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異世界からのスカウト ~光と闇の狭間に立つ英雄~  作者: 城下雪美
5章 貴族への階段(190話~255話)
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都市長のお仕事3

ここまでのあらすじ


木材を切り出しに行ったコウ一行は、順調に作業を進めていく。


午後からは、加工側が思ったより慌てていない事、作業の流れにだいぶ慣れてきたことからコウは木材を切り出すペースを上げていく。

威力を見極め正確に1本の木だけを切断し、上部を切り落としてどんどん運んでいく。


切り株の除去がどうやっても追いつかなく作業員たちが必死になっていたので

時々コウが<風の玉>を数発飛ばして切り株周りの土を押しのけ、少しは楽に取り除けるようにしていた。


そのまま順調に作業は続き、運搬用に用意していた風の板を維持する魔道具200個が2時間もしないうちに無くなってしまった。


「あれ、もう200個使い切ったか。しまった…こんなに順調に進むとは思ってなかったからなぁ」


別に風の板を維持するための魔道具がなくても向こうまで運んでいる時間消えないようすることはできる。


ただ向こうに到着する正確な時間が分からないので、風の板が存在する時間を短めにしてしまうと都市内に着く前に消えて木材が落下してしまう。

逆に長めに設定してしまうと破壊しないと、壁にぶつかってしまう可能性も出てくる。


また風の板を作った本人が使わないと魔道具は効果を発揮しないので、向こうは長めに設定した風の板を自由に動かしたり消すことすらままならない。

板はめちゃくちゃ固いわけではないが、重い木材に耐えられるくらいには強化しているのでたたき割るとなれば一苦労だ。


「まいったな…」


「どうしたのですか?お疲れでしたら、休憩されますか」


さっきまで順調だったコウの手が止まっているのを見て、ガラドリアが気になって声をかける。


「そうだな…そうするか」


風の板を勘で使って失敗するよりは、いいタイミングと思いコウは切り株に座り一休みすることにした。

それを見てガラドリアも近くの切り株に腰を下ろす。


「かなりのペースで進んでいますね。初日でここまで行くとは思いませんでした」


「まだまだだよ。たくさんの住宅を建てまくる予定なんだから、柱にする木材はこんなんじゃ足りないほどさ。

 建材の一部は他からの購入を進めているけど、肝心の木材がないと意味ないからね」


ちなみにこの間ガラドリアはいったい何をやっているのかというと、コウが木を切り倒した後、風の板に乗っている木材の枝なんかを落としている。

植属性の魔力をまとわせた剣で切った切り口は綺麗な状態になるので、木が痛むこともなく好都合だ。


後は余った時間で周囲の魔物がやってくるのを警戒しているが、午後からはコウがペースを上げたため、そっちはあまり対応できていない。


「向こうも相当驚いているんじゃないですか?こちらからこんなに木材が来るとは思えなかったでしょうし」


「そっかなぁ?シーラもいるんだし…って、やっとシーラが来たみたいだ」


コウはそう言って立ち上がると100mほど先に女性が近づいてくるのが見えた。

コウが立ち上がったことに気が付いたのか、その女性はさらに急いで近づいてくる。


「遅くなりましたー。すみません、途中魔物が3匹ほどいて…」


「怪我はないのか、シーラ?」


「ありませんよ。あの魔物討伐の時じゃないのですから。こんなところでけがをして足を引っ張るわけにはいきません」


安心した様子でコウはシーラから風の板を維持するための魔道具を受け取る。


「とにかく無事なら良かった。とはいえ気をつけろよ、なにかあったら1人で無理をするなよ」


「わかっています、師匠。じゃなくて、都市長様。では、私は戻ります」


すぐにとんぼ返りするシーラの背中をコウは少し見つめ、再び作業に戻ろうとしたとき、ふと植林のことが気になった。


任せっきりにしていた植林だが、コウは林全体の伐採&植林計画に沿った速度で伐採しているわけではない。

ひょっとしてやらかしてしまったかと思い慌てて尋ねる。


「なぁ、ガラドリア。あの植林しているのは、ここまで成長するのに結構かかるよな?」


「はい。もちろんです」


「それじゃ、このペースで俺が切っていくと、ちょっとやばくない?」


「まぁ、大丈夫とまでは言えませんが今は木材が必要ですから。それに、私が成長促進の魔法を使えば十数年でこれくらいの大きさまで成長させることも可能ですから」


「なにそれ、そんな便利な魔法があるんだ」


コウは戦闘に特化した魔法ばかりを覚えさせられていたので、植属性の<成長促進>みたいな戦闘にはほとんど使えない魔法は全く知らなかった。


「はい。ですが、成長速度は木材に使える木でも最大でも5倍速くらいですので、さすがに数年で大きな木にすることはできません」


「いや、それくらいあれば十分だって。うーん、それならガラドリアは今日植えた苗木に成長促進をかける対応をお願いできる?」


「か、構いませんが…」


「枝落としも俺がやるから。この辺で少しペース落としても誰も文句言わないっしょ」


そしてコウは再び木材の切り出しを開始し、ガラドリアは苗木を植えている作業員の方へ向かう。

彼女は一定エリアごとに丁寧に<成長促進>を使い植えられた苗木の成長を速めていった。


80名ほどで作業をしていたせいか、結構な広さに苗木が植えられており

休憩をはさみながら苗木の全てに魔法をかけ終える頃には2時間ほど経過して、少し周囲の明るさが落ち始める。



ガラドリアが戻ってくると、コウは返してもらった運搬用の魔道具を再び使い切っており疲れた様子で切り株に座っている。

周囲の作業員たちも疲れ果てて地面に座り込んでいた。


切り株が積まれていた場所はマナが燃やして処分しているらしく、大きな炎が上がっている。


「あぁ、お帰り。こっちもこの辺にしておこうかと思ってね」


疲れているのかあまり余裕のない表情で答えるコウ。


「ずいぶん…頑張られましたね」


「まぁね。この都市に住む市民が幸せになれるかは俺にかかっているから。最初くらいは頑張っておかないと」


後からは楽をさせてもらうといわんばかりの言い草だったが、ガラドリアはある程度コウの人となりを理解し始めた。


「それでは、戻りましょうか。って、そういえば都市長様の護衛はどうしているのです?」


護衛役のマナがいかにも不満そうに切り株を細かくしたものを燃やしているので、コウの周囲に護衛はいない。

護衛用の兵士たち20名は午後も植林をしている者たちの方へ行っている。


「あぁ、周辺の警戒は俺がやってるよ。大丈夫、大丈夫」


少し強がりにも見える笑顔を見せて答えるコウに、ガラドリアは困りつつも何も言わなかった。


そして彼女は再び植林エリアへ行き兵士たちと作業員を早々にまとめて帰る準備を始める。

初日はおよそ500本の木材を切り出して、一同は都市へと戻ってきた。




伐採組の一行は門で確認を受け中へと入ると、すぐ近くに大量の木材が積まれている光景が目に入った。

外壁付近の丸太置き場にそのままの形で積み上げられた丸太の山の横では、今でもせかせかと100名ほどの作業員が運ばれた木材を主に角材へと加工していた。


マナは残った切り株とかを焼いて処分したことを伝えると、炭材として使いたいと聞かされ炭作りの話を聞いている。

作業場では責任者と思しき親方の檄が飛ぶ。その中にシーラとメルボンドがいたのを見つけ、コウは声をかけた。


「おーい、シーラ、戻ってきたぞー」

「あっ、お疲れ様です。っと、都市長様」


まだ少しおぼつかないが、大勢の前なのでシーラも『都市長様』呼びに切り替えている。

コウが戻ってきたことを知り、シーラとともにメルボンドもコウの元へとやってきた。


「ここまで成果を出されるとは驚きました」


「いやいや、魔法使いの俺がやればこんなもんでしょ」


そう言いながらも少し照れるコウ。


「加工は機械で行いますが、一部手作業がありますので必要な作業員は募集をかけておきました。働く場所の少ないここではすぐに集まるでしょう」


「そりゃ助かる。で、彼らはまだ作業を?」


メルボンドたちが抜けたにもかかわらず、作業員たちは一心不乱で加工を続けている。


「えぇ、なんか俄然やる気が出たとかで今日は遅くまでかけて仕上げるそうです。先ほど一休憩入れて食事はすでに済ませてますから、後は夜まで仕事をするでしょう」


「じゃ、俺たちも食事にしようか」

「はい」


コウの意見にシーラは嬉しそうに賛成した。



その後夕食を食べながら今日の進捗内容をまとめた報告をメルボンドから聞く。


午後にもう1台追加した木材加工用の機械だけじゃ足りずにあと1台追加すること。


前もって準備していたはずのパターン化された住宅の図面が、少し遅れていたが明日には届くので建築作業に入れること。

そのため今日の午後から住宅全壊地区の整地と基礎作業に入っていること。


様々な報告を聞きながらコウは食事をしていた。


「最初の住宅の着工にかかれるのは数日後になります。すでに2人傭兵を確保し、土台作りから効率よく作業を進めていく予定です」


「結構お金かかりそうだなぁ」


「そこは計画上仕方がありません。一応、住民に対して家を与える協力をということで結構安めに雇用契約していますので」


「おぉ、さすが」


「そこは私ではなくメイネアスですよ、彼女はアイリーシア家でも人材確保にかなりの功績がありますから」


それ以外の進捗も報告を受け、コウは無事に実働初日を終えてほっとした。


「じゃ、俺は部屋に戻るから」

そう言ってコウが立ち去ろうとするとマナとシーラが付いていく。


「今日は疲れたから、師匠と一緒に寝るね~」


「疲れたからって…それじゃ毎日になるじゃん」


「うん、私は毎日でも歓迎だけど?」


「やってくる方が歓迎って、それなんかおかしいだろ」


コウがマナと話している時に思い出したのか、メルボンドが部屋を出ようとするコウに声をかけた。


「コウ様、1つ報告忘れが。ベッドを以前使っていたものに変えておきました。クエス様からのご指示がありましたので」


実はコウがいない間、クエスが道場から3人が一緒になって寝られるあのでかいベッドを持って来させていたのだ。


「あのベッドなら大きいから問題ないよね」


マナがうれしそうにする横でシーラがコウの上でをぎゅっとつかむ。


「わかった、わかった。今日の報告も聞きたいしとりあえず2人とも部屋へどうぞ」


コウは面倒くさそうにしながらも、弟子の2人を引き連れて部屋から出ていった。




コウたちが去った中、報告で手を付けられずまだ食事の残っているサポーターズの4人が最後まで食事を済ませる。


「で、どうでした、ガラドリア」


メルボンドは今日コウに1日中付きっきりだった彼女に尋ねた。

各担当がコウと上手く行っているのかを確認するのも、助役としての仕事というわけだ。


「どう…ってね。あんたは結構前から接していたから平気なんだろうけど、うちは驚きの連続だったよ」


「ふふっ、思ったより楽しめたようですね」


「はぁ、分家で成果の欲しい準貴族や現場の実働に配置された準貴族ですらあんなに頑張る奴なんていないよ。

 軽い神輿だと思ってきてみりゃ、神輿がひとりでに前に進むときたもんだ。ほんと、まいるよ」


それを聞いた他の2名は顔が少しこわばったまま固まる。

そういったタイプはある日突然わけのわからないことを言い出したりして周りを振り回すので、部下としてはあまり下につきたくないタイプだからだ。


「とはいえ、なかなかやる気だし話を聞くタイプでもありますよ。実際あのペースで切り出してもらえれば材木を他から仕入れる必要もなくなりますし」


「まっ、話を聞いてくれるのなら…いいんだけど。うちじゃ制御できないよ」


「そういったタイプはうまく合わせていくしかありません。私は割と気に入ってますよ、今回の都市長様は」

「ふぅ…」


何といえばいいのか困ったガラドリアはため息をつくだけだった。

ひとまず住宅事情を最優先にということしか聞いてなかった彼女は、コウの動きがあまりに想定外だったため1日中困惑しっぱなしだった。


それに合わせた対応もできておらず、このままでは無能と評価されかねないとすら考えていたのだ。

飲み物を先に飲み終えたガラドリアはすぐに席を立つ。


「じゃ、私も戻るよ。今日は不意を突かれが、明日からはあまり後れを取らないよう気合い入れるさ」


部下1人を連れ、出ていこうとする彼女にメルボンドは背中から声をかける。


「あまり肩肘を張らないようにとは言っておきますよ。まずはあの方のペースを見極める方が大事です」

「ありがと」


彼女が出て行ったあと、ここに残っていた1人がメルボンドに尋ねる。


「結構、大変そうですね。少し行き過ぎたくらい行動力のある感じなんですか?」


「ん~、ちょっと判断しかねてるけど面白い方だよ」


それぞれが食事を終え少しゆったりして食堂を出ていく。

その後は各自担当の情報のまとめ、明日に向けての段取りをしつつ眠りについた。


こんばんわ。今話も読んでいただきありがとうございます。

誤字脱字ありましたら、ご指摘ください。


感想、評価、ブクマなど頂けると嬉しいです。

次話は4/3(金)更新となります。

やりたいことが増えると、書く時間がなくなる…(当たり前)

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