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異世界からのスカウト ~光と闇の狭間に立つ英雄~  作者: 城下雪美
2章 下級貴族:アイリーシア家の過去 (18話~46話)
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脱出へ 小庭での最後の攻防2

2章の脱出編はここで終わりになります。

次もまだ2章ですが、次からはちょっと時間が飛びます。


母エルミが氷の壁の向こう側で戦っている間、憔悴したエリスは座り込んでいて

クエスとミントは体を小さく丸め、この状況をじっと耐えしのぐだけだった。


「まだなの?まだなの?」

ミントは転移装置の起動に対してクエスをせかし続ける。


クエスは周囲のこと、特に氷の壁の向こう側が気になってミントの声が耳に入らなかった。

クエスは母が心配でずっと母の魔力を追っているが、だんだんと弱っていくのを感じる。

何とか母に力を貸したいと思うものの体が恐怖で動かない。結局クエスはミントと二人で転移装置の上に座り込むことしかできなかった。


エルミは兵士を次々へと減らしていっていたが、先ほどの<感情反転>の範囲に入っていなかった兵士たちが

通路から次々と小庭へやってきて氷の壁を攻撃し始める。


(まずい、このままでは壁がもたない)

エルミは何とか壁の破壊を遅らせようと必死に立ち回るが、倒しても倒しても次々とやってくる兵士たちを1人で全て裁くことなど到底出来なかった。


魔法で作り上げた光属性に強い盾の役目も果たす氷なので、言うほどもろい壁ではないのだが

10人、20人と増え続ける兵士たちの<光の槍>や<光一閃>を受け続けるとところどころひびが入り

次第に貫通するようになり穴があちらこちらに開いていく。

そして穴と穴の間にもひびが入り誰が見ても崩壊が近い状態になってきた。


すでに氷壁は持たないところまで来ていた。

厳しい状況の中、エリスは疲れ切って座り込んだままでも冷静に戦況を見ていた。

ここでさらに時間を稼ぐにはもう一手が必要。ついてきた近衛兵も母と同様に敵に突撃し既に死んでいる。


姉さんとミントの様子じゃこの場を持たせることもままならない。なら、私が行くしかない。

(姉さんは私を恨むよね。でもやむを得ないか。少しでも……少しでも確率を高くするには)


エリスは覚悟してふらふらと立ち上がり氷壁に向かって手をかざす。そしてあまり力のこもっていない声で魔法を発動させた。

「砕けろ!<氷砕弾>」


エリスの声とともに氷壁全体が細かく砕け尖った氷、大小のごつごつした氷が一斉にエルミと兵士たちがいる方へ勢いよく飛んでいく。

大きい氷の塊を受けた兵士らは壁にまで飛ばされ氷の塊と壁の間でつぶれて圧死する。

尖った氷を受けた兵士は氷が突き刺さったまま飛ばされ、壁に串刺しになる者もいた。


エルミは突然飛んできた氷の塊を見て「いい判断ね、さすが私の娘……」とつぶやきながら、自分に向かって飛んできた大きな氷の塊を切断するも

その後の小粒の氷を何度もくらい軽く飛ばされ地面にあおむけになる。


ベルグドも防御はしたものの無事では済まなかったらしく、数発氷の打撲痕を作り、先ほどエルミに切られた腕の切断面付近に尖った氷が刺さっていた。

それでもベルグドは執念で勝利へのあと一歩を踏み出す。


「はぁ、はぁ、まったく……あいつは後でたっぷりとお仕置きしないとな」


切断された腕に当てた光る布の隙間から血を垂らしながら、ベルグドはエリスに近づく。

転送装置を囲むシールドの入り口の前に立っているエリスは後ろを確認する。

転送装置はほぼ起動直前のはず……だがもう少しだけ時間を稼がなくてはならない。姉と妹だけは確実に逃がすためにも。


その隙をついてかベルグドは左手から<4光折>を放つ。

4つの光がエリスの左右に2本ずつ広がり前方45度の位置に来た時エリスめがけて屈折した。


後ろを確認したためか反応が遅れたエリスは頭に左側から飛んでくる1本だけを<光の盾>を重ね掛けして防ぐ。

後ろにいたクエスは慌てて<光の盾>をエリスの周囲に4つ展開するも右側の1本しか防げず、エリスの左足と右肩を貫く


「くぁ」

小さい声で苦しむ声を出すエリス。それを見て心がそそるベルグド


「お嬢様方、母上を残してどこかへ逃げられるのですか?それはあまりに酷いのでは?」


魔力の反応や装置の様子から転移装置と思われる中にいる怖がる2人の姉妹を見ながら笑みを浮かべ、苦しそうに息継ぎをしながらも勝利を確信するベルグド。

真赤に染まったエリスの服と白い肌を見つめて喜びを隠せないようだった。


「やっとエリスお嬢様も大人しくなったようで。皆様が素直に投降されれば国王様はお助けしますよ、我が名に懸けて」


エリスはこの状況が絶体絶命であることを悟る。

万全の状態なら追い返す程度のことはできたがもうほとんど切り札もない。


この状況で反応がないことから、先ほどの氷をまき散らしたのがエルミに当たったと推測される。

となれば、もう動ける状態ではないだろう。


しかも一番まずいのが後ろにいる姉と妹の反応だ。

ベルグドの「母を助ける」の一言に相当心が揺れている。

冷静に考えられるエリスには明らかに嘘だとわかる言葉でも、わずかな希望にでもすがり付きたい2人にはベルグドの言葉はとても甘く聞こえるのだろう。


このままでは終わりだ。

このまま動かないでいれば、姉か妹もしくは2人とも転移装置で逃げることなくベルグドに身を委ねてしまう。



この危機的状況に、エリスは冷静に覚悟を決めた。

私と母がいなくなればさすがに姉さんも迷わず転送装置を使って逃げるはずだ、と。

このまま投降を選んでしまうことこそが最悪のケースなのだから。


倒れていたエリスが血を流しながらもふらふらと起き上がる。

穴が開いた左足の太ももと右肩はすでに氷で塞いである。


「さすがねベルグド、もうお手上げ」

氷の心を解除して少し笑いながら、エリスはかつてはこの国の兵士を任されていた裏切り者の総隊長を褒める。


「やはり笑顔は素敵ですな……もう終わりにしましょう。決して悪いようにはしませんので」

苦しそうにしながらもベルグドも笑う。


ベルグドに諦めの言葉語りかけながらも、エリスはアイリーシア家のもう一つの家宝、氷の精獣を封印した青いペンダントに心の内で語りかける。


(あなたの力を貸して、今の私では実力が足りないけど……代わりに私の全てを捧げるわ)

精獣はエリスの心の中に答える

(未熟な氷の使い手よ、今のお前が我を使うというのなら、お前の全て…命も食らわせてもらうぞ)

(ええ、どうぞ)

エリスの迷いもない答えに精獣は少し寂しそうにする。


(ふん、アイリーシア家の氷使いに久々仕えられ思う存分動ける事を期待していたのに、氷の使い手はいつもこれだ。まぁいい。今回は特別に体だけ食らおう、精神は適当に放り出してやる)

(何でもいいわ、任せる)


そしてそのやり取りの直後

「姉さん、ごめん」


エリスは振り返り一筋の涙を流しながら転送装置の上にいるクエスとミントに力なく笑いかけた。

ベルグドはその様子を見てやっと降参したかという安堵と共に、目的の才能あふれる三姉妹を手に入れたと喜んだ。


が、それも束の間エリスの胸にある青いペンダントが強く光り転送装置の周辺から地面が凍り付きだし

次第にこの小庭の全体へと広がっていく。


「な、なんだ。おい、何をした」


慌てるベルグド。実際ベルグドも魔力と体力共にほとんど余裕のない状況なのだ。

この状況で強烈な一撃を食らえばベルグド自身生き残れるとは思っていない。


クエスとミントに背中を向けたまま、エリスは鞘に収まった家宝の氷の精霊武器を転送装置の上にいる二人に投げる。

「それ、預かっていてね。姉さん、ミント……」

かすかな涙声で別れを伝える。


最初は何がなんだかわからなかったクエスとミントは、エリスの表情と涙声でやっと状況を理解しエリスを止めようと

シールドの開いている部分から出ようとしたが

その前に出入り口は無情にも氷の壁で覆われた。


「うそ……やだ、いやだエリスお姉ちゃん。嘘だよね、嘘だよねぇ」

次第に半狂乱になって泣き叫ぶミント


「馬鹿、やめなさい。私も、私も戦うから」

今でも震えている手足に、自分の情けない心に怒りが沸き、その怒りを糧に意地でも力を入れ剣を取り出して入口の氷を叩き切ろうとする。

だが、氷は傷つくことなく甲高い金属音だけを残して剣をはじく。


「嘘、今のエリスにこんな氷を作り出す力は残っていないはずなのに……」


一度で諦められるかと、何度か剣を叩きつけるも一向に氷は傷つくこともなく遂には力なく崩れるクエス。

その脇でどうしていいかわからずに、ただただ泣き叫び続けるミント。


そんな声を聴きながら自分の役目を確信したエリスは精一杯の力で叫んだ。


「全てを砕け、守護獣アイリーシア」


ながい尾っぽが2本、4枚の羽根をはばたかせる青白い鳥がエリスの上空に現れ、柔らかく青い光を発して消えたかと思うと

転送装置のシールドと内部だけを残して半径200m以上を瞬時に凍らせて、同時に凍ったもの全てを粉砕した。


庭に生えた草木も、小庭に向かう兵士たちも、周囲の壁や通路も。

地面や床を残してその上にあるものすべてを凍結させ粉砕した。


それと同時にシールドの出入り口の氷も消え去る。

慌ててシールドの外に出たクエスが見たものは全身が凍っているエリス。

そしてその傍にはエリスが身に着けていた家宝のペンダントが落ちている。


「エ、エリス、無事、よね?」


何もかも無くなってしまった周囲とは違い、凍っているとは言え姿形が残っていることから

クエスは期待と不安が入り混じった表情をして、右手を凍ったエリスに向けながらゆっくりと近付いていく。

その直後、クエスの問いを否定するかのようにエリスの体にひびが入り、エリスの体が砕け落ちた。


「う、嘘よ……ね?」

目の前で希望が崩れ去るのを見せられて、呆然と立ち尽くすクエス。


その様子を動かずにシールドの中から見ていたミントも声も出が出せない。

二人の姉妹は現実を受け入れるのを拒絶したかのようにただ茫然としていた。


あまりの絶望で声も出せずこの場に静寂が広がった時、エリスの体が砕けた場所から青い光が生まれ

立っているクエスの視線の高さまでふわふわと浮いてくる。


「我はアイリーシア家に代々仕える守護獣。今回はこの娘の体を魔法発動の糧として頂いた」

青い光がゆっくり明るさを変えながら声を発するが、それを聞いたクエスは頭に血が上り剣を構える。


「くっ、何が守護獣よ!エリスを!私の妹を殺しておいて……何がっ!しゅごっ……」

目を真っ赤にし、涙を流しながらもその青い光に殺意を向け剣で叩き切ろうとする。


だが次の瞬間、一瞬目の前が青く光ったかと思うとクエスは体が動かなくなる。

「ふむ、1度しか言わん。この娘の魔石を保存しておけ、あとペンダントもな。転生したエリスを探すのに使えるだろう。あとこの剣も」

そういうと母が先ほどまで使っていた剣が飛んできてクエスの足元へと刺さる。


「後は早く逃げた方がいいだろう。こやつとこやつの母が命を捨ててまで守ったことを無駄にせぬためにも…」

そういって青い光は薄くなりながらペンダントの中へと吸い込まれていく。


「母が、妹のエリスが、なんで、なんで……。いや、ちがう…これは……これはすべて私のせい……。

 でも今は…そう、逃げる……この場から…」


クエスの中で今やるべきことが、やれなかった後悔が心の中でバラバラに浮かんでくる。

体は動くようになったが、心が安定せずうまく体を動かせない。


「そう…今は…逃げなきゃ……」


クエスはついに心が砕け思考ができなくなったのだろうか。

何の感情もない表情で黙々とその氷のような結晶とペンダント、母の形見の剣を拾い上げ周りを見渡す。

母の存在どころかあれほどいた兵士の死体すら見当たらない。漂っている魔力が一部集まっては魔石となり地面に落ちる。

エリスがいた場所にも魔石が落ちていて、クエスはそれを何の表情の変化も見せずにただ拾った。


いつの間にか起動していた転送装置にクエスが戻ると、ミントはどうしたらいいの?という表情で姉のクエスを見上げる。

クエスは何も言わずただただ首を縦に振る。


「そうよ、ミント、いくわよ」

ただそれだけをクエスは呟くと、ミントの返事を待たずに転送装置を起動した。


2人は装置でどこか別の場所に飛ばされ、残された装置はシールドが消え装置全体が宙属性を示す銀灰色の粒子になって跡形もなく消えていく。

大勢の死体も草木も壁すらも消え去った元小庭の場所にはただ極寒の冷気だけが残っていた。


ここまでは毎日更新を続けたかったのですが、力不足でした。申し訳ない限りです。

いつも読んでくれている皆様には本当に感謝しかありません。

皆様のアクセス・ブクマ・評価や感想を糧にして頑張ってまいります。

そろそろどこかでキャラ紹介のページを作らないと、かも。


魔法紹介

<氷砕弾>氷:自分の魔力で生み出した氷を相手に出来るだけ尖った方を向くよう砕き、ぶっ放す魔法。用途が限定の分威力はなかなか。


修正履歴

20/07/19 誤用などを修正。エリスの魔石の件を記載。

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