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異世界からのスカウト ~光と闇の狭間に立つ英雄~  作者: 城下雪美
5章 貴族への階段(190話~255話)
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都市長のお仕事1

ここまでのあらすじ


コウが都市長としてエクストリムに赴任しました。


コウが都市エクストリムの都市長となって2日目の朝となった。

初日は式典や顔合わせの挨拶など形式的な面が強かったので、今日からが都市長としての仕事は本番になる。


ある程度眠れたとはいえ昨日緊張からいまいち疲れの取れないコウは、朝起きると周りの景色がいつもと違うことで都市長になったことを再認識する。


「ふぅ、朝か。今日から頑張らないとな…」


起き上がるとすぐ魔力の流れを瞑想で確認する。

その後服を瞬時に正装に整え、廊下に繋がっている執務室へと移動した。



執務室に移るとすでにエニメットが待機していた。

この城の侍女の中で唯一頭にホワイトプリムを装着したコウの専属である彼女。


まだ2日目にもかかわらず、エニメットがあちこちで活動していることもあり

城に常駐する侍女たちの中では、すでにホワイトプリムがコウの侍女の証とまで言われている。


彼女は2時間ほど前に起床し、昨夜の仕込みを使った朝食の用意と配膳の指示をした後、コウを朝食に案内するためにここで待機していた。


「おはようエニメット。色々と変わったのに、今日も変わらず早いね」


「おはようございます、コウ様。専属でコウ様のお世話をする以上、当然のことです」


うれしそうに言いながら彼女は軽く頭を下げる。


「しかし、まだ初日みたいなものだし慣れないだろう?」


「いえ、むしろこっちの方が今までやってきた仕事に似ていてしっくりきています。

 道場の方では…過去の仕事の経験があまり生かせず、正直困っていましたので…」


「そっか、そういや俺もだいぶわがまま言ったもんなぁ」


コウはそう言いながら机の上にある書類を確認する。

昨日最後まで協議を続けた結果、書類の各所には訂正や削除や補助的な説明が書き込まれていた。


「そ、そんなことはありません。すごく楽しかったです。また…道場に戻ったらああいった形でおそばに置いてもらえると…うれしいです」


「なら良かった。さて、これから最低1年半頑張らないとな」


「はい。では、さっそく朝食へ案内します」


それを聞いたコウは早速嫌そうな顔をする。

飯くらい気楽食わせてほしいというのがコウの言い分だったが、それはメルボンドたちに最後まで許されなかった。


「コウ様、顔に出ています。1日の1番最初のお仕事です。頑張りましょう」


「はぁぁ、だね。しょうがない」


少し困った顔をするエニメットに先導してもらい、コウは食堂へと向かった。



食堂と簡単に言っても、大勢の人がごったがいするようなテーブルと椅子がたくさん並んでいる場所ではない。

長いテーブルに20名ほどの席が用意してあり、机から装飾まで豪華な、貴族の朝食にふさわしいきらびやかな場所だ。


ただ残念なことに、そこはうまい朝食を食べる為だけの場所ではない。

ここで1日の流れを確認したり、都市長によっては思い付きで大事なことを発表したりする場でもある。


この場に座るのは各部門の責任者や、都市長に対して発言したい者たちが前日から競い合って席を確保出来た者たちだ。


上からの発表もあるが、ここはある程度気兼ねなくトップと意見交換の出来る貴重な場でもある。

(もちろん都市や国によって違いはある)


重要な議題は会議などを通じて話し合いや情報共有が行われるが、都市のトップがあっちこっちの会議にまんべんなく出席することは不可能と言っていい。

そういった点では朝のこの場は都市長と各責任者が情報共有をする大事な場になる。


昼や夕方は各自やる事やりたい事があってどうしても時間を合わせ辛いため

多くの都市ではこの朝食での会合形式が取り入れられている。



エニメットが扉の前でコウの顔を見て確認を取り扉を開けると、コウは堂々と食堂へと入った。


「皆、おはよう」


コウが軽く挨拶すると、席に座っていた者たちが全員立ち上がり


「おはようございます」


とある程度声をそろえて返した。


(なんだこれ、めっちゃきっつい雰囲気なんですけど…)


小学生が元気に返してくる声とは違い、敬意をもって一斉に返される挨拶。

思わずこの重苦しい雰囲気の部屋から回れ右したくなるコウだったが、ぐっとこらえてそのまま中央の席に座った。


当然、一番偉い都市長であるコウが一番最後に来ており、それ以外は全席埋まっている状態だ。

コウの左隣は護衛ということもありマナが座り、その隣にシーラが弟子特権で席を確保している。


反対側は助役を務めるメルボンドが座っており、その隣からはコウを補佐するサポーターズの面々が並んでいた。

対面はこの都市に以前からいるテレダインス家の面々が座っている。


コウが座るとそれを合図に料理が次々と運び込まれてきて、それぞれの目の前に朝食が並べられる。

コウたちだけはエニメット特製のご飯とスープが並び、他の面々にはパンとスクランブルエッグなどが並んだ。


「では、朝食をいただこう」


コウはそう発言して朝食に手を付けると、他の者達も食べ始めた。


マジでなんだよこれ、と思いながら堅苦しい雰囲気の中朝食を味わされるコウ。

いつもと変わらないエニメットお手製の朝食の味が、コウの心を癒していた。


ちょっと渋い表情になっているものの、ご飯を口に運ぶと思わず顔が緩む。

そんなコウを見てシーラはちょっと笑いたくなってしまう。


「しかし、その朝食は変わっていますね。見たことがありません」


隣にいるメルボンドが興味深そうに尋ねる。


「あぁ、これはメルティアールル家で作ってもらっている作物を利用したご飯というものですよ。

 どうにもこれに慣れているので朝はこれにしてもらうよう言っておいたんです」


「なるほど、よろしければ私も今度いただけますかな?」


「いいけど、たぶんすぐには無理かな。生産はまだ少量だったはずなので、後で相談しておきますよ」


あまり偉そうにするのは苦手で、すぐに丁寧な話し方になるコウ。

コウのことがよくわからず、この都市の責任者たちはどう話しかけていいか困っていたが、思ったよりフランクなコウの態度にほっとする。


もちろん中にはその態度が逆に都市長として不適格じゃないかと不満を持つ者もいた。


ある程度食べ進むと、そろそろいいかと思ってコウは今日の予定を話し始めた。


「さて、今日が活動初日となるが、まず手始めに住宅事情を改善するために木材の確保と加工に動きたいと思う」


「その件はすでに指示のできる職人10名を中心に多めの作業員を手配しており、加工体制は問題ありません」


補佐役のメルボンドが手早くコウの言葉に補足を入れる。


「では最初に俺が木材の切り出しをやる。もちろん伐採用の作業員も来る予定だよな?」


「えぇ、人員は割り当て済みです」


そこまで話したとき、城壁守備隊長の1人であるコンラッドが思わず声を上げた。


「ちょっ、ちょっとお待ちください。都市長様が外へ出られるのですか?外は魔物がいて危険ですよ!」


「そこは護衛にマナをつける予定なので問題ありません」


彼の疑問に対しメルボンドがすぐに問題ないことをアピールする。

前日マナが守備隊長の1人に圧勝したことはすでに伝わっているので、彼女の名前が出たとなれば、コンラッドもそれ以上は強く出れなかった。


「魔石の採掘機に関してはどうなってる?」


コウが尋ねると財政管理担当のメイネアスがすぐに答えた。


「10日後に業者が現場を見に来るそうです。話はほぼまとまっています」


「そっか、それなら…その時は俺も同席した方がよさそうだな」


「お手をわずらわせますが、よろしくお願いします」


そう言われてコウはふと思い出す。

実は、魔石採掘関連は稼働するまで数ヶ月はかかると聞いていたので担当を置いていない。


機械などの購入や予算に関しては別に担当者がいるが、魔石採掘の担当ではないためずっと兼任というわけにはいかないだろう。


いくら今はやることが無いとはいえ、この事業は国の収入の多くを占める部門になる予定だ。

早めに誰か担当を決めておいてスムーズなやり取りができるようにしておきたい。


「なぁ、メイネアス。魔石採掘関連は担当者がいないよな。すぐに必要じゃないかもしれないが、早めに担当を1人置いておきたい」


彼女は自分が見ておくから大丈夫と言いたかったが、ここのところ税収目標達成のシミュレートを複数のパターンでやらされており

自信をもって私が兼任で問題ないと言える状況ではなかった。


「そうですね…分かりました。進捗などを報告する担当を別途探しておきます」


「進捗の確認だったら特別な人材は要らないだろう。ここの都市で手の空いてる者でもいいから」


「はっ」

彼女の返事に周りの空気が一変する。


魔石関連はかなり金の動く仕事である。

担当になればかなりの裁量権を得、上手くやれば美味しい思いができるのではと考えた者たちが立候補を名乗り出た。


「コウ様、良ければ私を任命ください」


「私なら、無事遂行させて見せます」


「私にお任せを!」


5人ほど名乗り出てくるのを見てコウは驚く。

魔石採掘の担当といっても、数ヶ月はほとんどやる事のない役職だ。


何でこんなに意欲を見せてくるのか困惑していると、その様子に気づいたメルボンドが小声でコウにアドバイスをする。


「コウ様、彼らは魔石採掘から得られる利益の一部を懐に入れられると思っているのかもしれません。そういう例は貴族や準貴族にはよくあることですから」


それを聞いてコウは頭が痛くなった。

重要な収入源となる魔石採掘から金をちょろまかされてはかなわないからだ。


「構わないが、金の流れはメイネアスがきちんと管理することになるので旨味は一切なしだ。それでいいなら後で彼女のところに行って立候補してくれ」


それを聞き場が鎮まる。

そこにいる者たちは、少なくともコウの元で売り上げから甘い汁を吸うのは難しそうだと理解させられたからだ。


逆に軍事担当の者たちは、その様子を見て少しスカッとしていたが。


「食糧の増産に関しては少し後回しになる。ただ食事を提供できる食堂はいくつか見繕っていてくれ。これから作業員が増えていく予定だからな。

 あと、家の建設に必要な作業員の募集も頼む。前にも話したが、流れるように作業を進め出来るだけ早くこの事業を前に進めたい」


そこまでコウが話すと、少なくともコウのサポーターたちは頷いた。

テレダインス家の者たちのほとんどは何を言っているのかいまいちピンと来てなかったが、どうでもいい話と判断して聞き流していた。


他に話が出なかったので、コウは朝食を食べ終えるとマナを連れて部屋を出て行く。

その後を助役であるメルボンドが追いかけるように出て行った。




コウがいなくなったその場では、やっと素直な感情が出せるようになったテレダインス家の者たちがざわつき始める。

今まで荒城都市と呼ばれるこのエクストリムで過ごしてきた要職にいる準貴族や貴族たちは、コウの言葉に困惑していた。


一番大きかったのは、今まで当たり前だった貴族たちの担当事業から金を抜くのを禁止と明言されたからだ。

別に中抜きがなくては生活していけないわけではないが、美味しい収入源が無くなるとなれば黙っていられない。


「おいおい、今までの食糧販売事業にもメスが入れられるんじゃないか?」


「都市長様の委任時の条件を見直さないとやばいぞ」


「俺たちは給付金だけで生きていかなければいけないのか?発展しても旨味が無いなんて冗談じゃない」


彼らは相当慌てたのか、急に騒がしくなり自分たちの身の振り方を話し始める。

シーラやコウのサポーターであるメイネアスたちは、自分たちいる前でよく堂々と言えるものだと呆れていた。


だが当の本人たちはかなりの危機を感じて、もはや目の前のことが見えなくなっている。

とはいえ、さすがにこの言いたい放題を黙って聞いておくわけにもいかない。


コウの方針を事前に聞いた時点で、彼らが障害になることなどとっくにわかっていたことだ。

まずは押さえつけるのではなく様子を見る方針だったので、早くこの場を解散させることにする。


不満を言う者が集まっている状態は、放っておくと悪化しかしないからだ。


「それではみなさんもいつもの仕事へどうぞ。何かあれば私かメルボンドにお伝えください。あと、魔石の件で担当者になりたいものがいたら私の方へ」


席を立つとそれだけを告げ、メイネアスが食堂から立ち去り、その後をコウ側の者たちが続いて出て行った。

部屋の端に待機している侍女たちに合図を送ると、去った者たちの皿が片付けられ始める。


残された彼らは、不満はあるもののこの都市から出て行くという選択肢はあまりとりたくない。

都市間の移動は自分たちの意思で簡単に移動できるものではないし、他の都市に行ったところで利の得られる職に簡単に就けるわけではないからだ。


何よりもこの荒城都市から来たというのは、他の都市では格下扱いを受けかねない。


今はただ様子を見守るしかない、魔石採掘で順調な収入が得られれば少なくとも今よりは収入も良くなるだろう。

コウの最初の演説を思い出し、わずかばかりの期待を抱きつつ、残った貴族や準貴族の者たちもそれぞれ仕事に向かった。


今話も読んでいただきありがとうございます。

なんと今話で200話になりました。

ここまで続けられたもの読んでくださる皆様のおかげです。


誤字・誤用等ありましたら、ご指摘ください。 感想やブクマいただけると嬉しいです。

では、次回は3/28(土)更新予定です。

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