪美
5章 貴族への階段(190話~255話)
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絶好調時の落とし穴2

ここまでのあらすじ


国王オーギスに結果を認められ、絶好調なコウ。

だが、その裏でコウをはめる準備が着々と進められていた。

◆◇◆◇



報告会から約1月、エクストリムの都市長の座をあと1年半任された俺は順調な日々を送っていた。

反対派は完全になりを潜めてしまい、貴族たちは表面上従順に協力してくれる。


彼らもここ1年半は我慢のし時なのだとやっと理解してくれたようだ。

割り切ってからの彼らの対応は早かった。


自分たちの資産を稼ぐためだとは思うが、魔石の生産に対して急に協力的になってくれた。

おかげで魔石の生産効率はさらに上がっており、彼らもその分収入が増えて喜んでいる。もちろん、都市の収入もだ。


最初からそうしていればお互いwin-winだっただろうにと思ったが、まぁ貴族には貴族の立場やプライドというものがあるので仕方ないのかもしれない。



今進めているプロジェクトで大きいものは4つだ。


1つ目は鉄鉱山の権限を譲り受けたことから都市長権限で自由に動かせるようになったので、フルーツの缶詰なんかを作ろうと考えている。


今は投資コストと回収が釣り合うかどうかを、いくつかのパターンに分けてメイネアス達に計算してもらっているが

メイネアス達が結構渋い顔をしていたので厳しいのかもしれない。


製鉄や加工に結構な初期コストが必要となるので当然と言えば当然だろう。

戦時なので使えるかなと思ったが、もう少し練り上げないとプロジェクトとして立ち上げるのも厳しそうだ。


2つ目は魔石生産の効率化だ。時間が経つにつれて徐々に効率化はできているが、その分今まで見えてなかった必要なものがわかってきた。


運搬ベルトや整理するための容れ物といった道具が足りていない分を補充するだけでなく、魔石の分け方もより細かいほうがいいことがバブルスマイル社の指摘により判明した。

それにより新規の倉庫が必要になっている。


これは結構簡単にできそうなことだが、改良すればまたこれが欲しいという要望が出たりもする。

どこまでが必要なのかはきっちりと見分けなければならないだろう。

あまり要望を出しまくると、メイネアスの小言を聞くことになりそうだし……。


3つ目はうちの都市の魔石事業と並ぶもう一つの収入の柱、バブルスマイル社だ。


ここは市民が経営している商社になるのでこちらからは何もすることが無いように思えるが、相手の都市と些細なトラブルが起きた場合には

こちらの貴族が出張って対応した方が事の解決が早くなる。


大事な稼ぎ頭なので、協力していける部分は協力したいと思っているんだが…メルボンドはこの意見に頭を悩ませている。

さすがに都市長である俺が仲介役に行くわけにもいかないので、誰が話術の長けた者でやってくれる貴族がいればいいんだが……。


4つ目は主産業の1つである農業で今、治癒の実を作ろうという試みを始めている。


治癒の実というのは光メロンに代表されるような、食べると魔力回復や回復促進の効果のある果物のことだ。

連合内にあるいくつかの家では非常に高価な治癒の実を作っており、これがなかなかのお金になるそうだ。


出来のいいものだと数万ルピは軽くいくらしいので、ぜひうちでも作りたいと俺が提案した。

もちろん、これも担当のネネミができるわけないと猛反対したが、開発が副次的な効果を生むこともあるということで協議中となっている。


農業が強いメルティアールル家出身のシーラも、さすがに治癒の実に関しては何の情報もないらしい。

より価値の高い作物を育てることは利益にもつながると思うので、ぜひ進めてみたいのだが…


現状、手探り状態で完成が見えないことから、俺がいなくなった後も続けられるような小規模の開発で進めることになりそうだ。


「ふぅ、こう見るとここから更に収益を上げ、都市を発展させるのは難しいな。特に労働人口がほぼ頭打ちに近いのが一番痛い。

 ゲームだったらどこからともなく人がやってきて人口がほいほい増えるのだが…現実ではそうもいかないか」


働き手が頭打ちとなると、やるべきことは効率化や高品質化だ。

メルボンドたちやテレダインス家の貴族たちにもアイデアを出して貰ったが、多くが労働人口が足りないということで没になったのは痛い。


住宅がほぼ出来上がれば労働人口も余ってくるが…それは俺の任期が終わった後になりそうなので

せっかく出してもらったアイデアは、その後に使うことにしている。


後任となるポトフ王子がちゃんと引き継いで彼らのアイデアを使ってくれるかはわからないが、まぁ何も残さないよりはましだろう。


「師匠♪」

「お、マナか。すまんな、もう少しすればまた仕事の手伝いに行くから」


「大丈夫?机仕事は肩とか疲れちゃうでしょ?」


今日は朝食後から資料のまとめがあったので、マナは俺と一緒に執務室にいる。

マナは動き回るのが好きだからこうやって部屋に閉じ込めておくのは悪い気がするが、護衛である以上こればかりは我慢してもらうしかない。


不意にマナの存在を意識すると、こんなに可愛い子と2人っきりでいられることが幸せだなと思ってつい顔がほころぶ。


「あーっ、またシーラのことを考えたでしょ?ちゃんと仕事に集中しないとだめだよー」


「いやいや、マナのことを考えてたんだって」


「ふーん…本当?」


「さぁ仕事、仕事。やることはいっぱいだからな」


ちょっと油断するとすぐにマナの魅力に引き込まれそうになる。

時々スイッチが入ったかのように怖くなることがあるけど、それも大抵は俺のためだったりする。


こうやって俺が活躍することはマナにとってもうれしい事のようなので、彼女のためにも俺は頑張らなきゃいけない。

そう思って気を取り直して仕事を進めていると、執務室にシーラが慌てて入ってきた。


「し、師匠!」


息を切らして入ってきたので、俺は何事かと驚いた。

シーラは普段から落ち着いていてどことなく品を感じさせる女性なので、こんなに慌てていることは珍しい。


「どうした、何があったんだ?」


書類の束を脇に寄せ、メモ紙を念のため用意する。


「はぁ、はぁ、実は…師匠にルーデンリア光国から呼び出しがあったのです」


「えっ!?ルーデンリアから?」


最初に思ったことが、俺とルーデンリア光国のお偉いさんに全く接点ないぞ、ってことくらいだった。

確かに一時期ルーデンリア光国内にあるアイリーシア家の占有地に住んでいたが、女王やその配下のお偉いさんたちと会ったことはない。


面識あると言えばせいぜい1度やってきた当主様たちくらいだが、大して話をした記憶もないしもう2年ほど前のことになる。


「もしかして師匠達に何かあったとか?」


「あ……、あり得るかも。で、でも、それならば今頃大騒ぎになっているはずです。とにかく至急来るようにとのことですので、早めに向かわれた方がいいと思います」


仕方がないので書類はそのままにして立ち上がり服を一瞬で着替える。

ルーデンリア光国に行くのなら、さすがにそれなりの正装じゃないとまずい。


「ひょっとしてこの間のオーギス様への収支報告が女王様の耳にも届いたとか?それで褒めてつかわす!って感じかも」


俺の座る椅子の背後から嬉しそうにマナが話しかけてくる。


「いや…さすがにそれで急な呼び出しはないだろう。やるとしても任期が終わった後だと思うし」


一瞬それだといいなと思ったが、普通そんなお祝い事を急な呼び出しでやることはない。

特に師匠達がいない場で俺を祝ったところであまり意味があるとは思えない。俺はそんなに偉い立場じゃないからな。


前向きなマナのお気楽さを少しは見習わないとなと思いつつ、俺は気を引き締める。

出来れば師匠たちの不幸ではないことを祈りながら。


「あ、師匠。それと1人で来るようにと記してありますので…私たちはここで帰りを待っています。すみません」


「いや、シーラが謝ることじゃないって」


「えー、私も行きたかったのに」


「マナは…行ってどうするつもりだったんだよ…」


「いや、私は護衛だし」


「あぁ…だが今回はしょうがないさ。まぁ、話を聞いてからすぐに戻ってくるよ。戦争に向けて魔石の増産とかそういった話ならいいんだけど…

 とりあえず何があっても対応できるように気持ちだけは準備しておいてくれ。じゃ、行ってくるよ」


話が聞こえていたのかエニメットも出てきて、行ってらっしゃいませと頭を下げる。

俺は3人に見送られながら部屋を出て転移門でルーデンリア光国へと飛んだ。



◆◇◆◇



コウの所に呼び出しの知らせが来る1時間程前、早朝。

当主であるルルー・エレファシナはアイリーシア家を訪ねていた。


他一門の当主の来訪に、アイリー城内は一気に慌ただしくなる。


「こんな早朝に悪いわね。今のこの国の家長代理に会わせて欲しいのよ。コウ・アイリーシアの件で緊急の案件だと伝えてもらえないかしら?」


護衛すら連れず、転移門を使って当主が単独てやってきたことに兵士たちは緊急性を感じた。

もしやミント様やクエス様に何かあったのではないかと思いつつ、コウという聞きなれない名前に兵士たちは疑問を覚える。


「ひとまず来賓室までご案内いたします。すぐに家長代理であるメイア様にご連絡いたしますので」


兵士たちは護衛に4名を付けて、ルルーを来賓室まで案内した。

それと同時に兵士たちは緊急案件としてルルー様が来訪されたことを、一門のトップであるギラフェット家とアイリーシア家の守護家となっているフィラビット家に連絡する。


クエスとミントという2人の強力な使い手と特殊部隊が出払っている今、アイリーシア家は他の下級貴族にすら劣るくらいの力しか持ち合わせていない。


そもそもこうやって他一門の当主が直々にやってくること自体、異例でありマナー違反だ。

普通はトップ同士が話し合って、一門のトップから情報が来ることが普通である。

他一門の当主が来ればそれだけでかなりの威圧になるため、一門同士の軋轢を生みかねない。


家長代理を行っていたメイア・アイリーシアは、ルルーの来訪を聞き慌てて身を整え来賓室へと向かった。

普通は家長のいる応接室や王の間にやってきた客を呼び出すものだが、相手が当主ともなればそうはいかない。

だからこそ当主の突然の訪問はタブーなのだが、緊急ともなれば文句を言っている暇はなかった。


扉を開け、メイアはルルーの待つ来賓室に入り頭を下げる。

他一門の当主に会う機会などめったにない。

メイアは緊張しながらも深く頭を下げた。


「突然早朝から悪かったわね。コウのことで緊急の連絡があってやってきたの」


「お話を伺ってもよろしいでしょうか」


「えぇ、いいわよ」


ルルーの同意を得てメイアはルルーの正面へと座る。

正直かなり緊張して心臓が大きく鳴っていたが、家長代理としての務めをしっかりとこなすためメイアは腰をかけるとルルーをしっかりと見た。


コウのことはアイリーシア家内でもあまり知られていない。

先日貴族への昇格式を行ったがその直前に彼の名を知らされた者が多く、彼が家の中でどういう立場なのか知る者は少ない。

皆、国を再興し盛り立てているクエスやミントの方針に異議を挟まないため、コウのことはよく知らないが、アイリーシア家に貴族が増えることはいいことだくらいにしか思っていない。


だがメイアはクエスからある程度話を聞いていた。

彼はクエスの弟子であり、クエスとミントの秘かな計画に力を貸していた人物と聞かされている。


その計画の詳細は聞かされていないが、それを語るミントの表情を見てある程度重要な計画なのだと察していた。

ならば、そのコウのことで緊急連絡ともなれば、知らないふりはできない。


メイアがまっすぐルルーを見つめてくるのを見て、ルルーはアイリーシア家の強気の精神がここにも表れているのを感じた。


「はぁ…まぁいいわ。コウのことなんだけど、彼は今何をやっているか知っているかしら?」


「はい、コウは今、テレダインス家の所有するエクストリムという他都市の都市長として腕を振るっております。先日それで功績を立てたと表彰されていました」


コウが貴族になったことはまだ非公表なので、表象という形で言葉を濁す。

その表彰という言葉を聞き、ルルーは少し顔をしかめた。

そのあと少し間をおいてルルーが話し始める。


「実はそのコウが、エクストリムで結構な問題を起こしているのよ」


「えっ、問題ですか…」


こちらが詳細を語らないことに少し疑問を覚えたが、アイリーシア家の者が他都市で問題を起こしたとなれば傍観するわけにはいかない。

アイリーシア家としてもすぐに事情を聞きに行くと言おうとしたとき、それを遮るようにルルーが話し始めた。


「今は戦時中、アイリーシア家とテレダインス家の両家で話し合い、まとまりがつかず事が大きくなれば問題になるわ。

 コウの身柄は今テレダインス家にあるわけでしょ。向こうもここも肝心の当主がいないのだから、私と女王様で処罰の内容を決めようかと思っているんだけど…どう?」


「うーん……」


メイアはその提案に同意していいかどうか悩んだ。

ルルーはクエスと仲が悪いことくらい知っているが、こんな状況でそんな感情を持ち出して裁けば当主失格である。

女王様も参加するのなら、そういう点ではある程度公平さが担保されてると言ってもいい。


それに女王様が出て来て中立的にさばいてくれるのであれば、テレダインス家とのごたごたを確実に回避できる。

提案自体はそんなに悪いものではなかった。


が、厳しく裁かれてしまうのであればクエスが怒りかねないという懸念もある。

ならばある程度メイアも状況を把握しておき、裁定が厳しくなり過ぎないように手を打つ必要があった。


「ルルー様、コウはクエス様の大事な弟子です。できれば裁かれる場に私も同席させていただけないでしょうか?」


「悪いけど、その行為は女王様への謁見とも取れるので、代理のあなたでは同席を了承できないわ。それにテレダインス家側も出席しないことで了承している。

 女王様の仲裁規定はあなたも知っているでしょう?状況が状況なだけに、ちゃんと穏便に済ませるわよ」


「ですが…彼は我が家の大事な魔法使いです」


メイアが強く訴えるが、それに対抗するかのようにルルーの表情が厳しくなる。

ルルーの圧に、これ以上強く出ることが逆にコウに対する罰に影響しないか、アイリーシア家全体を巻きこみかねないかという心配が生まれた。


「まぁ、女王様からの処罰が決まれば…あとは好きにしなさい。それまでは彼の身はこちらで預かるわ。

 牢に入れたり処刑することは避けるわよ。それでいいでしょ」


「んん……」


ルルーの干渉など認めないという態度に、メイアはそれ以上踏み込めない。

だがその後は好きにということなので、アイリーシア家で保護することも可能な言い方だった。


ルーデンリアの牢に入れないという言質が取れたので、一定の条件を勝ち取ったと言えなくない。

メイアはこれで妥協せざるを得なかった。


「じゃ、私はこれから女王様と共にコウを待つことにするわ」


伝えるだけは伝えたと言わんばかりにルルーはそうそうとこの部屋を立ち去る。

メイアはすぐにこのことを情報共有すべく周囲の者たちに先ほどまでのことを伝え、ギラフェット家とフィラビット家に連絡をするよう指示した。

【修正履歴】

20/08/24 大幅な内容の追加、話の区切りの変更



今話も読んでいただきありがとうございます。

ここで250話!結構な量になってきました。


誤字脱字等ありましたら、ご指摘してもらえるとうれしいです。

ブクマや感想なども大歓迎です!時間がありましたら、頂けるとうれしいです。


次話は、8/8(土)更新予定です。

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