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異世界からのスカウト ~光と闇の狭間に立つ英雄~  作者: 城下雪美
5章 貴族への階段(190話~255話)
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都市長のお仕事4

ここまでのあらすじ


2日目、コウは実作業に腕を振るった。


翌日、朝食で各所からの進捗を聞き終えるとコウはすぐに森へと向かう。

以前からいるテレダインス家の貴族たちはまだ様子見なのか、朝食でコウに声をかけることはしなかった。


昨日から10名ほど増えた木材の伐採チームだが、昨日と同様大半を植林作業へと回す。


「さて、今日もガンガン伐採していくつもりだけど、ペース上げて切り倒していくから、危なくなるので俺は少し離れたところで作業するよ」


そう言ってコウは1人距離を空けて魔法を準備する。

切り株処理とコウが分かれて広く展開したこともあり、こちら側はマナと兵士5名で周囲を警戒することにした。


<風刃>の威力を上げ、木の根本を3本貫通して切断し複数の<受け壁>を作り出す。

それぞれ倒れてきた木を受け止めると<風の板>にそれぞれを乗せて運びだす。


作業が早くなった分、本気の戦闘時のような速度で型を次々と作成しては的確な場所に魔法を発動させる。

コウは真剣な表情で集中して、次々と魔法を使っていた。


『どーーん!』


しばらくすると大きな音が周囲に響く。

ガラドリアが慌ててコウの元へ駆けつけると、<受け壁>を失敗して大木が地面に跡を付けて倒れていた。


「お、お怪我はありませんか?」


「大丈夫、大丈夫、びっくりさせてすまない。ちょっとペース配分間違って魔法が追い付かなくてさ。ごめん、気をつけるよ」


コウは謝りながら地面に倒れた大木の横に風の板を作り、加圧弾で転がす様に押して乗せると無事に都市へと運ばれていく。

その様子をマナは周囲を警戒しつつも眺めていた。


「複数の魔法の高速発動…型を次々と作って修行中みたい…いいなぁ」


ただの伐採でも魔法の訓練のようにして作業するコウに、マナも自分で何かできないか考えてみる。


「うーん、うーん…」


腕を組んで考えてみるが、何も思いつかない。

魔物相手に手加減しつつ何らかの練習もできなくはないが、それでは護衛の役目を果たしているとは言えない。


周辺の脅威は手早く片付けてこそ、次の脅威に対して待ち構えることができる。

そもそも相手は1匹ずつ丁寧にやってきてくれるとは限らないので、見つけた魔物は即狩らなければならない。


「魔物がダメなら、やっぱり炭作りかなぁ…」


超高温を維持する温度管理、酸素をシャットアウトする形での魔法を使った燃焼、それを周囲警戒しながらやればいい練習になりそうだと考える。

ただマナは火属性の魔法の系統の中で火と爆発は得意だが、熱系統はあまり上手くない。


考え込んでいるときにマナの感知範囲に1匹の魔物が入って来る。


マナは考え込んだまま動くことなく<火の槍>の型を瞬時に作り発動させ、魔物の位置を確認せずに光のウサギを見事に射貫く。

これはマナが<熱感知>により相手の位置を正確に把握しているからこそできる芸当だ。


「おぉ、あの人マジでスゲーな」


「マナさんだろ、都市長様のお弟子さんらしいぜ」


「強い割には俺たちに対しても結構気さくだし、一緒にいて話すと楽しい人だよな」


「可愛いし、あの生足もいいよな…でも、既に手を付けられてるんだろうなぁ」


上はTシャツという道場の時のようなラフな格好ではないが、相変らず動きやすい格好が好きなマナは今日も短パンと動きやすい靴で活動している。

マナは3日目にして既に注目の存在になっていた。


そんな彼女を兵士たちがチラ見しながら話していると、少し強めの風が吹きつけてきた。

すぐにそれがコウの仕業だとわかり兵士たちは慌てて周囲警戒に集中する。


兵士たちの声が完全に聞こえたわけではないが、感じる雰囲気と視線からおおよそのことを察してコウが<突風>を使ったのだ。




今日1日が終わり、コウがこの日切り出した木材は全部で千本を超えていた。


シーラがコウの性格を見越して風の板を維持する魔道具を500個ほどに増やして用意しており、それに答えんばかりにコウは気合入れて伐採しまくっていた。

都市内に戻ってきたとき、木材加工所にいたメルボンドがコウを見るとすぐに駆け寄って来る。


「あぁ、都市長様…ずいぶん頑張られたようで。こちらももう少し人員増やしておいた方がよさそうですね…」


ちょっと困り気味に答えていた彼を見て、ガラドリアもコウの後ろで『うちじゃどうしようもない』と言わんばかりの顔をしていた。


この間、他の者たちも多数の住宅を建設すべくコウの指示に従い作業を進めていた。


エリア7のほぼ残骸だらけの住宅跡一帯は、行くところもなくこの辺りに居座っていたものたちを雇用しつつ柱だけの家の残骸を解体。

廃材は炭材等に回しつつ、基礎となる土台を土属性が使える傭兵と共に等間隔に作っていく。


傭兵たちの作り出す土台用のブロックはかなりしっかりした強度を持っているが、作り出すのにかなり疲れるらしく大量生産はできないので

重要な個所にのみ使用することにして作業を進めていた。


加工所も在庫の木材がたまるスピードを無視すれば順調に作業が進んでいる。

加工した材木がたまり始めると、職人たちが見習いとして雇われたものを指導しつつ、パターン化された簡易な設計の家の材料として使えるよう次々と加工していった。




そして7日目の朝


マナが朝からコウの部屋に入ってくる。

マナは関係者であり護衛でもあるので、コウの私室にも自由に出入りできるのだ。


「おっはよー、師匠」


「んっ、んー…おはよう、マナ」


コウは大きな声で目を覚まし、寝ぼけ眼をこすりながらベットから起き上がる。


「第7区画の1軒目の家が完成したって聞いたよ、朝から見に行かない?」


急ピッチで仕事を進めた結果、一家族用の小さめの一戸建量産型が今日の早朝完成したらしい。


給料以外に食事も提供していることが結構効いているらしく、各地の作業員の士気も高いまま昼夜2交代制で仕事を回し続けている。

寝床のない作業員には簡易テントまで準備しているので、思ったより人が集まったそうだ。


そういったことはコウが最初から指示したわけではないが、メイネアスが案を出してきたのでいいアイデアだと承認されたものだ。


ちなみに食事はこの都市の各食堂に材料費後払いで仕入れさせ、ガンガン作ってもらっているので、食堂側の雇用も生まれている。


「ん~、1軒目と言ってもこれからいっぱい建てていくものだし…でも、せっかくマナが来たし見に行くか」


「えへへ、やったぁ」


軽く体を伸ばして周囲に魔力を展開させ今日の調子を確認すると、すぐに服装を変えてマナとともに現地へ向かう。

1件目の現場には早朝にもかかわらずすでに数十人の人だかりができていて、兵士たちによって規制線が張られていた。


「ちょっといい?中に入りたいんだけど…」


身分証を見せると兵士が慌てて規制線の丁寧に中に入れてくれる。

土台は石と固められた土が使われており、軽く防腐処理もされた突貫工事とは思えない立派な一軒家だ。


大家族だと少し狭そうだが、現状文句を言う人もいない状況なのでこれで十分と言える。


「あ、コウ様。来ると思ってました」

シーラがコウに気がつき近寄ってくる。


「ちぇ、抜け駆け失敗だぁ」

マナは残念そうにコウの腕にしがみついた。


「これがやっと第1歩か。でもこれで雰囲気も変わり仕事もどんどん進むだろうから楽しみだな」


「はい」

「うん」


出来上がった家を少し感慨深くしばらく見つめてから、コウたちは城へと戻っていった。




コウが来る前、お偉いさんたちが集まるこの朝食の場でも、1件目の住宅が完成したことが話題となっていた。


「何やら都市長様肝いりの住宅が1軒できたらしい」


「住宅と言っても平民用でしょ?そんなもの興味ないわ。というか平民に家を1軒与えたところで…」


「むしろ我々にも何か与えていただきたいですな。平民どもよりは我々が優先されるべきでしょうに」


相変わらずコウのサポーターズがいる目の前で愚痴を飛ばしあう準貴族や貴族たち。

まぁ、普通は貴族を優先させるのが常道なので、不満は理解できることからコウをサポートする面々も黙って眺めている。


コウも別に貴族たちを毛嫌いしているわけではないが、働かざるもの食うべからず、という考えが根底にある。

その考えからこの朝食の場で作業を手伝ってくれる者を募ってみたが、コウがやっているような魔法を使った手伝いをしてくれる貴族たちは誰もいなかった。


当然の結果ではあったが、そういうこともあってコウ側の者たちもその不満をある程度言わせておいている。

時が経てば一応手伝ってみようかと思う人が出ることも期待して放置してはいるのだが。


「おはよう、皆そろっているな」


コウが軽く挨拶しながら部屋へと入ってきた。

さすがに1週間もすればこの雰囲気に慣れたようで、あまり物怖じしない態度になっている。


コウはあまり意識していないが、道場にいるときにエニメットがコウを上から挨拶させるようしつこく慣らしていたので、その成果が出ているといっても過言ではない。


「さて、最初の目標だった市民たち向けの住宅が1件完成したが、まだまだこれは始まりに過ぎない。さらに1人用の狭いタイプの部屋が密集した集合住宅も予定している。

 まだまだ頑張っていくつもりだ」


テレダインス家の貴族たちからは反応が薄いが、コウもその辺は諦めていた。

そんな中、雰囲気を変えるためか、普段はあまり表に出ない資材や機器購入関連を担当するネミエスが声を上げる。


「都市長様。3日後ですが、例の魔石採掘機の業者が来ますので、朝から予定を開けていただけると助かります」


「あぁ、そうだったな。早くそっちも動かしたいしちゃんと時間を空けておくよ。じゃ、食事にするか」


ちょっと重苦しいなぁと思いながら、コウは食事を始める。

私が手伝います、と言ってくる貴族がいないかこの1週間待っては見たもののその気配はなく、まだ魔石採掘の担当も決まっていない。



そのまま食事を終え、今日も伐採を頑張るかと思った時だった。

対面のテレダインス家の準貴族から声が上がる。


「そのっ、都市長様、お話が」


「ん?あぁ、何かな」


ふいに声をかけられてコウは少し遅れ気味に反応した。


「そのっ、魔石採掘に関してですが…」


声をかけたのはノットリス・テレダインス。

テレダインス家の分家筋の準貴族で、主に文書整理や機器の登録・整理をしている者だ。


例えば先日、ネミエスが仕入れた木材加工の機材一式などを国の資産物として登録するような仕事であまり忙しいものではない。


「魔石採掘が…何か問題あったのか?」


「いっ、いや、僕を担当にしてもらえ…ないかなと思いまして」


やや小太りなノットリスがおどおどしながらもコウに魔石採掘の担当をやりたいと立候補してきた。

周囲の同じテレダインス家の者たちからは驚きの視線を向けられている。


「構わんが今の仕事が不満なのか?」


彼は何をやっていたっけと考えているコウに、すかさずメルボンドが横から仕事内容を教える。


輸入や購入した機器の登録だけだと確かに暇だろうし、この申し出は助かるなと思ったが、周囲の準貴族たちの視線が厳しいのが気になる。

抜け駆けした形になってしまい、これで彼がハブられるのはコウの望んだ形ではない。


あくまでコウは最長3年しかここにいないのだから、彼らの中に無用な軋轢を生むようなことはしたくないのだ。


「嫌じゃないけど…結構暇だし…」


ノットリスはおどおどしながらもちゃんとコウの質問に答える。


「そうか。じゃ、とりあえず仮就任でお願いしたい。それと今日は俺についてきてもらえないか?」


「あっ、はい。わかり、ました」


さっさと決定すると周りのテレダインス家の者たちがざわめき始める。

媚びを売っただの、コウの退任後の利権狙いだのささやき声が聞こえる。


さすがにそれを聞き流すわけにはいかないと思ったのか、コウはみなを見回して話し始めた。


「一応言っておくが、俺が退任した後の各担当は次の都市長が決めることになっている。彼が魔石採掘担当に就いたところで、俺がいなくなった後の担当は全く約束されないからな」


短いと1年半、長くても3年しか都市長の座にいないコウにあえてケンカを売る意味もない。

そう考えすぐに貴族たちは静かになった。


そしてコウがノットリスを見ると、彼も理解している言わんばかりにうなずく。


「じゃ、俺はこの辺で。ノットリス、俺の仕事の様子を見て欲しいので30分後に城の入り口で待っているから遅れるなよ」


それだけを告げると、コウはメルボンドとマナを連れて食堂を出ていった。


今話も読んでいただきありがとうございます。

やっと主人公が偉くなった気がするなぁ、と思いながら書いています。

仲間内と公で出来るだけ口調を変えるよう書いているつもりですが…うーん、なかなか難しい。


誤字・脱字等ありましたら、ご指摘してもらえると嬉しいです。

ブクマや感想など貰えると、本当にありがたいです。

次話は4/6(月)更新予定になります。 では。

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