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異世界からのスカウト ~光と闇の狭間に立つ英雄~  作者: 城下雪美
5章 貴族への階段(190話~255話)
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都市長のお仕事15

ここまでのあらすじ


食糧増産のために無事ネネミという人材を引き込めたコウたち。

実現に向けて着々と動き出す。


会議から一足早く抜けたコウたちは、すぐに農地拡張予定の場所へと向かう。

先ほどの会議で予定案通り農地にする場所を今から手入れするためだ。


先に指示を飛ばしておいたので、20人ほどの作業員が腐葉土の入った袋を持って待機している。

計画がきっちり決まってから動き出すのが一番いいのだが、いつものやると決めた時がやり時という精神で早速動き出しているのだ。


「えっとこの辺は一体畑になるんだっけ?」


コウが尋ねるとメルボンドは地図を確認する。


「えぇ、畑道はもっと左ですのでこの範囲が畑になりますね」


そういってメルボンドは畑道との境に明かりを続けて並べて、境界線を示した。


「じゃ、まずは雑草を軽めに片付けるか」


細身の木々や雑草を片付けるため、地面すれすれに風刃を飛ばして次々と刈り取っていく。


「さすがですね、都市長様。正確な魔法発動です」


「正確さはギリギリの戦いでは必須だからね、ただこれだと根は自力で処分しなきゃいけないんだよなぁ」


「そのために作業員を動員しているのです、皆さんお願いします」


メルボンドの指示で、すぐに20人が動き始める。

雑草や小さな枝などが畑の外に集められて、それをマナが焼き始める。少量だがこれも肥料代わりに土に混ぜ込む予定だ。


上の部分が刈り取られ、根っこを処理する作業はやりやすくなったがそれでもかなりの時間がかかる。

皆が作業をしている中、もう少しいいやり方がないかコウとメルボンドが相談し始めた。


「根が深い物はなかなか取り除きにくいようですね。少し土を荒らすことはできませんか?」


「うーん、少々土を荒らしていいなら…できるかも。例えば…」


「なるほど…では、次のエリアで試してみてはいかがでしょう」


作業員たちが最初のエリアの根を除去しきるといったん退避させ、コウがその隣のエリアに向かって<乱風打>を使う。


魔法でできた風の玉20個が大きめの雑草やひざ丈の植物に向かって放たれ、斜めから根を押し上げるように当たる。

だが、結果は思ったより上手くいかず、小さい植物の幹が折れたり、外れた風の玉が地面を逆に押し固めてしまった。


「うーん、ダメだなこれは」


「だったら風の矢を斜めから地面に突き刺したらどうかな?」


コウがやろうとしていることを理解し、マナが横から案を出してくる。


「地面に突き刺す感じで放てば、耕した感じになるんじゃない?」


「雑草抜いた後ならそれでいいんだろうけど…まぁ、やってみるか」


何事も試行錯誤。雑草を抜き終えた後、コウは<風の百矢>地面に放つ。


膝丈ほどの木はバラバラになりつつも、周囲の地面も軽く掘り返される形となり一応根は抜けやすくなった。

その後もこの結果で満足しないコウが色々と試行錯誤をしてみるが、魔法使う割には思ったほど楽にならない。


最終的に、土壌の根っこや雑草を取り除くにはやはり土属性の魔法を使った方がはるかに楽という結論に至った。

土壌に含まれてしまう魔素を抜く手間が増えるとはいえ、土属性の魔法ならば土の中から雑草や木々を根ごと持ち上げられるので効率が全然違うのだ。


コウが悪戦苦闘している中、途中からは作業員の半分が腐葉土を混ぜ混む作業に移る。

そうこうしているうちに、あっという間に夕方になった。


「うーん、こんなものかぁ。思ったほどうまくはいかないもんだな。まぁ、風の魔法で地面をどうこうするってのがそもそも間違いか」


ぼやいているコウの横に作業員がやって来て、予定より作業が進んだことに感謝を述べる。

ありがたがられて悪い気はしないのかコウは照れ笑いで返していたが、内心複雑な気分だった。


「お疲れ様です、都市長様」


「お疲れさま、師匠」


メルボンドとマナに声をかけられて、コウは軽くため息をつく。


「ご不満でしたか、今日の作業は」


「いや、まぁ、いまいち上手くいかなかったなと思ってね…」


「一つお尋ねしたいのですが」


「うん、何?」


「都市長様はなぜ、そのように頑張られるのでしょうか?」


基本従順な上に問題があっても黙って裏でサポートをするメルボンドが突然質問してきたので、コウは少し驚いた。


彼が聞いてくるのは、コウがどうしたいのか、コウがどう考えているか、くらいで基本不満や疑問はありませんというスタンスだったので

コウは彼が仕事を進めることにしか興味が無く、自分には興味を持っていないとさえ思っていた。


それなのに、突然自分のことを知りたいともいえる質問をしてきたので戸惑った。


「なぜ、って言われてもなぁ…俺は都市長だろ。つまり俺にこの都市の未来がかかっているわけだ」


「間違ってはいませんが、少しオーバーな考えだと思います。確かに都市長様が動けば、作業員の何倍もの効率で仕事が進むこともあります。

 ですが、都市の未来という点ではこの都市に所属する貴族たち全員にかかっていると言う方が正しいでしょう」


「まぁ、そうかもしれないが…トップは俺だからさ。この都市を任された都市長として、上に立つ立場の準貴族として、出来るだけ貢献したいんだよ。

 俺は師匠から、貴族は下の者、つまりここでは市民だな。いざという時それを守るのが役割で、その代わり税で贅沢をしたりしても許されると聞いてる」


「えぇ、緊急時は貴族たち魔法使いが命懸けで市民を守ることになります。だからこそ彼らは貴族に尽くさねばなりません」


自分の言うことを素直に聞いてきたメルボンドですら、自分の考えとはこうも違うのかと驚いたが

同時に、そう考えているのによく俺に文句も言わず従ってきたなとコウは感心した。


コウも貴族の一員としてその考えは理解できるし、貴族と平民が同じ立場だとは思っていない。

それぞれ役割が違うし貴族がこの地位に居続けているのも、クエスやボサツの教えによって十分理解できている。


その上で、市民をより豊かにするもの貴族たちの仕事だと考えている。

コウはそこが他の貴族と一線を画していた。


だからといって都市長としてそれを強固に主張しても周りがついて来ないことは自覚している。

あくまでその考えを自分は譲るつもりはないだけで、周りに強要するつもりもないのだ。


「まぁ、それは理解できるし妥当だとも思っている」


コウの言い方から、納得はしていないのかと驚きつつもメルボンドは表情を変えずにコウの話を聞く。


「だけどさ、平時には俺たち貴族が平民に世話になっているわけだろ。だったら、その平民の生活を変えることのできる都市長としてできる限りのことをやりたいわけよ。

 まぁ、結局俺がやってるのは魔法を使った土方作業だけどさ。ただメルボンドたちが優秀だから、俺が椅子に座って書類見てるより動いた方が効率いいだろ。

 それに、何もしていない都市長だと思われたくないしな」


最後はちょっと誤魔化すかのように笑いながらコウは語った


そんなコウの言い分を聞き難しい顔をするメルボンド。

まだ理解してもらえないかと思ったコウはさらにもう一押しする。


「市民の生活がよくなれば、その税で暮らす俺たちの生活もより良くなるんだし…まっ、巡り巡って自分のためだよ」


コウが笑ってそう言うと、腑に落ちたようで笑顔を見せるメルボンド。

ただし彼は思っていた。その利益はこの短期間で返って来るようなものじゃないだろうと。


今のコウの言葉では、単に街を成長させていくのが楽しいのか、市民と触れあっていくのが楽しいのか、その両方なのか、メルボンドは判断しかねていた。

ただどちらにしても市民と距離が近すぎるのは、貴族の中ではあまり好まれる行為ではない。


光の連合においては、貴族は下の者どもに威光を示すことが大切だと考えられている。

そのことをコウに伝えようと考えが、既に師から教わった上でこの行動なんだろうと考え思いとどまった。


コウが作った風の板に全員が乗り込みエリア2へと戻る途中、先ほどの話を引きずらないようメルボンドが話しかける。


「そう言えば都市長様は、お二人の弟子をかなり大切にされていますね」


「あぁ、2人ともかけがえのない存在だよ。2人がいなかったら今の俺はなかったさ」


「ならば都市長様、シーラ殿とマナ殿のどちらが本命なのでしょうか?」


「ちょ、ちょっ、ここで話さなくてもいいだろう、それ」


コウは慌てて後ろに座っているマナを見るが、マナは聞こえていないのかコウたちに背を向けて作業員たちと先ほどの畑作業のことで話をしている。

聞こえていないようで助かったと思いつつ、コウはメルボンドに声を抑えつつ真剣な表情で答えた。


「どっちとか優劣をつけるつもりなんてない。2人とも俺にとっては大切なんだ」


「これは失礼しました。お二人とも手中に収めるのですね。都市長様の野望を気づかずに申し訳ない」


「そっ、そういう言い方は…よしてくれ。そりゃ2人とも俺の側にいて欲しいが…」


滅茶苦茶慌てだし視線を外して話し始めるコウを見て、メルボンドはもう少し突いてみたくなったが

少々不敬だし機嫌が悪くなっても困るのでそれは止めておいた。


「しかし、マナ殿もシーラ殿も周囲からは結構人気がありますから、都市長様もしっかりと彼女たちの手を離さぬようにしておいた方がいいですよ」


それを聞いたコウは慌ててメルボンドの方を向く。


ここに来てからマナは近くにいることが多いが、シーラは別の仕事をしていることが多い。

とはいえ、他に取られるという発想は頭の片隅にもなかった。


「シーラ殿は城内で仕事していることも多いからか、テレダインス家の男性陣と会うことも多く、物腰の柔らかさから好意を持たれているようです。

 マナ殿は兵士たちからかなり人気があると聞いています。指揮官であるテレダインス家の者たちからも注目されていますね」


「そ、そっか…気を付けないとな」


「おっ、都市長様の泣き所を見つけてしまいましたか」


「ちょ、よせって。2人は俺の大切な弟子なんだから、そもそも誰にも譲る気はない」


「案外独占欲が強いのですね」


「ぐっ……もう、その話はいいだろ」


図星を突かれたからか、コウは咳払いをしてごまかす。

ただ内心ではかなり焦っており、自分のそばを離れたいなんて言われたらどうしようなどと悪い考えが頭の中を巡っていた。


その光景がほほえましかったのか、メルボンドは正面を見据えて笑っていた。




その日の夜、コウはシーラを執務室に呼んだ。

呼ばれたシーラはうれしそうにやってきたが、コウの様子が少しおかしく不思議に思う。


仕事をしているというよりも、明らかにシーラを気にしている態度だった。

急に自分の魅力に気づいてくれたのかと小躍りしたくなったが、先日コウが語った言葉を思い出すとどうも違う気がする。


では一体何なのだろうか?

何か他人に聞かれたくない話でもあるのかと考え、シーラはそーっとコウに近づくと小声で話しかける。


今執務室はエニメットも外しており2人しかおらず、小声で話す必要はないのだが、コウの態度にシーラもそわそわしていたので

マナみたいに平然と切りこむ気にはなれなかったのだ。


「師匠…何かあったのですか?お呼びいただいたのはうれしいんですけど、何も話してくれませんし」


「まっ、まぁ…ちょっと気になる話をな、聞いたんで…」


気になる話と言われたが、シーラはここ最近大きなミスをしたり誤魔化したりした記憶はない。


予算審査の手を抜いたこともないし、シーラは常にコウのためにと考えて動いてきたつもりだ。

そんな自分が疑われるようなことはさすがにないと考える。


ならば何かの妨害があったのかとも考えたが、それにしてはぎこちない態度の説明がつかない。


まさか財政管理をやっている者に気に入った子がいたのかと考える。

別にその子をここに連れてくるのは職権乱用とまでは言えないが、言いにくそうにする説明はつく。


とはいえ、以前からいる人員も混ざっているものの師匠が思わず気に入るような人材がいた記憶はない。


「どんな…話なのですか?」


さすがに尋ねられたら、呼び出した手前、何でもないというわけにはいかない。

コウは意を決して話始める。


「いやな、その、シーラが…結構人気あるらしいと聞いてな…」


シーラは一瞬何のことなのかと不思議に思ったが、すぐに自分のことを心配…いや、他に取られたくないと言ってるんだと理解した。


「そんなことはないですよ。色々と要望をはねのけたりしているので嫌な思いをさせてることもありますし」


「そ、そっか。とはいえシーラは魅力的…だし、な。俺としては心配というか、なんだ、そんな感じで」


視線を合わさずにたどたどしく言うコウを見て、自分のことを奪われたくないと言ってくれたのがうれしかったが

それ以上に恥ずかしがるコウが愛おしく見えた。


「師匠、後ろから抱きしめてもいいですか?」


「えっ!?あっ、いいけど…」


今椅子に座ってるから立ってからにするかと聞こうとする前にシーラが椅子に座るコウを後ろから抱きしめる。

一瞬恥ずかしくなったコウだったが、その思いを素直に受け止めて心地よさを感じる。


「大丈夫ですよ、私は師匠が追い出さない限りずっとそばにいます」


「ありがとう、これからも頼むよ」


すぐに落ち着いてしまったコウの態度にシーラはちょっぴり残念だと思いながら部屋を出る。

嫉妬したコウの言葉を思い出し少しにやけながら、シーラは部屋へと戻っていった。


今話も読んでいただきありがとうございました。

追い詰められ度合いが増してきて、連続投稿はこの辺で許してください。。


次話は5/3(日)更新予定です。

誤字脱字報告ありがとうございました。気を付けていますが、気づかれたらご報告ください。

ブクマとか感想頂けると嬉しいです。質問も可です。 ではでは。

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