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異世界からのスカウト ~光と闇の狭間に立つ英雄~  作者: 城下雪美
5章 貴族への階段(190話~255話)
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都市長のお仕事5

ここまでのあらすじ


朝食の場でノットリスが魔石採掘の担当に名乗りを上げる。

利権を求めてざわつくその場を何とか収めてコウは食堂を出た。


朝食を終えたコウは、執務室の席に座ると思いっきりため息をついた。


「はぁぁ~、なんだよあれ…。今まで数日間誰もが立候補のチャンスあったじゃん。今更1人が立候補したからって、文句言うなよなぁ」


「うんうん、私だってそう思うよ。本当に困った人たちだよねぇ」


コウの不満にマナも乗っかり文句を言う。


「まぁまぁ、貴族で都市長様ほどせかせか働いている者はいませんから。彼らは楽しつついかにうまい利権に食いつけるかが大事なのでしょう」


いくら外に声が漏れないコウの執務室だからと言って大っぴらに文句を言うのはまずいと、コウたちをたしなめるメルボンド。

彼の意図を理解して、コウはしぶしぶ文句を言うのをやめた。


「えーっと朝のうちに了承しておかなきゃいけない書類は…2つか。って、また木材加工用の機器を1セット買うのか」


「誰か様がものすごいペースで木材を用意されるので、在庫が膨れあがりすぎていまして」


「あっ、あぁ…それならしゃーないか。まぁ、加工が早く進むことは悪いことじゃないしな」


俺のせいなのかと少し渋い顔をしながら許可印を押すコウ。

そんな2人のやり取りを見ていて、マナは楽しそうにしていた。



その後城門前で待っていたノットリスを拾ってそのままいつもの森へと向かう。


「えっと…これからどこに向かうのでしょうか」


コウが動かす風の板に乗ったまま、不安そうな顔で落ち着かない様子のノットリス。


「いや、いつもの木材の切り出しだよ。現場作業の担当になるなら現場の様子は見ておかないとね。

 と言ってもノットリスは魔石担当だし都市の中か。まぁ、場所は違えど現場作業はどれも似たようなものだしな」


「は、はぁ…」


何か厳しい試験でもうけさせられるのかと思っていたノットリスは、伐採作業だと聞き少し安心する。


「担当になるのなら、なんとなく見ているとか記録で数字を管理するだけじゃなく、ノットリスにも少しは現地で動いてほしいんだ」


「ぼ、ぼくがですか?」


「常にいる必要はないけど、現場に責任者がいて頑張ってると皆も自然に頑張りだすし、現場にいないとわからないこともあるからね」


朝食の時とは少し違う柔らかい口調なので、ノットリスもあまり圧を受けず楽に会話ができているが

戦闘以外で都市長や貴族が現場で作業をするという話はほとんど聞いたことなく、コウの持論には戸惑うしかない。


「まぁ、今回はあくまで雰囲気を見てもらい、参考にしてもらえればそれでいいから」


ちょっとビビっているノットリスを見てコウも言い方を少し柔らかくする。

そうこう話しているうちに現場へと着いた。



コウが現場に着くと作業員たちはすでに作業に取り掛かっており、前日から残っている切り株を処理していた。

別動隊の植林部隊も遠くの方で作業をしているのが見える。


都市長はその立場の都合上、常に作業員と同じ時間に現場に来れるわけではない。

現在はコウの移動の護衛をマナに任せて、兵士たちと作業員だけで先に作業場に到着し仕事を進めている。


「都市長様の到着だぞー」


コウがやってきたのを見て、現場の責任者が全員に声をかける。

作業員たちはいっせいに手を止め、コウの方を向いた。


「お疲れ様です!都市長様!」


肉体労働の現場だけあってか、力強い声が飛ぶ。


「あぁ、遅れてすまない。今日は朝からいろいろとあってね。じゃ、作業再開と行きますか」


「おぉー!」


コウの掛け声に一斉に声を上げると、皆がすぐに手を動かし始める。

かなりやる気の高い作業員たちを見て、作業現場が初めてのノットリスはこういうものなのかと戸惑っていた。


「さて、俺は木の切り出しに移るからノットリスはこの場の様子や雰囲気でも見ておいてくれ。少し慣れたらガラドリアの枝落としを手伝ってくれると助かるよ」


そう言うとコウはすぐに木々が立ち並ぶエリアへと単独で向かっていく。

マナはコウの周囲を離れた位置から観察しつつ、警戒範囲に漏れが無いように動き始めた。


コウが魔法を使うと木々が4,5本揺れ、順番に倒れていく。

倒れた木がものすごい音を立てるのかと思いきや静かなままで、しばらくすると先端が切り落とされた木材が風の板に乗せられ運び出され始めた。


ガラドリアは待っていましたと言わんばかりに剣を抜き、ゆっくりと動いていく風の板の上に乗った木材の余分な枝を落としていく。

他の作業員や兵士たちも相変わらずすごいなと少し見とれていたが、すぐに自分の作業を再開し始める。


「これが現場か…すごいな。皆の士気も高いし」


ノットリスは数珠つなぎになりながら運ばれていく木材を見ながら、作業現場での労働が今までの自分の仕事といかに違うかを思い知らされていた。


ちなみにコウが切り出す木材のペースはますます上がっており、ここのところは昼前にガラドリアがばててしまう程だ。

これも訓練だと思って頑張ろうと励ますコウに、ガラドリアは反論する気力すら湧かない状態が続いている。


昼になるとコウたちと作業員たちが一緒に食事をとる。

護衛のマナはコウのすぐ隣に座り、ガラドリアもその近くに座る。

作業員たちと少し離れてはいるものの、一緒に食事をしているといってもいい状態だ。


「作業の進捗はどうだ?」


「いやいや、都市長様の切り出しが早すぎて、未処理の切り株がかなりの数たまってますよ。皆早く片付けようと焦ってます」


「まぁ、俺が来られない日もあるしそう急ぎすぎなくてもいいさ。とにかく怪我だけは気をつけろよ。あと、今日も記録更新狙ってるから覚悟しとけ」


「げぇ、マジですか」

「うへぇ~」


平民たちと語る都市長を見て、ノットリスは複雑な気分になる。

そもそも貴族や準貴族がこうやって平民と食事を共にすること自体まずありえない。

このように平然とやりとりをするなんて論外なのだ。


ちなみに食事はいつもシーラと兵士たちがお昼ごろに持ってくる。


以前はシーラがコウたち上の者向けの食事だけを持ってきており、作業員の分は朝から各自が受け取ったもの食べていたが

コウの提案により質を上げようということで今ではシーラと兵士たち10人くらいで全員分の食事を運んできている。


以前は仕事もなく満足な飯にあずかれなかった作業員にとっては、これが一番楽しみな時間になっていた。



昼からはノットリスもガラドリアがやっている枝落としの作業を手伝い始めた。

いくらゆっくりと木が流れてくるとは言え、数珠つなぎになっているのでほとんど休む暇がない。


普段あまり体を動かさず魔法も支援や遠距離ばかり使うノットリスにとっては久々の重労働となった。


「なっ、きついだろ、これ」


「はい。僕は普段デスクワークだからかなり全身にきますね。ぶっちゃけ、体を動かすのはあまり得意じゃなくて」


息を切らしながら、なんとか話すノットリス。


「まぁ、それが普通だよな。都市長様を見習うのはいいけど…ほどほどにした方がいいと思うぜ」


「あぁ…考慮しておきます…」


話している時も木材が絶え間なく流れてくるので、会話するのも体を動かしながらだ。

疲れて枝落としが遅れてくると、会話する暇もない時間が過ぎていき、気がつくと辺りの明るさが落ちていた。



夕方になり帰る頃には全員疲れ切っていた。

ノットリスは慣れない仕事をして特に疲れたようで、コウが作った風の板に寝転がって動けなくなっている。


「今日は手伝ってもらえて助かったよ、と言ってもそれどころじゃなさそうだな」


軽く笑いながらコウは声をかける。


「いや、いい経験になりました。ちょっと厳しいけど…僕も、頑張ってみようかなと」


「今日の作業の後にそう言ってもらえるならひとまず任せられそうだ。俺からメイネアスには伝えておくから、ゆっくりと疲れを癒した方がいい」


「お言葉に、甘えさせて、いただきます」


そこまで頑張って発言すると、ノットリスは目を閉じる。


「どう、マナの方は炭作りうまくいってる?」


「うーん、まぁまぁかなぁ。高温を維持しながら酸素を入れずに燃やして炭化させるの結構難しいし、その上周囲の警戒となるとなかなか…」


「なんだかんだ、マナならできるようになるさ。集中してる時のマナはすごいからなぁ」


コウに褒められちょっと照れながら嬉しそうにする。

今までやってきた仕事と比べるとかなり方向性は変わってしまったが、それでも日々充実していてマナは今の状況を楽しんでいた。


「だけど、この後の会議がちょっと~、ご飯食べたら師匠と1戦訓練したいのに」


「ん~、今日は議題少なそうだし、スムーズに行ったら練習場で久々肩慣らしといくか」


「やったー!絶対だよ、師匠」


「あぁ、わかってるって」


明らかにコウよりも元気が残っているマナがはしゃぎながら、一行は都市へと帰っていった。



◆◇◆◇◆◇



今日1日の進捗と明日の行動予定を確認する会議が思ったより長引き、22時ごろになってやっと終わったのでマナはご機嫌斜めだ。


こればかりは期待を持たせてしまった俺が悪い。

我慢させるのもなんだし、今からでも少しは時間が取れるはずだと思いマナに声をかける。


「そんな怒らないでくれよ、マナ。せっかく決めていたし、今から1戦やらない?俺も戦闘から離れすぎるとなまっちゃうしさ」


「うーん、でも師匠かなり疲れてるじゃん…」


一見わがままなところのあるマナだが、ちゃんと俺の体調には気を遣っている。


そもそもマナの場合、半分は自分アピールのためのわがままなので、俺に意識してもらえたら引くところはちゃんと引く。

明るさとあっさりした感じが嫌味を感じさせず、本当にいい性格しているなと思う。


とはいえ、約束は約束だ。

あまりマナの厚意に甘えすぎるのは良くないと思い、強引に訓練試合に誘うことにした。


「でもさ、マナが残念がっていたのを思い出すと、俺も眠れなくなっちゃうし、な?」


「まぁ、師匠がそういうなら…やろっ」


マナがすぐに笑顔になり俺もうれしくなる。

やっぱりマナは俺のそばで笑ってくれている時が最高だ。


「じゃ、すぐ行こう。このまま直接でいいよね」


マナが俺の手を引っ張り訓練場へ行こうとすると、会議室から出てきたシーラと目が合った。


「あれ?師匠、今からどこか出かけるのですか?」


「いや、戦闘の勘が鈍るといけないからマナと軽く手合わせしようと思ってさ。せっかくだし、シーラもどう?」


俺が誘うとすぐにマナも乗って来る。


「軽く30分くらいだからさ、シーラも一緒に行こうよ~。師匠になまっていることを自覚させてたげなきゃ」


「そうですね。私も作業続きで勘が鈍っていないか心配ですし、お願いします」


「じゃ、いつもの2対1だな。俺がなまっていないことを見せてやるよ」


俺は盛り上げようと軽くあおって見せる。

こうやって挑発する方がマナもシーラも喜ぶんだよな。


「じゃ、師匠が負けたら今日は一緒に寝ていいよね~」


さっきまでの不機嫌さはどこへやら、マナは一気にやる気全開になっている。


「でしたら、私も負けられませんね」


シーラも最近は良い意味で遠慮が無くなり、距離がより縮まった気がする。



2人ともやる気が出たようだし、訓練場へと行こうかと思ったタイミングで遠くから声をかけられる。


「皆様どこか行かれるのですか?」


「あぁ、メルボンドか。ちょっと弟子たちと手合わせをしに訓練場にね」


「そうでしたか。ふむ、もしよければ私も同行しても構いませんか?皆様はかなりの腕だとはお聞きしてましたので拝見できればと思いまして」


構わないけどと思いながら2人を見ると、マナもシーラもうなずいてくれる。


「あぁ、別に問題ないよ。遅いから、1戦だけしかやらないけどね」


こうして夜遅くに、4人で誰もいない訓練所へ向かうことになった。


いつも読んでいただき、ありがとうございます。


誤字脱字には気を付けていますが、気がつきましたら、ご指摘いただけるととても助かります。

ブクマや感想、評価など頂けると嬉しいです。

次話は4/9(木)更新予定です。 では。

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