表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界からのスカウト ~光と闇の狭間に立つ英雄~  作者: 城下雪美
5章 貴族への階段(190話~255話)
248/483

大戦の始まり8

ここまでのあらすじ


クエスたちはブレンビバークでの防衛線に勝利した。

勝利に浮かれながらも今後の対策を検討するために女王へと連絡をつなぐ。


しばらくすると兵士たちが慌てた表情でラーチスに話しかけ、バカスたちに何も言うことなくモニターを起動させる。

向こう側は当主たちと女王が集まる最高会議の場が映し出され、こちらにいるバカス・クエス・ボサツ以外の全メンバーが揃っていた。

女王1人がモニターに出てくるかと思っていたクエスたちは、ただならぬ状況にすぐに席に座り真剣な表情になる。


クエスたちが先ほどの最高会議の場から出立したのは、もうかれこれ8時間以上前のことになる。

当主も女王も忙しい身なので、あの時から今までずっと会議が開かれていたとは考えられない。

つまり召集されるだけの何かがあったということだった。


「ちょうどいいところに連絡が来たわ。情報だけは届いていたけど…どうやらそちらは無事のようね」


女王の登場にバカスたち3名以外は緊張した表情でほとんど固まっていた。

モニター越しとはいえ直接目にすること自体不敬ではないかと考えた一部の者は、微妙に視線を落として敬意を表している。

そんな中、バカスは格の違いを見せつけるかのように、身振り手振りを交えながら気楽答えた。


「あぁ、こっちは無事だ。クエスのところの例の特殊部隊が派手にやってくれたからな。おかげでこっちは楽出来た分緊張感が足らないくらいだ」


モニターの向こうの女王に、バカスは自慢するかのように語る。

心なしか女王が笑顔を見せた。


「えぇ、聞いているわ。クエス、ご苦労だったわね。そう言えばその立役者のミントが見えないようだけど?」


「妹は今、魔力を急激に消費したショックで休養中です。ですが、明日には戦場に出られるまで回復すると思います」


クエスの言葉に女王は安心する。

それだけのことをやってのける貴重な人材が早々に長期退場されてはかなわないからだ。


光の連合の戦い方は実力者を主軸にして戦わせ、その周囲にいる兵士は実力者を守る盾と周囲の削りが仕事となる。

実力者の質と数で闇の兵士を圧倒しながらどんどん削り倒し、魔力が少なくなったり傷を負った時には兵士たちが盾となりながら退くのが王道パターンだ。


そうやって実力者を使い倒す戦法が一番良いとされているので、彼らは長期退場にならないようほどほどに行動することが良しとされる。


「それで一体どうした。俺たちが馬鹿勝ちしたからって、いちいち会議を開くほど全員暇じゃねぇはずだが?」

「ええ、そうね…」


それだけ答えると女王は周りを見る。

二光であるグン・メルキュアリと目が合うと、彼は黙ってうなずいた。


「皆には何も言わず指示したから知らないでしょうけど、グンには闇の国との境界近くにある別の都市フェイタルシムに行ってもらったのよ。

 敵兵は見られなかったけど、念のためにってね。それが1時間前に壊滅したわ」


「壊滅だって?まさか…都市ごとか?」


「えぇ、都市ごとね」

そう言って女王はグンの方を見る。


グンは一度目を閉じ悔しさをかみしめてから、ゆっくりと目を開けて話し始めた。


「念のためということで私が女王様の命を受け、8時間ほど前にルーデンリアの誇る光の翼第7部隊を率いてフェイタルシムの防衛に参加した。

 しばらくは何もなかったのだが、3時間ほど前に突然闇の軍が現れて為す術もなく都市が呑まれてしまった。

 一光と三光の2人には…本当に謝罪の言葉もない。俺のせいで光の守護者の名を汚してしまった…」


最後は力なくうつむいた状態で謝罪を述べるグン・メルキュアリ。

光の守護者である3名は、この連合においていざという時の切り札として認識されている。

一光がいる、というだけで兵士の士気が上がるほど戦場での信頼は厚い。


そんな彼が守る都市がたった数時間で壊滅したともなれば、守護者としての信頼が揺らぐのも無理はなかった。

うつむいたまま顔を上げられないグンに向かってボサツとクエスが声をかける。


「グン、よく無事で戻ってきました。命があればまたあなたの力で敵を減らせます。今は回復に努めてください」


「気にしないことよ、グン。私たちは無敵じゃない。何もかも守れるだなんて幻想でしかないわ。

 特にあなたのことだから、最後まで前線で頑張ろうとして戦っていたところを現場の指揮官に戻るよう言われたのでしょう?

 それよりも相手の情報をしっかりと持って帰ってきたのなら、十分な功績よ」


普段は衝突しているボサツたちに励まされて、グンは涙を必死にこらえながら体を震わせる。


「情報は…伝えてあります」

絞りだしたかのような声に、彼の耐え難い悔しさがにじみ出ていた。


女王が席を立ち、グンの肩の上にそっと手を置くと彼の体の震えが止まる。

そのまま自分の席の近くへと戻った女王は立ったまま話しを続けた。


「報告によると3時間ほど前、ちょうどあなたたちが作戦を実行し勝ちが見えた頃になるかしら。

 突如としてフェイタルシムの眼前に、闇の軍が4万ほど現れて一斉に攻撃を仕掛けてきたわ。援軍と主力を吐き出した後ですぐに追加の援軍を編制できず

 グンをはじめ既存の防衛部隊が必死の抵抗を見せたけど、初動の遅れも相まって2時間もしないうちに外壁の一部が破壊されたそうよ」


外壁の破壊、それは防衛戦においてその都市の終わりを意味する。

よほど相手が疲弊した状態でやっとのこと外壁を破壊したのならまだ戦えるが、ものの数時間で破壊されたとなればそこから逆転するのはほぼ無理に近い。


「それが運悪くドーム状の魔法障壁を起動させている柱部分まで破壊されたので、闇の矢が一気に都市内まで降りかかり、完全に数に押された形になったのよ。

 しばらくは奮戦したものの、第7部隊の生き残りとグンは大型転移門で撤退。2か所ともクエス式を採用していたので、連続稼働により派遣されていた他国の兵士も無事な者たちはほぼ戻ってきているわ。

 そして20分ほど前、最後まで残っていた小型転移門の移動完了後、全ての転移門との連絡が取れなくなる。こっちにある情報は以上よ」


「…完全に落ちたのか」


いざという時は転移門をすべて破壊するような仕組みが各都市にはある。

闇の国の兵士たちが簡単に流用できないよう光属性に苦しむ者は転移させないような仕組みがあるとはいえ

各種情報が向こうに流れるのを防ぐために、都市が危機にさらされた場合は転移門をすべて破壊するようになっている。


これは退却よりも重要なことであり、残された兵士たちにとって最後の最も重要な仕事になる。


「少し質問をします。フェイタルシムは境界に近い都市とはいえ、闇側の都市からかなり離れていたはずです。

 それにここ20年以上敵の気配は見られなかったとはいえ、境界付近にはいくつもの連絡所が建てられていたはずです。

 急遽敵が現れたというのはいったいどうなっているのです?」


「今となっては検証不可能だけど、連絡ができないよう上手く叩かれたのだと推定しているわ。

 すでに闇との境界に接する都市には急ぎ警戒態勢を強化するよう連絡は回してあるので同じ轍を踏むつもりはないけど」


ボサツの問いに答える女王も少し悔しそうにしていた。


「なんだ?つまり俺たちは釣られたということなのか?主力を別のところに派遣した隙に他の都市を叩いたと?」


「まぁ、そういうことになるねぇ…」


シザーズがやるせなく答えると、クエスがその会話に割って入る。


「ちょっと待って。後で映像を送るけど、こっちにも奥に援軍がいたことが分かっているわ。となれば2段構えだったとも言えるわよ。

 こっちに少ししか守りを派遣しなかったら、別の場所でさらに援軍を釣り出してこっちを叩く。そうなればここが落ちていた可能性も高いわ」


「なるほど。しかもクエスの情報網にもかからないようかなり慎重に大規模な準備を進めていた。これはいよいよ向こうも本気になったようね」


都市が1つ落とされた情報が伝わり、先ほどまでの明るい雰囲気が一気に重くなる。

そしてクエスたちがいるこのブレンビバーグも、またいつ襲撃を受けるかわからない状況だということが、誰も言葉にせずとも皆わかっていた。


「悪いんだけど、クエスとボサツはそこで敵を食い止めてもらえないかしら。少なくともそこには2万の敵が目の前にいるんだし、支えとなる主力は必要よ」


クエスはそれを聞き不機嫌そうな顔をしたが、現在の状況を見る限り拒否するわけにもいかない。


「…了解しました。けど、私も外せない私用があるので、そのときは連絡付きで移動させてください。出来るだけすぐに戻りますから。

 それとボサツは他の都市に回した方がいいと思います。ここに多くの主力を釘付けにしておいてまた他の都市を叩かれてはかないません」


クエスの提案にモニターの向こう側では話し合いが始まる。

確かに光の守護者を各所に配置した方が急襲に対しても時間を稼げるかもしれないが、戦場に身を置いてさえいれば転移門ですぐに移動できる。

目の前に敵がいる上に最も闇に近い都市であるここに、ある程度の戦力を置いておくのも悪くはない。


ある程度話がまとまったのか、ボサツが所属する一門の当主、リリス・レンディアートが提案する。


「こちらとしては、2人にそこに残ってもらった方が助かるのよ。一番厳しい場所だから。

 援軍を派遣するにしても、あなたたち2人の名は安心感という意味では絶大だから」


彼女の説明に他の当主たちも一様にうなずいていた。


「そういうことで2人にはそこの守護を命じるわ。悪いけど、一番頼れるのはあなたたちなのよ」


「…わかりました」

「了解です」


女王のダメ押しに2人は了承する。

実際、ここブレンビバークは今一番危険な都市である。


有名な光の守護者2人がいるとなれば派遣が決まった兵士たちもまだ素直に従うが、その精神的支柱がいない場合、完全に死にに行くだけだと騒ぎ立てる者も出かねない。

そういった事情もあり、光の連合最強の2人がここにいてもらった方が助かるのだ。


暗い雰囲気で終わるのはどうかと思ったのか、女王は話を変える。


「そういえば、アイリーシア部隊は4千ほどの敵を屠ったらしいわね。あなたたちには本当に驚かされるわ」


「妹のミントがかなり頑張ってくれたおかげです。護衛の兵士たちも日々努力していましたから。

 ただ再建には1週間ほどかかりますので、今すぐ敵に動かれると厳しいものがあります」


「そんなにかかりそうなの?」


「申し訳ありませんが、それくらいは…それに向こうも次から対策はしてくるでしょうし、同じ成果は期待できません」


4千ほどを一気に殲滅したと聞いてかなり期待していたのだろう、女王は明らかに当てが外れてがっかりしている。

バカスに説明したし何度も説明するのが面倒なクエスは、ご理解くださいの一言で押し通した。



一通りの連絡を終え通信が切れると、クエスたちのいる会議室はさらに空気が悪くなる。

この戦いは敵が一過性の突撃をしてきて撃退したからはい終わり、ではなくこれが明らかに大戦の序章だったことが分かったからだ。

ならば、一度や二度敵を撃退したところで危機は簡単に去ってはくれない。


「バカスは子供たちを連れて戻っていなさいよ。あんた一応当主なんだから」


「ちょっと一光様!」


クエスがイラついた感情をバカスにぶつけるかのように発言したことで、バカスの娘であるルルンが失礼だと噛みつこうとしたが、すぐにバカスに止めに入る。

お互い思う所はあるが、仲間内で言い争っても誰も得をしない。


「よせ、ここで争ってる場合じゃない。クエス、悪いがここは頼んだぞ」


「ええ、バカスこそ間違っても死ぬんじゃないわよ」


息子のレックはクエスの行動が自分たちのことを思って悪役を買って出たのだと考え、深く頭を下げる。

それに対してクエスは別に感謝されることではないと、視線を逸らした。


若い者たちが経験を積んで立派になれば、この先の長い戦いにおいて光の連合の大きな力になる。

それはクエスにとっても得なことなので感謝される筋合いはない、というのがクエスの考え方だった。


「心配するな、お前のためにも死なん」


あまり緊張し過ぎた空気にならないようにと、バカスはしたり顔でそう言うと子供たちを連れて去っていく。


残されたクエスとボサツは、ここを指揮しているラーチスと共に守備配置の再検討や奇襲時の対策について話し合いを始める。

不足物資もすぐによこすよう一光の権限を振い怒鳴り散らしたことで、物資の問題においてはラーチスの肩の荷が下りた。


いくら前線が不足しているものを訴えてもすぐに補給されないことが多かったが、一光と三光が命令すれば即座に物資が送られてくる。

それだけ彼女たちは発言権があるのだ。

そして援軍も到着しカウンター用の作戦も何通りか用意して、防御一辺倒にならないよう万全の準備で敵の大群を迎え撃つ準備を整える。


ここはこれから最も多くの血が流れる場所、闇の都市に最も近く最も厳しい戦場になる都市、ブレンビバークだ。



◆◇◆◇◆◇

今話も読んでいただきありがとうございます。

これで大戦の始まりのお話は終わりです。次話はやっと主人公の番です。


誤字脱字がありましたらご指摘を、ブクマや感想もいただけるとうれしいです。

次話は8/2(日)更新となります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=977438531&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ