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異世界からのスカウト ~光と闇の狭間に立つ英雄~  作者: 城下雪美
5章 貴族への階段(190話~255話)
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闇の急襲

ここまでのあらすじ


魔物の国と戦いを終えた闇の国は立て直しを図るため光の連合への急襲を実行することにした。

◆◇◆◇



魔物の国と闇の国が戦いを終えてから2週間後、闇の国と光の国の境界線近くにある光の連合側の都市ブレンビバーグでは

多くの兵士たちがいつものように境界線付近を見張り台から見守っていた。


ここは1月ほど前まで、度々境界線を越えてきた闇の兵士たちが特攻し、一方的にやられて帰っていくという愚かな行為が続けられていた場所だ。


1度だけ調子に乗った光側の指揮官が殲滅させようと逃げていく兵を追いかけると

待ち構えていた闇の兵士たちに一斉に魔法を浴びせられ慌てて退却したことがあってからは、特に挑発に乗ることもなく淡々と迎撃を繰り返していた。


(ちなみに追いかけた指揮官は当然貴族で、お叱りは受けたものの特に罰は受けていない)


しかしここ1月は闇の兵士たちも突撃してこなくなり、大して緊張感のない警戒だけが続いている。


「暇だなぁ、闇のやつらを適当に迎撃して逃げ惑う姿を見るのは楽しかったんだけどな」


「そうだな。だが最近は全く姿を見せなくなった。まぁ、奴らは知恵もなさそうだし、半年もすればまた痛い目にあったことを忘れて無意味な特攻をやってくるんじゃないか?」


「ははっ、そりゃ助かるな。楽しみだ」


都市と境界の中間あたりに見張りの野営地を立てて警戒している兵士たちは、小規模の戦闘とはいえ連戦連勝を重ねだいぶ緩みきっている。


なんせ相手側は、届きもしない距離から攻撃をしてきて、こちらが接近し魔法を放つ頃には次の魔法が間に合わず一方的にダメージを受けるという愚行を繰り返しているのだ。


最初は練兵の足らない奴らが混ざっていてへまをしているだけだと気を引き締めていたが、何度も繰り返されると現場はどうしても緩んでしまう。

そんな彼らが境界付近を確認しながら雑談を続けていると、交代の兵士がやってくる。


「よぉ、異常なしか?」


「ねぇよ。あいつら俺たちにやられすぎて怖くなっちまったんだよ」


「あっはははは。まぁ、だろうな。だからといって報告日誌にそれを書くなよ、たるんでるって注意されるぞ」


「俺もそこまでアホじゃねぇよ」


笑いながら兵士たちは交代し、新たな兵士たちが再び境界線を見張る。

このような見張り台は十数か所建てられており、何かあればすぐに連絡が飛ばせるようになっている。


「さて4時間か、ここの配置はだるくていかんな。せめてお前が美人の姉ちゃんだったらよかったのに」


「それはこっちの台詞だ。さて、俺は境界付近を見ておくから、お前は周囲を見ておけよ」


「へいへい」


こうして兵士たちの警戒は続く。

それから1時間ほどした頃だった。


辺りがだいぶ暗くなってきたころ、<明かり>の魔法によって境界付近を照らす光の玉が等間隔に配置される。

そんな状況の中、見張り台にいる1人の兵士が境界線の向こう側に人影があることに気が付く。


「おい、あれ。久々に奴らのお出ましみたいだぞ」


「どれ……おっ、マジか。あいつら懲りないなぁ。すぐに周囲に連絡する」


見張り台の上にある玉の上に魔力を注ぐと、台の足元が光り各所の兵士待機所に連絡がいく。

すぐに担当の兵士たちが出て来て迎撃準備を整え、50人の中隊を組み終えると久々の敵を前に中隊長から檄が飛ぶ。


「射程を見極め一気に叩く、全員気を抜くなよ!」

「おぉー!」


掛け声で気合を入れ、境界線より手前で複数の部隊がいつもの迎撃体制をとった。



◆◇◆◇



一方光の連合へと進行した闇の軍。


今まで何度も突撃を繰り返した民兵と同じ格好をしているが、中身は闇の国の精鋭である第2部隊の選抜メンバーである。

第2部隊から選りすぐられた5百名を率いるのはもちろん第2部隊の隊長エレシュキルだ。


「どうだ、奴らは動いたか?」


「後方の観察班からはおそらく発見されただろうと。きっと今までのように待ち構えているでしょう」


「こういう時は奴らの仕事の早さに感謝しないとな。さぁ、奴らを驚かせてやろうじゃないか」


エレシュキル隊は以前ここで突撃しては無駄死にを繰り返していた第8部隊の民兵と同じ進軍速度で光の領内に進入した。

いつものように死を恐れず一気に突撃して相手をかく乱する動きではなく、当人たちにとってはややまったりした速度の突撃。


正規兵がわざわざ下の存在である徴収された民兵にのろまな動きを教わって再現したものだ。

これもすべて光の奴らを蹂躙するため、ここにいる正規兵たちは魔力の放出を抑え列を乱しながら走る。


「ふふっ、こりゃひでぇ」


思わず笑いそうになるのをこらえながらエレシュキルは兵士たちと共に走る。


「隊長、気持ちはわかりますが…そろそろです」


側にいる兵士が声をかけると前方には弧の形に陣取った光の連合の兵士たちが魔力を放出し型を組んで準備している。

それを見た闇の部隊の前方は、慌てたふりをしながら魔法や魔道具で<十の闇矢>を発動させた。


だが放たれた闇の矢は、計算通りに光の部隊には届かずその前方に落ちる。

その光景を見て光の兵士たちは一気に湧いて距離を詰めながら<百の光矢>を一斉に放ってきた。


光の矢が発現すると同時にエレシュキルが叫ぶ。


「行けぇ!」


隊長の命令と同時に待っていましたと言わんばかり前方の200の兵士たちが走り出す。

先ほどまでとは違う思い切りのよい突撃で待ち構えていた光の兵士たちへ近づきながら、<闇の槍>の型を取り出して一斉に放つ。


隊長のエレシュキルはその場で<漆黒の重水>を発動させると、真っ黒の水が山のように兵士たちを覆い隠し、降り注ぐ光の矢を防ぐ。


光の矢が万単位で降り注ぎ真っ黒の水の中にのみ込まれていく。

さすがに完全防御とはいかず、運よく貫通してきた光の矢が闇の兵士たちの体を貫き十数名ほどの負傷者が出た。


「負傷者は即後退して援護に。残りは水をぶち巻いたと同時に行くぞ」


先に突撃した闇の兵士たちが次々と光の兵士たちを倒していく中、味方の危機に気がついたのか後方から光の援軍がやって来る。


光の矢もある程度治まったタイミングでエレシュキルは真っ黒の水を周囲にまき散らすと同時に、水に守られていた兵士たちが<闇の百矢>で反撃を開始した。


味方の闇の兵士が混ざる中にも容赦なく撃ち込まれる闇の矢に光の兵士は次々と倒れていく。


「おっと、追加の獲物は俺がいただくぜ」


エレシュキルは体の周りに残った水から発射されるように飛び出していき、距離を詰めると大技<深淵の闇>を使う。

援軍に来た光の兵士たちの足元に直径10mはある巨大な円状の闇ができ、光の兵士たちはゆっくりとのみ込まれて行く。


「くそっ、反撃だ。術者を狙え」


兵士たちがやけくそになり<光一閃>を放つが、<水泡の盾>を使ってエレシュキルは受け止め

反撃に<闇一閃>を使い、放たれた闇のビームが次々と兵士たちの頭を貫いていった。


精鋭である闇の兵士たちは混乱する光の兵士たちを蹂躙していき、援軍合わせて8百はいた光の兵士たちは百程度がかろうじて撤退し

城郭都市の中へと命からがら逃げかえっていった。


「どうだ、作戦完了か?」

「ええ、完璧でしたね。光の奴らはもうこの辺にはいません」


兵士たちが複数に別れて周辺の状況を調査する。

溜まっていたうっ憤を晴らしたかのように、兵士たちは一様に満足そうにしていた。


「よし、次は資材や物見やぐら、壊せるものは徹底的に破壊していけ。今回は復旧を遅らせるのが目的だからな」


エレシュキルの指示の元、闇の兵士たちは4つに別れ都市の外に設置してあった各施設をすべて破壊しつくし、魔石などを回収して大勝利を収めた。

闇側も無傷ではなく5百の精鋭のうち十数名の死者を出したが、相手の被害から比べれば物の数ではない。


その後すぐに光の都市ブレンビバーグから貴族に率いられた千の兵が反撃に出たが、エレシュキルを狙っているうちに闇の兵士たちに手痛い先手を浴びせられる。

光側は闇の軍勢を押し返すことも出来ず、これ以上の被害を防ぐために再度都市へ退却する羽目になり、苦汁をなめさせられた結果となった。



◆◇◆◇



境界を見張っている守備隊が全滅したことは、すぐに光側の都市ブレンビバーグへと伝わり

そこから都市を治めているトールギス家、そしてその保護家である一門のトップ、ライノセラス家へといち早く伝わった。


「バカス様、大変です。ブレンビバーク付近で国境の警戒に当たっていた部隊が全滅したと、トールギス家から…」


「おい、マジか。都市は無事なのか」


「緊急で連絡が回ってきておりますが、都市は今のところ無事なようです」


「ちっ、奴らはやる気なかったんじゃないのか」


すぐに戦闘スタイルに服を切り替え、転移門へ向かいながら話すバカス。


「息子たちにも伝えてとりあえず待機させておけ。ピルピーにはすぐに来るように伝えろ」

「はっ」


てきぱきと指示を済ませると、バカスはすぐに近衛兵百名を連れて前線であるブレンビバーグの中心にある城内へと飛ぶ。

他の者たちも一斉に動き出し、ライノセラス家からルーデンリア光国へと連絡が飛んだ。



バカスが到着した時にはすでに厳しい防衛体制がとられており、この都市に在中する多くの兵士たちが外郭の城壁や城門前に配置されていた。

混乱を見せつつある城内は右へ左へと兵士たちが行き交っている。


バカスが到着したのを見てトールギス家の兵士たちはすぐにバカスを作戦本部へと案内した。

本部に到着したバカスを見て、トールギス家の者たちが安どの表情を浮かべる。


急ぎだったので近衛兵は百名ほどしか連れてきていないが、バカスは一門のトップであり本人の戦闘力も素晴らしく、ピンチの時にはこれほど安心できる存在はない。


「どんな状況だ、敵の攻城戦は」


「それが…敵影は現在確認できておりません。境界線を監視していた部隊8百名のうち百程度が何とか戻ってきただけで…追撃隊も敗走し…」


「守備隊全滅じゃねーか、そりゃ。その割には敵の追撃は無し…どういうこことだ?んっ、家長のメキラはどうした」


よく見ると軍師らしき者が指揮を執ってこの場を回しているが、肝心の都市長や家長がいない。

すでに交戦状態で前線を維持するために出ているのならわかるが、敵影が見えないといっているのにこの場にいないのは変な話だ。


「お二人とも城壁へ向かって敵を確認するため出払っています」


「おいおい、なんだそりゃ。ったく、トールギス家のやつらはせっかちすぎるだろ」


バカスが堂々と指摘するが、さすがに自分たち一門のトップには文句を言えず、周りの者たちは黙っている。

そんな時、最前線から戻ってきたのかトールギス家の家長メキラ・トールギスが長い黄色の髪を振り回し作戦本部へと入ってきた。


「おっと、バカス様お出ででしたか」


「お出ででしたかじゃねーよ。作戦本部ほっぽり出してお前は何で前線なんか行ってるんだ?」


呆れた口調でバカスは非難する。

確かに彼女の行動は問題があるが、非難合戦になってほしくはない周りはハラハラしながらその成り行きを見守る。


「いやいや、奇襲で我が警戒部隊を突破したとなればすぐにここへ攻めてくるだろう?ならば、黙ってここにいるのは無駄かと思ってね」


「…まぁ、わからんでもないが」


「それにここで城壁を突破された報告を聞くよりは前線にいた方が対処しやすい。とはいえ、しばらく待っても何の反応もないので都市長のルンバに前線は任せてきたよ。

 ここは作戦の指揮をとれる奴が何名もいるから、わざわざ私がいなくてもいい」


彼女は悪びれる様子もなく、さも当然だろうといわんばかりの態度だ。


全体の頭がいないでどう話をまとめるんだと思ったが、こんなところでつまらぬ言い争いをしている場合ではないので

バカスはぐっとこらえて現状を整理することにした。


「それで、前線突破後は音沙汰なしか」


「えぇ、城壁の上で30分夜風を浴びただけだったわ」


それを聞きトールギス家の作戦指揮官ラーチスが発言する。


「目的はこの都市ではないのかもしれません。念のため周辺の都市にも連絡は入れていますし、闇属性を探知する魔道具持った人員も周囲に派遣しています」


相手の動きがわからない以上、闇雲に部隊を派遣しても仕方がないのでバカスもこのまま防御体制を取ることに賛成する。

城郭都市の最外郭は当然闇との戦いを想定した設備が充実しているので、押されているときは下手に出るより籠った方が安全な場合もある。



その後防御態勢を続け2時間ほど経ったが、一向に闇の者たちが攻撃してくる様子はない。


仕方なく兵士たちを編成しなおし高度な警戒を敷いて境界付近の調査に向かったところ、監視体制用の前線基地や見張り台

さらには前線用の備蓄倉庫などすべてが破壊されていた。


その上、あちらこちらに光の魔力に反応して爆発する爆弾や、感知した光魔法の方に<闇の槍>を飛ばしてくる魔道具などが設置してあり、探索するだけで5名もの死者が出る始末だ。

その報告が作戦本部にあげられた。


「完全にやられたな」


報告を聞いた上の者たちはみなバカス同様の感想だった。


「ですが、向こうの目的がはっきりしませんね。ここまでの優位を取っておきながら、都市を狙わず時間稼ぎに集中するなんて」


後からやってきたバカスの妻であり秘書官としてサポートしているピルピーも闇の国側の目的を掴みかねていた。


「こりゃ、どんなに早くても元の監視状態に戻すのに1年はかかる。ちょくちょく妨害を入れられたらもっとかかるわ」


メキラも頭を抱えているようで報告を聞き愚痴っぽく1人で述べている。


「向こうの目的が時間稼ぎなのは明らかだ。防衛人員の増加は俺がルーデンリアに掛け合うので、お前らは慎重に事態を改善しとけ。これ以上の大きな被害は出すなよ」


こうして多大な被害を受けた光の軍勢は、状況を立て直すのにさらに時間と労力を割くはめになった。



闇と光の小競り合いはいったんここまでとなります。

今話も読んでいただきありがとうございます。


誤字脱字等ありましたら、ご指摘ください。

ブクマ等々頂けると嬉しいです。


次話は3/7(土)更新予定となります。 では。


魔法紹介

<深淵の闇>闇:円状の闇を地面に作り出し、相手をのみ込んでいく魔法。

        高い魔力を放出するなどで相殺して脱出することが可能。

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