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異世界からのスカウト ~光と闇の狭間に立つ英雄~  作者: 城下雪美
5章 貴族への階段(190話~255話)
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貴族へ昇格1

ここまでのあらすじ


ついに闇の軍が攻勢に転じたこともあり、クエスたちはコウを貴族にしておくべく動き出す。


コウがエクストリムへと戻ってから1週間程が経過した。

翌日には傷も完治したことで安心感が広がり、コウのサポーターズはいつもの日常へと戻っていた。


エクストリムの貴族たちや市民たちもコウがようやく戻ってきたということで、都市全体に広がった微妙な空気も消えていき、いつもの日常へと戻っている。


コウ本人は朝から建築現場を手伝ったり、昼にはバブルスマイル社の様子を訪ねて話をしたりと

都市長らしくない雑務と都市長らしい仕事をごちゃまぜにしたようないつもの業務を続けていた。


そんないつもの朝、朝食会にコウがやってくる。


「おはよう」


「おはようございます」


会話がぴたりと止み、全員椅子から立ち上がってコウの方を見て礼をするいつもの光景を見ながらコウは席に着く。


朝食をある程度食べ、そろそろメルボンドから今日のスケジュールが発表される頃かなと思った時

普段は途中で開かれることのない食堂の扉が急に開かれた。


それと同時に薄緑色の髪を後ろで束ねた女性が入って来て、きょろきょろとテーブル席を見回す。


「おぉ、うちの家より貴族っぽいことやってるわね…コウ、ちょっといいかしら」


「んっ!?師匠…」


突然のクエスの乱入にコウは思わずどうすればいいのか戸惑った。

配下たちの面々がいる以上、自分はある程度立場を意識して振舞わないといけないが、クエスは偉い人だしそもそも尊敬する師匠でもあるので、一瞬どの立場のクエス様として扱えばいいか迷ってしまう。


当然朝食会に出席していた面々もいったい何事かと驚きつつ、都市長であるコウの反応を待つ。

こういう場合、部下である彼らが勝手に行動するのはできるだけ避けるべきだ。


ちなみに一部の者たちは、やってきた人物が一光様であることが分かり、驚きのあまりそのまま硬直していた。

そんな部屋全体の空気を無視するようにクエスは話を進める。


「ちょっと急で悪いんだけど、今日朝の予定は空いてる?」


間違いなく俺のことだろうなと思いながら、コウは立ち上がりメルボンドに尋ねた。


「メルボンド、今日の朝の予定は住宅建築の手伝いのままか?」

「はい」


もう落ち着きを取り戻していたメルボンドは、普段通りコウの質問に答える。


「午前中は空いてますよ、し…一光様」


師匠と言いかけてさすがにまずいと思ったコウは、ルーデンリア光国からの言伝の可能性を考えクエスを一光様と呼んだが

それにより彼女が一光様と知った貴族たちは思わず息をのんだ。

あの噂の一族殺し、連合最強の殺人兵器である一光が目の前にやってきたのである。


特にこの朝食会に出席していた反コウ派の人物たちは思わず息が止まりそうになる。

あの一光様が気軽に声をかける相手だとすれば、コウに反対してきた自分たちはこの場で処断されるのではないかと思ったのだ。


しかしクエスはそんな雑魚など相手にするつもりのないのか、視界に入れることなくコウと話を続ける。


「それはよかったわ。急で悪いんだけど、10時からアイリーシア家にきてちょうだい。商会の方に飛べばそこで案内役を待機させておくから」


「えっ、はっ、はい…。緊急の用事…ですか?」


「そりゃそうよ。じゃないとこんなタイミングで入ってこないわよ。じゃ、待ってるから。

 あっ、そうそう、メルボンドと弟子たちも連れてきなさい。昼までには終わるからそんな慌てなくても大丈夫よ」


「はっ…はぁ……」


言いたいことをさっさと述べるとクエスはすぐに部屋から出ていった。

それを見て外で扉を警備していた兵士たちは慌てて扉を閉める。


クエスはちょっと意地の悪いサプライズ演出のつもりだったが、朝食会は大混乱になった。

コウは思わずメルボンドに何か聞いていないか尋ねるが、当然メルボンドを始めサポーターズたちも何も聞いておらず首を横に振る。


マナとシーラもすぐにコウに何事か尋ねるが、コウも何も知らないので必死に知らないことをアピールしていた。


だが、コウ側の面々はまだいい。テレダインス家の面々たちはあの一光様が来たということで慌てふためきながら勝手な想像を始めていた。


今までコウはただアイリーシア家から変な奴が派遣されて来ただけだと考えられていたが、一光様がらみ、もしくはルーデンリア光国の女王様がらみではないかと憶測が憶測を呼ぶ。


特に反コウ派だったものたちは、まさかこれ以上反抗すると命はないという警告じゃないかと震え上がり、スプーンを持つ手さえ震えて満足に食事がとれない状態だ。


少し落ち着き、たぶんクエスのたちの悪いサプライズだろうと考えたコウはサポーターズたちに疲れた顔で説明するが

目の前のテレダインス家の者たちの惨状を見ると、なんてことをしてくれたんだと思わざるを得なかった。


もちろんクエスは、コウがいない間反対派が動くのではないかと聞いていたので

ちょっとした釘を差すことを兼ねてサプライズ登場したつもりだったが、あまりに効果がありすぎたのだ。


歯向かえば一族を滅ぼせる圧倒的な力で皆殺しにし、たとえ誰かの庇護を受けて隠れようとしても、貴族同士の決闘という手法で引きずり出して相手を殺す。

そう噂されている存在がいきなりやってくれば、自分が狙われるのではと考える者たちにとっては、常に命の危機を感じていなさいと言われたに等しい。


「まっ、まぁ…皆落ち着いてくれ。どうやらクエス様はただ伝言に来ただけのようだから」


困惑しながらもなんとか場を落ち着かせようとするコウだったが、とても落ち着ける状況ではない。

仕方がないのでサッサと食事を済ませて席を立つ。


「大丈夫だ、皆には何もしないよう俺からもお願いしておくから。俺がこうやって呼ばれたということは、当然この後会うだろうからな」


一応サポートしたつもりだったがテレダインス家の一部の面々にはあまり効果がないようだった。

そんな彼らを尻目にコウはマナとシーラとメルボンドを連れて退席する。


コウが退席すると、張り詰めた恐怖が爆発したのか、一部の貴族たちは慌てて食堂を出ていった。


そんな中、同じアイリーシア家の準貴族であるメイネアスはため息をつく。


「クエス様は…相変わらずです。本当に…」


いきなりやって来て嵐を起こしこの場をめちゃくちゃにしたクエスに対して、ただ呆れるしかなかった。




執務室へと戻ったコウたちはとりあえず準備をする。

といってもただアイリーシア家に来いと言われただけなので何をしていいのかわからないのだが。


「一応俺の本家だし…すぐに着替えられるように正装くらいはアイテムボックスに放り込んでおくか。

 あと、戦闘のため最低限の武器くらいは持っておいた方がいいかもな」


「私たちもそうしよっか」


「そうですね、急とはいえクエス様のご招待ですし…戦闘はないと思いますが念のため」


マナとシーラも仕方なく服や小物を用意するために部屋へと戻る。

だがメルボンドだけは余裕をもってコウの部屋にいた。


「メルボンドはいいのか?」


「はい。私も呼ばれるということは、多分この都市に関してのことだと思います。

 ならば、褒賞などが妥当かと思いますのでゆっくり構えておいてよろしいかと」


「まぁ、その可能性が一番高いとは思ったけど…クエス様だぞ?急に半日護衛の仕事とか言われても不思議じゃないと思うが」


一瞬笑ったメルボンドだったが、すぐにあり得ると思ったのか表情が曇る。


「そうですね…私は戦闘が得意ではありませんが…一応用意しておきます」


冗談半分で言った事だったが、メルボンドが本気にするのを見てコウもあり得るかもと思ってしまった。



10時前にアイリーシア商会へと飛ぶと、コウたちはそのまま首都アイリーにあるアイリー城へと案内された。

金持ち国家とやっかまれるだけあって、城は豪華な作りだ。


床は薄い黄色の光属性カラーに発光しており、壁は白く低い位置に銀色のラインが左右の1本ずつ引かれている。


廊下は他の城に比べると狭い。以前は広い通路も結構あったのだが、今は天井だけが高く横幅は4人が並んで通れるくらいの広さになっている。

そんな廊下を進み、来賓室へと通されしばらく待つように指示される。


「俺のここの家所属のはずなのに…考えてみるとこの城に来たの初めてだったわ。しかもなんかお客扱いだし、不思議な気分だ…」


「そんなこと言ったら私もだよ…まぁ、師匠のおかげでここの一員になれたんだけど」


マナを表の世界で保護する以上、どこかの貴族家に入れておかないとということで彼女はアイリーシア家所属となった。

もちろんコウがそれを望み、マナも了承した上での決定だったが


目立たせないために書類上で簡素に済ませたこともあって、マナもここに来るのが初めてになる。


「でも変なタイミングですよね?1年半の最初の報告会が終わった後に褒賞だったらわかるのですが」


ある程度の概算値が出ているとはいえ、今期の正式な税収の額はまだ出ていない。

シーラが疑問を呈すのも理解できるが、こうやって来賓室で待たされている以上今から護衛の仕事ってことはまずありえない。


「アイリーシア家側の都合じゃないかな?それかクエス師匠の質の悪いサプライズとか…」


「一光様相手にそこまで自由に発言できるのも、コウ様くらいでしょうね」


感心したのか、やんわりとした苦言なのか、メルボンドはコウの発言を指摘する。


「あっ、いや…師匠達とはなんか家族みたいに接してきたからつい…気を付けるよ」


「ですが、時と場合によってはそのまま自由な発言の方が良いかもしれません。それだけ一光様に近いという印象を与えられます」


「うーん、師匠の権力を笠に着て…ってのは分不相応な気がするし、痛い目を見そうだから出来るだけ気を付けておくよ」


コウらしい発言に周りの者たちが笑う。

と、その時来賓室の扉が開かれ1人の女性が入ってきた。


薄い緑の髪をした女性、その髪の色がアイリーシア家の特徴を濃く受け継いだ人物だと容易に想像させる。

彼女の名はメイア・アイリーシア。一度アイリーシア家が滅ぶ前から貴族だった数少ない人物である。


普段はアイリーシア商会で現場責任者をやっているが、今回はコウとの顔合わせもかねて応対係に就いていた。


「はじめまして、あなたがコウですね。私はメイア、これからはよろしくね」


「は、はい。はじめまして。コウ・アイリーシアです」


「とても優秀な方だとクエス様に聞いています」


「い、いえとんでもないです…まだまだ足りないところばかりで…」


コウが少し照れ気味なのが気に入らないのか、マナとシーラが両側からコウを突っつく。

それを見たメイアは少し笑うと話を切り替えた。


「それでは案内しますね。大広間に入るとコウは家長であるミント様の前へ、付き添いの3名様は端で見守る形となります」


そう言ってメイアはコウたちを大広間へと案内する。

言われるままに来たコウだったが、何のため来たのか直前になっても教えてもらえず、たまらず案内のメイアに尋ねた。


「えっと、今日は一体何の式典なんでしょうか?どうも聞いている限り俺に関わることみたいですけど…」


「えっ!?クエス様に聞いていないのですか?」


「は、はい…」


「えぇ~、クエス様何も言ってないんですか!?」


申し訳なさそうにコウがうなずくとメイアはかなり困った顔をして謝ってきた。


「本当にクエス様がすみません」


「いえ、いつものクエス師匠らしい行動ので…慣れてますから」


お互いに乾いた笑いをすることになり、すっかり緊張感のない雰囲気になってしまった。


「では、改めまして。本日はコウが貴族へと昇格する昇格式になります」


「えっ、俺が?俺が貴族ですか?」


本当に聞いていなかったのかと思いメイアは苦笑いするしかなかった。

ひとまず簡単な説明を受け、気持ちを切り替えコウたちは玉座の間へとたどり着く。



今話は4話連続更新の3話目になります。読んでいただき感謝です。

ちょっと急遽予定が入り、更新時間が遅くなり申し訳ありません。


誤字脱字の指摘、いつも感謝しております。ブクマいただけたりするとうれしいです。

では次話は明日の7/9(木)更新となります。


やはり毎日更新は大変だなと改めて思いました。

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