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異世界からのスカウト ~光と闇の狭間に立つ英雄~  作者: 城下雪美
5章 貴族への階段(190話~255話)
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都市長のお仕事11

ここまでのあらすじ


シーラに話を聞き、コウは相談せずに一人で突っ走る癖を反省した。(反省しただけ)


採掘機の商談から2日後、予定より少しオーバーしたが、最初の目標である市民用住宅10軒が完成し抽選会を行うこととなった。

さすがに貴族たちに黙ったまま進めるのは問題があるので、朝食時にコウが皆に向けて発表する。


「皆に連絡がある。大したことではないが聞いて欲しい」


コウが前置きをすると、さすがに都市長の言葉だからか食堂が静まり返る。

なんか大げさになってしまったなと思いつつ、コウは咳払いをして話し始めた。


「昨日、俺が目標としていた市民向けの住宅10軒が完成した。

 正確にはすでに12軒目が完成するところだが、当初の予定通り10軒分を希望者抽選とする旨を市民に発表する」


コウの発表にほとんど関心がないのか、テレダインス家たちの反応は薄い。

彼らにとっては市民向けのことなどどうでもよく、自分たちの取り分が増える事業の進捗だけが興味の対象だった。


「市民向け…?従者でも住まわせよというのか?貴族エリアにはまだ部屋の空きがあるだろうに」


「都市長様はどこへ向けてアピールしているのだ。我々にはどうでもいいことじゃないか」


あちらこちらでささやかれる不満をコウは聞き流しつつ説明を続ける。


「これを始めとし、第7区画には更に加速して住宅建設を進める予定だ。これに関して何か思うことがあれば遠慮なく申し出て欲しい」


はいはいわかりましたという雰囲気を感じつつも、コウはできるだけやる気を示しながらここにいる全員への説明を終える。


大した反応もなく得る物のない発表だったが、最低限の仕事は果たした形となった。


今回反応は薄いとわかっておきながらも発表したのは、都市長である以上、コウのチームだけが歩み続け全体へ知らせないと言うのはまずいと、コウ自身が考えたからだ。

テレダインス家の者は誰も気づかなかったが、これは先日の反省からコウが少し変わった部分だった。



朝食を終え執務室に戻ると、さっそくコウの口から愚痴が出る。

いくらやるべきことをやったとはいえ、あんな反応じゃ一言愚痴りたくなるというものだ。


「はぁ、反応薄すぎだろ。あれじゃ客のいないピエロみたいになってなかったか?」


「そんなことないと思うよ。師匠、いい感じだったし」


とりあえず褒めてくれるマナにちょっとだけほっとしつつも、あの雰囲気を思い出すと愛弟子の賛辞もさすがに素直には受け取れない。


「ちゃんと伝えるということはできましたから、おおむね完ぺきと言えますよ。この住宅事業が金になるとは今のところ誰も思っていないので、彼らの反応が薄いだけです。

 とはいえ伝えずにいると、極秘に利益を独占しようとしたとか、なぜ教えてくれなかったのかと不満が出るでしょうからあれで良かったと思います」


「面倒くさいねぇ…そんなに貴族は金を欲しがるものなのか?」


「全ての者がそうではありませんが、特にここは荒城都市だけあって税収も少なく貴族への給付も少ないので、日ごろから不満を抱え金になる話を探している者が多いのかもしれません」


「そんなもんかねぇ~。収入を増やしたかったら自ら頑張ればいいのにな」


「確かにもっともな意見ですが、普通様々な利権は都市長様が握っており他の者は勝手に手を出すことが難しいのです。

 そのため普通は何か考えるより、どうやって都市長様の興味を向けるかに腐心するものなのですが…」


「そうなのか?俺には懐疑と敵意しか向けられてない気がするんだが…」


色々と不満に思いながらコウは今日作業者に配る紙のチラシを見る。

今回建てた市民向け住宅10軒の抽選会のお知らせだ。


今回の対象者は配偶者のいる者、もしくは家族と同居している者で木材切り出し・木材加工・住宅建設の作業者に限っている。


それはさらなる作業員の増員につなげ作業ペースを早めていくためだけでなく、1人でも多くの市民を良い暮らしに転向させるという目的もある。

そのため独り身の者はやむを得ず除外した。


「本日、都市長様は普段通り木材切り出しに向かっていただき、昼食時にこれを宣伝。そのまま都市へとお戻りいただき、加工所、建設現場を回られて宣伝していただく予定です」


「なんか…慌ただしい昼食時間になりそうだな、というか飯食う暇がないな」


「これ、私も同行だよね…うーん、仕方ないかぁ」


コウがちょっと疲れた顔をするとマナも横に来て軽く不満を言い出す。


「申し訳ありません。皆がゆっくりしているタイミングに話していただくのがベストだと思いまして。

 三か所の作業員はいずれも都市長様のことをよく知っているため、都市長様からの発表の方が一番効果があるかと判断したのです」


「はぁ、それなら仕方がないか。マナ、悪いな。つき合わせることになって」


「師匠がやりたいことなら、全力で手伝うよ。大丈夫」


マナが笑顔を見せるとコウも自然と笑顔になる。

そして普段通りコウとマナは作業に出かけた。




少し遅れて伐採組に参加したコウは、いつもの調子でバンバン木材を切り出し始め、あっという間に昼になった。

シーラたちが食事を運んできたのを見ると、作業員全員が1か所に集まって座り始める。


そのタイミングを見計らい、コウが少し浮いた風の板の上に立って登場し全員を見渡した。


「昼飯時に済まないが、皆聞いてくれ」


その声にほとんどのものが顔を向け注目する。

共に仕事をしているとはいえ、仮にも自分たちの住む都市で一番力のある人物だ。


何か大きく変わることでもあるのかと、作業員たちは少し緊張気味になる。

この仕事を始めやっと安定した収入や食事を得たものが多い。これが変化するとなれば、彼らにとっても一大事だからだ。


「あぁ、そんなに緊張しなくていい。今回はむしろ皆にとっていい話になるはずだ」


そう言ってコウはアイテムボックスからチラシの束を取り出し手元で受け止める。


「この中に聞いたことのある者がいるかもしれないが、我々がこうやって日々切り出した木材でエリア2の第7区画に住宅を建てている」


「多くの者が噂しているので、知っておりますが…」


まとめ役の1人が言葉を返し、それを聞いたコウは笑顔になる。


「その中で完成済みの10軒を抽選で作業員の中から希望者に割り当てたいと思っている。詳しくは今から配る紙を見てくれ」


コウの指示でガラドリアやマナが各まとめ役に束になったチラシを渡し、それを各作業員へと回し始めた。


「字が読めないものもいるだろうからここで簡単に説明しておく。今回の新築の家に住みたいものは、今日の夕方から明日の朝までに第7区画の受付へ行って申し込んで欲しい。

 対象は木材の切りだし、加工、そして建築をやっている作業員だけだ。それと今回は家族のいる者に限定する。

 ちなみに次回は1人者でも申し込めるので、今回対象外だとしても様子を見に行くといいかもしれん。以上だ」


突然の発表に面食らったのか、作業員たちは何も声を発さず辺りは静まり返る。

しばらくすると、先程とは別のまとめ役の者が慌てた様子で質問する。


「そっ、その、少しよろしいでしょうか?」


「あぁ、いいぞ。だが次の場所でも説明しなくてはいけないので、質問は数人からだけな」


「はい。その、我々は…都市長様のおかげでこうやって食事と収入を得ることができましたが、さすがに家を購入するほどの金を持っている者などいません。

 それくらいの金を持っているのはせいぜい商人くらいです」


まとめ役のその言葉に多くの者がうなずき、皆がざわつき始める。

昼食を配る準備をしている兵士たちも、それはそうだと言わんばかりに軽く鼻で笑った様子だった。


だがコウはその言葉を待ってましたと言わんばかりにニヤリと笑う。


「住宅に住む費用だが、今作っている住宅は今後の分も含め一定の費用を払い続けるだけでよい。

 ここにいる者たちならば、給料から約3割天引きされるだけで住めるぞ。初期費用は要らん」


コウが自信満々に発表したが、あたりは逆に静まり返ってしまった。


作業員たちからはひそひそ声があちらこちらから発生し、コウの後ろで食事の準備していた兵士たちは信じられないのか

手が止まったままお互いを見て、先ほどの発表を聞いたか目で確認しあっていた。


「なので、1ルピも持たずに抽選に参加していいからな。ただ今回は家族が2名以上いる者だけだ。次回は1人者もOKにするぞ」


思ったより歓声が上がらずに少し凹んでいると、別の責任者から質問される。


「1ルピどころか、1ヒールもいらないのでしょうか?」


「あぁ、別に要らんぞ。抽選で当たればここにいる者ならだれでも住める。給料からは天引きされるがな」


「その…新築、なんですよね?」


「そりゃそうだろ。皆がここ10日ほどで切り出した木材をベースに作った家だ。古かったら逆に驚きだ」


「それを、給料の約3割で…いいんですか?」


「あぁ。だが毎月取られるぞ。住み続ける限りな。

 あと、抽選に当たった者は当然引っ越しも許可される。元来転居の自由は制限されているが今回は特例だ。場所は第7区画になる」


作業員の中から『本当か?』『ありえないだろ』と小さな声が上がり始める。


「じゃ、俺は次のところへ説明に行く。これからも皆が頑張れば頑張るほど、家ができるペースも上がっていくし、多くの者が新築に住めるようになる。

 だから昼から俺がいなくても怠けるなよ。できた分だけ当選確率が上がるんだからな」


それだけ告げると、コウはマナに視線で合図を送り風の板から降りる。


説明を終えたのですぐに都市に向かおうとすると、昼食の準備を手伝うシーラと目が合った。


「そうだ、どうせシーラも都市に戻るし終わるまで待っていようか?」


「いえ、皆がちょっと興奮しているようなので、配り終えるまでに時間がかかりそうですから先に戻っていてください」


「…そっか、悪いな」


そこまで興奮した様子ではなさそうだったけどなと思いつつ、コウはマナを連れてすぐに都市へと向かった。

本来は雰囲気を読み取れるコウなのだが、皆の前での発表に結構緊張したせいかこの時は感覚が鈍っていた。


都市へ向かう途中、作業員が集まっているところから興奮したような大きな声が上がり始める。

作業員たちの反応が薄かったのでいまいち不評だったかと心配していたコウも、その声を聴き思わず笑みを浮かべながら都市へと戻っていった。




木材加工組もこちらの戻ってくるタイミングを見計らっていたようで、コウが到着したときにちょうど昼食の準備を始めていた。

切り出し組と同じく、コウが一通り説明しチラシを配っても反応が鈍い。


「まぁ、今回家を建てている第7区画はここからだと結構距離があるからな。とはいえ風の板による通勤も可能にしているので安心してくれ」


さっきは説明し忘れたなと思いながら、ここに来るのも問題ないことを作業員に告げる。


「しかし都市長様、金のある商人や他の職に就いているものから不満とかが…」


「最初の方は別にいいんじゃないか?皆が頑張って作っているものだ、関わった者が全く住めないとなるとやる気も出ないしな」


そう言って笑って見せると、納得したのか作業員たちのテンションが上がり始めた。

大体の説明を終えコウが風の板から降りるとすぐにメルボンドが駆け寄ってくる。


「お疲れ様です、都市長様。かなりいい演説でした」


「演説なんて大げさな、これはただの説明だよ。それより後は任せていいかな?募集の件は丸投げになるが、頼んだぞ」


「お任せください」


嬉しそうに答えるメルボンドを見てある程度成功の手ごたえを感じつつ、風の板に乗ってすぐに建築現場へと移動した。




最後の建築組の現場へ着いた頃には、多くの作業員が昼食を終えた頃だった。

仕事を始める前にゆっくりしているところだったので丁度話しやすく、コウは部下のスケジューリングに思わず舌を巻く。


「マジですごいな、あいつら。完璧なタイミングじゃないか…」


「でもこれで、最後もちゃんと話聞いてもらえるね」


「あぁ、そうだな」


マナと話し気合を入れなおして、コウは最後の説明会を始める。


前の2つとは違い、建築組はめちゃくちゃよろこんでいた。

自分たちが作っていることもあって、住んでみたいという気持ちが強かったこともあるだろう。


建築は設計図を読む必要性があるからなのか、多くの者が字を読めるようで

コウがチラシを配り始めたときからすぐに反応が出ていた。


「こ、これマジかよ」

「俺たちが?」

「いやいや…嘘だろ」

「俺、即引っ越したいわ」


コウが説明し始めようとするにも、作業員たちの興奮はなかなか収まらず、各責任者が興奮した作業員を大人しくさせるのに1分ほどかかる始末だった。

説明し終えると、さっそく多くの者から質問が上がる。


「1人身の者はいつから抽選に参加できるのでしょうか?」


「昨日から大きめの集合住宅の建設を始めているチームがあるだろう?彼ら次第だが、2週間ほどでめどがつくんじゃないかな」


「おい、お前らもっと急げよー」

「あったりまえだろー」


「静かにしてくださーい!」

マナが大きな声で、話が違う方向に転がるのを防ぐ。


とにかく興奮しっぱなしの現場だったので質問が多かったが、最後の場所ということもありコウはできるだけ丁寧に答えていった。


「では、もう作業の時間なので質問はここまでです。抽選の申し込みは明日の朝までで…」


「おい、お前ら、午後の作業は全力でやるぞー!」

「おぉー!」


マナのアナウンスをかき消すかのようにすぐに仕事にかかる作業員たち。


「もぅ!」


マナは怒ってふくれっ面になっていたが、コウがなだめて2人で少し遅めの昼食に行った。

その後はやる気全開な建築組をマナとコウが手伝い、いつもの倍は作業が進んだ1日となった。


今話も読んでいただきありがとうございます。

次話は4/27(月)更新予定です。

頑張って続きを書いて行かなければ・・


誤字脱字がありましたら、ご指摘ください。 指摘してくださる皆様、ありがとうございます。

ブクマや感想もいただけると嬉しいです。

そういやそろそろブクマ200行きそう・・と言うと止まるんだよなぁw

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