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異世界からのスカウト ~光と闇の狭間に立つ英雄~  作者: 城下雪美
2章 下級貴族:アイリーシア家の過去 (18話~46話)
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脱出へ 小庭での最後の攻防

さすがに毎日更新は途切れてしまいましたが

これからも程よい後進ペースを頑張りますのでよろしくお願いします。

今回は転送装置で脱出前の最後の攻防です。


エリスとデュグリスの戦闘が終わった頃、クエスとミントは先ほどまでエリスが戦っていた部屋にたどり着く。


道中ミントが母を置き去りにして進むことをぐずっていたのが幸いしたのか、この部屋にたどり着くのに時間がかかり、すでに戦闘は終わりエリスも息を整えていた。

姉と妹がここまでたどり着いたことにすぐに気が付いたエリスは、少し安心した表情で声を上げた。


「姉さん、ミント、もう少しだから急ごっ」


十数メートル先のエリスの声にミントは笑顔になり駆け寄ろうとするが、エリスはミントを待たずに目的の小庭につながる通路に入ろうと歩みだす。


ゆったりしている暇がないのはクエスもわかっていたが、エリスはミントを避けるかのように急ぎ通路へ向かうのに違和感を感じる。

いつもはちょっと忙しい時でも面倒くさがることなく必ずミントを相手するエリスなのに。


エリスが急ごうとするので、クエスは護衛のガルドロアに戸惑うミントのことを任せると

クエスは通路に向かうエリスに一人急いで近づきながら問いかける。


「エリス、何かあったの?」

そういいつつも部屋の膨大な魔力残渣を感じ、ここで戦闘があったことをクエスは理解していた。


「今は一刻も早く希望の泉へ」そう言葉を濁す様に返答するエリスにミントも駆け寄った。

仕方なくエリスは立ち止まり全員がそばに来ると、エリスがところどころ傷を負っていることに2人は気づく。

そしてもっとよく見てみると、2人はひどい状態のエリスの両手に気付いた。



エリスは白い肌をした綺麗な少女だった。言動が少し変わっており、時に冷淡なところが悪目立ちはするものの

氷の属性と白い肌から「雪の妖精」などと呼ばれ兵士からもそこそこの隠れ人気があった。


そんな白い左手の指が小指・薬指と2本無くなり指の形をしたただの氷がそこにあるだけだ。よく見るとあちらこちらにある傷口は止血のためか凍結してあり、左腕の肘から先は損傷が激しいのだろうか薄く氷で覆い固定してある。

右手は白い霜が大量に付着しており何かを握った形をしたまま全く動かす様子がない。


「エリス、あ、あんた」

「エ、エリス……おね…」


クエスは想像以上の酷い惨状を見て青ざめながら驚きの表情を浮かべ

ミントはあまりにむごい姉の状態に血の気の引いた表情をし、まともに姉の名前を呼ぶこともできなくなってた。


「ちょっとね、じいが邪魔なので退場してもらっただけ」

相変わらずそっけない返答だがじいという言葉に側にいる近衛兵が驚きの声を上げる。


「じい……まさか副総長様が…」

「そう。でももう片付いたから大丈夫。とにかく急ごう」


もう終わったことだからと言わんばかりの淡々としたエリスの返事。

3人ともエリスの性格は理解しているので、どんなことがあっても平然と話すだろうと思ってはいた。


ただあまりに両手がひどい状態であることから、相当厳しい戦闘がおこったことだけは理解した。

結局皆はそれ以上何も言えず置かれた状況からただ首を縦に振り、目的地へと先を急いだ。



3姉妹と近衛兵1人、小庭に向かう通路を警戒しながらやや駆け足で進む。

クエスは走りながら妹のエリスの横顔を窺う。エリスは平静な表情のまま前方を警戒しているようだった。

(私は……エリスより2年早く魔法使いになって、最高の上級学校に首席入学なのに……なのに何の役にも立てていない)


学校の実技や試験の成績と実戦は違う。それはクエス自身もよくわかっていた。

模擬戦では副総長といい勝負できるクエスだが、今のエリスの様に実践で勝てるかと聞かれると無理だと思っていた。


妹に頼っているだけではだめだ。

視線を足元に落とし自分を追い込むように歯を食いしばりながらクエスは通路を進んだ。



ついに3姉妹と近衛兵1人は小庭に到着した。

小庭と言ってもパーティー会場の1/5程の広さ、5m×20mくらいはある。

出入り口は今来た1か所だけの場所だ。

入口から遠い庭の奥の方に希望の泉と呼ばれる小さな池があった。


「母様が言っていたのこの泉?だよね」


ミントは不安そうにつぶやきながらも時々エリスの両腕を見ている。かける言葉が見つからないが気になって仕方がないのだろう。

クエスはその状況を見て心情を理解しつつも、何よりも大事なここからの脱出をとにかく優先する。


クエスもそれなりに腹をくくったつもりだった。

悲しむのも恨むのも、一息つくことさえここから脱出した後にする、と。


「ええ、ちょっと待ってね。今起動するから」

クエスはそういうと「希望の泉」と名称が書かれた碑に触れ魔力を込める。


池の底が光りだし水が抜けていく。

池の底から何かがせりあがったと思うと、入口と思しき部分だけ穴が空いた池全体を覆うシールドが展開された。


少しせり上がってきた池の底には魔方陣があり、魔方陣の周囲四方に魔石が組み込まれた石柱が上がってくる。

シールドが展開したと同じころエルミが小庭にたどり着いた。


「よかった、みんな無事のようね。本当によかったわ。それに転送装置の起動も問題ないようね」

エルミが安心した顔をして皆のもとに近づいてくる。


「母様」「おかーさん」クエスとミントはそう笑顔で叫びながら母のもとへ駆け寄る。

エリスは両腕が使えないからかエルミに近づくことはせずその場で軽く頷いた。


エルミは娘たちに近づくとクエスとミントを抱きしめる。

平穏なパーティーから地獄絵図に変わった今では、娘たちにとって母の胸の中は唯一安心できる場所だったのだろう。

ミントは泣きじゃくっている。エリスはその状況を横目にしつつ入口の方を警戒していた。


「エリス、あなたには本当に負担をかけたわね」

エリスのそばへ行き両手の状態に気づいたエルミはとても悲しそうな顔をして語りかけた。


「まだ大丈夫。あと少し踏ん張るだけふんばるつもり」

エリスのその発言は冷淡というより気丈に見えた。


クエスはエリスの言葉を聞いて黙ったまま右手のこぶしを強く握りしめた。

本当に自分は何をやっているのだろうと。


転送装置の起動までもう少しだろうか。

皆が周囲を警戒したり転送装置の起動を見ていた時、小庭の入り口に誰かが近づいてくる気配がした。

エルミがすぐに気がつき続いてエリスとクエスがほぼ同時に気づく。


「エリス、わるいけどその<氷の心>私にもかけてもらえないかしら。多分ここが正念場になるから覚悟を持ちたいのよ」



以前からエルミは娘のエリスが<氷の心>を使うのをあまり心良く思っていなかった。

冷静に損得を判断できるようになるので、演習でも勝てそうなら遠慮なく腕1本犠牲にして勝ちを狙いに行く行動を取ったりした。

兵士たちはあまりに冷静なその行動を見て恐ろしさを感じ、エリスの評判が少し悪くなっていたからだ。


そしてもっと厄介なのが、<氷の心>が解けた時に魔法が効いていた時の行動や心情を持ったまま普段の自分に戻ることだ。

冷静を通り越し冷淡な判断を取る自分を思い出し、普段の自分の感じ方との差を感じて術者本人が少しずつ心を歪めていく危険が高いのだ。


そのことはもちろん術者のエリスも理解していたが、そのデメリットを考えたうえでもメリットの大きい魔法として使うのをためらっていなかった。

結果、<氷の心>のことでエリスの意見も聞いたうえで、エルミはエリスに必要な時はあまり使わないよう常日頃注意していた。



だが現状ではその<氷の心>で娘全員が無事にここまでたどり着いたと言っていい。

娘を助けることを第一としたいエルミとしてはその力を借りてでも、娘たちの脱出を確実なものにしたかったのだ。


エリスは一瞬ためらった。この魔法のことは自分がよく知っている。

自分の命より大切なものがあるのなら、迷わず自分の命を捨てるようになる危険性がある。


それでも母の覚悟を理解し、現状を考えるとその方が助かる確率が上がる、そう判断したエリスは母の願いに小さく頷き、母に<氷の心>を唱える。

すぅーっと感情が引いていく感覚がして娘を助けるという意志だけが強く心に刻まれる。


今回が初体験だったエルミは頼もしい補助魔法と思うと同時に今まで感じていた危うさをはっきりと実感した。

だが今はそんなことを伝えるべきではないと思い、敵が近づく入口を経過し魔法を詠唱し始める。



兵士達がエルミたちに追いつき、ついに小庭に入って来る。

ぞろぞろと20人ほど入ってきたと同時にエルミは<千の光矢>を放つ。

兵士たちは<光の盾>を展開し数発の矢を防ぎながらも、盾が割れて光矢をくらいバタバタと兵士が倒れていった。


「おいおい……必死に追いついてきた我々への歓迎にしては手荒すぎませんか?国王様」

大きな<光の強化盾>を張って光矢を防ぎ切ったベルグドが呆れた感じで声を上げた。



「ベルグド!?」

クエスは彼の存在に驚く。父であるオーリスが足止めしていたはずだ。


「そんなに驚かないでくださいよ、オーリス様ならはさみ…」


愉快そうに語ろうとするベルグドに鋭い<氷の槍>が2本飛んでくる。

2発ともベルグドの<光の強化盾>に阻まれるが衝撃でひびが入る。

間髪を容れずエルミは光の斬撃を飛ばしベルグドに突撃した。


ベルグドは光の斬撃を咄嗟に受け止めるも1歩後ろに後ずさる。

接近するエルミを見て冷静に状況を把握し、周囲の兵士たちに命令する。


「国王様は俺に任せろ、皆はあのシールドの破壊のみを目指せ。何をしようとしているのかはわからんが、あのシールドさえ潰してしまえばもう向こうに希望はないはずだ」



エリスはその言葉を聞き咄嗟に巨大サイズの<氷の壁>を転送装置のシールドの前に作りだした。

何とか巨大な氷の壁を生成するも、エリスは魔力が足りなくなったのかその場でよろめく。


「くっ、やっぱり。もう魔力が厳しい……」

エリスは悔しそうにつぶやく。

本来は人が通れる穴をあけて母が戻ってこられるようにしたかったのだが、調整する余力もなく突破口にされた時対応できそうになかったので穴は開けなかった。


「エリス!それじゃ母様が」

クエスが非難の声を上げるもエリスは特に対応もせず転送装置のシールドの前までふらふらと戻ってきた。



さすがエリスは冷静ね、と母エルミは氷の壁の存在を感じて思う。

そして自分の役目を再認識する。敵はベルグドではない。氷の壁と転送装置を破壊しようとする後衛だ。

ベルグドを無視するかのように突破し、その後ろで氷の壁を攻撃しようとする兵士たちを横一線に数人葬り去る。



「くそが、諦め悪すぎだろ国王様は」

ベルグドは自分を無視したエルミを追いかけ、兵士を狙う彼女を後ろからハンマーで横殴りにした。


一瞬で<光の盾>を張り、勢いを殺しつつも殴打を受け吹っ飛ぶエルミ。

だがそれはエルミにとって好機でもあった。


続々と援軍としてやってくる兵士の方へ吹っ飛びながらエルミはストックしておいた<感情反転>を唱えた。

この魔法は範囲魔法なので氷の壁の近くにいるだろうエリスからは離れておきたかったからだ。


小庭にはすでに50人ほどの兵士が集結し氷の壁に向かって攻撃しようとしていたが、エルミの魔法の直後

兵士たちの8割が突然、魔法詠唱を放棄し座り込んで休憩し始める。


<感情反転>に抵抗出来た兵士たちも一斉に攻撃をやめる仲間を見て思わず何事かと思い詠唱が止まる。

魔法の対象範囲に入っていた、通路から小庭に向かっていた兵士たちの多くは反転して帰ろうとする。


座り込んだり・状況に驚いて立ち尽くす兵士たちをエルミは遠慮なく次から次へと切り刻み魔法により薙ぎ払ってく。

魔法の影響を受けて座り込んでいた兵士たちは慌てたように走り出し、バラバラに逃げて行った。

もはや隊列もなく氷の壁に集中攻撃もできない状況だ。


「おいお前ら、何をやっているんだ!このくそ国王め、何をしやがった!」


ベルグドは怒りながらも詠唱の終わった収束砲をエルミに向けてぶっ放す。

エルミは詠唱しつつも座り込んでいた兵士を掴むと自分に向けて放たれた収束砲に向けて投げて、物理的盾にしつつ、大きめの<光の強化盾>を展開。

ベルグドの妨害の一撃を見事に防ぎきる。



それは見越していたと言わんばかりにベルグドは大きく飛び上がり<光の斧>で相手を叩き割る魔力の斧を形成。

エルミに向かって叩きつけるように振り下ろした。


エルミは回避が間に合わないと判断し、小盾を右の前腕に装着するように虚空から取り出し、剣は左手に移す。

先ほどの障壁を簡単に砕きつつ振り下ろされるベルグドの一撃を小盾で受け止めるも、完全に受け止め切れず光の斧の刃が削るように盾を割り前腕に食い込む。


命中した光の斧は骨にまで達したがエルミの前腕を切断するには至らなかった。

だがエルミもベルグドの攻撃を受けると同時に、左手に持った剣でベルグドの右腕をきれいに切断する。


咄嗟にお互い離れて距離を開け<輝く保護布>で傷口を止血するも互いに完全には止血できていない。

エルミはけん制としてベルグドに<収束砲>を放ちつつ、周囲の兵士を再び切り始める。


だがエルミの動きもさすがに精彩を欠いていた。多くのかすり傷に利き腕の損傷、魔力もかなり使い果たしている。

ベルグドは収束砲を完全には防ぎきれずさらに傷を負うものの、すぐに周囲の座り込んでる兵士を次々とぶん殴りながら正気に戻しつつ、エルミの行動を妨害するために攻撃魔法を飛ばした。


魔法紹介

<感情反転>夢:対象の範囲の感情を持つ生物全般に対して、成功時今の感情を反転させ行動させる。

<光の斧>光:巨大な1mサイズの魔力でできた光の斧を生み出す。削るかのように切断する強力な魔法。

<輝く保護布>光:簡単に言えば光の包帯。止血・微回復の効果あり。光属性の安牌回復魔法。


いつも読んでくれている皆様、ブックマークしてくれた皆様、ありがとうございます。

次回もそう遠くないうちにupします。


修正履歴

19/02/01 改行追加

20/07/19 誤字等を修正

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