実演される魔法
これまでのあらすじ
緑の髪をした日本人ならざる女性に会う主人公。これが運命の出会いだった。
「ねぇ、魔法使いにならない?貴方には才能があるのよ」
再びその女性から同じことを言われた。
今度は少し冷静に受け止められたが。
が、ないわ。魔法使いにならないか?いやいや、百歩譲ってもそれは少女の特権でしょう。魔法少女とかのさ。
2度も聞いたので聞き間違いとは思えなかったがあり得ない話だ。とはいえ俺は寝起き?とも思えたのでもう一度だけ聞いてみることにする。
「えーと今何て……」
「だ、か、ら、魔法使いよ。貴方知らないの?」
「それって火の玉出したり、空が飛べるやつ……ですかね?」
女性はやや怒り気味だがそんな勧誘をする方が悪いと思う。ハイなります!なんていう奴がこの日常にいるとは思えない。
とにかく本当に魔法使いと言っているようなのでゲームのイメージでざっくりと質問してみた。
「うーん、まぁだいたいそれで合ってるわ。貴方にはその才能があるのよ。だからぜひ魔法使いにならないかってスカウトしてるの」
何だが向こうは結構真剣、というか本気のようだ。本気にしていない俺に少し怒り気味のようだが、そもそもどう本気にしろというのだろうか。
ネットの小説では異世界転生してチート能力ですごい魔法使いになって~
なんてのは時々目にするパターンだ。実際俺もちょっとだけあこがれているシチュエーションだったりする。
だけどここは現実、というか今までずっと通ってきた普通の学校。
夕方なのも、今いるのが学校の図書館への連絡通路なのも気絶前と比べて変わっていない。
倒れて気絶した間に周りが草原や洞窟や見たことない街並みに変わっていた、ってなら
ひょっとして転生したのかも!?魔法使いとかなれてしまう?
という感じに少しは順応できたかもしれない。それなら異世界転生そのものだからだ。
だが、そんな状況でもなくごく普通の日常の風景の中で魔法使いなりたいと叫ぶとか、完全に俺が可哀想な人になってしまう。
そう思いながらも俺は考え付ついた。うん?ひょっとして、手品師のことを言っているのではないだろうか、と。
俺は理解した表情を浮かべてその女性に応答した。
「あー、俺はあんまり手先が器用じゃないんですよ、だから手品師にはちょっと……」
「えーっと…」
女性がこちらを見つめてきたかと思うと、少々呆れた顔になり答えてきた。
「先に考えた魔法使いってヤツのほうが正解よ、後で考えた手品師?は違う違う。異世界なんちゃらはよくわからないけどね」
違う違うと怪訝そうにしながら手を軽く振るジェスチャーをしてくる。
そして思い違いするのも仕方ないね、といわんばかりに彼女は少し考えなおしているようだ。
「あれ?俺、異世界とか考えながら口に出ちゃってたか」
と軽く口に出したが、その女性は俺の呟きをスルーして話し始めた。
「しょうがない、軽く見せてあげるから」
そういった女性はここから5mほど先にあるちょっとした木を指差す
「あの木を見ててね、真ん中当たりかな?」
女性が右手を伸ばして指鉄砲みたいに人差し指を伸ばす
きれいな容姿の女性なのにちょっとやばい人なのかな?と思いつつ彼女を見ていると
指先から明るい光がまっすぐ放たれた。
「えっ!?」
一瞬驚いたがすぐにその光は消える。
「ちょっと、私を見るんじゃなくてあの木を見なさいよ」
言われてあわてて彼女が指定してた木を見てみると
「あ、穴が開いてる…」
木の真ん中に3cmぐらいに見える穴の向こう側から光がさしていた。多分さっきまでは開いてなかった、、はずだ。
(ええっ、どんなトリックだよ…。お手伝いさんでもどこかに隠れているのか?TVで見たイチとかいう手品師よりすげぇ)
戸惑っている俺に対して彼女は自信たっぷりに告げる。
「あのねぇ、そんなの誰もいないわよ。光の魔法の<光一閃>で木を貫いただけ。当たった部分が光になって消滅したから穴が開いたのよ」
驚く俺に対して、丁寧に?説明していくれる女性。
なんというかそれをそのまま信じるやつはだぶんいないだろうが。
(最初からあいていただけだよな。さすがに魔法とかありえんわ)
と驚き戸惑いながら思っているとその女性は俺の方を向き否定してくる。
「開いてる所を光線で狙うとかそんな面倒なことしないわよ。はぁ、仕方ないわね。別のを見せるから次で魔法を信じなさいよ」
そう言いながら女性がすぐそばまで近づいてきてきた。
ヒュンという音も無く一瞬にして周りの風景が変わり、気づいたときには俺と俺を魔法使いに勧誘してくるその女性は校舎の屋上にいた。いや、飛んだが正しいだろうか。
うん、登ったことはないが周りの風景を見るにここは多分俺の学校の屋上だ。
俺はしばらく現実を受け入れられなかった。
「えっ、えっ、ちょ、嘘だろこれ……」
信じたくないというわけじゃない。が、俺は起こった現実が受け止められなった。
戸惑い続ける俺を見て、その女性は自信たっぷりに俺に告げる。
「さすがに信じたでしょ、魔法と魔法使いの存在」
「あ、あ、はい」
わけもわからないままとりあえず肯定する。
とりあえず肯定しなきゃやばい、本能が彼女に逆らうとかなりやばいと言っている。
「やっぱり最初からこっちにすればよかったかなぁ」
そうつぶやきながら女性は腰に両手を当てて軽いため息をついていた。
だが、こっちはため息どころの話じゃない。
うん、ちょっと落ち着いてもう一度見回してみたけど、ここはどう見ても学校の屋上だ
右側に離れの図書館が見える。さっきまで向かおうとしていた、ほんの数m先にあったはずの図書館だ。
1階から一瞬で4階建ての学校の屋上まで飛んできた、これは間違いなくテレポーテーションというやつだ…。
頭殴って気絶して運ばれたとかじゃない……はず。
ようやく今起きた現実を少しずつ受け入れられるようになってきたのか、今起きた現象がとてもすごいものだと思えてきた。
そして恐る恐る魔法使いの女性に尋ねる
「えっと、本当に俺にこんな才能があるんですかね?」
「ああ、うん。ちょっと待ってね、戻るから」
俺の問いを制止すると何か集中するような態度を取る女性。
と思っているとあっという間に図書館への1階の連絡通路へ瞬間移動した。
「才能ね、うん、たぶんあるわよ。いや、たぶんというか間違いなくあるはず」
戻った先では少し浮いてたのか移動後すぐに2cmほどの高さから着地した感覚を感じた。下はコンクリートのブロックなのでちょっと痛い。
その痛みを感じながら、その女性からなんともいえない返答を聞いた。
「ええと、その、たぶんというか間違い無くって……あぁ、根拠は秘密だけど才能があるのは間違いないわ。まぁ後で魔法使いの才能見抜く道具を使うし大丈夫大丈夫!」
すごく便利な道具があるんだなぁと、俺はその言葉を素直に信じた。
こんな体験したらそんな奇天烈な便利道具もそれなりに信じられる。それくらい瞬間移動は衝撃的な体験だった。
つい先刻までは怪しくておかしなことを言う変な女性という認識だったが、それの認識はもうどこかへと消えていった。
テレポーテーションの体験と彼女の少し軽い対応のおかげでこちらの警戒心も相当下がってきている。
ネット小説でひそかにあこがれていた魔法が俺にも使えるようにしてくれるというのなら、この女性はどん詰まりの人生に悲観しいてる今の俺にとって神様の使いみたいなものだ。
今はそんな風にまで思えてきてしまった。
「では、それを使って今から調べてくれるのでしょうか?」
才能がある、しかもよくわからないが明らかに人知を超えた魔法の才能だ。
心の中でわくわく感が止まらない。すごい魔法使いになれると言われれば舞い上がってしまうのは俺だけじゃないはず。
さっきまでの猜疑心は完全に吹き飛んでしまい、わくわく感に満たされてしまっている。
それに対してその女性は俺の変わり身を見てか少し不安に思ったのだろうか?
急にちょっとテンションが下がったような、ぐいぐい感がなくなった感じでトーンを落として語りだす。
「あー、えっと、いいんだけどさ……ただ条件があるんだよねー」
「条件ですか?」
「そう、私に弟子入りしてきっちり修行することが一つ」
それは当然だと思う。というか一人で練習できるものとは思えない
俺は素直に首を縦に振った。
「もう一つがこの世界を捨てて私が来た世界に来ること、かな?」
その言葉に急に現実に引き戻される。この世界を捨てる、明確に受け止めたわけではないが…重い言葉だった。
かな?、って緩い返答だったけど中身は全然緩くない。
「えっ、この世界を捨てる…異世界とやらに行かなきゃ行けないんですか?」
「異世界?まぁ、さすがにこっちで教えることは出来ないわ。そもそも私はこの世界での用はもう済んだんだし」
なるほど……異世界行きか。異世界ね。うん。
この場合は選択権が付いているだけいいのかもしれない。
心の準備ができる分、いきなり死んで転生って展開じゃないだけマシだと思う。
憧れと、不安と、才能という希望と、少し感じるうさん臭さと、様々な考えが俺の頭の中でぐるぐると回る。
その悩んでいる様子を見たからだろう。
異世界行きに戸惑いつつももう一押しで落ちそうな俺を見た女性はさらに追撃してくる。
「正直言って、あなたの魔法の才能はすさまじいものがあるわ(多分ね)、そうなれば地位も名誉も手に入るしこの世界にいるより絶対幸せになれるわ(多分ね)」
絶対に幸せになれるという胡散臭いキーワードが出てきたが、今の俺には正常な判断などできるはずもない。
ネット小説をいくつも読んでる俺には<俺=すごい=チート主人公>という想像、いや妄想ばかりが浮かんでくる。
(大魔術師となって尊敬され、ハーレムが出来て、現代知識で様々な発明もできて大金持ち間違いなし…やべぇ、どう見てもこれはビックウェーブ、乗るしかねぇ)
と、あほな妄想ばかりが先走りおれは思わずやらしい笑みをこぼしまくった。
はたから見れば今の俺は本当に情けない姿だろう。
その女性は少し呆れた表情を見せるが、もちろん俺の目には映らない。
だが呆れると同時に落とせるとも思ったようでさらなる追撃の誘惑を飛ばしてくる。
「ええ、貴方ならハーレムもいけるわ。すごい魔法の才能があるのだから」
「まぁ、大魔術師なんて地位は無いけど確実に尊敬されるわよ、現代知識とやらは知らないけど」
(んー、なるほど。でも尊敬は確実なのか~、って、あれ?)
思わずハーレムという恥ずかしい単語を言われて我に返った俺。
少々妄想で頭が飛んでいたのは隠しようのない事実だが、それでも女性の前でハーレム願望を口に出すのはさすがにあり得ない。
「えと…ハーレムとか口に出してないと思うんですけど……」
「あぁ、ごめんなさいね。妄想してたようなので頭の中のぞいたのよ。あなたの疑問も早く解決できるかと思って」
さらりととんでもないことを言われてしまい。俺はテンパった。
覗いた、いや覗かれた?さっきまでのくだらない妄想が覗かれてた?俺は顔が真っ赤になった。本気で恥ずかしかった。
とにかく俺の妄想した話から何とかずらしたい俺は、あせって考えずに質問をしてしまう。
「えっと、その思ってることを覗くのって、レジストとか出来ないんですか?」
本来は頭の中を覗けるのかよ!というはずが……覗ける前提で話を進めてしまった。
だがこれでいい。これでいいんだ。とにかく妄想の話から遠ざけたのだから。
「あんたはまだ魔法使いじゃないんだから出来るわけないでしょ」
俺の心配というかとにかく必死な反応をよそに、その女性は冷ややかに返してきた。
よし、ハーレム願望などなかったことにしよう。俺は自分にそう言い聞かせる。
レジスト出来るとか出来ないとか正直どうでもいい話なんだから。
俺が何も言わなかったからか、少しの間この場に沈黙が訪れる。
少し落ち着いて今までの話を思い出し考える。魔法使いになれる。しかも才能がある。これは美味しい話だ。
このまま高校を卒業して平凡と言えるかわからない生活を送ることと、すごい才能を発揮できる異世界で生きること。
どちらを選ぶかなんてもはや悩む問題ではないんじゃないだろうか。
家庭環境も良いとは言えないし、このままここで高校生活を過ごしたところで希望はない。
今の人生に明るい展望なんてほとんど感じないのだから。
間違えないようにしていますが、誤字等ありましたらご指摘ください。
修正履歴
19/01/28 改行追加。数文字追記。あらすじ追加
19/06/30 表現の修正、誤字修正
20/07/18 一部修正