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異世界からのスカウト ~光と闇の狭間に立つ英雄~  作者: 城下雪美
5章 貴族への階段(190話~255話)
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都市の発展 光と影6

ここまでのあらすじ


1日を終え、マナは寝るために自室に戻った。これはその夜の出来事。


◆◇◆◇



夜23時過ぎ、都市長であるコウの部屋の入り口がロックされ警備の兵士たちは引き上げて、一直線の廊下には誰もいなくなる。

だがこの廊下に至る両端の通路を曲がった先には兵士たちが常駐しており、通行する場合は彼らのチェックを受けるので不審者が容易に侵入することはできない。


もう翌日になろうかという頃、1人の侍女がやってきて警備する兵士たちに声をかけた。


「すみません、この先通ってもいいでしょうか?」


「ん?身分証を出せ」


素直に身分証を出したので兵士の1人が照会すると、何度も仕事でここを通ったことのある都市所属の侍女だった。


「こんな夜中にいったい何のようだ?」


夜中に行動している侍女は少ないが、全くいないわけではない。

よる警備をしている兵士たちのへの夜食等を運んだり、翌日の準備のために夜遅く行動している侍女もいる。


ただこういった突発的に来る場合は、その侍女や近侍は貴族様がお楽しみのために呼んだ場合が多い。


まさか都市長が彼女を夜伽として呼んだのかと思いながら兵士は尋ねる。

もし夜伽として呼ばれたのなら何の目的か聞いたところで、どうせ正直には申告しないのだが。


「えっと…遅い時間なのでこちらを通った方が近道で…」


困った表情で兵士にそう答える侍女を見て、本当に夜伽に呼ばれたのかもと兵士たちは思った。


その侍女は見た目は若くスタイルも悪くない。胸はそれほどでもないが、そこは好みの問題だろうし兵士たちもそこで判断するわけにはいかない。

魔力反応もなく、どうやら素体の者のようだ。


この都市には魔法の使える魔素体で侍女をやっている者は、コウ専属のエニメットだけなのでそこも一応チェックしている。


誰がこの廊下を通行するかは両側の検問所にすぐに情報共有されるため、ここに部屋のない者が通った場合

誰かに用事があると申告していないにもかかわらず反対側に来なかったら、すぐに兵士が廊下の様子を見ることになっている。


もちろんが夜伽で呼ばれたのなら向こう側を通るはずもなく…だからといってここで問い詰めたところで意味がない。


「近道…か」

「あっ…はぃ…」


最後は少し恥ずかしそうにか細い声になりながらその侍女は答えた。


「わかった。通っていいぞ。記録も残さないでおいてやる」


兵士たちは都市長であるコウに配慮して彼女を通す。


都市長様は仲の良い2人の女性の弟子もいるし、こういった形でなければ別の女性と楽しむことはできないだろうと兵士たちは考えた。

記録を残してしまうと弟子たちにばれてしまうリスクがあるからだ。


給料も上げてもらったので、多少の融通は聞かせてあげられますよという彼らなりのコウへ向けてのアピールのつもりだ。


「あまり遅くなるなよ。あと戻ってくるときはこっち側を通れ」


兵士たちがそういうと、彼女はその意味を理解したのかちょっと申し訳なさそうにうなずいた。



コウの護衛であるマナは、朝早くから活動しているので夜は早めに休む。

そのため通路を兵士たちが警備しているのだが、扉の前に護衛がいなくなった時にこの通路に部屋のない者が通ると、マナの部屋に侵入者ありと小さな警告音が鳴るようにしてあった。


最初はマナの部屋をコウとつながった場所にする予定だったが、シーラとコウが反対したため、こういった警備体制になっている。

ちなみにマナの部屋に侵入者ありと警告音が来る仕組みは、警備している兵士たちにも知らされていない。


「ん!?侵入者?」


寝始めてまだ1時間ちょっとしかたってないマナだったが、警告音を聞くなりすぐに戦闘モードにスイッチを入れほとんど音を立てずにベットから飛び降り

一瞬で服装を着替えると武器をアイテムボックスから取り出して確認し、再度収納して扉の前で黙ったまま外の音を聞く。


彼女はコウを警備することが仕事なので、彼女の部屋には外の音がよく聞こえるよう細工がしてあった。

なのでシーラがコウの部屋から朝帰りした時もちゃんと把握している。


静かにして耳を澄ませると、確かに誰かが外の廊下を歩いており、おそらくコウの部屋の前と思われる場所で足を止めた。

場所が場所なだけにじっくりと様子をうかがうわけにはいかず、マナはすぐに扉を開けて状況を確認すると、1人の若い侍女がコウの部屋の前で立ったまま何かをしていた。


「あれ?こんな遅い時間にどうしたの?」


「えっ、あぁ…その、都市長様の部屋のロックすごいなと思って…見とれていました」


コウの部屋の扉には複数の光の線が大きな円の中に多数引かれている。

あまり見ないタイプの魔法の施錠で、知らないものが見れば綺麗な模様にも見える。


「あぁ、それは魔道具で扉の補強と施錠を兼ねているやつだよ。解除するのは簡単なんだけどね。複数の線があちこち光ったり消えたりして綺麗でしょ」


「はい、こんなの初めて見ました…。本当に綺麗ですね。…あっ、すみません。近道にここを通っただけなのでもう行きます」


そう言って離れていこうとする侍女にマナが声をかける。


「あっ、ちょっと待って。あなたの所属はどこなの?」


「私は厨房で料理の手伝いをしたり、他には片づけや掃除など色々と仕事をしていますので、都市の所属になります」


体ごとこちらを向けて説明する侍女をマナはじっと観察する。


都市や国ごとに違いはあるが、多くの場合、専属を夢見る近侍や侍女はいろいろな仕事をこなすことが多い。

掃除だけしかやっておらず他のことができないと、専属になった時に困るからだ。


もちろん、色々な仕事の中には接客などの座学も含むので、彼ら・彼女らは常に手仕事をしているだけではない。

そのため調理部に所属とか室内掃除部に所属とか1つの部署に所属する者は少なく、大抵が都市所属として様々な仕事をローテーションで回している。


各部署で責任者等の上の地位になるためには、その部署に所属してエキスパートになる必要があるが、それはたいてい年を取ってから目指すものだ。

だから彼女の答えも若い侍女としては真っ当なものであった。


だが、マナは笑顔でさらに質問をする。


「そっか、専属を目指しているならそうだよね。それで…誰所属なの?」


誰所属というのは、つまり誰の専属なのかという質問だ。

が、先ほど都市専属だと答えた侍女はなぜそんな聞き方をするのかわからず戸惑いながら答える。


「えっと…都市所属なので、特定の誰かの所属では…、将来そうなれればいいなと思ってますけど…」


笑顔で聞いてくるマナに対して、ちょっと戸惑いながらも恥ずかしそうに侍女は答える。

だがマナはその答えに困った顔をする。上手く会話のキャッチボールが出来ていないといわんばかりだ。


「うーん、質問がちゃんと伝わってないなぁ。私が聞いてるのはあなたは誰の所属なのかってことなんだけど」


「えーっと、その…誰と言われましても…」


侍女はいったいなぜそんなことをしつこく聞くのか不思議に思うが、マナが貴族で腕のいい護衛であることを知っているので尋ねるわけにもいかない。


所詮市民上がりの素体の侍女が貴族様の行動を否定するような質問でもしようものなら、その場でたたき切られて文句は言えないからだ。

そのため何といえばいいの変わらず、ただ困惑するしかなかった。


「はぁ。話さないことはわかってたけど…これが最後の質問ね。あなたは誰に命じられてここにいるの?」


途中から少し語気を強め、明らかに殺気を放ちながら質問しつつ、アイテムボックスから愛用の長くて細い深緋色の剣を取り出す。

周囲には魔力を展開し始め、誰が見てもマナは明らかに臨戦態勢をとっていた。


「えっ、えっ、なに…何か失礼なことでも…」


震えたまま腰の引けた侍女にマナは一切反応しない。

そんな侍女の様子など構うことなく、ただ一点、どう動くかだけをじっと観察していた。


この廊下は色々と重要な立ち話をすることもあるので、外に音が伝わりにくくなっている。

完全な遮音効果はないが、派手なことをやらない限り周囲の兵士たちは気づかず駆け寄ってこない。


そのままお互い動くことなく見つめ合い15秒ほど経過したが、状況は全く変わらない。

仕方がないと思ったマナはアイテムボックスから1cm以上の太さのある白い腕輪を取り出して侍女の目の前に投げる。


「それを両腕に付けなさい。それで自分を無力化すればあなたのことを信じてあげる。それが何なのか説明は不要でしょ?」


厳しい表情をしたまま、マナは一挙手一投足も見逃すまいと侍女から視線を外さない。

彼女は戸惑いながらその白い腕輪を拾い、手を通そうとして途中で止めると質問する。


「いったい…いつから?」


戸惑った表情を見せる侍女だが、先ほどまでの震えは一切なくなりすぐに動ける体制をとっていた。

周囲には既に魔力を展開し始めており、必要あらば迎え撃つと言わんばかりだ。


戦うためか、その侍女がアイテムボックスから武器を取り出そうと手を突っ込んだ時、一瞬の隙を突いてマナが<小爆発>を使って距離を詰める。


慌てて侍女はアイテムボックスから取り出したナイフを投げるが、マナは鋭角に向けた<火の強化盾>を作り出し

投げられたナイフはその魔法障壁を削るように当たりつつ向きを変えた。


マナは自分で作り出した魔法障壁をぎりぎりでかわしつつ接近し、迷うことなく侍女の左腕を切り落とす。

その傷口は軽く燃え始め、侍女は慌てて魔力を集中させその火を消した。


一気にとどめをさすべく剣を突き刺そうとするマナだったが、侍女が取り出していた小刀で軌道をずらされ

マナは慌てて<小爆発>を2人の間に起こし距離を取る。


そのまま反撃しようと思っていた侍女は目の前で即爆発を起こされ、対応できずに後ろに軽く飛ばされる。

すぐにマナを迎え撃つため起き上がろうとしたが、立ち上がることができない。


なぜと思い自分の足を見ると尻を地面につけたまま足が凍って地面に固定されていた。

慌てて振り返ると、そこにはコウがいた。


「これを着けろ」


コウは冷淡に命令し、先ほどマナが投げた白い腕輪と同じものを2つその侍女の前に投げる。


侍女は諦めたのかその腕輪を右手で掴み、すでに手を失った左腕の上腕まで通すと、その腕輪は急に腕に密着するように締まる。


そしてもう一つの腕輪を拾ったと見せかけて、その侍女は<光の槍>の型を2つ組み始めた。

が、その2つ型をコウの<風の槍>が即座に貫き、構成段階で魔法は砕かれる。


それと同時にマナは剣身が長めの小剣を取り出すと、柄頭(つかがしら)を爆発させて飛ばし侍女の右わき腹に突き刺した。

そのナイフの剣先は侍女の腹部を貫き、後ろの地面に突き刺さっている。


「ぐっ」


憎たらしそうにマナを睨む侍女だが、戦闘モードに入ったマナはそんなこと気にもしていない。

ただ淡々と地に尻を付けて座る女に忠告する。


「それ、抜かない方がいいよ。爆発してわき腹吹っ飛ぶから」


マナの言葉に突き刺さったナイフに手を伸ばしていた侍女は慌ててその手を止めた。

そのタイミングでコウは侍女の右腕を掴み、白い腕輪を無理やり装着させる。


両腕に付けられた腕輪が白く光り始め、その侍女は抵抗を諦めたのか肩を落とした。


今話も読んでいただきありがとうございます。

誤字脱字など見つけましたら、ご指摘ください。お願いします。

感想や質問も歓迎です。ブクマとか評価貰えるとうれしいです。


次話は、5/22(金)更新予定です。 では。


修正履歴

20/05/24 1か所だけリング→腕輪に修正(表現を統一)

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